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第六章 二人の王子
第107話 エルフからの罰
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白狼族のサラが、大きなテーブルの上を滑るように移動する。
目を血走らせ、右手を前に突き出した女エルフに、サラが蹴りを見舞った。
手荒だが、魔法発動前にストップしてくれた。
腹に蹴りを食らった女エルフは、食堂の端まですっ飛んだ。
だが、ヨロヨロしながら立ち上がり、口の端から血を流しながら怒鳴り散らした。
「止めるな! その女は敵だ! 私たちを奴隷にした! 許さない! 許さない!」
「ダメだ! アンジェロを巻き込むだろう!」
「うるさい! うるさい!」
サラが身を挺して女エルフを止めようとしているが、興奮して言葉が伝わっていない。
一体どうした?
ルーナ先生が殺気をまとって、こちらに近づいてきた。
「アンジェロ。あのエルフは、ハジメ・マツバヤシに奴隷にされていた子」
「ああ……! それで……」
女魔法使いミオは、ハジメ・マツバヤシの仲間だった。
どういう関係かは、よく分からないが……。
ただ、メロビクス戦役の天幕の中で見たハジメ・マツバヤシの様子だと、かなり近しい関係だろう。
腹心……とか?
かつてハジメ・マツバヤシの元で奴隷だったエルフたちは、キャランフィールドで魔道具開発の手伝いをしている。
魔法を放とうとした女エルフは、元奴隷だ。
だから、『ハジメ・マツバヤシの仲間を殺そうとしただけ……』ということか。
自分たちを奴隷にしていた連中への復讐……。
見れば、他の奴隷だった女エルフたちも剣呑な目つきで、夕食のステーキにフォークを突き刺している。
不味いな……これは……。
俺は、まず事実を告げることにした。
「ハジメ・マツバヤシにとどめを刺したのは、彼女だ!」
「「「「「……!」」」」」
奴隷だった女エルフたちの注意が俺の方に向いた。
俺は、ゆっくりと、堂々と言葉を続ける。
「この拳銃という武器を使って! ハジメ・マツバヤシの眉間を打ち抜いたのだ! 私とアルドギスル兄上が、すぐそばで見た!」
アルドギスル兄上に目配せすると、兄上も言葉を続けてくれた。
「ああ。僕も見たよ。そこのミオが、こう……パン! と音がして、眉間から血を流しながらハジメ・マツバヤシが倒れた」
アルドギスル兄上が、ジェスチャー付で当時の状況を話したことで、奴隷だったエルフたちに迷いが出た。
それまでは敵意100パーセントだったが、今は敵か味方か判断に迷っている。
「今は、このミオなる者は、私、第三王子アンジェロの客人だ。手出し無用!」
最後は強権発動で押し切る!
いや、だってさ。
俺は男で子供なのだ。
――もしもだ。
『君たちがハジメ・マツバヤシに酷いことをされたのは気の毒に思うが……』
なんてここで話し始めたら、ハジメ・マツバヤシの被害者である彼女たちを再び傷つけることになる。
恐らく彼女たちは、性的な辱めを受けたのだろう。
その傷を再びえぐり、彼女たちの尊厳を無視するような振る舞いを、俺は出来ない。
彼女たちに寄り添えるのは、同族同性のルーナ先生たちエルフの女性だけだ。
だから、俺は『事実関係をもって、公平に接する態度』を崩さない。
俺は支配する側で権力者だから、それしか出来ないのだ。
「ミオからの聞き取りは、書斎で行う。冒険者パーティー『白夜の騎士』と『エスカルゴ』は、我々の護衛を頼む。誰か、じいとエルハムさんを呼びに行ってくれ!」
白夜の騎士は、白狼族サラが率いる冒険者パーティー。
エスカルゴは、メロビクス王大国からじいの護衛をしてもらった冒険者パーティー。
この両者ならミオに危害を加えることはないだろうし、万一エルフが暴発して襲ってきても、ある程度穏便に対応してくれる。
こういう時に黒丸師匠がいれば……。
今日は商業都市ザムザにいる。
いない者は仕方ない。
いる者で対応するしかない。
「アンジェロ。僕も同席させてもらうよ」
「アンジェロ。私はエルフの代表として同席する」
