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第六章 二人の王子
第108話 チキュウの神
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俺の言葉にミオは、驚き目を丸くした。
「どうして、ご存知なのでしょうか?」
「俺が転生者だから」
「えっ!?」
「俺は日本からの転生者なのだ。恐らくハジメ・マツバヤシと同郷だと思う」
「ちょっ! ちょっと待ってください! 話が――」
それっきりミオは言葉を発しなくなってしまった。
意外な情報が多すぎて、頭がパンクしてしまったのだろう。
「最初から話すと……。俺は、こことは異なる世界の日本という国で生活していた。そこで一度死んだ。すると女神ジュノー様が――」
俺の転生人生を、ミオに語って聞かせる。
ミオは『はあ……』、『はい……』、『そうだったのですね……』と抜け殻のようになって聞いていた。
「――と、そんな訳で、ハジメ・マツバヤシは同郷の転生者ではないかと思っていた」
俺が全てを語り終えると、アルドギスル兄上が口を開いた。
「アンジェロが転生者だって話は、噂話で聞いたことがあるよ。本当だったのか……」
「ええ。別に隠してはいないのですが、なかなか信じてもらえないのです」
俺は日本からの転生者だと隠してはいない。
ただ、この話をしても信じてもらえないので、積極的に話していないというだけだ。
「えっと……、じゃあ、君は……。僕の弟アンジェロなの? それとも、別の人なの?」
「間違いなくアルドギスル兄上の弟だから安心してください。もう、十年もアンジェロなので、すっかりアンジェロですよ」
「そっか!」
アルドギスル兄上が、あまり深く考えない人で良かった。
真面目な話、俺の人格のベースは、二十二才の日本人、会社を解雇になって軽く引きこもっていた巧良輔だ。
だが、この異世界に転生して、これまでに無い体験をした。沢山の人と触れ合いを持った。
もう、アンジェロという人格にクラスアップしてしまった気がする。
母上にも、父上にも、アルドギスル兄上にも、愛情を持っている。
もう、前の人格には戻れない。
俺とアルドギスル兄上のやり取りを見ていたミオが、やっと話し始めてくれた。
「マツバヤシ伯爵もニホンという国からの転生者だと話していました。私は……子供独特の……空想上の話かと思っていました」
「まあ、無理ないよ。信じられないよね」
「はい……。しかし、本当の話だったとすると、私が見聞きした物の見方も変わってきます……」
ミオは顎に手をあて、記憶を整理している。
やがて、ゆっくりと口を開いた。
「私がマツバヤシ伯爵から聞いた話では……。マツバヤシ伯爵は、チキュウ世界の神様によって、私たちの世界に転生させられたそうです」
「えっ!?」
俺はミオの意外な言葉に驚いた。
俺とは違う転生ルートだ。
俺の場合は、この世界を担当している神様――女神ジュノー様によって、転生させられた。
だが、ハジメ・マツバヤシは、地球世界の神様によって転生した?
担当外の神様じゃないのか?
それ、良いのか?
