そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

文字の大きさ
160 / 160
そんなの知らない

〈椛川家の因習〉一部抜粋

しおりを挟む
「あら──この家のモノでは無いモノがあるわ」
その声に振り返った。
そこには着物姿の綺麗な女性がいた。
「櫻田家の次期御当主はとんだヤンチャね」
上品な微笑みだ。
「……貴方は誰?」
玄馬げんま兄様以外ではここに来れる人は限られた使用人や先生だけだ。けれど、この人は明らかに違う。
まず他の人は鈴鹿すずかに話しかけない。
父様、母様もここへは来ない。
「どうやってここへ来たの?」
鈴鹿を微笑んだままじっとみる。
何も面白い事は言ってない筈だ。
何がそんなに楽しいのだろう?
「変わった空気を感じて来てみれば……面白いわね」
鈴鹿の名前を聞いてくるが無視をする。
こっちの質問には答えないのに答える義理はない。
気分が悪い。
この人も兄様以外の人と一緒だ。
質問しても誰も答えてくれない。
「ごめんなさい。怒らせちゃったかしら?わたくしのことは夫人と呼んで頂戴」
「鈴鹿──櫻田鈴鹿」
何歳いくつ?」
「12歳」
「そう……鈴鹿さんに好きな人はいるのかしら?」
好きな人?
「玄馬兄様」
「……そう」
外は土砂降りの雨だ。開けることのできない窓を雨風が揺らす。
「もし、何か困ったことがあればここへ連絡して」
耳元で囁かれた番号を無意識に覚える。
でも別に困った事はない。
「お茶会の途中だったわ。それではさようなら。
──椛川かばがわ鈴鹿さん」
かばがわ?私は櫻田鈴鹿だ。
幻の様に現れて去っていった。
この部屋にまた静寂が訪れる。
兄様はいつ来てくれるだろうか?
さっきの女の人の事を聞いてみようか?
けれど──自分だけの秘密──兄様も知らない自分に心が躍る。

「鈴鹿」
「おかえりなさい兄様‼︎」
抱きしめた兄様の服が湿っぽい。
この土砂降りだ。
おでこにキスをされる。
毎日の挨拶だ。
「今日は何かあった?」
毎日交わす言葉だ。
「──何もなかった。兄様を待ってた」
「そう──いい子だ鈴鹿」


──あの時、偶然夫人と出会わなければ未来は全く違っただろう。
「櫻田鈴鹿」を消したくなる日が来るなんて思ってもいなかった。



しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

hikaruko
2020.12.20 hikaruko

夫人のやり方、行動、全て嫌いで、
ユーリ(ジーノ式に) の行動も浅はかで、夫人に踊らさせて、途中で読むのを止めようかなと。

でも、その立場になれば、誰でも どんな行動をとるかは、解らない。

綺麗事や、所謂 … 常識は 通用しない事がある。

ラストは絶対に夫人に天罰が降る!と、思ってました。他人の家族や、多くの人達を自分の思うままに動かして、操作して、、
そんなことが、許されるはすかない!


そして、ユーリは ジーノでもなく、櫂でもなく、ひとりで生きていく!
そして、全く違う人が現れて その人と藍を育んでいく!と、

なるのだと思ってました(笑)



人間模様、人間関係、絡み合い、みんなが悩んで、苦しんで、。

ユーリ、ジーノ、櫂の三人の生活がいつかは、旨く行かない日が来るでしょう。でも、きっと、その時は、、、それぞれの幸せが見つかり、三人が前を向いて歩いていけるようになり、その生活を解消する、、!と、選択するのだと思ってます🎵


ある意味

憧れですかね?(笑)
好きな人みんなと一緒に居られるって?
でも地獄かな?(笑)


途中で読むのを止めようかなと、思っても、引き込まれる、内容、展開は スゴいと思います❗️

また 次の作品を読ませて頂きます!

2020.12.20 六菖十菊

またまたありがとうございます☺︎

初めて小説を書いたのがこの作品で誤字脱字がいつもにも増して多いのです(申し訳ないのです)が私的にとても好きなお話なのです。
〈ヒロインとヒーローと当て馬ライバル〉というのが好きではなくてどっちとくっつくの?という程に泥沼の三角関係が好きなのです。
話を書く時は全く結末なんて考えず、書きながら道筋を決めていくのですがこの櫂とジーノは諦めない!
3人は意外と上手く暮らしていくと思っています。
外敵である夫人への共通敵思考が3人を強く結び、侑梨への愛と互いの嫉妬と尊敬が櫂とジーノにあると思うからです。
そして夫人は侑梨に甘いので色々と大目に見てくれそうです。
この3人はイタリアに移住し、仕事もエロエロも謳歌した生活を送ることに(私の中では)なっています。

この夫人は【夫人叢書】と書かれている作品には登場するくらい影の主役です。(お嫌いかもしれませんが笑)
読んで頂いた【ウルドの声】の夫人もこの夫人です。
ウルドの声で緋和が最後にツバメの刺繍の帯を仕上げますがあれは次回作の【ツバメ旅館】への前振りなのです。
──話が暗過ぎて中々進まない状態ですが……
(ので次回は【緑子さんは恋レジェメが欲しい】か【ツバメ旅館】のどちらかだと思います。
夫人には秘密が色々とあるので是非そこも楽しめて頂けたらと思います。
(【夫人叢書②】は現在非公開にしていますが)

長くなりすみせん!
【そんなの知らない】は私の話の中では長編だったのに最後まで読んで頂きありがとうございました。

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。