追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

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第四章 ウイスキーと異世界飛行機の開発

第71話 ルーナと黒丸

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 黒丸師匠が持って来た羊皮紙は、フリージア王国王宮からの連絡事項だった。書いてあったのは……。

 メロビクス王大国が隣国ニアランド王国に攻め込んだ事。
 フリージア王国は盟約に基づきニアランド王国防衛の為に出兵する事。
 ついては各領主は兵を率いて馳せ参じる事。

「いよいよか……」

 メロビクス王大国の王宮会議で開戦が決定されたと、俺はかなり早い段階で情報をつかんでいた。
 それなりに準備をしていたが、思ったよりもメロビクス王大国軍の侵攻が早かった。

 俺は気がかりな事を、じいに聞いてみた。

「ニアランド王国とフリージア王国の連合軍で、戦力が足りるかな?」

 じいはアゴに手をやって暫く目を瞑って考えてから答えた。

「おそらく五分とまではいかなくても、良い勝負は出来るかと」

「メロビクス王大国は、その名の通り大国だろう? 大兵力で潰されないか?」

「いや。今回の出兵は、そう数は多くないでしょう。メロビクス王大国に放っている間諜から、メロビクス王大国内で徴兵があったという話は聞いておりません。こたびの出兵は、常備兵が中心でしょうな」

 なるほど。確かにメロビクス王大国内で徴兵はなかった。
 諜報には金をかけているので、そこは間違いないだろう。

「するとメロビクス王大国軍の数は?」

「恐らく……常備兵で一万。貴族兵が四、五千といったところでしょう」

「合計一万五千か。ニアランド・フリージア連合軍は?」

「左様……。ニアランドが五千、フリージアが五千……。それに加えて、各地の貴族兵が集まればもう五、六千は加わりましょう」

「合計一万五、六千で互角か!」

「あくまで数の上です。メロビクス王大国軍は破壊力のある重装騎兵が中心で、装備も一新しています」

 ウォーカー船長も言っていた情報だな。

「そうするとニアランド・フリージア連合軍が、やや不利か」

「そうですな。して、いかがいたしますか?」

 覚悟は決まっている。俺たちはこの日を予想して行動計画は立て来た。
 俺は待機所にいる面々に静かに告げた。

「出陣する。以前からの計画通り全員行動してくれ。近日中に出陣する」

「了解!」
「了解!」
「了解!」

 俺はじいに近づくと小声で話した。

『メロビクス王大国で奴隷になっているエルフの所在地を再確認しよう』

『では、奪還作戦を?』

『この戦争のどさくさに紛れて実行する』

 俺とじいはニンマリと笑った。
 このエルフ奪還計画は俺とじいの二人しか知らない。

 流浪の民エルキュール族に情報収集をさせているので、エルフ奴隷の居場所は彼らが把握している。
 この戦争中のどさくさに紛れてメロビクス王大国で奴隷にされたエルフたちを助け出すのだ。

 じいと打ち合わせが終わると、黒丸師匠が近づいて来た。
 黒丸師匠の様子がおかしい。
 いつもの快活さがない。
 どうしたのだろう?

「……すまないのである」

「何がですか?」

「……弟子の初陣にそれがしは一緒に行ってやれないのである」

 黒丸師匠は残留組だ。
 俺は黒丸師匠にメロビクス王大国と一戦交える時は、『王国の牙』として参戦して欲しいと頼んだのだが『気が進まない』と断られた。

 まあ、モンスターと戦うのと対人戦――特に戦争では色々と違うだろう。
 俺だって正直あまり気が進まないし、出来る事なら戦争なんぞに参加したくない。だから黒丸師匠が『参戦したくない』と言う気持ちは受け入れられる。

「黒丸師匠、気にしないで下さい。俺の初陣は黒丸師匠とルーナ先生と一緒に戦ったウインドドラゴン戦ですよ」

「……そうであるか」

 どうも歯切れが悪いな。
 この異世界では戦争に参加しないのはダメみたいな価値観があるのだろうか?
 もうちょいフォローしておこう。

「俺は本当に気にしていませんよ。ここ領都キャランフィールドと商業都市ザムザの冒険者ギルドの事もあります。それに残留組はエルハムさんとジョバンニですから、何かあった時の為に武力のある黒丸師匠が居てくれれば頼もしいです」