「ちょっと待て! 転生させたのは、女神ジュノー様じゃないのか?」
「チキュウの神様と言っていました。チキュウの神様と女神ジュノー様は、仲が悪いそうです」
「ああ、ライバル関係、競争相手だとは、俺も聞いているよ」
ポイント争いの事だろう。
地球世界はぶっちぎりのトップで、この世界は後塵を拝している。
「それで、チキュウの神様と女神ジュノー様の間で揉め事が起きて、この世界を引っかき回す為に、マツバヤシ伯爵が転生させられたそうです。これ……本当の事でしょうか?」
「俺に聞くなよ……。確かめようがないだろう……」
ミオの話を聞いて、今度は俺が驚き混乱した。
俺が黙り込むと、じいが話を引き継いだ。
「ふむ……仮にミオの言う通りだとしてじゃ。ハジメ・マツバヤシは、女神ジュノー様の敵ということになるの……」
「そうなると思います。重ねて申し上げますが、私がこの話を聞いた時は――」
「子供の妄想、おとぎ話だと思ったのじゃろう? わかっとる。わかっとる。ワシもアンジェロ様から、転生の話を聞いた時は、笑ってごまかしたわい。お主は女神ジュノー様に敵対しようとした訳ではない」
「まっ! コーゼン男爵の言う通りだね! 僕もアンジェロが他の世界から、どうこうって聞いた時は酔っ払っているのかと思ったよ。今、ミオの話を聞いていても、おとぎ話を聞かされているようさ」
アルドギスル兄上、率直な感想をありがとう。
いつも酔っ払っているのは、アルドギスル兄上の方ですが。
「でもさあ! マツバヤシ伯爵は、僕たちの目の前で死んでしまったからね。そのチキュウの神様の陰謀も、これで終りさ!」
「いえ。アルドギスル様。そうとも言えないのでは?」
エルハムさんが、気になることを言う。
俺に一礼して、詳しく話し始めた。
「もし、私がチキュウ世界の神なら、複数の人間を潜入させます」
「エルハムさん。どういうことです?」
「これはチキュウの神様と女神ジュノー様の争いですよね? これを戦争だと考えるなら……。私なら敵地へ潜入させる妨害要員は、複数用意します」
「ちょっと待って! ハジメ・マツバヤシ以外にも、転生者がいると?」
「そう考える方が妥当ではありませんか? ミオさん。ハジメ・マツバヤシは、この世界を引っかき回す為に、チキュウの神様が送り込んだと言ったのですよね?」
「ええ。そう言っていました」
「でしたら、他にハジメ・マツバヤシのような人物がいても不思議はありません」
「……」
正直、止めて欲しい。
ハジメ・マツバヤシには、かなり引っかき回された。
新しい農法を導入したのは、まあ、文句は無い。
時間が経てば、フリージア王国にも伝わっただろうから、この異世界全体の農業生産力の底上げになる。
短期的にはメロビクス王大国の力が強くなるが、長期的には異世界全体でプラス。
領主の俺も助かるし、女神ジュノー様たちもポイント的に助かるだろう。
ただなあ。
エルフを奴隷にし、和平って呼び出して暗殺しようとしたのは迷惑だった。
宰相エノー伯爵とポポ兄上がグルになっていたのも、精神的にダメージ大だった。
あれが、またあるのかと思い、俺はゲンナリした。
「他にもハジメ・マツバヤシのような者がおると考えておきましょう……」
じいの目がキラリと光った。
情報収集を一層強化する必要がある。
じいの手足を増やす為、追加予算を出そう。
幸いクイックの取引先増加で、アンジェロ領は潤っている。
情報を金で買おう。
気持ちに区切りをつけて、俺はミオへの質問を再開した。
「それで、拳銃や本の入手方法は?」
「これもマツバヤシ伯爵から聞いた話ですが……。欲しい物を、チキュウの神様の使いが持ってきてくれるそうです」
「神様の使い?」
「はい。そうです」
神様の使いねえ……。
そう言えば、女神ジュノー様は、クジャクに化けていた。
動物に変化してこの世界に現れるのか?
「神様の使いは、どんな姿なのだ? 動物?」
「さあ、そこまでは聞いておりません。ただ、一回に少ししか運べないと言っていました。頻繁には、こられないとも」
「そうか……」
何でもかんでも好き勝手にというわけには、行かなかったらしい。
――地球のアイテムを、一回で少しだけ、時々配達してくれる。
地球の神様がハジメ・マツバヤシに行っていたサポートは、無制限というわけではないようだ。
俺が地球のアイテムの事を考えていると、ルーナ先生がミオに魔法について聞いた。
「ハジメ・マツバヤシの魔力はどうだった?」
「魔力ですか? 全くありませんでした」
