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相対良知の果実
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玄関の開く音で目が覚めた。
櫂のキスに愛情を感じて少し安心したからか眠気が急に来た。最近は寝れなかったのに
櫂の背中を、髪を撫でる手が気持ちよくって安心した。
「この部屋はゴミだめかい?」
その声に心臓が飛び跳ねる。
「誰かさんが夫人にクビにされてからこっちは忙しいんだよ」
櫂の皮肉が聞こえる。
「それは僕も被害者だよ。労って欲しいね。けれど絶対にこれは前からだね」
二人の話し声が聞こえる。
……ここにジーノも来たの?
ゆっくりと寝室のノブが回る音に気づき、
どうしたらいいのか分からない。
戸惑いながらも侑梨は寝たふりをした。
ベットに近づく感覚にドキドキする。
ただ目を覚まして帰ればいいだけだったのに、
完全にタイミングを図り間違えた。
侑梨の髪に触れる手が優しい。
どちらの手か分かってしまう。
彼の香水の香りに胸が勝手にときめく。
「おい、不用意に触るな。起きるぞ」
櫂が小声でジーノに注意する。
「大丈夫だよ。彼女は最近寝れてなかったから……
ぐっすり眠っている。もう少しは起きないよ」
そう言われてこめかみ辺りにキスをする。
そのキスが優しくて──
子どもを堕ろせと言った人と同じだなんて思えない。
──切なさが侑梨の浮き足だった心を沈めてくれた。
寝返りをうった振りをして顔の向きを変え、
櫂の香りのする枕に顔を擦り付ける。
何故だろう……安心する香りだ。
櫂にはよく拒絶されるのに。
「ユーリ……それは妬けるからそろそろタヌキはやめてくれないか」
瞬間的に心臓が跳ね上がる。
ジーノは初めから侑梨が狸寝入りをしていたのを気づいていていた。
「……今、起きたのよ」
それにしても『タヌキはやめて』って日本語が日本人より流暢なのに……かわいい。
ベットサイドに大きな男性が二人座っている。
櫂とジーノが並んでいるその意外な光景をどう表していいのか分からない。
それに空気にいつもの冷たさがない。
「〈それ〉って何に妬いだんだ?」
櫂は前半部分に食い下がる。
ジーノは気づいた。侑梨が櫂の香りに浸っていたのを。
恥ずかしい。
「な、なんでもないの!」
飛び起きるように身体を起こす。
どうしよう。何を言えばいいのだろう。
「──侑梨、俺もマウロもお前のものだ」
櫂が侑梨の指にキスをする様に手を取る。
ジーノももう片方の手を取りキスをする。
「──本当に?」
「ああ」
櫂は返答し、ジーノは再び手にキスをする。
「でも櫂──」
「侑梨が欲しい」
妊娠しているかもしれない。
櫂はジーノを嫌ってる。
それにインモラルな生活を強いることになる。
それでも……侑梨を選んでくれるのだろうか?
それにさっきまで侑梨の選択を否定していたのに?
「……私が夫人の所へ行くと言ったから?」
櫂は夫人を警戒している。
心配してくれている櫂の思いが侑梨を捨てられない。
正しい人だから堕ちていく人を見捨てられない。
それでも櫂が欲しい浅ましい自分と、
申し訳なく思う罪悪感の気持ちがある。
「──未だに拒否感はある。もしかしたら無理だと……侑梨を傷つけるかもしれない。それでも、俺にもう一度機会をくれないか?強欲で淫らな侑梨でも欲しいんだ──俺のものにしたい」
「──貴方に私を全部あげられないわ」
「髪の毛一本くらいはヤツにくれてやるさ」
櫂が皮肉に微笑む。
「ジーノ──」
「君が全てだ」
ジーノの優しさに甘えてワガママを言ったのに、
本当は傷ついていているのを知ってる。
それなのに侑梨を優先してくれる。
夫人の呪いから誰よりも逃れたいと思っている人なのに、逃れられたのに侑梨が邪魔をする。
「──貴方に私の全てをあげられないわ」
「君の残り香くらいは僕も諦めるよ」
ジーノが微笑む。
「……どうしよう……抱きしめたいのに……どちらから抱きしめたらいいのか分からない」
本気で悩む。
「侑梨の抱きしめたい方から抱きしめたらいい」
櫂が腕を伸ばす。
と、ジーノが侑梨を抱きしめる。
「そうやって待っているから先を越されるんだよ」
軽くキスをされる。
櫂が怒っているのが分かる。
仕方がないなとジーノが櫂にキスをする。
「おこぼれをあげるよ」
どうしよう。櫂が固まっている。
今すぐ契約解消されるかもしれない。
「櫂──」
心配で声をかけるが返答がない。
どうしよう。
ジーノを見るがニッコリと侑梨に微笑む。
悪魔の微笑みだ。
と、性急に引っ張られ櫂の唇が侑梨の唇を塞ぐ。
「んっ」
ジーノのキスは軽くだったのに、櫂は舌こそ絡めないが
濃厚に唇を喰む。
「侑梨にもオマエのキスのおこぼれをあげたからな」
「……どうも」
ジーノが冷たい目で見る。
このぎこちなさや、妙な緊迫感があるのに、なんだか
コミカルだ。
どうしよう。幸せだと思ってしまう。
──この幸せが永遠に続けばいいのに。
「二人を愛してしまってごめんなさい。でも、二人とも大好きなの。両方欲しいの」
パパとママどっちが好き?なんてよく子どもが悩む質問を聞くけれど、それと同じなの。
どっちも好きなの。
どうしよう。
この幸せが永遠に続けばいいのに。
櫂のキスに愛情を感じて少し安心したからか眠気が急に来た。最近は寝れなかったのに
櫂の背中を、髪を撫でる手が気持ちよくって安心した。
「この部屋はゴミだめかい?」
その声に心臓が飛び跳ねる。
「誰かさんが夫人にクビにされてからこっちは忙しいんだよ」
櫂の皮肉が聞こえる。
「それは僕も被害者だよ。労って欲しいね。けれど絶対にこれは前からだね」
二人の話し声が聞こえる。
……ここにジーノも来たの?
