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第二章 流刑地への追放

第38話 黒丸師匠のウキウキボイス

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 俺はロリコンではない。
 違うのだ。

 俺はこれから魔物と戦うのだが、美少女獣人白狼族のサラに良い所を見せようと思っている。
 サラは……、十二才だ。

 だが、違うのだ。
 俺はロリコンではないのだ。

 俺の中には二つの感覚がある。
 日本人の巧良輔@二十二才の感覚とフリージア王国第三王子アンジェロ@十才の感覚だ。

 人格は一つだが、感覚は二つ……、と言うか二つの感覚が入り混じっている。
 こんな事を人に話しても、理解をしてもらえないのはわかっている。

 しいて言うなら……。
 わかりやすく話を単純化するなら……。
『上もイケれば、下もイケるよ!』と言う事だ。

 最低だな……俺は……。

 そんな訳で俺の中にある二十二才日本人の感覚は、アースドラゴンとの戦いにブレーキをかけた。しかし、十才の感覚は、年の近い可愛い女の子に良い所を見せようと張り切ってしまう。

 結果あっさり黒丸師匠の策略にハマってしまった。

「アンジェロ。何を落ち込んでいる?」

 上の美人筆頭ハイエルフのルーナ先生が、大きな声で話し掛けて来た。
 いつものジト目で見られると、心の内を見透かされている気がしてソワソワしてしまう。

「いえ! 何でもありません!」

「集中しろ! 現地に着いたら即戦闘かもしれないぞ!」

 そうだな。これからアースドラゴンと一戦交えるかもしれない。
 気持ちを切り替えよう。

 俺とルーナ先生は、熊族のボイチェフが話していた白い石が出る岩場へ向かっている。
 現在アンジェロ領の北側を時速四十キロ位のスピードで飛行中だ。
 森の上を北上し獣人三人が通った道の上を辿ろうとしたのだが、上空から道は全く見えなかった。

「ルーナ先生。道なんて無いですよね?」

「おそらく獣道であろう。上空からの視認は無理だ」

「獣道……。そんな道を通って来たのか!」

「おそらく。獣人の身体能力は、ズバ抜けている。我々とは違う」

 眼下に広がる深い森は、人族を寄せ付けない雰囲気がある。
 サラ、ボイチェフ、キューたちは、この森の中で生活しているのか……。
 そりゃ身体能力が高くないと生きていけないよな。

 飛び続けて一時間ほど経ったろうか。
 左前方で森が切れ、白っぽい岩場が見えて来た。

「ルーナ先生! 左前方!」

「確認した。着地する」

 岩場に着地した。白っぽい石……と言うよりは、白っぽい岩がむき出しの地面が広がっている。
 白い岩場、白い岩で出来た丘陵地帯って感じだ。

 俺は目の前に転がる小さな白い石を拾い上げた。
 岩が砕けた破片だな。

「なるほど、ここか……」

 これなら熊族にハンマーで岩を砕いて貰ってから運び出せば白い石は拾い放題だ。
 白い皿、磁器の原料確保は問題ないな。

 問題はここに出現するトカゲの化け物……、恐らくはアースドラゴンだな。

 アースドラゴンは、ダンジョンで一度対戦した事がある。その時は、俺とルーナ先生の風魔法で完封している。
 ヤツは土属性なので風属性魔法に弱いのだ。ルーナ先生は風属性魔法を得意とするので、俺たち『王国の牙』とは相性の良い魔物と言える。

 しかし、今回はだ!
 あの獣人三人も参加を希望した。

「ルーナ先生……、本当にあの三人をここに連れて来るのですか?」

「ううん……。仕方なかろう。あやつらにもプライドがあろうしな」

「プライドですか……」

「自分たちのテリトリーの隣で、強力な魔物が討伐される。それを知らんぷりも出来まいよ」

 本来ドラゴン退治は死の可能性を伴う非常に危険なチャレンジだ。
 並の冒険者ならドラゴンに出会った瞬間に全滅。
 手練れでも逃げるのに精一杯。
 精鋭揃いのエース級冒険者パーティーでやっと討伐出来るかどうか……。

 ドラゴンとは、そういう危険極まりない存在なのだ。

 規格外と言われる俺だって、何かの拍子に一発食らえばあの世行きだ。
 だからドラゴンとの対戦には慎重になるし、正直どこかに恐怖感がある。

 そもそもドラゴンと聞けば嬉々として突っ込んで行くルーナ先生と黒丸師匠はおかしい。
 特に十才児の俺をドラゴンにけしかけようとする黒丸師匠が最もおかしい。

 そんな危険な魔物、ドラゴンと対戦するのに、サラ、ボイチェフ、キューの三獣人は、力量が足りているだろうか?

