78 / 160
一葉知秋の比おい
x76_櫂_
しおりを挟む
あれから数日が経つが、侑梨からの連絡はない。
当然、俺からしなければならないのだが、
『櫂、好きなの──抱いて』
あの言葉に理性より本能が勝った。
身体中に電気が走ったようにゾクリとした。
首に絡められた侑梨の腕に、引き寄せられ耳元での
少し恥ずかしそうな声に、侑梨の香りが一層濃くなり
抗えない欲望に暴走しそうだった。
あの状態でどうにか欲望を振り切った自分に賞賛を
送りたいが、クリスマスまでの後二週間を切った今、
侑梨と会うのはかなりの拷問だ。
だが…会いたい。
侑梨は俺を父親代わりとして見ている気がする。
澤城さんから得られる筈だった愛情を俺から欲している。
不安だった。
自分にとって澤城さんは理想の人間で、その人の代わりが務まるのだろうかという不安。
侑梨が俺に向けている気持ちは恋ではなく父性愛だと、いつか本当の愛を知って──例えばジーノこそが本当の恋だと去っていくかもしれない不安。
けれど、もうどうでもよくなった。
侑梨を愛している。
彼女の求めるものを与えてあげたい。
クリスマスパーティを過ぎれはマウロは夫人の加護から外れる。
マウロが侑梨を追う理由もなくなる。
それまでは夫人の遊びに付き合おう。
それが終われば侑梨をもう一生手放さない。
だが、今のままクリスマスパーティを待つのは流石に侑梨を傷つけたままだ。
会って話をしよう。
完全な二人きりはダメだ。
俺の理性が持たない。
ランチタイムのイタリアンを予約しようと思うが、
ケータイの指が止まる。
──先日の侑梨は少し痩せていた。
軟禁のような生活が侑梨にストレスを与えているとは思ったが、想像以上なのかもしれない。
心苦しくなるが、夫人とマウロに玩具にされる侑梨を守りたかった。
後、10日。
それで決着がつく。
それまでは──罪悪感に苛まれながらも侑梨の苦しみに蓋をする。
侑梨に謝罪の言葉と、逢いたい旨のメールを送るとOKの返信が来た。
安堵が広がる。
──彼女に会うのが少し怖い。
もし別れを切り出されたらと不安になる。
ランチは水炊きの店にした。
油っこい料理より優しい食事の方が侑梨も食べやすいかもしれない。
それと少しでも距離を縮めたかった。
家族のようにでも俺を求めて欲しかった。
久々の侑梨は終始穏やかだった。
普段から穏やかだが、なんだか雰囲気が違う気がする。
「お鍋っていいよね。暖かくなる」
侑梨が取り分けてくれる。
侑梨はしてあげたいという気持ちが強い。
澤城さんは亭主関白のような気質ではなかった。
あの頃も部下の沙織にこんなことはさせなかった。
これは侑梨が望む形だ。
仕事に没頭した澤城さんと家族を省みない母親。
侑梨は役に立たないと愛してもらえないと思っている。
いつか…俺が侑梨の器に盛ってあげたい。
思い切り甘えて、我が儘を言ってもいいって思ってもらいたい。
けれど今、それを侑梨に言えば我慢させている現状に矛盾が生じる。
早く、ドロドロに甘やかしたい。
侑梨に俺がいないとダメになるくらい、今迄の孤独を
溶かしてあげたい。
7年前……澤城さんが仕事を辞める理由を聞いて正直意味が分からなかった。
会社は順調で俺は楽しくて仕方なかった。
『娘との時間を作りたい。
受け入れたくない現実を理由に蔑ろにしてきた最低な父親だ。それでも娘は俺にやり直すチャンスをくれた』
そう語る時の澤城さんの泣きそうな顔が甦る。
──今なら澤城さんの気持ちがよくわかる。
俺も。仕事を辞めよう。
クリスマスを過ぎればマウロからは逃れれるが、夫人の手からは守れない。仕事も今のままでは忙し過ぎる。
会社は沙織がいる。
今回の件でよく分かった。
今迄は俺のパートナーとした支えてくれたけれど、
俺よりトップの資質があるのは冷静で熱情的な彼女だ。
彼女なら夫人と対等に仕事ができる。
「侑梨、クリスマスパーティが終われば話したいことがある」
彼女は待ってるね。と言って微笑んだ。