アルドギスル兄上とルーナ先生か……。
この二人を外すわけにはいかないだろう。
アルドギスル兄上は、あの天幕で起こった暗殺事件の当事者で、ルーナ先生はエルフの長老会議のメンバーだ。
ミオをどう扱うにしても、二人の同意を取り付ける必要がある。
「わかりました。お二人も同席をお願いします」
*
場所を俺の書斎に移した。
俺、ミオ、じい、エルハムさん、ルーナ先生、アルドギスル兄上の六人が部屋に入っている。
護衛の二パーティーは、部屋の外で見張ってもらっている。
全員が丸テーブルについた所で、まず俺が状況整理としてこれまで起きたことを話した。
・外国の商人からメロビクス王大国で、新しい農法が広まっていると聞いた。
・それによって、メロビクス王大国の農業生産高が上昇したとも聞いた。
・ハジメ・マツバヤシという少年貴族が、新しい農法を開発したらしい。
・ハジメ・マツバヤシがエルフを奴隷にして、エルフの魔法で作物の成長促進を行っていた。
・俺たちがメロビクス戦役の初期段階で、奴隷エルフたちを救助した。
細部はぼかし、特にじいがメロビクス王大国へ潜入して情報収集を行ったことは伏せた。
じいは、プロを雇ってスパイ活動を行ったのだ。
アンジェロ領の情報収集ノウハウは、外にもらしたくない。
情報は力なのだ。
ここまで話した所で、アルドギスル兄上が驚きの声を上げた。
「アンジェロ……。そんなことをしていたのか……」
「ええ。極秘作戦としてやりました」
当時、敵方だった女魔法使いミオは、目を丸くして口をパクパクさせている。
「あれ……アンジェロ殿下の仕業だったのですか……。マツバヤシ伯爵は報告を聞いて、ブチ切れていましたよ。でも……どうやって?」
「まあ、それは、極秘作戦だから教えられない」
ハジメ・マツバヤシがブチ切れていたと聞いて、俺は内心ニンマリした。
じいは下を向き口角を上げ、ルーナ先生は無表情ながら耳を小刻みに震わせている。
二人とも俺と同じく、『してやったり!』の気持ちなのだろう。
みんな色々と話したそうにしたが、俺は状況説明を続けた。
・ハジメ・マツバヤシの部屋で、異なる文字の本と見たことのない植物の種を押収した。
・和平交渉に呼び出されハジメ・マツバヤシたちに殺されそうになった。
・その際にハジメ・マツバヤシが使っていたのが拳銃。
・最後にミオが天幕に入り、拳銃でハジメ・マツバヤシを殺害した。
・俺とアルドギスル兄上は、ミオを見逃す事にした。
一通り話し終えたところで、俺はミオに発言を促した。
「大まかな経緯や事象は、今、話した通りだ。さて、ミオ。俺が知りたいのは、ハジメ・マツバヤシがどうやって知識や拳銃を手に入れたかだ」
「……」
「新しい農法、読めない字で書かれた本、見たこともない植物の種、そして拳銃……。これらはメロビクス王大国に存在しないよね?」
「はい。メロビクスにはありません」
「じゃあ、ハジメ・マツバヤシはどこから?」
「知っておりますが……。二つほど条件と言いますか……」
ミオは口ごもった。
俺は先を促す。
「聞こう」
「一つは安全を保障して頂きたい」
それはエルフ次第、つまりルーナ先生次第ということになる。
俺としては、ミオを保護して手元に置いておきたい。
情報源にもなるし、物事を判断する時に、敵国人の意見や視点は貴重だ。
魔法使いなら戦力としてもアテになる。
だが、エルフ側が処刑や追放を強硬に主張したら、俺も折れざるを得ない。
魔導エンジン、クイック生産施設、現在開発している魔道具など、エルフの魔法技術なしでは、俺の領地は立ち行かないのだ。
「ルーナ先生のご意見は?」
「ミオ。後ろを向いて服を脱いで」
「えっ!?」
ルーナ先生が、いきなり……いきなり分からないことを言い出した。
「あの……ルーナ先生」
「確かめたいことがある。ミオ、そこに立って、後ろを向いて服を脱いで」
俺はオロオロしてしまったが、ミオは淡々とルーナ先生に応じた。
「……わかりました。背中を見せればよろしいのでしょうか?」
「そう。可能ならお尻も」
「……」
ミオは、こちらに背中を向けて服を脱ぎ始めた。
きれいな白い肩が見えたと思ったら……歯形?
