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第五章 メロビクス戦争
第86話 アルドギスルとアンジェロ
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――翌日。
俺たちは、大天幕へ向かっている。
メンバーは、俺、じい、黒丸師匠、シメイ伯爵、第二騎士団長ローデンバッハ男爵、副官ポニャトフスキ騎士爵の六人だ。
昨晩は荒れた。
とにかく荒れた。
大天幕から帰ってきて、夕食の目玉焼きハンバーグを食べたまでは良かった。
その後、シメイ伯爵、第二騎士団長ローデンバッハ男爵、副官ポニャトフスキ騎士爵が、訪問してきたのだ。
狙いは促成蒸留酒クイックだ。
三人は、俺に協力・賛同してくれる大事な貴族だ。
俺は蒸留酒クイックを樽で出した。
じい、ルーナ先生、黒丸師匠も加わって、情報交換という名目で飲み会が始まった。
これがいけなかった……。
まず、じい、ローデンバッハ男爵、ポニャトフスキ騎士爵が、ニアランド王国副将アラルコンの発言・態度について、愚痴と悪口を言い始めた。
次に、ニアランド王国副将アラルコンが大天幕でやらかした事を聞いて、黒丸師匠が怒り出した。
『意味不明な話しである! それがし、これから叩き切ってくるのである!』
大剣をつかんで飛び出そうとするのを、俺が止めた。
ボイチェフを助けに呼び、『二人がかり』プラス『魔法障壁を張って』止めた。
そこでルーナ先生が、不穏当な発言をする。
『ニアランドは腐っている。腐った魚は処分した方が良い』
黙っていれば間違いなく超絶美人なジト目ハイエルフなのに、どうしてそう好戦的なのかな……。
俺がルーナ先生に『黙ってくれ』と言おうかと思ったら、遅かった。
シメイ伯爵が、クイックを飲みながら泣き始めた。
『情けねえ! 俺は、そんな国の為に戦っていたのか! もう、やらねえぞ!』
シメイ伯爵は、泣き上戸かよ……。
もう、略奪部隊の討伐はやらないってよ。
特にシメイ伯爵、ローデンバッハ男爵、ポニャトフスキ騎士爵は、飲み慣れないクイックですぐに酔っ払ってしまい手がつけられなかった。
そんな酔っ払いどもの中で、シラフの俺は辛かった……。
地獄だったよ……。
そんな中、父上つまり国王陛下から使いが来た。
「明日の朝、大天幕で軍議を行うので、主立った者は必ず参加するように」
「地獄へようこそ!」
「……アンジェロ殿下は、ご出席いただけるということで承りました」
酔っ払いが大騒ぎしている状況を見て、伝令の兵士は素早く回れ右して帰って行った。
ちぇっ!
手伝えよ……。
シメイ伯爵、ローデンバッハ男爵、ポニャトフスキ騎士爵は、酔い潰れてしまいアンジェロ隊の天幕で寝ていくことに。
そして朝になり、一緒に朝食をとってそのまま大天幕で開かれる軍議に向かうことになった。
俺を先頭にシメイ伯爵ら三人も俺の後ろについてくる。
俺の派閥に取り込めたってことかな?