ゆっくりと寝室のノブが回る音に気づき、
どうしたらいいのか分からない。
戸惑いながらも侑梨は寝たふりをした。
ベットに近づく感覚にドキドキする。
ただ目を覚まして帰ればいいだけだったのに、
完全にタイミングを図り間違えた。
侑梨の髪に触れる手が優しい。
どちらの手か分かってしまう。
彼の香水の香りに胸が勝手にときめく。
「おい、不用意に触るな。起きるぞ」
櫂が小声でジーノに注意する。
「大丈夫だよ。彼女は最近寝れてなかったから……
ぐっすり眠っている。もう少しは起きないよ」
そう言われてこめかみ辺りにキスをする。
そのキスが優しくて──
子どもを堕ろせと言った人と同じだなんて思えない。
──切なさが侑梨の浮き足だった心を沈めてくれた。
寝返りをうった振りをして顔の向きを変え、
櫂の香りのする枕に顔を擦り付ける。
何故だろう……安心する香りだ。
櫂にはよく拒絶されるのに。
「ユーリ……それは妬けるからそろそろタヌキはやめてくれないか」
瞬間的に心臓が跳ね上がる。
ジーノは初めから侑梨が狸寝入りをしていたのを気づいていていた。
「……今、起きたのよ」
それにしても『タヌキはやめて』って日本語が日本人より流暢なのに……かわいい。
ベットサイドに大きな男性が二人座っている。
櫂とジーノが並んでいるその意外な光景をどう表していいのか分からない。
それに空気にいつもの冷たさがない。
「〈それ〉って何に妬いだんだ?」
櫂は前半部分に食い下がる。
ジーノは気づいた。侑梨が櫂の香りに浸っていたのを。
恥ずかしい。
「な、なんでもないの!」
飛び起きるように身体を起こす。
どうしよう。何を言えばいいのだろう。
「──侑梨、俺もマウロもお前のものだ」
櫂が侑梨の指にキスをする様に手を取る。
ジーノももう片方の手を取りキスをする。
「──本当に?」
「ああ」
櫂は返答し、ジーノは再び手にキスをする。
「でも櫂──」
「侑梨が欲しい」
妊娠しているかもしれない。
櫂はジーノを嫌ってる。
それにインモラルな生活を強いることになる。
それでも……侑梨を選んでくれるのだろうか?
それにさっきまで侑梨の選択を否定していたのに?
「……私が夫人の所へ行くと言ったから?」
櫂は夫人を警戒している。
心配してくれている櫂の思いが侑梨を捨てられない。
正しい人だから堕ちていく人を見捨てられない。
それでも櫂が欲しい浅ましい自分と、
申し訳なく思う罪悪感の気持ちがある。
「──未だに拒否感はある。もしかしたら無理だと……侑梨を傷つけるかもしれない。それでも、俺にもう一度機会をくれないか?強欲で淫らな侑梨でも欲しいんだ──俺のものにしたい」
「──貴方に私を全部あげられないわ」
「髪の毛一本くらいはヤツにくれてやるさ」
櫂が皮肉に微笑む。
「ジーノ──」
「君が全てだ」
ジーノの優しさに甘えてワガママを言ったのに、
本当は傷ついていているのを知ってる。
それなのに侑梨を優先してくれる。
夫人の呪いから誰よりも逃れたいと思っている人なのに、逃れられたのに侑梨が邪魔をする。
「──貴方に私の全てをあげられないわ」
「君の残り香くらいは僕も諦めるよ」
ジーノが微笑む。
「……どうしよう……抱きしめたいのに……どちらから抱きしめたらいいのか分からない」
本気で悩む。
「侑梨の抱きしめたい方から抱きしめたらいい」
櫂が腕を伸ばす。
と、ジーノが侑梨を抱きしめる。
「そうやって待っているから先を越されるんだよ」
軽くキスをされる。
櫂が怒っているのが分かる。
仕方がないなとジーノが櫂にキスをする。
「おこぼれをあげるよ」
どうしよう。櫂が固まっている。
今すぐ契約解消されるかもしれない。
「櫂──」
心配で声をかけるが返答がない。
どうしよう。
ジーノを見るがニッコリと侑梨に微笑む。
悪魔の微笑みだ。
と、性急に引っ張られ櫂の唇が侑梨の唇を塞ぐ。
「んっ」
ジーノのキスは軽くだったのに、櫂は舌こそ絡めないが
濃厚に唇を喰む。
「侑梨にもオマエのキスのおこぼれをあげたからな」
「……どうも」
ジーノが冷たい目で見る。
このぎこちなさや、妙な緊迫感があるのに、なんだか
コミカルだ。
どうしよう。幸せだと思ってしまう。
──この幸せが永遠に続けばいいのに。
「二人を愛してしまってごめんなさい。でも、二人とも大好きなの。両方欲しいの」
パパとママどっちが好き?なんてよく子どもが悩む質問を聞くけれど、それと同じなの。
どっちも好きなの。
どうしよう。
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