ミオは服をドンドン脱いでいく。
背中には、多数のミミズ腫れがあった。
尻には火傷の跡が無数に……。
ミオは一糸まとわぬ姿になったが、腕や足にもミミズ腫れがある。
足首には、足枷の類いの跡だと思うが……変色してどす黒くなっている。
ルーナ先生が下を向き、首を振りながらボソリとつぶやいた。
「やはり……」
「やはりって……」
「アンジェロには言わなかったが、奴隷にされたエルフにはあのような拷問の跡があった」
「……」
俺はじいやエルハムさんを見たが、二人は知っていたのだろう。
あからさまに視線を外している。
あのハジメ・マツバヤシの部屋を見れば、何をされたのか想像はつく。
だが、こうして現実に傷跡をみせられると、痛みが伝わってくるようで、俺も苦しい。
「アンジェロ。ミオは被害者の一人でもあると思う」
「では、許すのですか?」
「それは難しい。奴隷にされたエルフたちの心の傷は深い。傷つけた側にいた人物を受け入れるのは難しい」
理屈ではわかるけど、気持ちでは受け入れられないということか……。
それも分かる。
「ミオには罰を受けてもらう。その傷を魔法で治さないこと。それがエルフからあなたへの罰」
部屋の空気が、一層重くなった。
ルーナ先生が、言い渡した罰は何気に厳しい。
この異世界では回復魔法がある。
聖魔法や光魔法だ。
ミオの傷は腕の良い回復術士なら治すことが出来るだろう。
ルーナ先生なら、この場で治せると思う。
だが、あえて傷を治さない。
傷跡を背負って生きろと言っているのだ。
処刑しろと言われなかっただけマシだが……。
「わかりました。その罰をお受けいたします」
俺の心配を余所に、ミオは淡々とルーナ先生が申し渡した罰を受け入れた。
ミオが内心どう思っているのか、わからない。
だが、ルーナ先生つまりエルフ側が提示した罰を受け入れたことで、俺はミオを保護出来る。
「では、私はミオを保護しようと思います。エルフ側はよろしいですね?」
「了承する」
「アルドギスル兄上は?」
「アンジェロのよろしいように」
「じいとエルハム騎士爵は?」
「「異議ありません」」
ミオが服を身につけている間、ルーナ先生からお達しがあった。
「ここで見たこと、聞いたことは、余所で話さないこと。話せばエルフの敵と認定して滅ぼす」
それこそ異議なしだ。
女性の身の上に碌でもないことが起きたのだ。
ペラペラ話して回るような事ではない。
ミオが服を身につけ、席についた所で、俺は提案した。
「ミオは、商業都市ザムザに行ってもらいたい」
「商業都市ザムザですか?」
「うん。商業都市ザムザは、新たに俺の領地になった。第三王子府――つまり俺への窓口、役所を開かなければならない。第三王子府の職員として働いてもらいたい。どうかな?」
ルーナ先生がミオに罰を与えはしたが、キャランフィールドにミオをおいてはおけない。
奴隷だったエルフたちと会えば、またトラブルになるかもしれないし、彼女たちの心の傷を刺激し続けることになる。
でも、商業都市ザムザなら、奴隷だったエルフたちとミオが出くわすことはない。
黒丸師匠もいるし、従兄弟で商人のジョバンニもちょくちょく顔を出す。
グースの定期便が就航したし、商業都市ザムザなら良いだろう。
俺の意図をある程度察してくれたのか、ミオは柔らかい笑顔を見せてくれた。
「ありがとうございます。謹んで拝命いたします」
これでミオが提示した一つ目の条件はクリアだ。
ハジメ・マツバヤシがどうやって、拳銃を入手したのか?
入手ルートが知りたい。
俺は二つ目の条件を聞き出そうとした。
「二つ目は?」
「二つ目は……、条件ではないのですが……」
「では、なに?」
「あまりにもバカバカしい話なので、信じて頂けるかどうか……」
「なるほど……。嘘をついて、作り話をしていると疑われたくないと?」
「はい。そうです。あまりにも……こう……信じがたい話なので……」
俺は、俄然興味がわいた。
ここにいるメンバーは、アルドギスル兄上を除いて、俺が日本からの転生者と知っている。
女神ジュノー様たちと交流があったことも知っている。
俺の存在自体が『信じがたい話』なのだ。
俺はミオが話しやすいように、水を向けた。
「転生者とか、異世界とか、日本とか、神とか……そういう話かな?」
目を血走らせ、右手を前に突き出した女エルフに、サラが蹴りを見舞った。
手荒だが、魔法発動前にストップしてくれた。
腹に蹴りを食らった女エルフは、食堂の端まですっ飛んだ。
だが、ヨロヨロしながら立ち上がり、口の端から血を流しながら怒鳴り散らした。
「止めるな! その女は敵だ! 私たちを奴隷にした! 許さない! 許さない!」
「ダメだ! アンジェロを巻き込むだろう!」
「うるさい! うるさい!」
サラが身を挺して女エルフを止めようとしているが、興奮して言葉が伝わっていない。
一体どうした?