酔っ払いの世話は、なかなか面倒だったけれど、まあ、いいや。
「おお~う! 我が弟よ! おっはよう!」
フリージア王国軍の宿営地内を歩いていると、第二王子のアルドギスル兄上に出会った。
朝から、ぞわっとする挨拶だ。
アルドギスル兄上も後ろにぞろぞろと自派閥の貴族を連れている。
「兄上、おはようございます」
「ハッハー! 素晴らしい朝だね! アンジェロも軍議かな? じゃあ、仲良く並んで行こう!」
俺とアルドギスル兄上が並んで歩き、後ろにぞろぞろとそれぞれの派閥の貴族が従う。
「いやあ~。さすがアンジェロ! 我が弟だね~。派閥形成をさっそくやっているじゃ~ないかー」
アルドギスル兄上が、しなを作った指先で前髪かき上げながら、話題を振ってくる。
「私のような無能非才にありがたいことです」
「ご謙遜だね~。アンジェロは優秀だよ! 自慢の弟さ!」
「……ありがとうございます」
自慢の弟と言われて、ちょっと嬉しい。
照れるな。
お世辞かなと思ったけれど、アルドギスル兄上は本心で言っている。
表情から、俺の優秀さを喜んでくれているのが伝わってくる。
「まあ、僕は、あまり優秀じゃないからね~」
「いや、アルドギスル兄上。そんな事は――」
「ハッハー! いいんだよ! アンジェロ! 僕は自分が無能な事を知っているのさ。だから、ほら! 後ろにいる優秀な者に丸投げするのさ!」
そう言うと、アルドギスル兄上は俺にパチンとウインクをした。
後ろを見ると、アルドギスル兄上派閥の貴族が、やれやれと優しく微笑んでいた。
兄上愛されてるな。
この素直というか、屈託のない所がアルドギスル兄上の魅力だな。
俺は表情を引き締めて、アルドギスル兄上に告げる。
「それって十分優秀ですよ。仕事を任せられるのは、王者の器量です」
「おおっ! そうかな! 嬉しいことを言ってくれるね! 我が弟よ~!」
アルドギスル兄上が肩を組んできた。
この兄とは、上手くやっていけそうな気がする。
インチキビジュアル系の外見は……、まあ、個人の趣味だ。
触れないでおこう。
大天幕に着くと、中は昨日とは違う配置になっていた。
国王である父上が、大天幕奥、中央の椅子に座る。
その前にポポ兄上、アルドギスル兄上、第三王子の俺が座る。
それぞれの王子の後ろに、派閥の貴族が座る形式だ。
無派閥の貴族は、一番後ろに座ることになった。
今まで会議を仕切っていた宰相エノー伯爵は、ポポ兄上の後ろに座らされている。
「じい、これは一体……」
「ふむ。どうやら国王陛下は、三人の王子を競い合わせるつもりですな」
「なるほどね。それでこの席順か……」
参陣している主立った貴族全員が席についたところで、父上が話し始めた。
「皆の者、朝早くからご苦労である。これからの方針を申し渡す。これは王命と心得よ!」
皆居住まいを正し、父上の言葉に耳を傾ける。
「まず、この戦だ。ニアランド王国との盟約に基づきメロビクス王大国軍を退ける。この基本方針は変わらぬ。しかし、ニアランド王国の態度が悪ければ、即日撤兵し自国防衛に集中する。我らはニアランドの属国ではない!」
「「「「「おおお!」」」」」
昨日のニアランド王国副将アラルコンの態度は最悪だった。
あれを見て怒りを感じた者が多かったのだろう、俺とアルドギスル兄上の派閥貴族から、感嘆の声が上がった。
対して、ポポ兄上の派閥、つまり外交族が多い派閥の貴族は、なんとも言えない顔をしている。
俺も父上の定めた方針に賛成だ。
昨日のように嫌な思いをするくらいならニアランドを見捨てて、自国防衛に力を注いだ方が良い。
それにニアランドが主で、フリージアが従の関係は、健全な外交関係とは言えない。
国としての力量は対等なのだから、対等な外交関係でなければ、先々もっと大きなトラブルになるかもしれない。
父上が言葉を続ける。
「次に、王位継承について話しておく。余には三人の王子がいる。ポポ、アルドギスル、アンジェロだ。三人の誰を世継ぎにするかは、まだ、定まっていない。三人の今後の働き、成長、適性を見て……余が決定する!」
今度は大天幕の中がザワリとした。
三人の王子は、王位継承候補者として等しくスタートラインに立っている。
扱いは同じだと父上が宣言したのだ。
これまでは宰相エノー伯爵が押すポポ兄上が優勢と思われていた。
だが、状況がひっくり返った。
三人のうち誰にするかは、父上が決めるとはっきり明言した。
王宮で権勢を誇った宰相エノー伯爵の影響は排されたと見て良いだろう。
その証拠に宰相エノー伯爵は、父上の横ではなく、ポポ兄上の後ろに座らされている。
あの座る位置は、『ポポ兄上派閥の一貴族』、『一臣下』として扱われている。
