追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

文字の大きさ
255 / 358
第十章 レッドアラート!

第255話 剣と魔法から、革命と火薬の時代へ

しおりを挟む
 ――同日、キャランフィールド。

 俺とじいは、執務室でひたすら待機していた。

 夕方になり、そろそろ夕食だなと考えていたら、ポルナフ子爵が血相を変えて飛び込んできた。

「た、大変です! 陛下! 大変です!」

「落ち着け! ポルナフ子爵!」

 ポルナフ子爵は、ミスル王国に駐在する我が国の大使だ。
 入室するなり、俺にすがりつき、大声を出した。
 じいが、慌ててポルナフ子爵を引き離し応接ソファに座らせる。

 ポルナフ子爵に続いて、白狼族のウィンタース隊長と特殊部隊員たちも入室してきた。

 彼らが、ここに来たということは……ミスル王国でことが起きたか!

 俺も応接ソファに座り、ポルナフ子爵から話を聞いた。

 ミスル王国王都レーベで、今日の昼頃、革命が起きたらしい。
 王都レーベは大混乱で、ポルナフ子爵の館にも暴徒が侵入して命からがら逃げてきたそうだ。

 ポルナフ子爵の話を聞きながら、『何かちょっと臭うな?』と感じた。

 ふと臭いがする方を見ると、ポルナフ子爵の腰のあたりが濡れていた。

(あっ……)

 よほど怖かったのだろう。
 ポルナフ子爵は、おもらししていた。

 俺が視線を上げると、ポルナフ子爵の後ろに立つ白狼族のウィンタース隊長が口に指を一本立てて見せた。

 武士の情け……かな。
 指摘しないでおこう。

 ポルナフ子爵は、話したことで少し気持ちが落ち着いたらしい。
 顔色が良くなった。

 俺の後ろに立つじいが、笑顔で進言した。

「アンジェロ様。ポルナフ子爵は、大変お疲れのようです。風呂に入って、休んでもらいましょう」

 キャランフィールドには、大浴場がある。
 蒸溜所の余熱を利用して、湯を沸かしてあるのだ。

 風呂をすすめるということは、じいもポルナフ子爵のおもらしに気が付いたのかな?

「そうだな。ポルナフ子爵、ご苦労だった」

「あの……アンジェロ陛下……。私の次のポストですが……」

 ポストって役職のことだよね?
 この状況で、次の役職の心配か?