ルーナ先生が殺気をまとって、こちらに近づいてきた。
「アンジェロ。あのエルフは、ハジメ・マツバヤシに奴隷にされていた子」
「ああ……! それで……」
女魔法使いミオは、ハジメ・マツバヤシの仲間だった。
どういう関係かは、よく分からないが……。
ただ、メロビクス戦役の天幕の中で見たハジメ・マツバヤシの様子だと、かなり近しい関係だろう。
腹心……とか?
かつてハジメ・マツバヤシの元で奴隷だったエルフたちは、キャランフィールドで魔道具開発の手伝いをしている。
魔法を放とうとした女エルフは、元奴隷だ。
だから、『ハジメ・マツバヤシの仲間を殺そうとしただけ……』ということか。
自分たちを奴隷にしていた連中への復讐……。
見れば、他の奴隷だった女エルフたちも剣呑な目つきで、夕食のステーキにフォークを突き刺している。
不味いな……これは……。
俺は、まず事実を告げることにした。
「ハジメ・マツバヤシにとどめを刺したのは、彼女だ!」
「「「「「……!」」」」」
奴隷だった女エルフたちの注意が俺の方に向いた。
俺は、ゆっくりと、堂々と言葉を続ける。
「この拳銃という武器を使って! ハジメ・マツバヤシの眉間を打ち抜いたのだ! 私とアルドギスル兄上が、すぐそばで見た!」
アルドギスル兄上に目配せすると、兄上も言葉を続けてくれた。
「ああ。僕も見たよ。そこのミオが、こう……パン! と音がして、眉間から血を流しながらハジメ・マツバヤシが倒れた」
アルドギスル兄上が、ジェスチャー付で当時の状況を話したことで、奴隷だったエルフたちに迷いが出た。
それまでは敵意100パーセントだったが、今は敵か味方か判断に迷っている。
「今は、このミオなる者は、私、第三王子アンジェロの客人だ。手出し無用!」
最後は強権発動で押し切る!
いや、だってさ。
俺は男で子供なのだ。
――もしもだ。
『君たちがハジメ・マツバヤシに酷いことをされたのは気の毒に思うが……』
なんてここで話し始めたら、ハジメ・マツバヤシの被害者である彼女たちを再び傷つけることになる。
恐らく彼女たちは、性的な辱めを受けたのだろう。
その傷を再びえぐり、彼女たちの尊厳を無視するような振る舞いを、俺は出来ない。
彼女たちに寄り添えるのは、同族同性のルーナ先生たちエルフの女性だけだ。
だから、俺は『事実関係をもって、公平に接する態度』を崩さない。
俺は支配する側で権力者だから、それしか出来ないのだ。
「ミオからの聞き取りは、書斎で行う。冒険者パーティー『白夜の騎士』と『エスカルゴ』は、我々の護衛を頼む。誰か、じいとエルハムさんを呼びに行ってくれ!」
白夜の騎士は、白狼族サラが率いる冒険者パーティー。
エスカルゴは、メロビクス王大国からじいの護衛をしてもらった冒険者パーティー。
この両者ならミオに危害を加えることはないだろうし、万一エルフが暴発して襲ってきても、ある程度穏便に対応してくれる。
こういう時に黒丸師匠がいれば……。
今日は商業都市ザムザにいる。
いない者は仕方ない。
いる者で対応するしかない。
「アンジェロ。僕も同席させてもらうよ」
「アンジェロ。私はエルフの代表として同席する」
アルドギスル兄上とルーナ先生か……。
この二人を外すわけにはいかないだろう。
アルドギスル兄上は、あの天幕で起こった暗殺事件の当事者で、ルーナ先生はエルフの長老会議のメンバーだ。
ミオをどう扱うにしても、二人の同意を取り付ける必要がある。
「わかりました。お二人も同席をお願いします」
*
場所を俺の書斎に移した。
俺、ミオ、じい、エルハムさん、ルーナ先生、アルドギスル兄上の六人が部屋に入っている。
