追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

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第六章 二人の王子

第109話 赤獅子族のヴィス

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 ――三月になった。

「アルドギスル様! お迎えに上がりました。アンジェロ王子に迷惑をかけてはいけませんよ」

「ゲッ! ヒューガルデン! なぜ、ここに!?」

 アルドギスル兄上が、自分の領地に帰ろうとしない。
 業を煮やした俺は、兄上の腹心ヒューガルデン伯爵を呼び寄せた。

 ヒューガルテン伯爵が王都で仕事をしている間に、アルドギスル兄上は自分の領地を抜け出したのだ。
 そして、俺の領地へ来てエンジョイしている……。もうね、ちゃんとやろうよ!

 ヒューガルテン伯爵は、白い眉を上げ、厳しい口調で兄上に告げた。

「お仕事をサボってはいけません。さあ! 執務していただきます!」

「ええ! いやだ! アンジェロ! 何か言って!」

「仕事して下さい! 兄上! ヒューガルデン伯爵にグースを貸し出しました。逃げられませんよ!」

 ヒューガルデン伯爵は、異世界飛行機グースの貸し出しを前々から希望していた。

 ・王都
 ・アルドギスル兄上の領地
 ・ヒューガルデン伯爵の領地
 ・アルドギスル派閥の貴族の領地

 ヒューガルデン伯爵は、あちこち移動しなくではならないそうだ。
 出来る男は忙しい。

 俺としてもヒューガルデン伯爵には、がんばってもらいたい。
 そこでチャーター便ということで、ヒューガルデン伯爵とグース貸し出し契約をした。

 チャーター便だから、パイロットはこちらから出すし、整備もこちらでやる。
 技術流出は、最低限に抑えられるだろう。
 もちろん料金は取る。

「じゃあ、バイバイ!」

 アルドギスル兄上は、ヒューガルデン伯爵に首根っこをつかまれて連れて行かれた。

 俺は飛び立つ二機のグースを見送りながら、アルドギスル兄上から言われたことを思い出していた。

「アンジェロが転生者だって事は、あまり言わない方が良いよ」

「みんなが信じてくれるとは、限りませんよね」

「それもあるけれど……。反応が読めないよね……。利用しようとする人……、警戒する人……、反発する人……、悪用する人もいるかもしれないね」

「それは……確かにそうですね……」

 アルドギスル兄上は、純粋に俺の事を心配して『気をつけろ!』と警告してくれたのだ。

 俺の存在がこの世界で大きくなる。
 つまり俺の影響力が増えれば、転生者である俺に対して今までとは違う反応があるかもしれない。

 今後は転生者であることを、あまり人に言わないようにしよう。


 *


 女魔法使いミオは、商業都市ザムザで暮らし始めた。

(なかなか暮らしやすい街ですね)