ちらりと宰相エノー伯爵を見ると、目を閉じてジッとしている。
父上の発言を遮ることも、方向転換させることも出来ないでいるのだ。
父上が相当発言力を回復した。
喜ばしいことだ。
*
ハジメ・マツバヤシは、不機嫌だった。
自分が管理している王領から早馬が到着したのだ。
早馬から受けとった書状には、以下が書かれていた。
・ハジメ・マツバヤシ邸が、盗賊の襲撃を受けた。
・全員腹を下しているすきに襲撃された。
・金品が盗まれ屋敷に火をつけられ、全焼した。
・奴隷にしていたエルフが全員いなくなった。
「クソッ!」
ハジメ・マツバヤシは、地面を蹴った。
何度も何度も蹴りつける。
見かねてお付きの女魔法使いミオが止めに入った。
「ハジメ様! お止め下さい! 落ち着いて下さい!」
「これが落ち着いていられるか! せっかく上手くいっていたのに! 盗賊が台無しにしやがった!」
「わかりました! わかりました! エルフ奴隷は、また手に入ります! 私もお手伝いをしますから!」
「チクショー!」
ハジメ・マツバヤシは、一日中荒れた。
俺たちは、大天幕へ向かっている。
メンバーは、俺、じい、黒丸師匠、シメイ伯爵、第二騎士団長ローデンバッハ男爵、副官ポニャトフスキ騎士爵の六人だ。
昨晩は荒れた。
とにかく荒れた。
大天幕から帰ってきて、夕食の目玉焼きハンバーグを食べたまでは良かった。
その後、シメイ伯爵、第二騎士団長ローデンバッハ男爵、副官ポニャトフスキ騎士爵が、訪問してきたのだ。
狙いは促成蒸留酒クイックだ。
三人は、俺に協力・賛同してくれる大事な貴族だ。
俺は蒸留酒クイックを樽で出した。
じい、ルーナ先生、黒丸師匠も加わって、情報交換という名目で飲み会が始まった。
これがいけなかった……。
まず、じい、ローデンバッハ男爵、ポニャトフスキ騎士爵が、ニアランド王国副将アラルコンの発言・態度について、愚痴と悪口を言い始めた。
次に、ニアランド王国副将アラルコンが大天幕でやらかした事を聞いて、黒丸師匠が怒り出した。
『意味不明な話しである! それがし、これから叩き切ってくるのである!』
大剣をつかんで飛び出そうとするのを、俺が止めた。
ボイチェフを助けに呼び、『二人がかり』プラス『魔法障壁を張って』止めた。
そこでルーナ先生が、不穏当な発言をする。
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シメイ伯爵が、クイックを飲みながら泣き始めた。
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特にシメイ伯爵、ローデンバッハ男爵、ポニャトフスキ騎士爵は、飲み慣れないクイックですぐに酔っ払ってしまい手がつけられなかった。
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酔っ払いが大騒ぎしている状況を見て、伝令の兵士は素早く回れ右して帰って行った。
ちぇっ!
手伝えよ……。
シメイ伯爵、ローデンバッハ男爵、ポニャトフスキ騎士爵は、酔い潰れてしまいアンジェロ隊の天幕で寝ていくことに。
そして朝になり、一緒に朝食をとってそのまま大天幕で開かれる軍議に向かうことになった。
俺を先頭にシメイ伯爵ら三人も俺の後ろについてくる。
俺の派閥に取り込めたってことかな?
酔っ払いの世話は、なかなか面倒だったけれど、まあ、いいや。
「おお~う! 我が弟よ! おっはよう!」
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朝から、ぞわっとする挨拶だ。
アルドギスル兄上も後ろにぞろぞろと自派閥の貴族を連れている。
「兄上、おはようございます」
「ハッハー! 素晴らしい朝だね! アンジェロも軍議かな? じゃあ、仲良く並んで行こう!」
俺とアルドギスル兄上が並んで歩き、後ろにぞろぞろとそれぞれの派閥の貴族が従う。
「いやあ~。さすがアンジェロ! 我が弟だね~。派閥形成をさっそくやっているじゃ~ないかー」
アルドギスル兄上が、しなを作った指先で前髪かき上げながら、話題を振ってくる。
「私のような無能非才にありがたいことです」
「ご謙遜だね~。アンジェロは優秀だよ! 自慢の弟さ!」
「……ありがとうございます」
自慢の弟と言われて、ちょっと嬉しい。
照れるな。
お世辞かなと思ったけれど、アルドギスル兄上は本心で言っている。
表情から、俺の優秀さを喜んでくれているのが伝わってくる。
「まあ、僕は、あまり優秀じゃないからね~」