護衛の二パーティーは、部屋の外で見張ってもらっている。
全員が丸テーブルについた所で、まず俺が状況整理としてこれまで起きたことを話した。
・外国の商人からメロビクス王大国で、新しい農法が広まっていると聞いた。
・それによって、メロビクス王大国の農業生産高が上昇したとも聞いた。
・ハジメ・マツバヤシという少年貴族が、新しい農法を開発したらしい。
・ハジメ・マツバヤシがエルフを奴隷にして、エルフの魔法で作物の成長促進を行っていた。
・俺たちがメロビクス戦役の初期段階で、奴隷エルフたちを救助した。
細部はぼかし、特にじいがメロビクス王大国へ潜入して情報収集を行ったことは伏せた。
じいは、プロを雇ってスパイ活動を行ったのだ。
アンジェロ領の情報収集ノウハウは、外にもらしたくない。
情報は力なのだ。
ここまで話した所で、アルドギスル兄上が驚きの声を上げた。
「アンジェロ……。そんなことをしていたのか……」
「ええ。極秘作戦としてやりました」
当時、敵方だった女魔法使いミオは、目を丸くして口をパクパクさせている。
「あれ……アンジェロ殿下の仕業だったのですか……。マツバヤシ伯爵は報告を聞いて、ブチ切れていましたよ。でも……どうやって?」
「まあ、それは、極秘作戦だから教えられない」
ハジメ・マツバヤシがブチ切れていたと聞いて、俺は内心ニンマリした。
じいは下を向き口角を上げ、ルーナ先生は無表情ながら耳を小刻みに震わせている。
二人とも俺と同じく、『してやったり!』の気持ちなのだろう。
みんな色々と話したそうにしたが、俺は状況説明を続けた。
・ハジメ・マツバヤシの部屋で、異なる文字の本と見たことのない植物の種を押収した。
・和平交渉に呼び出されハジメ・マツバヤシたちに殺されそうになった。
・その際にハジメ・マツバヤシが使っていたのが拳銃。
・最後にミオが天幕に入り、拳銃でハジメ・マツバヤシを殺害した。
・俺とアルドギスル兄上は、ミオを見逃す事にした。
一通り話し終えたところで、俺はミオに発言を促した。
「大まかな経緯や事象は、今、話した通りだ。さて、ミオ。俺が知りたいのは、ハジメ・マツバヤシがどうやって知識や拳銃を手に入れたかだ」
「……」
「新しい農法、読めない字で書かれた本、見たこともない植物の種、そして拳銃……。これらはメロビクス王大国に存在しないよね?」
「はい。メロビクスにはありません」
「じゃあ、ハジメ・マツバヤシはどこから?」
「知っておりますが……。二つほど条件と言いますか……」
ミオは口ごもった。
俺は先を促す。
「聞こう」
「一つは安全を保障して頂きたい」
それはエルフ次第、つまりルーナ先生次第ということになる。
俺としては、ミオを保護して手元に置いておきたい。
情報源にもなるし、物事を判断する時に、敵国人の意見や視点は貴重だ。
魔法使いなら戦力としてもアテになる。
だが、エルフ側が処刑や追放を強硬に主張したら、俺も折れざるを得ない。
魔導エンジン、クイック生産施設、現在開発している魔道具など、エルフの魔法技術なしでは、俺の領地は立ち行かないのだ。
「ルーナ先生のご意見は?」
「ミオ。後ろを向いて服を脱いで」
「えっ!?」
ルーナ先生が、いきなり……いきなり分からないことを言い出した。
「あの……ルーナ先生」
「確かめたいことがある。ミオ、そこに立って、後ろを向いて服を脱いで」
俺はオロオロしてしまったが、ミオは淡々とルーナ先生に応じた。
「……わかりました。背中を見せればよろしいのでしょうか?」
「そう。可能ならお尻も」
「……」
ミオは、こちらに背中を向けて服を脱ぎ始めた。
きれいな白い肩が見えたと思ったら……歯形?
