追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

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第十章 レッドアラート!

第284話 夜のハッスル同志

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 ――翌朝。

 フルシチョフ付きの侍女は、フルシチョフの寝室をノックした。

「フルシチョフ閣下。おはようございます」

 返事はない。

 年若い侍女は、『変だなあ』と思った。いつもならすぐに『入れ!』と声がかかるのに、どうしたのだろう?

 観音開きのドアの前には、二人の不寝番の兵士が眠そうな目をして立っている。
 侍女は兵士に話しかけた。

「あの……フルシチョフ閣下は、まだお休みでしょうか?」

「そういえば、返事がないね……」
「普段は、すぐに返事があるのになあ……」

 フルシチョフが寝坊するなど、今までなかったことだ。
 年長の兵士が強めにドアを叩き、寝室のフルシチョフに大声で呼びかけた。

「閣下! フルシチョフ閣下! 侍女が来ております! 朝のご支度を!」

 返事はない。
 年長の兵士が侍女に話す。

「閣下もお疲れなのだろう。もう、しばらく待ってみてはどうだ?」

「そうですね。しばらくしたら、また、お声がけしてみます」

 その後、侍女が何度も声をかけたが、寝室からフルシチョフの返事はなかった。

 やがて、会議の時間となりギガランドの幹部――政治将校たちが、異変に気が付いた。
 彼らは大人数で、フルシチョフの寝室へ駆けつけた。だが、寝室のドアは閉じたままだ。

「同志フルシチョフは、どこだ!」
「まだ、お休みだと?」
「一体どうしたのだ!」

 大人数に詰め寄られ、侍女は恐縮して答える。

「それが、何度もお声がけをしたのですが、一向にお返事が……」

「そんなバカな! 同志フルシチョフは、時間に厳格だ。今まで一度も遅刻をしたことがない。寝坊などあろうはずがない!」

 侍女と兵士二人は、困ってしまった。

「いえ! ですが、本当に何度もお声をかけたのですよ!」
「侍女殿の言う通りです。私も扉を何度も叩いて、声をかけましたが、お返事がなく……」
「そうです! 俺たちも、やることはやったんですよ!」

「ふーむ……そうなのか? ならば、君、もう一度やってみたまえ」

 政治将校の一人が腕を組みながら、侍女と兵士に指示を出した。

「閣下! みなさまがおいでです! 起きてください!」
「フルシチョフ閣下! 起きてください!」
「俺たちが怒られてしまいます! 頼みます! 起きてください!」

 だが、扉の向こうの寝室から返事はなかった。

 侍女と兵士二人の様子を見て、政治将校たちがザワつき始めた。

「おかしい!」
「そうだな。これだけ大きな声を出しても起きてこないとは……」
「病気か何かで倒れていたら大変だぞ! ドアを開けて中を見てみよう!」

 フルシチョフは、初老と言って差し支えない年齢である。最悪の状況を心配した政治将校たちは、ドアを開け薄暗い寝室に入った。

「閣下! 失礼します!」
「ご無礼をお許しください!」

 政治将校たちに続いて寝室に入った侍女が、カーテンを開いた。ガラス窓から朝の光が部屋に差し込む。だが、フルシチョフは目を覚まさない。

『まさか! 急病でお亡くなりになったのでは?』

 最悪の予想が、政治将校たちの脳裏をかすめた。
 フルシチョフは、ヨシフ・スターリンのお気に入りである。フルシチョフが不慮の死を遂げれば、自分たちが責任をとらされるかもしれない。

 政治将校たちの背中に嫌な汗が流れた。
 その時、寝台からいびきが聞こえてきた。

「ぐお~! ぐお~! ぐお~!」
「GU-! GU-!」

「「「「「はああああ!」」」」」

 政治将校たちは、ホッと息をついた。なんだ、本当に寝坊しただけじゃないか……と。

 やがて、政治将校の一人が気付いた。

「なあ、いびきが二人分聞こえないか?」
「「「「えっ?」」」」

 大きな寝台には、こんもりと毛布で山が出来ている。フルシチョフの姿は見えない。おそらく毛布で出来た山の下なのだろう。

「ぐお~! ぐお~! ぐお~!」
「GU-! GU-!」

 こんもりした山からは、確かに二人分のいびきが聞こえる。

「同志……!」
「まさか……!」
「いや、きっとそうだ……!」
「同志フルシチョフは、昨晩女性を連れ込んでハッスルされたに違いない!」
「ククク……それで朝寝坊とは……同志フルシチョフも隅に置けないな!」