「うむ……である……」

 本当にどうしたのだろうか?
 だが、俺もそうそう黒丸師匠ばかりを気にしていられない。
 エルハムさんとジョバンニと、俺が留守中の対応を打ち合わせておかないと……。

 こうして俺たちは、出陣の準備を進めた。


 *


 待機所から出た黒丸は、飛行場の端に佇むルーナを見つけた。
 ルーナは夜空を見上げ、星を見ていた。
 黒丸はルーナに近づくと、そっと声を掛けた。

「ルーナ、行くのであるか?」

「私は戦う」

 きっぱりと言い切ったルーナに対して黒丸は何か後ろめたく感じた。
 同じ冒険者パーティーであり、アンジェロの師匠同士であり、かつては一緒に戦争で戦った仲である。

 だが、今回の戦争に黒丸は参加しない。
 黒丸は口の中に苦さを感じながらルーナに詫びた。

「それがしは残るのである。すまないのである」

「気にする事はない。黒丸の事は信頼している。黒死丸が残って領地を守ってくれれば心強い」

「黒死丸であるか……。そう呼ばれていた事もあったのである……」

 若かりし頃の黒丸は、情け容赦のない戦士として恐れられていた。
 ついたあだ名が黒死丸。

 黒丸の通った後には、真っ黒な血の海だけが残ると言われた。
 赤いのではない。黒いのだ。

 あまりにも長時間に渡り黒丸が戦闘を継続する為、最初に死んだ敵の血が乾いて黒く変色する。その為、血の海が黒くなるのだ。

 ルーナは夜空を見上げたまま黒丸に語り続ける。

「一緒に戦った戦争は、もう何百年前?」

「さて……。随分昔の事であるな……」

「あれは酷かった」

「種族共和であるな……」

 かつてルーナと黒丸は人族の王に仕えた。
 その人族の若い王は理想を熱く二人に語った。

 曰く、飢えの無い豊かな国を作る。
 曰く、争いのない平和な国を作る。

 そして最後にその王は語った。

『人族も、エルフも、ドラゴニュートも、獣人も、皆が等しく幸せになる国を作ろう! 種族共和を目指そう!』

 若き王の理想にほだされルーナと黒丸は、若き王の下で戦った。
 二人だけでなく多くの獣人も若き王が語る理想の国を作る為に、若き王の敵と戦った。

 しかし、理想の国は出来なかった。

 若かった王も徐々に年を取り、若い日に掲げた理想を王は忘れてしまった。
 徐々に汚職やワイロが蔓延はびこり、二人が気付いた時には国全体が汚れきってしまっていた。

 人族貴族の力が強くなり、人族以外は要職から外された。
 人族以外の種族は最前線に立たされ、真っ先に死んだ。つまり人族以外の命は、使い潰されたのである。

 その国の名は、メロビクス王大国である。

 ルーナは夜空に輝く星をじっと見つめたまま淡々と話す。

「メロビクス王大国は、私たちが作った国。初代王を信じた私がバカ」

 黒丸は大きく息を吸うと大きくため息をついた。

「アンジェロを信じていない訳ではないのである。ただ……、気が進まないのである……」

「気持ちは分かる」

 二人はアンジェロを弟子として鍛え、アンジェロの気質に期待し力を貸してきた。
 だが、今回の戦争については、ルーナと黒丸で対応が分かれた。それは恐らく、黒丸の気質が真っ直ぐで、過去にあった出来事に決別出来ていないからであろう。

「ルーナは強いのであるな……」

「アンジェロは、普通の人族と違う」

「転生者……であるな」

 転生者であるアンジェロは、この異世界の常識に縛られない。人族以外の種族に対する悪い先入観もない。
 それどころか貴族も平民も同じ人と考えている。

 元日本人のアンジェロにしてみれば、当然の価値観、物の考え方であるが、この異世界の住人たちにとっては驚異的、極めて異質な考え方だ。

 ルーナは黒丸の方を向いて、はっきりと言い切った。

「私はアンジェロと結婚する。妻としてアンジェロを支え、アンジェロを王にする。今度こそ、皆が安心して住める国を作る。それが長命なハイエルフに生まれた私の意義だと思う」

 ルーナは立ち去り、黒丸は先ほどルーナが見上げていた夜空の星々を見つめた。
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