そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

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不穏の知情意

113_ジーノ_

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──彼女を思い出す。
夫と子どもを愛していると言っていた。
だから、この一夜だけだと。
この夫妻を試す夫人のお遊びに選ばれた
僕の役目は間男だった。
凛とした女性で誇りを持って夫人との契約を
遂行しようとしていた。
僕は彼女に甘い一夜を提供するだけ。
あとは夫人が勝手に楽しむだろう。
そう思っていた。

「僕は君を愛せない」
「私は貴方以外愛せない」
彼女と僕の関係は変わらない。
凛子の答えはいつも同じだ。
「僕が君を抱いたのは夫人に言われたからだ。君を好きだからではない。今も君以外の女性と楽しんでる。夫と娘との幸福を大事にした方がいい」
凛子は悲しそうな顔で見つめる。
「何度も私を抱いてくれたわ」
「僕にとっては意味はない」
「──貴方を夫人の呪いから解いてあげたい」
君こそが夫人の呪いだ。
「貴方の呪いが解けるなら、私は何でもできるわ。
けれど私を貴方から遠ざけるのなら──殺して。
お願い……死ぬより辛いの。夫も娘も愛していたわ。
でも、貴方は別。私のすべて。貴方が私を変えてしまった。もう前には戻れない」
「やめてくれ」
「──いつか、貴方にも私と同じ様に想う日が来るのかしら……私ではない誰かに?」
「有り得ない」
「もし、もしそんな女が現れたら末代まで祟るわ」
冗談の様に言うが彼女の目は本気だった。

──君は今、自分の娘を呪っているのだろうか?
ユーリは僕の全てなのに、彼女の全ては僕ではない
この苦しみ。凛子の苦しみが今更僕を襲う。

三島のオフィスに車を走らせる。
この行動は愚策だ。
けれど嫉妬で止められなかった。
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