「そう。力が強いとか、武術に長けているとか?」
「いえ。体力は、普通の五才児でした」
「アンジェロとは違う」
俺の場合は、この世界の女神様である女神ミネルヴァ様に魔力を仕込んでもらった。
地球世界の神様には、女神ミネルヴァ様と同じ事は出来ないのだろう。
夜も更けてきた。
アルドギスル兄上が船をこぎ出したので、今夜は終わりにしよう。
「今日の聞き取りは、これで終わりにしよう。ミオは冒険者パーティー『エスカルゴ』と一緒に寝てくれ。彼らはメロビクス王大国の出身だから安心してもらって良い。明日、商業都市ザムザへ送る」
メロビクス王大国とニアランド王国だけでも厄介なのに、地球の神による妨害もある。
俺は気持ちを引き締め、拳を強く握った。
「どうして、ご存知なのでしょうか?」
「俺が転生者だから」
「えっ!?」
「俺は日本からの転生者なのだ。恐らくハジメ・マツバヤシと同郷だと思う」
「ちょっ! ちょっと待ってください! 話が――」
それっきりミオは言葉を発しなくなってしまった。
意外な情報が多すぎて、頭がパンクしてしまったのだろう。
「最初から話すと……。俺は、こことは異なる世界の日本という国で生活していた。そこで一度死んだ。すると女神ジュノー様が――」
俺の転生人生を、ミオに語って聞かせる。
ミオは『はあ……』、『はい……』、『そうだったのですね……』と抜け殻のようになって聞いていた。
「――と、そんな訳で、ハジメ・マツバヤシは同郷の転生者ではないかと思っていた」
俺が全てを語り終えると、アルドギスル兄上が口を開いた。
「アンジェロが転生者だって話は、噂話で聞いたことがあるよ。本当だったのか……」
「ええ。別に隠してはいないのですが、なかなか信じてもらえないのです」
俺は日本からの転生者だと隠してはいない。
ただ、この話をしても信じてもらえないので、積極的に話していないというだけだ。
「えっと……、じゃあ、君は……。僕の弟アンジェロなの? それとも、別の人なの?」
「間違いなくアルドギスル兄上の弟だから安心してください。もう、十年もアンジェロなので、すっかりアンジェロですよ」
「そっか!」
アルドギスル兄上が、あまり深く考えない人で良かった。
真面目な話、俺の人格のベースは、二十二才の日本人、会社を解雇になって軽く引きこもっていた巧良輔だ。
だが、この異世界に転生して、これまでに無い体験をした。沢山の人と触れ合いを持った。
もう、アンジェロという人格にクラスアップしてしまった気がする。
母上にも、父上にも、アルドギスル兄上にも、愛情を持っている。
もう、前の人格には戻れない。
俺とアルドギスル兄上のやり取りを見ていたミオが、やっと話し始めてくれた。
「マツバヤシ伯爵もニホンという国からの転生者だと話していました。私は……子供独特の……空想上の話かと思っていました」
「まあ、無理ないよ。信じられないよね」
「はい……。しかし、本当の話だったとすると、私が見聞きした物の見方も変わってきます……」
ミオは顎に手をあて、記憶を整理している。
やがて、ゆっくりと口を開いた。
「私がマツバヤシ伯爵から聞いた話では……。マツバヤシ伯爵は、チキュウ世界の神様によって、私たちの世界に転生させられたそうです」
「えっ!?」
俺はミオの意外な言葉に驚いた。
俺とは違う転生ルートだ。
俺の場合は、この世界を担当している神様――女神ジュノー様によって、転生させられた。
だが、ハジメ・マツバヤシは、地球世界の神様によって転生した?
担当外の神様じゃないのか?
それ、良いのか?
「ちょっと待て! 転生させたのは、女神ジュノー様じゃないのか?」
「チキュウの神様と言っていました。チキュウの神様と女神ジュノー様は、仲が悪いそうです」
「ああ、ライバル関係、競争相手だとは、俺も聞いているよ」
ポイント争いの事だろう。
地球世界はぶっちぎりのトップで、この世界は後塵を拝している。
「それで、チキュウの神様と女神ジュノー様の間で揉め事が起きて、この世界を引っかき回す為に、マツバヤシ伯爵が転生させられたそうです。これ……本当の事でしょうか?」
「俺に聞くなよ……。確かめようがないだろう……」
ミオの話を聞いて、今度は俺が驚き混乱した。
俺が黙り込むと、じいが話を引き継いだ。
「ふむ……仮にミオの言う通りだとしてじゃ。ハジメ・マツバヤシは、女神ジュノー様の敵ということになるの……」
「そうなると思います。重ねて申し上げますが、私がこの話を聞いた時は――」
