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相対良知の果実
134_櫂_
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車の助席に乗り込む。
お互い言葉を発せられない。
けれど時間もない。
「ユーリは?」
「今は眠ってる」
不安で眠れてないのかもしれない。
「夫人は何をしたんだ?」
「分からない。君に会いに行った日に夫人にやられた」
「──何故、子どもを堕ろせと?」
「……夫人は僕とユーリの子どもを欲している。日本にいたら逃げられない。国外の方が安全だ。なのに彼女はNOだという。このまま取り上げられるなら堕した方がいいと思った」
「侑梨はお前の愛を信じられなくなった」
「……ユーリの願いを蹴った君の愛は信じて貰えたのかい?」
「──夫人の所へ行くと言われた」
「それはダメだ」
マウロが即答する。
「何故だ?俺も反対だが、夫人は侑梨を大事にしている。もしかしたら侑梨が一番欲しいものを提供できるのは夫人かもしれない」
「夫人は自分の意思より神々の意思を尊重する。夫人の神はユーリの存在を許さない。子どもを産めば彼女は夫人に捨てられる」
「……なんだって?」
意味がわからない。
「夫人は独特の宗教感を持っている。僕には理解出来ない。けれど、僕の存在もユーリの存在も夫人の神はお許しにならなかったと。だから子どもがいなければ、夫人は僕たちに干渉できる時間は限られる」
「知っていて避妊しなかったのか?」
「……君が怖かったんだ」
「なぜ夫人はユーリの子どもが欲しいんだ?」
「そもそも本当に妊娠しているかもわからない状態だけど夫人はそう言っている。理由があるのか愛情なのか。神の意図なのか。僕とユーリの子に拘っている。例え僕が他の女性を孕ませても夫人は興味も示さないだろうし、ユーリが君の子どもを身籠れば……考えたくないね」
「どうしたらいいんだ⁈」
「分からない。だだ、今の状況では日本を発てない。そうなれば夫人と戦うしかない」
溜め息と共に苦悩が感じられる。
「君はどうするんだ?──君は断りに来たんだろう?」
「──ああ」
だが──
「夫人は侑梨の子どもを奪い、侑梨を捨てるつもりなのか?」
「恐らくね」
「そうなれば最悪、子どもは無理でも彼女を返してもらう」
「…ダメだ。それでは遅い」
「分かっているが夫人には勝てない」
「侑梨は夫人にも捨てられ子どもも奪われたら──死ぬかもしれない。夫人が侑梨を捨てる未来を知っているのなら絶対に夫人の手に渡してはダメだ」
「君の最終的な答えを教えてくれ。僕はユーリを愛しているし守りたい。君は?」
「侑梨を手離せない」
「……今は二人で争っても共倒れだ。夫人からどうやって逃げるかを考えないとね」
「さっきから逃げることばかりだが戦えないのか?」
「戦い方をご教授願いたいよ」
「侑梨を奪われたら俺らの負けだ。侑梨の信頼を取り戻すことだな」
「その為には三人で一緒に暮らすかい?」
「侑梨は今俺にもお前にも不信感を募らせている。その三人が一緒に暮らしても疑心暗鬼の泥沼だ」
「そうだね……この状態でユーリが君に傾けば僕は苦しくて仕方がないよ」
それは俺も同じだ。子どもと侑梨とジーノの世界に異物状態だ。
「──夫人に預けよう」
マウロの言葉に耳を疑う。
「どうしてそうなる」
「このまま絶対に逃げられない。夫人は子どもが欲しいのなら10ヶ月はユーリに手を出せない。むしろ可愛がるだろう。今のままでは三人での生活は上手くいかない。僕たちも彼女がいれば夫人に近づける。その間に夫人を諦めさせる糸口を手に入れる為の時間を稼ぐ」
途方もない無茶苦茶な話だ。
「──それとも君がユーリを説得出来て、日本を発てれば、そして君もすぐに全てを捨てれるのならそれが一番だ」
俺自身の問題は──後回しにしできる。今は自分より侑梨を一番に考えたい。だが侑梨が頑なに拒否している今の状況をどう打開する?
