いきなり異世界って理不尽だ！

夢の終わり

「ご主人様！！ダメだ！！」
　車の前にいきなり現れたイケメンが私に向かって叫ぶ！
「うるさい！！」
　彼が怖い顔をして車を走らせようとする。

　…………あ………。
「……ワーガ？」

「ご主人様！そいつは悪い奴だ！！」
「え？」
「くそっ！！邪魔しやがって！！もう少しだったのに！」
「ワーガ！！逃げて！！」
　外に出ようとするが、ドアロックがかかっていて開かない！！
　車でワーガを轢き殺すつもりだ！

「ご主人様！思い出して！！そのブレスレットはお祭りで俺がっ」
「うるさい、うるさい、うるさーーい！！」
「ワーガ、危ない！」
「お前もうるさいぞ！！」
「ワーガ、思い出したよ！全部思い出した！」
　ブレスレットを握りしめて、ハルー村の人達を思い出す。
「くそっ！させるか！！」
　彼がブレスレットを引きちぎろうと手を伸ばす……。必死に抵抗する。
　失敗すると、私の頭を押さえてくる。
　目の前が暗くなって意識が遠くなってくる………。
　ワーガ……、助けて……。
　ワーガに向かって手を伸ばすと、ハルー村の人達がこっちに向かって手を伸ばしている。
　もぅ少し……もぅ少し……。

　必死に手を伸ばして、指が届いた……と思った所で意識を失ってしまった。


「陽菜さん！」
「ご主人様！！」
「陽菜！！」
　体を揺すられるのと、私を呼ぶ声がして目が覚める。
　そっと目を開けると、ハルー村の私のベットを囲んで心配そうに覗き込んでいる皆んなの顔が見えた。
「……ぁ……」
　声を出そうとして、うまく喋れない。
　ファーナさんが水を持ってきてくれ、ワーガが体を起こしてくれる。
　一口水を飲むと、すごく喉が乾いていたのだと気付く。
「ご主人様は、車の中でスマホを握りしめて寝ていたんだ。」
「いくら起こしても起きなくて、ワーガがここまで連れて来て……。」
「もぅ長い間眠っていたんですよ。神様からの電話で仮死状態だと言われ毎日呼びかけるように言われて……。」
「着けていたブレスレットだけが、こことご主人様を繋ぐ唯一の物だと言われたから、必死に呼びかけてたんだ！」
「陽菜が戻ってきて、本当に良かった！」
「ずっと寝てたから体が固まっているだろう……。少しづつ食べれる物を食べさせて体を動かすんだよ。」
　ルールのおばあちゃんも来てくれてたんだ。

　それから、お粥を少し食べベットの上で手を動かしたりとリハビリをして3日ほど過ごした。
　その間、ワーガもルイ君も私から離れようとせず、私の寝ている間の話しをしてくれた。

　ハルー村手前で車を停めたまま、死んだように動かなくなっていたそうだ。ワーガが、私を追いかけて来て発見したらしい。
　朝に見つかったから良かったけど、昼間になっていたら車の中で熱中症で死んでいたかもしれない……。

　ワーガが、ハルー村に私を運んできて、ビックリした皆んなが集まってくれ、ルールのおばあちゃん達や病気や薬に詳しいエルフを呼んで来てくれたそうだ。
　でも、全く動かないし、目も覚めないしで途方に暮れている所に神様から電話がかかってきて、仮死状態である事、夢の世界に閉じ込められている事、ハルー村の物で思い出の品を身につけていたら、それが唯一私と繋がる物だから、それに呼びかける事、ブレスレットが光ったら私が思い出そうとしてる所だから声が届きやすい事、ブレスレットと1番関係ある人物がブレスレットに触り続けていたら夢の中に行けるかもしれない事を教えてくれたそうだ。

「ワーガ、また助けてもらったね。ありがとう。」
「ご主人様と離れた俺が悪いんだ！俺は、やっぱりご主人様と一緒にいたい！！」
「そーだよ、陽菜。もぅ1人で行動するのは無しだ！」
「……分かった。心配かけてごめんね。」

　動けるようになり、外に出ると皆んなが心配してくれていて、良かったと涙を流す人までいる。
　ドーガは号泣していた。オーガの里からゴーガやリリガ、ルール、ヒュール、中間の村からミイナとターモも目が覚めたと聞いて駆けつけてくれた。
　交代で何回も来てくれていたそうだ。
「皆んな、ありがとう。心配かけてごめんなさい。」
「本当に無事で良かった！」

　夢の世界より、こっちの世界の方が早く時間が過ぎていたようで3ヶ月ほど経っていたようだ。
　リハビリも兼ねて、村を見て回っていたらライルさんが赤ちゃんを抱っこして来てくれた。寝てる間に産まれたんだそうだ。
　可愛い～、ちっちゃい～、なのにエルフだからか顔が整ってる～！
　
　畑も増えて、収穫も十分だそうだ。食料を出しまくってから寝たから、なんとかなった。良かったぁ～！

　神様からは電話がかかってきて、少しだけ状況が分かった。
　私を夢の世界に閉じ込めたのは、悪魔だったそうだ。この世界に派遣された神様は悪魔に操られていて、自分の意識が戻った時だけバレないように地球人をこっちに送れるように機械を操作していたようだ。誰かが、こちらに来たらトップの神様が気付いてくれるかもしれないと何年もかけて少しづつ計画していたらしい。その派遣神様も、また悪魔によって連れ去られた。

　この世界の魔物達を集めて何か企んでいるようだと言っていた。
　人間の負の感情が悪魔の力になるから人間達を苦しい状況に追い込んでいた。エルフやドワーフなどからも負の感情を集めていたが少しだったらしく、人間が1番力になり、その次が獣人族。
　私がここに来て、皆んな楽しく嫌な事なく過ごせるようになったから、悪魔にしたら邪魔な存在だった。だから力を使ってでも眠らせようとしていたと教えてくれた。