 ミオは商業都市ザムザを気に入った。
 メロビクス王大国の王都メロウリンクほど洗練されてはいないが、十分に都会を感じられた。

 温暖な気候で冬でも過ごしやすく、外国から入ってくる食材や香辛料が豊富で料理が美味い。

「どうであるか?」

「今日も忙しいですね」

 ミオの職場に、黒丸が顔を出した。
 黒丸は商業都市ザムザにいる時は、必ずミオの様子を見に来た。
 面倒見の良い男である。

 ミオは新しく開設された第三王子府で勤務していた。

 第三王子府は、商業都市ザムザ郊外にある。
 アンジェロが魔法で造成した空港とルーナの実験農場に隣接していた。

 職員は現地雇用中心で二十人。
 ミオは現地人に混じって、事務作業に追われていた。

 来月、第二騎士団が王都から移動してくる。
 受け入れの準備だけで、二十人の職員はてんてこ舞いだ。

 黒丸は第二騎士団のポニャトフスキ騎士爵を伴っていた。

「こちらは第二騎士団副官ポニャトフスキ騎士爵殿である。王都から来た先発組である」

 また、仕事が増えるのかとミオは内心ため息をついたが、笑顔でポニャトフスキにあいさつをした。

「はじめまして。第三王子府のミオと申します。よろしくお願いいたします」

「……」

 しかし、ポニャトフスキ騎士爵は、何の返事もせず固まっていた。

「あの……」

「結婚してください……」

「えっ!?」

 ポニャトフスキ騎士爵は、頬を赤らめ突然ミオにプロポーズをした。
 一目惚れだ。

 ミオは一瞬何を言われたのか理解できなかったが、やがてポニャトフスキが口にした言葉を理解した。

 頬を赤らめて見つめ合う二人がいた。

 二人の様子を見ていた黒丸は、頭をかきながら第三王子府を後にした。
 外に出ると、春を告げる魔鳥ラークのさえずりが聞こえた。

「もう、春なのである」


 *


 フリージア王国南部にあるシメイ伯爵領の領主館では、領主を中心に会議が行われていた。
 会議の議題は、『獣人を取り込む』。

 シメイ伯爵は、メロビクス戦役で白狼族サラと熊族ボイチェフの戦働きを見て、領地周辺に住む獣人一族を影響下に取り込もうと考えた。

 会議では四人の腹心がシメイ伯爵に報告をした。

「我が領地の周囲には四つの獣人族が住んでおります。鹿族、狐族、黒狼族、赤獅子族です」

「鹿族と狐族は、見たことがあるな。ここに来るよな?」

「はい。鹿族と狐族は、領地北側の山深くに住んでいます。時々、交易に訪れます」

 鹿族と狐族は、シメイ伯爵領の北にある標高の高い山に住んでいた。
 シメイ伯爵領の領都カイタックを訪れ、狩った魔物の素材を売却していた。

「よし! 鹿と狐は仲良くしろ! 交易をちょっと優遇してやれ!」

「かしこまりました。それでは、交易税を下げましょう。もう少し暖かくなりましたら、使者を送ります」

「黒狼族と赤獅子族は、見たことがないな……」

「黒狼族は、我らの領地の南に住んでいます。我が国とイタロスの間の平原が彼らの縄張りです。山に隔てられ道も無く、交流がございません。イタロスと交流があるようです」

「ふむ……。ダメ元で使者を送っておくか? イタロス経由なら行けるのだろう?」

「そうですね。手配をしておきます。問題は赤獅子族です。彼らは、我が国とメロビクス王大国が接する平原を縄張りにしております」

「シメイ街道の近くか? メロビクスに取り込まれると厄介だな」

 シメイ伯爵領の西側は、メロビクス王大国と境を接している。
 女魔法使いミオが通ってきた『シメイ街道』を使えば、メロビクス王大国はシメイ伯爵領に攻め込める。

 シメイ伯爵は、赤獅子族がメロビクス王大国の戦力になることを警戒した。

「赤獅子族は、どんな獣人族なんだ?」

「はい。戦闘力が高く、独立独歩の気風が強い一族です。あまり人族と交流を持っていません。時々、行商人が訪れるだけと聞きます」

「戦闘力が高いのか……ほう……」

 シメイ伯爵の目がギラリと光った。

「そりゃあ、是非お友達になりてえな! 赤獅子族に使者を出せ! クイックを一樽付けてやる!」

 シメイ伯爵の腹心は、赤獅子族にクイックを贈ることに驚いた。

 クイックは一樽金貨五枚もする高価な酒だ。
 さらに、生産しているのがアンジェロ領キャランフィールドだけなので、数が出回っていない入手困難な酒なのだ。

 シメイ伯爵がアンジェロ派だから定期的に購入できているが、クイックを手にできないフリージア王国貴族は多い。

 その貴重な酒を、酒好きのシメイ伯爵が手放す。
 腹心はシメイ伯爵に念を押した。

「よろしいのですか? クイックですよ?」

「ああ。ここはケチらずに、ドーンと大盤振る舞いよ! 赤獅子族がメロビクス王大国になびいたら厄介だ。味方になってくれれば最高。最悪でも中立にしたい。少なくともメロビクス王大国と和平が結ばれるまではな」

「おっしゃる通りです。それでは赤獅子族に使者を送ります」

「使者は腰の低いヤツにしろよ。すぐにケンカするような短気なヤツは送るなよ」

 シメイ伯爵は、赤獅子族に使者を送った。


 *


 その赤獅子族では、族長の息子ヴィスがイライラしていた。

 赤獅子族は、平原に暮らす獣人で、半獣半人の姿をしている。
 真っ赤なたてがみを持つ獅子の頭に、筋骨隆々の体。
 鋭い爪を持ち平原で魔物を狩って食料とする。
 農業は行わず、天幕で移動生活をする。

 赤獅子族は人族に比べて成長が早い種族で、五才のヴィスは、人族から見れば立派な大人だ。

 ヴィスは、自分の天幕で一人尋ね人を待っていた。

「待たせた……」

 天幕の隅に黒い布を頭からかぶった人物が現れた。
 ヴィスは、悪態をつく。

「相変わらず気持ち悪いな。いつの間に天幕に入りやがった……」

「いつでも良かろう。それより頼まれた物を持ってきた」

 黒い布をかぶった人物は名乗ることもなければ、自分の正体を見せることもない。
 男なのか、女なのか、人族なのか、獣人なのか、ヴィスには一切がわからなかった。

 しかし、この人物が自分を転生させた地球の神の使いであり、頼めばヴィスの望む物を届けてくれた。
 ヴィスには、それで十分だった。

「おおー! 待ってたぜ! これこれ」

 地球神の使いから包みを受け取ったヴィスは、早速包みを開け中に入っていた食物を食べ始めた。
 その様子を見て、地球神の使いは深いため息をつく。

「ヴィスよ。もう少し考えて物を頼め。毎度そのような食物ではなく、もっと役立つ物を――」

「例えば、なんだ?」

「拳銃とか」

「いらねえ。赤獅子族は強い。拳銃なんかなくても、この体があれば戦は楽勝よ! それにあれだろ? ハジメとかいうヤツは、拳銃を持ってても死んだよな?」

「そんな事もあったな……」

 地球神の使いは、感情を表さない。

 転生者ハジメ・マツバヤシが死亡したのは、自分の失点であると理解しており、ヴィスの言葉には苦い思いを感じていた。

 しかし、自分が使っている転生者の前で、自分のミスを認めるようなヘマはしない。

 一方でヴィスは、イライラしていた。
 日本で死んだと思ったら、異世界に転生しろと一方的に神に命じられたのだ。

 転生してから五年。
 日本とのあまりの違いに、ヴィスのフラストレーションは限界に来ていた。
 地球神の使いは、ヴィスのフラストレーションを上手く利用できないかと考えていた。

「次は、二月後になるだろう。それで、次は何を欲しい?」

「焼きそばパンを買ってこい!」

「貴様はいつもそれだな……」

「嫌がらせだ。パシられとけよ!」

 地球神の使いは、無言で消え去った。
 ヴィスは、赤いたてがみをかきむしり吠えた。

「人をこんな世界に転生させやがって! グチャグチャにしてやるよ!」
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