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第二章 流刑地への追放
第25話 出来ない男
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今日は北部王領の村に、俺、じい、ルーナ先生、ジョバンニの四人で来ている。
黒丸師匠は、商業都市ザムザで捕まえた盗賊の取り調べで今日はいない。
「村長、どうしたのだ?」
「若い者たちが村を出て行こうとしています!」
「ええ!?」
村の方に目をやると村人たちの声が聞こえて来た。
「だから! どけって言ってるだろう!」
「待て! 考え直せ!」
「考える事なんてねーよ! 俺たちはこの村から出て行くんだ!」
押し問答が続いている。
ざっと見た感じだと、十数人が村を出て行こうとしているみたいだ。
それを同じくらいの村人が押し留めている。
「ここはわたくしが!」
じいが村長を連れて村の中に入っていった。
俺たちも後を追う。
「これ! 静まれ! 静まらんか! ご領主アンジェロ様であるぞ!」
「え!? あ! 領主様だ!」
「一体これはどうなっておる!」
村人たちは、みんな黙り込んでいる。
しばらく待っても誰も話そうとしないので、じいが話を促す。
「黙っていてはわからん。村長から聞いた話では、村から出て行こうとする者がいるらしいではないか」
なかなか話してくれない。
俺たちはここに来て六日しか経ってない。なんでも話し合えるような信頼関係が、まだ築けていないからな。
「じい、罰したりしないから、正直に話すように言ってみてくれ」
「かしこまりました。あー、よく聞け! この件でお前たちを罰する事はない。だから安心して自分の思った事を話して良いのだ。なぜ、この村から出ていきたいのだ?」
暫くするとポツリ、ポツリと若い村人たちが話し始めた。
「この村は、貧しい……」
「耕せる畑も少ないし……」
「魔物の襲撃もあるし……」
「お前たちの言い分はわかった。だが、新しいご領主のアンジェロ様が、色々面倒を見て下さる。もう少し様子を見てはどうだ?」
若い村人たちはお互い顔を見合わせ、俺の方をチラチラと見ている。
「そうは言ってもなぁ……」
「新しいご領主様は、まだ子供だし……」
「色々面倒を見るって言ってもなぁ……」
俺、あんまり信用されてないのだな……。
仕方ないと言えば仕方ないが。
「その証拠に盗賊を捕まえて来たではないか」
そうそう。
みんなに協力して貰って、五日間がんばって盗賊を捕まえて来たんだよ!
一人の若い男が大声で話し始めた。
「盗賊だって構わなかったよ!」
「な、何?」
「この村から出ていけるなら、盗賊だって構わなかったって言ってるんですよ!」
「それはまずかろう!」
「貴族様だって見りゃわかるでしょ! この村は何にもありませんよ! そっちの土むき出しの地面は、耕しても……耕しても……何も生えてこないし!」
「うーん、では森の方に畑を広げてはどうか?」
「無理言わないで下さいよ! 森の木を切り倒して、運んで、切り株を根から抜いて、土を耕して、水を撒いて、この人数では不可能ですよ!」
「それで村を出て他所に行きたいのか?」
「ええ。そうです。知っているでしょ? ここは元流刑地ですよ。でも、流刑にされたのは俺たちのじいさんやひいじいさんの世代でしょ? 俺たちには関係ないですよ!」
「それはそうだが……」
「だったら、出て行かせて下さいよ!」
じいも反論出来なくなっている。
確かにこの北部王領は、農業をやるのに恵まれた環境じゃない。
平地に川はないし、大地も枯れていて草も生えていない。
農地を広げるなら森の方になるが、若い男が言うとおりで森を開拓するのは大事業だ。
そう簡単に出来る事じゃない。
若い人が出て行きたいと言う気持ちもわからなくはない。
けど、領主としては困る。
「じい。俺が直接話すよ。なあ、他所に行くと言うけれど、アテはあるの? 他所だって大変だよ。他所の村で受け入れて貰えるとは限らないし、すぐに畑を貰えるわけじゃないよ?」
「それはわかってますよ。でも聞いたんですよ! 大きな街にいけば色々仕事もあるんでしょ?」
誰から聞いた? 盗賊か?
都市部で誰でも出来るような下働きは、だいたい奴隷がやっている。
読み書きが出来るとか、鍛冶が出来れば仕事はあるけれど、彼らでは難しいだろう。
「うーん、それはそうだけれど。誰でもすぐ仕事にありつけるとは限らないよ」
「でも、行ってみたいんですよ! それに俺は魔物を獲って来る事が出来ますから、森で狩りも出来ます。そうそう! この前持って行った魔物の毛皮は、どうなったんですか?」
「魔物の毛皮は預かっているよ。冒険者ギルドで査定をしてもらっている」
「ほら! 結局、何かしら理由を付けては、取り上げるじゃないですか!」
「いや、そうじゃない! 預かっているだけだよ! ちゃんと査定をしてもらったら、正当な対価を払う」
ダメだ! まったく信用されてない!
まずったな。毛皮は直ぐに何かと交換してあげれば良かった。
いや、そういう問題じゃないか……。
この若い村人たちは、ここの生活自体にウンザリしているのだ。
だから『盗賊になってでも出て行きたい』何て言うのだ。
「こりゃ! アンジェロ様を盗人のように言うでない! さすがに言葉が過ぎるぞ!」
「け、けどよ~! と、とにかく俺たちは他所の街に行くんだ!」
「だから、アンジェロ様が言ったであろうが。街に行ってもすぐ仕事がある訳ではないのだ!」
「そ、そんな事行かなきゃわからないよ!」
「我らは王都、お前さんが言う所の街から来たのだ。それもこの国で一番大きな街からだ。その我らが言うのだから、間違いない」
「そんな事あるもんか! 信じないぞ!」
「うーん……、まったく……」
「じい。いいよ。出て行く事を認めよう……」
「アンジェロ様!」
みんな驚いた顔をして俺を見ている。
だって仕方がないじゃないか。
まず俺たちは信用されていない。
だから、どんなに説得しても無駄だろう。
そして、俺は彼らが望む物を提示出来ない。
彼らが望むのは、豊かな未来だ。
本当は俺がここの領主として、『どうやってこの地域を豊かにするか』という説得力のあるプランを提示しなくちゃならない。
けど、俺にはそんなプランはない。
だったら、出て行くと言う人たちを引き止める事は出来ないじゃないか!
「いいよ。そんなに出て行きたいなら無理やり引き止めても、揉め事の種が増えるだけだよ」
「……しかし、それでは領主として示しがつきませんぞ!」
「わかっているよ。けど、しょうがない」
農民が勝手にあちこち移動したら、領地の税収が安定しない。
だから、農民が他所の領地に移ろうとしたら領主がストップを掛ける、と言うのが暗黙の了解、フリージア王国の慣習だ。
一度移転を認めたら歯止めが利かなくなる。だから『認めるな!』と、じいは言いたいのだろう。
けど、しょうがない。
俺には彼らを説得できる領地発展プランがないのだ。
それに将来性のない土地よりも都会に行きたいと言う彼らの気持ちもわかる。
「いいんだ。彼らが行きたいのなら、行かせる……。それで、君たちはどこに行きたいの?」
「特に決めていないけど、大きな街が良い。王都? そこが都なんだろう? なら王都に行きたい」
王都はここからとんでもない距離がある。
徒歩なら一月? いや二月はかかるだろ。
女子供もいるし、歩いては無理だ。
それなら……。
「俺が送って行くよ。転移魔法で王都までゲートを繋いでやる。みんなゲートを通って行け。それなら女子供がいても安全だからな……」
夜になった。
俺たちは商業都市ザムザに戻り居酒屋で晩飯中だ。
今日一日、村から出て行く連中の対応で終わってしまった。
俺とジョバンニは転移魔法で村から出て行く連中を王都へ連れて行き、母方の祖父フランチェスコ・モリーノに面倒を見るようにお願いして来た。
仕事が見つかるようにモリーノ商会が力を貸してくれる。
じいちゃんは、俺の領地経営を心配していたが『平民いじめはしたくない』といったら納得してくれた。
じいとルーナ先生は、村に残った連中をなだめていたらしい。
残った連中もかなり動揺していて、二人も苦労したそうだ。
……という訳で、居酒屋でお疲れ会だ。
じいは平民が使う居酒屋に来るのは初めてみたいだが、よっぽど疲れたのだろう。
小言も何も言わずエールを黙々と飲んでいる。
ジョバンニはルーナ先生に付き合ってワインだ。
聞き上手みたいで、ルーナ先生が珍しく多弁になっている。
ルーナ先生も今日は色々ストレスを感じたのだろう。
そして俺は後から合流して来た黒丸師匠に今日あった事を話し終えた所だ。
「それは大変だったのであるな……」
黒丸師匠も言葉少なにエールを流し込んでいる。
一緒に盗賊狩りに付き合って貰ったのだから、文句の一つ、愚痴の一つもこぼしたい気持ちもあるだろう。
けど、黒丸師匠は黙々とエールを飲み干す。
こういう所は大人だ。
俺も落ち込んでいる
王都で色々あって、新しい領地に来たけれど、予想通りロクな所じゃなかった。
短い期間だけど、俺なりに気を使ってみたり、がんばってみたりしたけれど、その結果がこれだ。
領民に逃げられてしまう領主……。
涙が出た。
情けないなあ。
俺はこんなに『出来ない男』だったのか。
盗賊を捕まえるのだって、俺なりに一生懸命やったんだけどなあ。
数は少なくても領民だから、良い領主であろうとしたんだけどなあ。
彼らに俺の気持ちは通じなかったらしい……。
「アンジェロ! 飲んでいるか?」
ルーナ先生がやって来た。
「まだ十才ですよ。飲む訳ないでしょう」
「いや。アンジェロは、ちきゅうという世界にいた年齢と合わせれば、もうとっくにオッサンだろう? 酒が飲みたければ、飲むことを許す。師匠としてな」
大分気を遣わせてしまったらしい。
泣いている場合じゃないな。
「ありがとうございます。けど、大丈夫ですよ」
「そうか。今日の件は、アンジェロに責任はない。気にするな」
「はい。そうします。切り替えます」
「うむ。それが良いのである。戦いは続くのであるからな」
そうだな。
それよりもこれからどうするかだ。
俺がリーダーなのだから、しっかりしなくちゃ。
「みんな聞いてくれ。ここ数日、ごちゃごちゃした場当たり対応ばかりだったが、明日からは行動方針を変える」
じい、ジョバンニ、ルーナ先生、黒丸師匠が、俺をじっと見ている。
俺の言葉を待っている。
「まずは情報収集を行う。俺たちは新しい領地、北部王領について知らなさ過ぎる。まず情報を集めて、それからどうやって領地を発展させるかを考える」
俺の考えにまずルーナ先生が、反応してくれた。
「良いだろう。では、私はあの草木の生えてない荒れた土地を調査しよう」
ハイエルフのルーナ先生は樹木の専門家でもある。後宮で薬草を育ていたし、木属性の魔法も使える。
うん。草木が生えてない原因調査は、任せてしまって良いだろう。
「ルーナ先生、お願いします。それから村の方は、じいとジョバンニで聞き込みや現状調査をしてくれ。働けそうな人間がどれくらいいるかとか……、どんな風に畑を世話しているのかとか……、暮らしぶりも聞いておいてくれ」
「承りました」
「承知しました」
「それでは、それがしは森の中を調査するのである。生息する魔物の種類や分布がわかった方が良いのである」
「黒丸師匠ありがとうございます。あと森の中の水場や川の位置を調べてください」
「了解なのである!」
「俺は空から北部王領全体を把握します。大丈夫です。きっと道はあるはずです!」
「よし! やるのである!」
「うむ!」
「仕切り直しですな!」
「がんばりましょう!」
ありがたいな。
みんな元気に答えてくれた。
大丈夫だ。
俺には仲間がいる。
きっと大丈夫だ!