海外へ行くことをまるで地獄に行くように恐れている。
「君と僕が仲良くなり、侑梨を心から愛せば彼女は安心する」
「……まず侑梨と話そう。その時の対応次第だ」
「僕は演技派だけど、君は大丈夫かな?ユーリの気持ちを1ミリも動かせなければ、夫人に預けるプランだ」
「お前こそ、侑梨に嫌われている現状を改善できるのか?侑梨の欲しいものからお前は転げ落ちているかもな」
「……OK」「……わかった」
俺もヤツも課題が決まった。
お互い言葉を発せられない。
けれど時間もない。
「ユーリは?」
「今は眠ってる」
不安で眠れてないのかもしれない。
「夫人は何をしたんだ?」
「分からない。君に会いに行った日に夫人にやられた」
「──何故、子どもを堕ろせと?」
「……夫人は僕とユーリの子どもを欲している。日本にいたら逃げられない。国外の方が安全だ。なのに彼女はNOだという。このまま取り上げられるなら堕した方がいいと思った」
「侑梨はお前の愛を信じられなくなった」
「……ユーリの願いを蹴った君の愛は信じて貰えたのかい?」
「──夫人の所へ行くと言われた」
「それはダメだ」
マウロが即答する。
「何故だ?俺も反対だが、夫人は侑梨を大事にしている。もしかしたら侑梨が一番欲しいものを提供できるのは夫人かもしれない」
「夫人は自分の意思より神々の意思を尊重する。夫人の神はユーリの存在を許さない。子どもを産めば彼女は夫人に捨てられる」
「……なんだって?」
意味がわからない。
「夫人は独特の宗教感を持っている。僕には理解出来ない。けれど、僕の存在もユーリの存在も夫人の神はお許しにならなかったと。だから子どもがいなければ、夫人は僕たちに干渉できる時間は限られる」
「知っていて避妊しなかったのか?」
「……君が怖かったんだ」
「なぜ夫人はユーリの子どもが欲しいんだ?」
「そもそも本当に妊娠しているかもわからない状態だけど夫人はそう言っている。理由があるのか愛情なのか。神の意図なのか。僕とユーリの子に拘っている。例え僕が他の女性を孕ませても夫人は興味も示さないだろうし、ユーリが君の子どもを身籠れば……考えたくないね」
「どうしたらいいんだ⁈」
「分からない。だだ、今の状況では日本を発てない。そうなれば夫人と戦うしかない」
溜め息と共に苦悩が感じられる。
「君はどうするんだ?──君は断りに来たんだろう?」
「──ああ」
だが──
「夫人は侑梨の子どもを奪い、侑梨を捨てるつもりなのか?」
「恐らくね」
「そうなれば最悪、子どもは無理でも彼女を返してもらう」
「…ダメだ。それでは遅い」
「分かっているが夫人には勝てない」
「侑梨は夫人にも捨てられ子どもも奪われたら──死ぬかもしれない。夫人が侑梨を捨てる未来を知っているのなら絶対に夫人の手に渡してはダメだ」
「君の最終的な答えを教えてくれ。僕はユーリを愛しているし守りたい。君は?」
「侑梨を手離せない」
「……今は二人で争っても共倒れだ。夫人からどうやって逃げるかを考えないとね」
「さっきから逃げることばかりだが戦えないのか?」
「戦い方をご教授願いたいよ」
「侑梨を奪われたら俺らの負けだ。侑梨の信頼を取り戻すことだな」
「その為には三人で一緒に暮らすかい?」
「侑梨は今俺にもお前にも不信感を募らせている。その三人が一緒に暮らしても疑心暗鬼の泥沼だ」
「そうだね……この状態でユーリが君に傾けば僕は苦しくて仕方がないよ」
それは俺も同じだ。子どもと侑梨とジーノの世界に異物状態だ。
「──夫人に預けよう」
マウロの言葉に耳を疑う。
「どうしてそうなる」
「このまま絶対に逃げられない。夫人は子どもが欲しいのなら10ヶ月はユーリに手を出せない。むしろ可愛がるだろう。今のままでは三人での生活は上手くいかない。僕たちも彼女がいれば夫人に近づける。その間に夫人を諦めさせる糸口を手に入れる為の時間を稼ぐ」
途方もない無茶苦茶な話だ。
「──それとも君がユーリを説得出来て、日本を発てれば、そして君もすぐに全てを捨てれるのならそれが一番だ」
俺自身の問題は──後回しにしできる。今は自分より侑梨を一番に考えたい。だが侑梨が頑なに拒否している今の状況をどう打開する?
海外へ行くことをまるで地獄に行くように恐れている。
「君と僕が仲良くなり、侑梨を心から愛せば彼女は安心する」
「……まず侑梨と話そう。その時の対応次第だ」
「僕は演技派だけど、君は大丈夫かな?ユーリの気持ちを1ミリも動かせなければ、夫人に預けるプランだ」
「お前こそ、侑梨に嫌われている現状を改善できるのか?侑梨の欲しいものからお前は転げ落ちているかもな」
「……OK」「……わかった」
俺もヤツも課題が決まった。
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