当然、俺からしなければならないのだが、
『櫂、好きなの──抱いて』
あの言葉に理性より本能が勝った。
身体中に電気が走ったようにゾクリとした。
首に絡められた侑梨の腕に、引き寄せられ耳元での
少し恥ずかしそうな声に、侑梨の香りが一層濃くなり
抗えない欲望に暴走しそうだった。
あの状態でどうにか欲望を振り切った自分に賞賛を
送りたいが、クリスマスまでの後二週間を切った今、
侑梨と会うのはかなりの拷問だ。
だが…会いたい。
侑梨は俺を父親代わりとして見ている気がする。
澤城さんから得られる筈だった愛情を俺から欲している。
不安だった。
自分にとって澤城さんは理想の人間で、その人の代わりが務まるのだろうかという不安。
侑梨が俺に向けている気持ちは恋ではなく父性愛だと、いつか本当の愛を知って──例えばジーノこそが本当の恋だと去っていくかもしれない不安。
けれど、もうどうでもよくなった。
侑梨を愛している。
彼女の求めるものを与えてあげたい。
クリスマスパーティを過ぎれはマウロは夫人の加護から外れる。
マウロが侑梨を追う理由もなくなる。
それまでは夫人の遊びに付き合おう。
それが終われば侑梨をもう一生手放さない。
だが、今のままクリスマスパーティを待つのは流石に侑梨を傷つけたままだ。
会って話をしよう。
完全な二人きりはダメだ。
俺の理性が持たない。
ランチタイムのイタリアンを予約しようと思うが、
ケータイの指が止まる。
──先日の侑梨は少し痩せていた。
軟禁のような生活が侑梨にストレスを与えているとは思ったが、想像以上なのかもしれない。
心苦しくなるが、夫人とマウロに玩具にされる侑梨を守りたかった。
後、10日。
それで決着がつく。
それまでは──罪悪感に苛まれながらも侑梨の苦しみに蓋をする。
侑梨に謝罪の言葉と、逢いたい旨のメールを送るとOKの返信が来た。
安堵が広がる。
──彼女に会うのが少し怖い。
もし別れを切り出されたらと不安になる。
ランチは水炊きの店にした。
油っこい料理より優しい食事の方が侑梨も食べやすいかもしれない。
それと少しでも距離を縮めたかった。
家族のようにでも俺を求めて欲しかった。
久々の侑梨は終始穏やかだった。
普段から穏やかだが、なんだか雰囲気が違う気がする。
「お鍋っていいよね。暖かくなる」
侑梨が取り分けてくれる。
侑梨はしてあげたいという気持ちが強い。
澤城さんは亭主関白のような気質ではなかった。
あの頃も部下の沙織にこんなことはさせなかった。
これは侑梨が望む形だ。
仕事に没頭した澤城さんと家族を省みない母親。
侑梨は役に立たないと愛してもらえないと思っている。
いつか…俺が侑梨の器に盛ってあげたい。
思い切り甘えて、我が儘を言ってもいいって思ってもらいたい。
けれど今、それを侑梨に言えば我慢させている現状に矛盾が生じる。
早く、ドロドロに甘やかしたい。
侑梨に俺がいないとダメになるくらい、今迄の孤独を
溶かしてあげたい。
7年前……澤城さんが仕事を辞める理由を聞いて正直意味が分からなかった。
会社は順調で俺は楽しくて仕方なかった。
『娘との時間を作りたい。
受け入れたくない現実を理由に蔑ろにしてきた最低な父親だ。それでも娘は俺にやり直すチャンスをくれた』
そう語る時の澤城さんの泣きそうな顔が甦る。
──今なら澤城さんの気持ちがよくわかる。
俺も。仕事を辞めよう。
クリスマスを過ぎればマウロからは逃れれるが、夫人の手からは守れない。仕事も今のままでは忙し過ぎる。
会社は沙織がいる。
今回の件でよく分かった。
今迄は俺のパートナーとした支えてくれたけれど、
俺よりトップの資質があるのは冷静で熱情的な彼女だ。
彼女なら夫人と対等に仕事ができる。
「侑梨、クリスマスパーティが終われば話したいことがある」
彼女は待ってるね。と言って微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる