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第二章 流刑地への追放

第35話 獣人たちへの依頼

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 俺、ルーナ先生、ジョバンニ、獣人三人の昼食は、みんな満足して良い雰囲気で終わった。
 食べ終わると獣人の女の子が挨拶と自己紹介を始めた。

「うまい食事を感謝するぞ! 改めて挨拶する。私は白狼族族長の娘、サラだ」

 白狼……、狼獣人か!
 なるほどピンと立った耳は確かに狼だ。尻尾や髪の毛も美しい白だ。

「それから、こいつが熊族のボイチェフだ」

「おらは熊族の族長の息子ボイチェフだあ。こんなに美味しいごはんは、初めてだあ」

「小柄なのがリス族のキュー」

「お食事美味しくいただきました。リス族族長が長男のキューです」

 うん。熊族のボイチェフは、見た目通りのノンビリ屋さんっぽいな。
 リス族のキューは、しっかりとした話しぶりで頭が良さそうだ。

「挨拶感謝する。フリージア王国第三王子アンジェロ・フリージアだ。先日この辺り一帯の領主に任命された。以後よろしく!」

 獣人三人とも族長の子供だと名乗ったので、俺は少しカッチリした感じで挨拶を返した。
 美味しい食事のお陰で獣人三人とは、友好的に話が進んだ。

 獣人三人の話によると、彼らはアンジェロ領の北側の山間部に住んでいる。
 北側の山間部は森が深く魔物も頻繁に出るエリアで、狩猟と木の実などの採取を中心に生活しているらしい。

 アンジェロ領の本拠地に一番近い場所に住むのがボイチェフたち熊族だ。
 その北側にキューたちリス族、そして一番北側にサラたち白狼族が住んでいる。

 それぞれ一日で移動出来る距離に集落があるそうで、彼らからしたら俺たちはご近所さん感覚のようだ。

「じゃあ、君たち獣人三族のテリトリー……、縄張りはこんな感じかな? ボイチェフたちがここで……、キューがここ……、サラがここ……」

 俺は手書きの地図に指で丸を示した。
 領地争いは避けたいからな。獣人のテリトリーは、把握しておきたい。



 最初は地図の見方がわからなかった三人だが、直ぐに見方を覚えた。
 さすが猟で生計を立てているだけの事はある。

 サラ、ボイチェフ、キューが顔を見合わせ、サラが代表して答えた。

「そうだな。それであっている」

「わかった。君たちの縄張りは、侵さないよ」

「うむ。そうして貰えるとありがたい。我々も人族と争いたい訳ではないからな」

 それは何より!
 こっちも交易が目的だからね。
 大分打ち解けて来たし、そろそろくだけた話し方でも良いかな?

「そういえば、サラが代表して答えているけど白狼族が獣人三族の代表なの?」

「いや、そうではない。獣人三族は横並びの関係だ。上下関係はないぞ。私が一番年上なのだ」

「サラは、いくつなの?」

「十二才だ」

 俺の二つ上になるのか!
 もうちょっと上かと思った。
 言われてみれば、表情に幼い所があるよな。
 獣人の発育は人族とは違うのかな……。

「ボイチェフとキューは?」

「おらは、十才だあ」

「私も十才です」

「じゃあ、俺たち同い年だね!」

「そうだあ。アンジェロとおらは同い年だあ!」

 ふふ。ボイチェフが嬉しそうにしている。
 ボイチェフとキューは、熊とリスがそのまま大きくなった姿をしているので、年齢がよくわからない。正直同い年と言ってもあまりピンと来ないな。

「なんだ。アンジェロは年下なのか。なら守ってやるぞ。オマエは良い奴だからな」

「ありがとう」

 白狼族のサラが胸を反らして俺を守る宣言した。
 あれか! 自分より年下は面倒を見る的な、サラはお姉さん体質なのかな。

「アンジェロに聞きたい事がある。あの村にあった道具は鉄製か?」

 うん?
 サラが話題を変えたて来たな。口調も表情も真面目な感じだ。

「そうだよ。俺が村に貸し出した」

「そうか……。私たちも鉄製の道具が欲しいのだ!」

「鉄製の道具は持ってないのか?」

「一つだけある。昔、ひいじいさんが遠くの人族の戦いに加勢しに行った事があるのだ。その時に持ち帰って来た、鉄製の剣がある」

 遠くの人族の争いに加勢……。傭兵で雇われたのかな……。
 リス族のキューが、サラの話を引き継いだ。

「アンジェロ殿。我々獣人は、石や木、魔物の素材を加工して武器を作っております。ですが、白狼族の持つ鉄の剣には及ばないのです」

「なるほど。それで鉄の剣が欲しい?」

「我らリス族としては、村で見かけた鉄のナイフが欲しいです。リス族は獣人三族の中で最も手先が器用な部族です。魔物の毛皮加工や道具作りを一手に引き受けているのです」

「ああ、それで鉄のナイフか」

「はい。今は石のナイフを使って作業をしていますが、鉄のナイフならもっと作業がしやすくなるかと……」

「それはそうだよね。魔物から毛皮を剥ぐのも綺麗に出来るだろうし」

「そうです! ぜひとも鉄のナイフをお譲り頂きたい!」

 キューは非常に熱心だ。
 リス族に鉄のナイフを与えれば、交易品の魔物の毛皮の品質が上がりそうだ。
 そう考えると悪くない。

 ただ、どうだろう?
 サラ、ボイチェフ、キューとは仲良くなったけれど、それぞれの獣人部族と仲良くなったわけじゃない。

 万一争いになった場合、鉄製品は武器になるからな……。鉄製品を獣人三族に譲渡するのに、心配な部分もある。

「あの~アンジェロ。おらたち熊族は、鉄の斧が欲しいだあ。おらたちは力があるので、木こりをやっているんだあ」

「私たち白狼族は、鉄剣が欲しい。白狼族の仕事は魔物狩りだからな」

「じゃあ、三族それぞれが得意分野の仕事をしているの?」

「そうだ。近くに住んでいるから力を合わせないとな」

 うーん。どうしよう……。
 獣人は人族より戦闘能力が高いからな。鉄製の武器を持たせるのは……。

 まあでも、ミスリルやオリハルコンの武器を与える訳ではないからな。
 鉄剣は冒険者の武器としては、ありふれた武器だ。

 それより鉄製の道具を分けてあげて仲良くする方向で考えよう。
 じゃあ、鉄製の道具と交換するのは何にするか……。
 そうだ!

「わかった。じゃあ、俺の依頼を聞いてくれないか?」

「依頼?」

「うん。獣人三族の縄張りやその近くで、色々な物を集めてきて欲しい」

 アンジェロ領の北側は、まだ調べていない。
 ならサラたち獣人に頼んでしまえば良い。俺たちよりも何がどこにあるか、良く知っているだろう。

「どんな物を集めれば良いのだ?」

「えーと。石、草、木の実、魔物の毛皮なんかを、それぞれ一つずつお願い」

 鉄鉱石とか、金とか、薬草とか、ひょっとしたら何か価値の高い物があるかもしれない。
 と言うよりも、あって欲しい!
 棚からぼた餅を期待しているのだ!

 サラが不思議そうな顔で聞いて来た。

「魔物の毛皮はわかるが、石や草など集めてどうする?」

「どんな物があるか知りたい。サラたちには使い道が無くても、俺たち人族には使い道があるかもしれないだろう?」

「なるほど。そういう事か……。お前たちが欲しい物が、あるか無いか知りたいのだな?」

「そうそう。だから、一つずつで良い。なるべく色々な種類の物を集めて来て欲しい」

「わかった良いだろう。その依頼をやったら、鉄の道具をくれるのか?」

「白狼族には、鉄の剣を一振り、熊族には、鉄の斧を一つ、リス族には鉄のナイフを二つでどう?」

「そ! それぞれの部族に貰えるのか!」

「うん。その方が良いでしょう? ああ、鉄のナイフは小さい物だから二つにしたよ」

「それで良い! その依頼引き受けた!」

「おらもやるぞ!」

「リス族も引き受けました!」

 おお!
 三人とも、やる気になっている!

「じゃあ、アンジェロ。十日後に集めた物を持ってくる」

「わかった。こちらも鉄製品を用意しておくよ」

 こうしてサラ、ボイチェフ、キューの三人は俺の依頼を受けて、それぞれの部族の集落に帰っていった。
 三人とも塩と小麦を背負い。パンの作り方をルーナ先生から教わったので、ニコニコ顔だった。
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