そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

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不穏の知情意

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侑梨の最低な行いを彼は気づいているのかもしれない。
『君の中にいるのは誰?』
『僕の名を呼んで』
行為の最中に何度も彼の名を呼ばす。
毎回ではない。けれど、何度か櫂に抱かれている妄想を
彼でしてしまった。

『侑梨』
櫂が呼ぶ声を思い出し、反芻する。
櫂が侑梨にキスをして──
侑梨の秘部に彼を擦り付ける
陰核に当たり陰唇から愛液がとろりと溢れてしまう
早く彼が欲しいのに、
浅いところばかりを擦られてもどかしい
腰が、彼をもっと欲しいと奥へと誘い
奥を突かれた瞬間、それだけで軽く達してしまう
そして侑梨を支配するように激しく求められる──
侑梨の最奥と胸の頂きを同時に責められて
侑梨はもうなす術なく、快楽に身を任せている
彼が侑梨の中から出て行かないように
彼の身体に脚を絡ませ離さない
彼の吐息が侑梨を一層欲情させる
固くて……熱くて我慢できない。
シーツを握りしめる指に力が入り
心の中で叫ぶ。
櫂……櫂、櫂──櫂、櫂!
侑梨の中が蠢き彼のを締め付ける
彼が──櫂が侑梨の奥へと飛沫を浴びせた瞬間、
侑梨は深い眠りに落ちた──

最低だ。
侑梨がされたら死にたくなる。
自分を使って他の誰かを想うだなんて。
苦しくて切なくて……侑梨なら耐えられない。
そんなことをジーノにしている。
『凛子の愛は僕にとって呪いだった』
以前、彼が零した言葉を思い出す。
──侑梨はジーノの呪いになってはいないだろうか?

『愛してるよユーリ』
『君を一生手放したりしない』
『君は僕のものだ』

今まで、母も父も最後には侑梨を手放した。
侑梨の欲しい言葉を、何度も囁いて満たしてくれる。
ジーノの香りに包まれながら彼を抱きしめると
彼のキスが降ってくる。
幸せな雪の様だ。
ジーノを幸せにしたい。
彼が侑梨を必要とするのなら、全てをあげたい。
そう思う心もあるのに、櫂を想ってしまう。
侑梨を捨てないでと思ってしまう。
櫂を裏切った侑梨を捨てるのは当然だ。
だけど、捨てないでほしい──
良い子じゃない侑梨を愛してほしい。

櫂への慕情と、ジーノへの恋情どちらかは
嘘なのだろうか?
ジーノと櫂、2人を愛してしまった。
どちらが本物なのだろう?
自分の心が分からない。
夫人の言葉をやっと理解する。
『貴方、歪んでる』
すべての神を信じていると言った夫人に不誠実さを
覚えた。どの神も信じていると言った夫人に、
どの神も信じていないと思った。
──けれど、侑梨は夫人と同じだ。

愛の定義が分からない。
多くの人が侑梨をふしだらだと詰るだろう。
本当の愛を知らないと思うかもしれない。
でも、そんなの知らない。
私は二人を愛してる──
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