ミオは服をドンドン脱いでいく。
背中には、多数のミミズ腫れがあった。
尻には火傷の跡が無数に……。
ミオは一糸まとわぬ姿になったが、腕や足にもミミズ腫れがある。
足首には、足枷の類いの跡だと思うが……変色してどす黒くなっている。
ルーナ先生が下を向き、首を振りながらボソリとつぶやいた。
「やはり……」
「やはりって……」
「アンジェロには言わなかったが、奴隷にされたエルフにはあのような拷問の跡があった」
「……」
俺はじいやエルハムさんを見たが、二人は知っていたのだろう。
あからさまに視線を外している。
あのハジメ・マツバヤシの部屋を見れば、何をされたのか想像はつく。
だが、こうして現実に傷跡をみせられると、痛みが伝わってくるようで、俺も苦しい。
「アンジェロ。ミオは被害者の一人でもあると思う」
「では、許すのですか?」
「それは難しい。奴隷にされたエルフたちの心の傷は深い。傷つけた側にいた人物を受け入れるのは難しい」
理屈ではわかるけど、気持ちでは受け入れられないということか……。
それも分かる。
「ミオには罰を受けてもらう。その傷を魔法で治さないこと。それがエルフからあなたへの罰」
部屋の空気が、一層重くなった。
ルーナ先生が、言い渡した罰は何気に厳しい。
この異世界では回復魔法がある。
聖魔法や光魔法だ。
ミオの傷は腕の良い回復術士なら治すことが出来るだろう。
ルーナ先生なら、この場で治せると思う。
だが、あえて傷を治さない。
傷跡を背負って生きろと言っているのだ。
処刑しろと言われなかっただけマシだが……。
「わかりました。その罰をお受けいたします」
俺の心配を余所に、ミオは淡々とルーナ先生が申し渡した罰を受け入れた。
ミオが内心どう思っているのか、わからない。
だが、ルーナ先生つまりエルフ側が提示した罰を受け入れたことで、俺はミオを保護出来る。
「では、私はミオを保護しようと思います。エルフ側はよろしいですね?」
「了承する」
「アルドギスル兄上は?」
「アンジェロのよろしいように」
「じいとエルハム騎士爵は?」
「「異議ありません」」
ミオが服を身につけている間、ルーナ先生からお達しがあった。
「ここで見たこと、聞いたことは、余所で話さないこと。話せばエルフの敵と認定して滅ぼす」
それこそ異議なしだ。
女性の身の上に碌でもないことが起きたのだ。
ペラペラ話して回るような事ではない。
ミオが服を身につけ、席についた所で、俺は提案した。
「ミオは、商業都市ザムザに行ってもらいたい」
「商業都市ザムザですか?」
「うん。商業都市ザムザは、新たに俺の領地になった。第三王子府――つまり俺への窓口、役所を開かなければならない。第三王子府の職員として働いてもらいたい。どうかな?」
ルーナ先生がミオに罰を与えはしたが、キャランフィールドにミオをおいてはおけない。
奴隷だったエルフたちと会えば、またトラブルになるかもしれないし、彼女たちの心の傷を刺激し続けることになる。
でも、商業都市ザムザなら、奴隷だったエルフたちとミオが出くわすことはない。
黒丸師匠もいるし、従兄弟で商人のジョバンニもちょくちょく顔を出す。
グースの定期便が就航したし、商業都市ザムザなら良いだろう。
俺の意図をある程度察してくれたのか、ミオは柔らかい笑顔を見せてくれた。
「ありがとうございます。謹んで拝命いたします」
これでミオが提示した一つ目の条件はクリアだ。
ハジメ・マツバヤシがどうやって、拳銃を入手したのか?
入手ルートが知りたい。
俺は二つ目の条件を聞き出そうとした。
「二つ目は?」
「二つ目は……、条件ではないのですが……」
「では、なに?」
「あまりにもバカバカしい話なので、信じて頂けるかどうか……」
「なるほど……。嘘をついて、作り話をしていると疑われたくないと?」
「はい。そうです。あまりにも……こう……信じがたい話なので……」
俺は、俄然興味がわいた。
ここにいるメンバーは、アルドギスル兄上を除いて、俺が日本からの転生者と知っている。
女神ジュノー様たちと交流があったことも知っている。
俺の存在自体が『信じがたい話』なのだ。
俺はミオが話しやすいように、水を向けた。
「転生者とか、異世界とか、日本とか、神とか……そういう話かな?」
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猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
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旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
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助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
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