「子供の妄想、おとぎ話だと思ったのじゃろう? わかっとる。わかっとる。ワシもアンジェロ様から、転生の話を聞いた時は、笑ってごまかしたわい。お主は女神ジュノー様に敵対しようとした訳ではない」
「まっ! コーゼン男爵の言う通りだね! 僕もアンジェロが他の世界から、どうこうって聞いた時は酔っ払っているのかと思ったよ。今、ミオの話を聞いていても、おとぎ話を聞かされているようさ」
アルドギスル兄上、率直な感想をありがとう。
いつも酔っ払っているのは、アルドギスル兄上の方ですが。
「でもさあ! マツバヤシ伯爵は、僕たちの目の前で死んでしまったからね。そのチキュウの神様の陰謀も、これで終りさ!」
「いえ。アルドギスル様。そうとも言えないのでは?」
エルハムさんが、気になることを言う。
俺に一礼して、詳しく話し始めた。
「もし、私がチキュウ世界の神なら、複数の人間を潜入させます」
「エルハムさん。どういうことです?」
「これはチキュウの神様と女神ジュノー様の争いですよね? これを戦争だと考えるなら……。私なら敵地へ潜入させる妨害要員は、複数用意します」
「ちょっと待って! ハジメ・マツバヤシ以外にも、転生者がいると?」
「そう考える方が妥当ではありませんか? ミオさん。ハジメ・マツバヤシは、この世界を引っかき回す為に、チキュウの神様が送り込んだと言ったのですよね?」
「ええ。そう言っていました」
「でしたら、他にハジメ・マツバヤシのような人物がいても不思議はありません」
「……」
正直、止めて欲しい。
ハジメ・マツバヤシには、かなり引っかき回された。
新しい農法を導入したのは、まあ、文句は無い。
時間が経てば、フリージア王国にも伝わっただろうから、この異世界全体の農業生産力の底上げになる。
短期的にはメロビクス王大国の力が強くなるが、長期的には異世界全体でプラス。
領主の俺も助かるし、女神ジュノー様たちもポイント的に助かるだろう。
ただなあ。
エルフを奴隷にし、和平って呼び出して暗殺しようとしたのは迷惑だった。
宰相エノー伯爵とポポ兄上がグルになっていたのも、精神的にダメージ大だった。
あれが、またあるのかと思い、俺はゲンナリした。
「他にもハジメ・マツバヤシのような者がおると考えておきましょう……」
じいの目がキラリと光った。
情報収集を一層強化する必要がある。
じいの手足を増やす為、追加予算を出そう。
幸いクイックの取引先増加で、アンジェロ領は潤っている。
情報を金で買おう。
気持ちに区切りをつけて、俺はミオへの質問を再開した。
「それで、拳銃や本の入手方法は?」
「これもマツバヤシ伯爵から聞いた話ですが……。欲しい物を、チキュウの神様の使いが持ってきてくれるそうです」
「神様の使い?」
「はい。そうです」
神様の使いねえ……。
そう言えば、女神ジュノー様は、クジャクに化けていた。
動物に変化してこの世界に現れるのか?
「神様の使いは、どんな姿なのだ? 動物?」
「さあ、そこまでは聞いておりません。ただ、一回に少ししか運べないと言っていました。頻繁には、こられないとも」
「そうか……」
何でもかんでも好き勝手にというわけには、行かなかったらしい。
――地球のアイテムを、一回で少しだけ、時々配達してくれる。
地球の神様がハジメ・マツバヤシに行っていたサポートは、無制限というわけではないようだ。
俺が地球のアイテムの事を考えていると、ルーナ先生がミオに魔法について聞いた。
「ハジメ・マツバヤシの魔力はどうだった?」
「魔力ですか? 全くありませんでした」
「そう。力が強いとか、武術に長けているとか?」
「いえ。体力は、普通の五才児でした」
「アンジェロとは違う」
俺の場合は、この世界の女神様である女神ミネルヴァ様に魔力を仕込んでもらった。
地球世界の神様には、女神ミネルヴァ様と同じ事は出来ないのだろう。
夜も更けてきた。
アルドギスル兄上が船をこぎ出したので、今夜は終わりにしよう。
「今日の聞き取りは、これで終わりにしよう。ミオは冒険者パーティー『エスカルゴ』と一緒に寝てくれ。彼らはメロビクス王大国の出身だから安心してもらって良い。明日、商業都市ザムザへ送る」
メロビクス王大国とニアランド王国だけでも厄介なのに、地球の神による妨害もある。
俺は気持ちを引き締め、拳を強く握った。
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