 ポルナフ子爵は、領地を持たない法衣貴族だったな。
 そうすると、大使でなくなったから、次のポストが気になるってことか。

 ま、まあ、気持ちは分からなくはない……。

 俺が言葉に詰まっていると、じいが助け船を出してくれた。

「ポルナフ子爵。貴殿は、命がけで情報を伝えてくれたのじゃ。貴殿の働きは、アンジェロ様も高く評価される。ポストについては、後日、伝えるので安心されよ」

 じいは、ニッコリ笑って、ポルナフ子爵を安心させる。
 俺もじいに、のっかることにした。

「ん、そうだな。余は、ポルナフ子爵の働きを評価する。次のポストもちゃんと用意するので、安心せよ。今は休め」

「ははあー。ありがたき幸せ!」

 ポルナフ子爵は、すっかり元気になって執務室を出て行った。
 現金なヤツだ。

 それでも、怖い目にあって来たのだ。
 そこは考慮してあげないと。

 何か外交ポストを用意してやろう。

 続いて、白狼族のウィンタース隊長から報告を受けた。
 脱出は、本当にギリギリの状態だったらしい。

「――という状況でした。最後に上空から王都レーベを見ましたが、あちこちで身なりの良い人が、暴徒に殺されていました。服装からみて、たぶん貴族でしょうね」

「ミスル王は?」

「わかりません……。しかし、王宮に暴徒がなだれ込んでいましたから、恐らく助からないでしょう。苦しまないことを、祈りますよ」

「わかった。ご苦労だった! ゆっくり休んでくれ!」

「はっ! 失礼します!」

 ウィンタース隊長たち白狼族の特殊部隊員たちが退室すると、じいが部屋を飛び出して行った。
 じいは、各地へミスル王国で政変が起こったことを報せにいったのだ。

 ミスルとの国境線近くに人を構えている軍。
 アルドギスル兄上、ギュイーズ侯爵、フォーワ辺境伯。
 有力な領地貴族。
 外国の大使。

 報せなければならない相手は沢山いる。
 グースのパイロットたちには、数日、忙しく飛び回ってもらうことになるだろう。

 じいが出て行ってからしばらくして、黒丸師匠とルーナ先生が入ってきた。

「アンジェロ少年。じい殿から、ミスル王国の政変を聞いたのである。他のギルド支部へ情報を送付しても良いであるか?」

 冒険者ギルドには、手紙を転送する装置がある。
 リレー方式で、隣のギルドから、また隣のギルドへと手紙を転送出来る。

「お願いします。可能であれば、領主や国王にも報せるようにして下さい」

「わかったのである!」

 黒丸師匠が、大急ぎで冒険者ギルドへ向かう。

 執務室は、俺とルーナ先生だけになった。
 ルーナ先生は、ドヨンとしずんでいる。

「ルーナ先生どうしました?」

「イネスがミスル王国へ向かった。まだ、帰ってない」

「あ……」

 サーベルタイガー・テイマーのイネスか!
 そういえば、ミスル王国へ情報収集に向かったと人づてに聞いた。

 ルーナ先生は、彼女が心配なのか。

「待つしかありませんね……」

「うん……」

 まいったな。
 空気が重い。

 俺は話を変えることにした。

「ルーナ先生の意見を聞きたいのですが……。爆裂系の火魔法は、臭いがどれくらいするでしょうか?」

「臭い?」

 白狼族のウィンタース隊長の報告で気になる点があった。
 ドーンと大きな音が二回して、臭いがしたと言っていた。

「ドーンと音がした後、焦げ臭さと、ツンとした臭いを感じたと白狼族のウィンタース隊長が報告してきたのです」

「少し気になる……。爆裂系の火魔法では、そんな臭いはしない。周囲に火が燃え広がれば、焦げる臭いはするが、ツンとした臭いはしない」

「やはりそうですか……」

「アンジェロは、どう思う?」

「火薬だと思います」

 ルーナ先生の問いに俺は答えた。
 確信はない。

 ただ……。

「爆裂系の火魔法は、中級以上の魔法使いでないと扱えません。そのクラスの魔法使いは、有力な冒険者パーティーに所属しているか、貴族や王族に高給で雇われています。たっぷり稼いでいるので、革命組織に参加するとは思えません」

 魔法使いは高給取りの上、どちらかというと体制側だ。
 現在の王政で良い生活をおくれているのに、わざわざ革命運動をする必要はない。

「うむ。むしろ手柄を立てて、貴族に取り立てられることを狙っている魔法使いの方が多い」

「そうすると……ウィンタース隊長が聞いた二回の爆発音ですが……」

「王宮の扉を破壊した音?」

「ええ。そうだと思います。王宮に暴徒がなだれ込んでいたと言っていましたから。じゃあ、どうやって王宮の扉を壊したのかと考えると……。魔法使いがいないなら、火薬じゃないかと……」

「ふむ……」

 ルーナ先生は、執務室の壁に貼り付けてあるテクノロジーツリーに向かった。
 火薬のメモもテクノロジーツリーに貼り付けてある。

 ヨーロッパで火薬が登場するのは、中世の終わりからルネッサンスの頃だ。
 中国では、もっと早い時期に登場している。

 飛行機や自動車などに比べれば、それほど難易度が高い技術ではない。

「アンジェロ。火薬の材料は?」

「硝石、硫黄、木炭です」

「硝石はハムや腸詰めを作る時に使う。ブルムント地方でよく使われる」

「ええ。硫黄は火山の近くでとれますし、木炭はどこでもすぐ手に入ります。火薬は、ごくありふれた物で作れます。混合比率がキモになりますが、そこは試行錯誤を重ねれば――」

「作れる?」

「はい。あちらには、転生者がいると思います。火薬を製造しても、不思議はありません」

 共産主義革命組織は、ミスリル鉱山にアジトがあった。
 ミスル王国のミスリル鉱山は、砂漠の中にあり、周りに人家はない。
 火薬の開発、製造をミスリル鉱山で行ったとしても、誰にも気づかれないだろう。

「こっちも火薬を作る? 材料の混合比はわかる?」

「わかります……」

 俺はルーナ先生の問いに渋々答えた。
 
 しかし、火薬を製造すると、この異世界の戦いが一変する可能性がある。

 これまでは一部の魔法使いにしか使えなかった『爆裂系火魔法』が、『火薬の爆発』として誰でも使えるようになるのだ。

「じゃあ、火薬を作る」

「あまり気が進みません……。火薬を世の中に広めたくないのです」

「危険だから?」

「ええ」

「なら、私が『エルフの秘薬』として、火薬を作ろう。それなら、火薬を自分で作ろうとする人が減るかも」

 なるほど。
 それは一案として、悪くない。

「アンジェロ。ミスルの革命組織が火薬を作っていたとしたら、嫌でも火薬は世の中に広まる。その時、我々が火薬を作れない方が危険」

 ルーナ先生が厳しい声で、師匠の顔で俺に告げた。
 反論出来ない。
 ルーナ先生のいう通りだ。

 自衛のためにも火薬が必要になる。

「わかりました。火薬の製造をお願いします」

 俺はルーナ先生に火薬の製造方法を教えた。

 この異世界の文明を進化させたことになるのか?
 それとも、大量に戦死者が出る時代の幕開けなのか?

 ――革命と火薬。
 たった一日で、この異世界は変わってしまった。

 ――剣と魔法。
 そんなロマンチックな世界は、過去の物になったのだ。

 剣と魔法から、革命と火薬の時代へ。
 歴史の歯車が、勢いよく回り出した。
しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...