黒丸師匠は、商業都市ザムザで捕まえた盗賊の取り調べで今日はいない。
「村長、どうしたのだ?」
「若い者たちが村を出て行こうとしています!」
「ええ!?」
村の方に目をやると村人たちの声が聞こえて来た。
「だから! どけって言ってるだろう!」
「待て! 考え直せ!」
「考える事なんてねーよ! 俺たちはこの村から出て行くんだ!」
押し問答が続いている。
ざっと見た感じだと、十数人が村を出て行こうとしているみたいだ。
それを同じくらいの村人が押し留めている。
「ここはわたくしが!」
じいが村長を連れて村の中に入っていった。
俺たちも後を追う。
「これ! 静まれ! 静まらんか! ご領主アンジェロ様であるぞ!」
「え!? あ! 領主様だ!」
「一体これはどうなっておる!」
村人たちは、みんな黙り込んでいる。
しばらく待っても誰も話そうとしないので、じいが話を促す。
「黙っていてはわからん。村長から聞いた話では、村から出て行こうとする者がいるらしいではないか」
なかなか話してくれない。
俺たちはここに来て六日しか経ってない。なんでも話し合えるような信頼関係が、まだ築けていないからな。
「じい、罰したりしないから、正直に話すように言ってみてくれ」
「かしこまりました。あー、よく聞け! この件でお前たちを罰する事はない。だから安心して自分の思った事を話して良いのだ。なぜ、この村から出ていきたいのだ?」
暫くするとポツリ、ポツリと若い村人たちが話し始めた。
「この村は、貧しい……」
「耕せる畑も少ないし……」
「魔物の襲撃もあるし……」
「お前たちの言い分はわかった。だが、新しいご領主のアンジェロ様が、色々面倒を見て下さる。もう少し様子を見てはどうだ?」
若い村人たちはお互い顔を見合わせ、俺の方をチラチラと見ている。
「そうは言ってもなぁ……」
「新しいご領主様は、まだ子供だし……」
「色々面倒を見るって言ってもなぁ……」
俺、あんまり信用されてないのだな……。
仕方ないと言えば仕方ないが。
「その証拠に盗賊を捕まえて来たではないか」
そうそう。
みんなに協力して貰って、五日間がんばって盗賊を捕まえて来たんだよ!
一人の若い男が大声で話し始めた。
「盗賊だって構わなかったよ!」
「な、何?」
「この村から出ていけるなら、盗賊だって構わなかったって言ってるんですよ!」
「それはまずかろう!」
「貴族様だって見りゃわかるでしょ! この村は何にもありませんよ! そっちの土むき出しの地面は、耕しても……耕しても……何も生えてこないし!」
「うーん、では森の方に畑を広げてはどうか?」
「無理言わないで下さいよ! 森の木を切り倒して、運んで、切り株を根から抜いて、土を耕して、水を撒いて、この人数では不可能ですよ!」
「それで村を出て他所に行きたいのか?」
「ええ。そうです。知っているでしょ? ここは元流刑地ですよ。でも、流刑にされたのは俺たちのじいさんやひいじいさんの世代でしょ? 俺たちには関係ないですよ!」
「それはそうだが……」
「だったら、出て行かせて下さいよ!」
じいも反論出来なくなっている。
確かにこの北部王領は、農業をやるのに恵まれた環境じゃない。
平地に川はないし、大地も枯れていて草も生えていない。
農地を広げるなら森の方になるが、若い男が言うとおりで森を開拓するのは大事業だ。
そう簡単に出来る事じゃない。
若い人が出て行きたいと言う気持ちもわからなくはない。
けど、領主としては困る。
「じい。俺が直接話すよ。なあ、他所に行くと言うけれど、アテはあるの? 他所だって大変だよ。他所の村で受け入れて貰えるとは限らないし、すぐに畑を貰えるわけじゃないよ?」
「それはわかってますよ。でも聞いたんですよ! 大きな街にいけば色々仕事もあるんでしょ?」
誰から聞いた? 盗賊か?