 謎は解けた!
 政治将校たちは、ニヤニヤ笑いが止まらなかった。普段堅苦しい上司であるフルシチョフだが、自分たちと同じではないか。

 謹厳実直な同志が、実は『夜のハッスル同志』であったことに、政治将校たちは盛り上がった。

「では……同志フルシチョフを籠絡した令嬢のご尊顔を拝すとしよう!」

 一人の政治将校が、毛布を勢いよくめくり上げた。

 そこには全裸のフルシチョフと……。
 ゴブリンがいた。

 全裸のフルシチョフに寄り添って眠る醜い魔物ゴブリン……。

「あっ……!」
「やっ……!」
「これは……!」

 顔を引きつらせ言葉をなくす政治将校たち。
 見てはいけないモノを見てしまった……。
 まさか、上司のお相手がゴブリンとは……。

 もちろん、このシチュエーションは、グンマー連合王国情報部員とルーナ・ブラケットの共作である。

 ルーナは、情報部員の手引きで使用人に紛れ込み、フルシチョフの寝室へあらかじめ侵入しておいた。
 夜になり、転移魔法でフルシチョフの寝室へ転移、睡眠作用のある『眠り草』を焚きフルシチョフを熟睡させ、同じように熟睡させたゴブリンをベッドに放り込んだのだ。

 ご丁寧にゴブリンには、派手な化粧まで施していた。


 この異世界で、魔物は人と敵対する存在である。
 魔物の種類によっては食料になり人の役に立つが、ゴブリンなどは食べることが出来ず、人と見れば襲いかかってくる迷惑な存在なのだ。

 魔物と一夜をともにするなど、あり得ないことなのだ。

 まさか敬愛する自分たちの上司が、かくも醜悪な魔物を愛する趣味であったとは……。
 ケモナーを超えたマモナー……、人々は同志フルシチョフの行いに恐怖した。


 さて、同僚に叩き起こされたフルシチョフである。

「んん……、いや……、よく寝たな! ん!?」

 政治将校たち、メイド、護衛の兵士たちの視線に気が付いたフルシチョフは、雷を落とした。

「これ! 人の寝室に無断で立ち入るとは、何をしておるか!」

 政治将校たちはフルシチョフを取り囲み、何と言おうかと思案した。

 オマエが言え!
 いや、オマエから言え!
 ――と、嫌な役目を押しつけ合ったが、結局、一番役職の高い政治将校が話すことになった。

「えー、ゴホン! 同志フルシチョフ、もう、会議の時間です」

「何だと! なぜ、起こさなかったのだ!」

「メイドは何度もドアをノックしたそうです。その……昨晩は、大いにご活躍をなさったご様子ですが……。もう、少し相手を選ばれた方が……」

「なに?」

 フルシチョフは、政治将校をにらみつけた。

『昨晩は活躍などと、コイツは何を言っているのだ!』

 政治将校は深くため息をつき、フルシチョフの隣に横たわる醜いゴブリンを指さした。

「同志……。ゴブリンと同衾されるなど、とんでもないスキャンダルですぞ!」

「なにい? 何を――」

 政治将校が指さす先を見たフルシチョフは、ゴブリンに気が付いた。
 驚き目を見張るフルシチョフ。
 そして、自分が誤解されていることに気が付いた。

「ち……違う! 違うぞ! 違うのだ!」

 自分を取り囲む政治将校たちは、頭を抱える者もいれば、ニヤニヤと下衆な笑いを浮かべる者もいる。
 何よりも堪えたのは、いつも従順なメイドが、ゴミを見るような目で自分を見ていることだった。

「貴様ら! 何を勘違いしておるか! ゴブリンなどと寝るわけがないだろう!」

「違うのですか?」

「違うに決まっておる!」

「しかし、閣下の隣にはべっておるのは、ゴブリンに見えますが?」

「こ……こんなモノは、敵対勢力の陰謀だ! 見張りの兵士は何をやっていたのだ!」


 フルシチョフは顔を真っ赤にして、怒鳴り散らした。しかし、政治将校たちには、恥ずかしさを誤魔化すために怒って見せているのだと解釈をした。

 政治将校たちの表情を見て、それが分かるフルシチョフは一層声を張り上げた。

「貴様ら出て行け!」

「わかりました! わかりました!」
「同志、落ち着いて! 会議室でお待ちしておりますから」
「では、後ほど。プププッ!」

 フルシチョフは、面白がる政治将校たちの背中に否定の言葉を投げつけた。

「ハッキリと言っておくが、違うからな!」

 否定すればするほど、怪しまれ誤解されてしまう。
 フルシチョフは、魔物がお好き……、と非常に不名誉なレッテルが貼られた。

 この状況を、喜んでいる者たちがいた。グンマー連合王国情報部員とルーナ・ブラケットである。
 彼らは、ニヤニヤと笑いながら天井裏から覗いていた。

「ルーナ様、狙い通りですな!」

「面白い! 顔を真っ赤にして弁解しているところが笑えた!」

「それでは……」

「第二弾!」

 グンマー連合王国情報部員とルーナ・ブラケットは、天井裏から転移魔法で姿を消した。
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