「あの三人は、戦力になりますかね?」

「……まあ、見学と言う感じで、立ち合わせれば良いのではないか?」

 見学か。
 それなら、まあ、いいだろう。とりあえず現場にいれば、獣人三族のメンツも立つだろう。

「わかりました。じゃあ、迎えに行ってきます」

 俺は転移魔法でゲートをアンジェロ領の領主エリアに繋ぎ、獣人三人と黒丸師匠を連れて来た。
 獣人三人は転移魔法に驚いて大騒ぎしていたが、『戦いが近いのである!』と黒丸師匠から一喝されて静かになった。

「ふむ。ここが、アースドラゴンが出没するエリアであるか……」

「黒丸! アンジェロ! 気配がする! 間もなく接敵!」

「心得たのである!」

「了解!」

 地鳴りがする。辺りに低い音が不気味に響く。
 この重量感は竜種で間違いないだろう。

 ルーナ先生が獣人三人にも指示を飛ばす。

「サラたち三人は、木の上に登っていろ!」

「私たちも戦う!」

「足出まといはいらない」

「な!? ひどい! 子供と思ってバカにするな! アンジェロは戦うのだろう! なら私も戦う!」

 サラがエキサイトしているのを、ボイチェフとキューが止めようとしている。
 岩場の手前は森だ。そこには高い木が沢山生えている。
 あの木に登っていてくれれば、こちらは岩場で気兼ねなく戦えるが……。
 なかなかサラが聞き分けてくれない。

「アンジェロは飛行出来るが、サラは飛行できない。強い弱いではなく、これは適性の問題だ」

「でも!」

「ここは戦場である! 戦闘指揮には従ってもらうのである。サラの力が必要な時は、ルーナから指示が来るのであるよ。それまでは木の上で待機するのである」

「……わかった」

 獣人三人が森の方へ退避した。
 重低音の足音はますます近づく。
 そして目の前の岩の丘にぬうっと魔物が顔を出した。

 巨大な頭に鋭く尖った角、真っ赤な目が俺たちを睨みつける。
 黒丸師匠がニヤリと笑い、嬉しそうに呟いた。

「やはりアースドラゴンであったか……。この出会いに感謝である!」

「飛行! 散開!」

 ルーナ先生の指示で一斉に飛行に移り、アースドラゴンを見下ろす位置でじっくりと観察する。
 アースドラゴンは、全体にがっちりしている。トカゲと言うより恐竜のトリケラトプスみたいな体型でずんぐりしている。

「アンジェロ少年はアースドラゴンとの対戦は二回目であるな?」

 黒丸師匠がウキウキボイスで話しかけて来た。

「ええ。前回はダンジョンでした。今回は地上なのでアースドラゴンの肉が食えますね」

 ダンジョンで魔物を倒すと光の粒子に還元され素材は一切残らない。
 今回は地上戦なので、アースドラゴンを倒せば一頭分のドラゴン素材が丸々手に入る。

「むむ……、土属性の魔物の肉はあまり旨くないのである。アースドラゴンの肉も泥臭くて不味いのである」

「え!? そうなのですか? じゃあ、売却してもあまり値段はつかないですか?」

「いや。アースドラゴンの素材は人気である。肉もである」

「不味いのに?」

「……子供は知らなくても良い理由で人気なのである!」

 子供が知らなくて良い理由……、ああ、どうせロクでもない理由だろうな。
 強精剤とか、まあ、どうせそのあたりだろう。

「理由は聞かないでおきます」

 肉が食べられないのは残念だけれど、売れるなら良いか。

「GYAOOOOOOO!」

 突然アースドラゴンが甲高い鳴き声を上げた。

「ぬう! なんであるか!」

 岩場のあちこちから魔物の鳴き声が響く。
 アースドラゴンの叫びに答えているのか?
 沢山の足音が聞こえて来る。

「ルーナ先生! 黒丸師匠! あれ!」

「おお!」

「アースドラゴンがこの辺り一帯の手下を呼んだのであるな。大漁であるな!」

 土埃を上げて岩場のあちこちから多数の魔物が集まって来た。
 ざっと百匹はいるだろう。

 ロックリザード、ロックバード……、下位竜種の劣地竜バジリスクも複数いる。
 下位竜とはいえ、毒持ちの厄介な魔物だ。

 魔物たちは空中の俺たちに凶悪な目を向けている。
 だが、ルーナ先生は我関せずで、食べる事だけを考えている様だ。

「ロックバードの肉は、うまい。他の魔物は、まずい」

「ルーナ先生……、この状況で食べる心配ですか……」

「ハイエルフは文化的な種族だから、いつでも食文化を大切にする」

「自分の食欲を文化に置き換えないで下さい」

「ロックバードのグリルは、美味だと思う。アンジェロは食べたくないのか?」

「……食べますよ」

「では、私たちの晩餐の為に戦闘開始!」

 何かちょっと違う気もするが。とにかく白い岩場でアースドラゴン軍団との戦いが始まった。
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