都市部で誰でも出来るような下働きは、だいたい奴隷がやっている。
読み書きが出来るとか、鍛冶が出来れば仕事はあるけれど、彼らでは難しいだろう。
「うーん、それはそうだけれど。誰でもすぐ仕事にありつけるとは限らないよ」
「でも、行ってみたいんですよ! それに俺は魔物を獲って来る事が出来ますから、森で狩りも出来ます。そうそう! この前持って行った魔物の毛皮は、どうなったんですか?」
「魔物の毛皮は預かっているよ。冒険者ギルドで査定をしてもらっている」
「ほら! 結局、何かしら理由を付けては、取り上げるじゃないですか!」
「いや、そうじゃない! 預かっているだけだよ! ちゃんと査定をしてもらったら、正当な対価を払う」
ダメだ! まったく信用されてない!
まずったな。毛皮は直ぐに何かと交換してあげれば良かった。
いや、そういう問題じゃないか……。
この若い村人たちは、ここの生活自体にウンザリしているのだ。
だから『盗賊になってでも出て行きたい』何て言うのだ。
「こりゃ! アンジェロ様を盗人のように言うでない! さすがに言葉が過ぎるぞ!」
「け、けどよ~! と、とにかく俺たちは他所の街に行くんだ!」
「だから、アンジェロ様が言ったであろうが。街に行ってもすぐ仕事がある訳ではないのだ!」
「そ、そんな事行かなきゃわからないよ!」
「我らは王都、お前さんが言う所の街から来たのだ。それもこの国で一番大きな街からだ。その我らが言うのだから、間違いない」
「そんな事あるもんか! 信じないぞ!」
「うーん……、まったく……」
「じい。いいよ。出て行く事を認めよう……」
「アンジェロ様!」
みんな驚いた顔をして俺を見ている。
だって仕方がないじゃないか。
まず俺たちは信用されていない。
だから、どんなに説得しても無駄だろう。
そして、俺は彼らが望む物を提示出来ない。
彼らが望むのは、豊かな未来だ。
本当は俺がここの領主として、『どうやってこの地域を豊かにするか』という説得力のあるプランを提示しなくちゃならない。
けど、俺にはそんなプランはない。
だったら、出て行くと言う人たちを引き止める事は出来ないじゃないか!
「いいよ。そんなに出て行きたいなら無理やり引き止めても、揉め事の種が増えるだけだよ」
「……しかし、それでは領主として示しがつきませんぞ!」
「わかっているよ。けど、しょうがない」
農民が勝手にあちこち移動したら、領地の税収が安定しない。
だから、農民が他所の領地に移ろうとしたら領主がストップを掛ける、と言うのが暗黙の了解、フリージア王国の慣習だ。
一度移転を認めたら歯止めが利かなくなる。だから『認めるな!』と、じいは言いたいのだろう。
けど、しょうがない。
俺には彼らを説得できる領地発展プランがないのだ。
それに将来性のない土地よりも都会に行きたいと言う彼らの気持ちもわかる。
「いいんだ。彼らが行きたいのなら、行かせる……。それで、君たちはどこに行きたいの?」
「特に決めていないけど、大きな街が良い。王都? そこが都なんだろう? なら王都に行きたい」
王都はここからとんでもない距離がある。
徒歩なら一月? いや二月はかかるだろ。
女子供もいるし、歩いては無理だ。
それなら……。
「俺が送って行くよ。転移魔法で王都までゲートを繋いでやる。みんなゲートを通って行け。それなら女子供がいても安全だからな……」
夜になった。
俺たちは商業都市ザムザに戻り居酒屋で晩飯中だ。
今日一日、村から出て行く連中の対応で終わってしまった。
俺とジョバンニは転移魔法で村から出て行く連中を王都へ連れて行き、母方の祖父フランチェスコ・モリーノに面倒を見るようにお願いして来た。
仕事が見つかるようにモリーノ商会が力を貸してくれる。
じいちゃんは、俺の領地経営を心配していたが『平民いじめはしたくない』といったら納得してくれた。
じいとルーナ先生は、村に残った連中をなだめていたらしい。
残った連中もかなり動揺していて、二人も苦労したそうだ。