「いや、アルドギスル兄上。そんな事は――」
「ハッハー! いいんだよ! アンジェロ! 僕は自分が無能な事を知っているのさ。だから、ほら! 後ろにいる優秀な者に丸投げするのさ!」
そう言うと、アルドギスル兄上は俺にパチンとウインクをした。
後ろを見ると、アルドギスル兄上派閥の貴族が、やれやれと優しく微笑んでいた。
兄上愛されてるな。
この素直というか、屈託のない所がアルドギスル兄上の魅力だな。
俺は表情を引き締めて、アルドギスル兄上に告げる。
「それって十分優秀ですよ。仕事を任せられるのは、王者の器量です」
「おおっ! そうかな! 嬉しいことを言ってくれるね! 我が弟よ~!」
アルドギスル兄上が肩を組んできた。
この兄とは、上手くやっていけそうな気がする。
インチキビジュアル系の外見は……、まあ、個人の趣味だ。
触れないでおこう。
大天幕に着くと、中は昨日とは違う配置になっていた。
国王である父上が、大天幕奥、中央の椅子に座る。
その前にポポ兄上、アルドギスル兄上、第三王子の俺が座る。
それぞれの王子の後ろに、派閥の貴族が座る形式だ。
無派閥の貴族は、一番後ろに座ることになった。
今まで会議を仕切っていた宰相エノー伯爵は、ポポ兄上の後ろに座らされている。
「じい、これは一体……」
「ふむ。どうやら国王陛下は、三人の王子を競い合わせるつもりですな」
「なるほどね。それでこの席順か……」
参陣している主立った貴族全員が席についたところで、父上が話し始めた。
「皆の者、朝早くからご苦労である。これからの方針を申し渡す。これは王命と心得よ!」
皆居住まいを正し、父上の言葉に耳を傾ける。
「まず、この戦だ。ニアランド王国との盟約に基づきメロビクス王大国軍を退ける。この基本方針は変わらぬ。しかし、ニアランド王国の態度が悪ければ、即日撤兵し自国防衛に集中する。我らはニアランドの属国ではない!」
「「「「「おおお!」」」」」
昨日のニアランド王国副将アラルコンの態度は最悪だった。
あれを見て怒りを感じた者が多かったのだろう、俺とアルドギスル兄上の派閥貴族から、感嘆の声が上がった。
対して、ポポ兄上の派閥、つまり外交族が多い派閥の貴族は、なんとも言えない顔をしている。
俺も父上の定めた方針に賛成だ。
昨日のように嫌な思いをするくらいならニアランドを見捨てて、自国防衛に力を注いだ方が良い。
それにニアランドが主で、フリージアが従の関係は、健全な外交関係とは言えない。
国としての力量は対等なのだから、対等な外交関係でなければ、先々もっと大きなトラブルになるかもしれない。
父上が言葉を続ける。
「次に、王位継承について話しておく。余には三人の王子がいる。ポポ、アルドギスル、アンジェロだ。三人の誰を世継ぎにするかは、まだ、定まっていない。三人の今後の働き、成長、適性を見て……余が決定する!」
今度は大天幕の中がザワリとした。
三人の王子は、王位継承候補者として等しくスタートラインに立っている。
扱いは同じだと父上が宣言したのだ。
これまでは宰相エノー伯爵が押すポポ兄上が優勢と思われていた。
だが、状況がひっくり返った。
三人のうち誰にするかは、父上が決めるとはっきり明言した。
王宮で権勢を誇った宰相エノー伯爵の影響は排されたと見て良いだろう。
その証拠に宰相エノー伯爵は、父上の横ではなく、ポポ兄上の後ろに座らされている。
あの座る位置は、『ポポ兄上派閥の一貴族』、『一臣下』として扱われている。
ちらりと宰相エノー伯爵を見ると、目を閉じてジッとしている。
父上の発言を遮ることも、方向転換させることも出来ないでいるのだ。
父上が相当発言力を回復した。
喜ばしいことだ。
*
ハジメ・マツバヤシは、不機嫌だった。
自分が管理している王領から早馬が到着したのだ。
早馬から受けとった書状には、以下が書かれていた。
・ハジメ・マツバヤシ邸が、盗賊の襲撃を受けた。
・全員腹を下しているすきに襲撃された。
・金品が盗まれ屋敷に火をつけられ、全焼した。
・奴隷にしていたエルフが全員いなくなった。
「クソッ!」
ハジメ・マツバヤシは、地面を蹴った。
何度も何度も蹴りつける。
見かねてお付きの女魔法使いミオが止めに入った。
「ハジメ様! お止め下さい! 落ち着いて下さい!」
「これが落ち着いていられるか! せっかく上手くいっていたのに! 盗賊が台無しにしやがった!」
「わかりました! わかりました! エルフ奴隷は、また手に入ります! 私もお手伝いをしますから!」
「チクショー!」
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