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そんなの知らない
〈椛川家の因習〉一部抜粋
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「あら──この家のモノでは無いモノがあるわ」
その声に振り返った。
そこには着物姿の綺麗な女性がいた。
「櫻田家の次期御当主はとんだヤンチャね」
上品な微笑みだ。
「……貴方は誰?」
玄馬兄様以外ではここに来れる人は限られた使用人や先生だけだ。けれど、この人は明らかに違う。
まず他の人は鈴鹿に話しかけない。
父様、母様もここへは来ない。
「どうやってここへ来たの?」
鈴鹿を微笑んだままじっとみる。
何も面白い事は言ってない筈だ。
何がそんなに楽しいのだろう?
「変わった空気を感じて来てみれば……面白いわね」
鈴鹿の名前を聞いてくるが無視をする。
こっちの質問には答えないのに答える義理はない。
気分が悪い。
この人も兄様以外の人と一緒だ。
質問しても誰も答えてくれない。
「ごめんなさい。怒らせちゃったかしら?わたくしのことは夫人と呼んで頂戴」
「鈴鹿──櫻田鈴鹿」
「何歳?」
「12歳」
「そう……鈴鹿さんに好きな人はいるのかしら?」
好きな人?
「玄馬兄様」
「……そう」
外は土砂降りの雨だ。開けることのできない窓を雨風が揺らす。
「もし、何か困ったことがあればここへ連絡して」
耳元で囁かれた番号を無意識に覚える。
でも別に困った事はない。
「お茶会の途中だったわ。それではさようなら。
──椛川鈴鹿さん」
かばがわ?私は櫻田鈴鹿だ。
幻の様に現れて去っていった。
この部屋にまた静寂が訪れる。
兄様はいつ来てくれるだろうか?
さっきの女の人の事を聞いてみようか?
けれど──自分だけの秘密──兄様も知らない自分に心が躍る。
「鈴鹿」
「おかえりなさい兄様‼︎」
抱きしめた兄様の服が湿っぽい。
この土砂降りだ。
おでこにキスをされる。
毎日の挨拶だ。
「今日は何かあった?」
毎日交わす言葉だ。
「──何もなかった。兄様を待ってた」
「そう──いい子だ鈴鹿」
──あの時、偶然夫人と出会わなければ未来は全く違っただろう。
「櫻田鈴鹿」を消したくなる日が来るなんて思ってもいなかった。
その声に振り返った。
そこには着物姿の綺麗な女性がいた。
「櫻田家の次期御当主はとんだヤンチャね」
上品な微笑みだ。
「……貴方は誰?」
玄馬兄様以外ではここに来れる人は限られた使用人や先生だけだ。けれど、この人は明らかに違う。
まず他の人は鈴鹿に話しかけない。
父様、母様もここへは来ない。
「どうやってここへ来たの?」
鈴鹿を微笑んだままじっとみる。
何も面白い事は言ってない筈だ。
何がそんなに楽しいのだろう?
「変わった空気を感じて来てみれば……面白いわね」
鈴鹿の名前を聞いてくるが無視をする。
こっちの質問には答えないのに答える義理はない。
気分が悪い。
この人も兄様以外の人と一緒だ。
質問しても誰も答えてくれない。
「ごめんなさい。怒らせちゃったかしら?わたくしのことは夫人と呼んで頂戴」
「鈴鹿──櫻田鈴鹿」
「何歳?」
「12歳」
「そう……鈴鹿さんに好きな人はいるのかしら?」
好きな人?
「玄馬兄様」
「……そう」
外は土砂降りの雨だ。開けることのできない窓を雨風が揺らす。
「もし、何か困ったことがあればここへ連絡して」
耳元で囁かれた番号を無意識に覚える。
でも別に困った事はない。
「お茶会の途中だったわ。それではさようなら。
──椛川鈴鹿さん」
かばがわ?私は櫻田鈴鹿だ。
幻の様に現れて去っていった。
この部屋にまた静寂が訪れる。
兄様はいつ来てくれるだろうか?
さっきの女の人の事を聞いてみようか?
けれど──自分だけの秘密──兄様も知らない自分に心が躍る。
「鈴鹿」
「おかえりなさい兄様‼︎」
抱きしめた兄様の服が湿っぽい。
この土砂降りだ。
おでこにキスをされる。
毎日の挨拶だ。
「今日は何かあった?」
毎日交わす言葉だ。
「──何もなかった。兄様を待ってた」
「そう──いい子だ鈴鹿」
──あの時、偶然夫人と出会わなければ未来は全く違っただろう。
「櫻田鈴鹿」を消したくなる日が来るなんて思ってもいなかった。
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