……という訳で、居酒屋でお疲れ会だ。
じいは平民が使う居酒屋に来るのは初めてみたいだが、よっぽど疲れたのだろう。
小言も何も言わずエールを黙々と飲んでいる。
ジョバンニはルーナ先生に付き合ってワインだ。
聞き上手みたいで、ルーナ先生が珍しく多弁になっている。
ルーナ先生も今日は色々ストレスを感じたのだろう。
そして俺は後から合流して来た黒丸師匠に今日あった事を話し終えた所だ。
「それは大変だったのであるな……」
黒丸師匠も言葉少なにエールを流し込んでいる。
一緒に盗賊狩りに付き合って貰ったのだから、文句の一つ、愚痴の一つもこぼしたい気持ちもあるだろう。
けど、黒丸師匠は黙々とエールを飲み干す。
こういう所は大人だ。
俺も落ち込んでいる
王都で色々あって、新しい領地に来たけれど、予想通りロクな所じゃなかった。
短い期間だけど、俺なりに気を使ってみたり、がんばってみたりしたけれど、その結果がこれだ。
領民に逃げられてしまう領主……。
涙が出た。
情けないなあ。
俺はこんなに『出来ない男』だったのか。
盗賊を捕まえるのだって、俺なりに一生懸命やったんだけどなあ。
数は少なくても領民だから、良い領主であろうとしたんだけどなあ。
彼らに俺の気持ちは通じなかったらしい……。
「アンジェロ! 飲んでいるか?」
ルーナ先生がやって来た。
「まだ十才ですよ。飲む訳ないでしょう」
「いや。アンジェロは、ちきゅうという世界にいた年齢と合わせれば、もうとっくにオッサンだろう? 酒が飲みたければ、飲むことを許す。師匠としてな」
大分気を遣わせてしまったらしい。
泣いている場合じゃないな。
「ありがとうございます。けど、大丈夫ですよ」
「そうか。今日の件は、アンジェロに責任はない。気にするな」
「はい。そうします。切り替えます」
「うむ。それが良いのである。戦いは続くのであるからな」
そうだな。
それよりもこれからどうするかだ。
俺がリーダーなのだから、しっかりしなくちゃ。
「みんな聞いてくれ。ここ数日、ごちゃごちゃした場当たり対応ばかりだったが、明日からは行動方針を変える」
じい、ジョバンニ、ルーナ先生、黒丸師匠が、俺をじっと見ている。
俺の言葉を待っている。
「まずは情報収集を行う。俺たちは新しい領地、北部王領について知らなさ過ぎる。まず情報を集めて、それからどうやって領地を発展させるかを考える」
俺の考えにまずルーナ先生が、反応してくれた。
「良いだろう。では、私はあの草木の生えてない荒れた土地を調査しよう」
ハイエルフのルーナ先生は樹木の専門家でもある。後宮で薬草を育ていたし、木属性の魔法も使える。
うん。草木が生えてない原因調査は、任せてしまって良いだろう。
「ルーナ先生、お願いします。それから村の方は、じいとジョバンニで聞き込みや現状調査をしてくれ。働けそうな人間がどれくらいいるかとか……、どんな風に畑を世話しているのかとか……、暮らしぶりも聞いておいてくれ」
「承りました」
「承知しました」
「それでは、それがしは森の中を調査するのである。生息する魔物の種類や分布がわかった方が良いのである」
「黒丸師匠ありがとうございます。あと森の中の水場や川の位置を調べてください」
「了解なのである!」
「俺は空から北部王領全体を把握します。大丈夫です。きっと道はあるはずです!」
「よし! やるのである!」
「うむ!」
「仕切り直しですな!」
「がんばりましょう!」
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みんな元気に答えてくれた。
大丈夫だ。
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◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
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