散る花火と現れた星

くるみ

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消えた記憶

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 四年前の夏祭り。携帯電話を持っていない陽奈は、手紙で空とやり取りをしていた。
 浴衣姿の陽奈は、落ち着かない様子だった。立ったり、座ったり、用もなく歩き出したりしていた。

 「あー!空くんがそろそろ迎えに来るけど、待てないよぉ~」

 陽奈は、唸りながら部屋の中を歩き回った。

 「だめ!待てない!」

 陽奈は家を出て、空の家に向かった。夕日が沈みかけ、暑さはやや落ち着いていた。辺りは、ひぐらしの声が響いていた。空の家が見えてくると、ちょうど空の姿が見えた。

 「あれ⁈陽奈ちゃん。俺、時間間違えた⁈」
 「ううん。待ちきれなくて、迎えに来ちゃった」
 「あら。空ってば、陽奈ちゃんとデートなの?」

 家の窓から、空の母親がひょっこり顔を出した。

 「やっぱり、女の子は可愛いなぁ。うちは男しかいないから、花柄やピンクからは疎遠なのよ。せっかくだから、写真撮ってあげる!」

 窓からおばさんの姿が消えた。

 「浴衣似合ってるよ」
 「あ、ありがとう。お祭り楽しみだね」
 「お待たせ~。風馬も一緒にいい?」

 おばさんは、写ルンですと風馬を引きずりながら現れた。

 「風馬も一緒にいい?子供の成長を残しておきたいのよ」
 「俺はいいよ!てか、関係ないだろ!」
 「風馬も来なよ。一緒に撮ろう」
 「はいはい、取るよー!はいチーズ」
 
 3人は、写ルンですを覗くおばさんの方を向いた。撮影は一瞬で終わった。

 「現像したら、陽奈ちゃんにもあげるね」
 「ありがとうございます」
 「じゃあ、行こうか」

 陽奈は一礼をし、空と駅に向かって歩いた。

 「陽奈ちゃん。今日のお祭り、俺とで良かったの?友達と行かなくて大丈夫?」
 「私は、空くんと行きたかったからいいの」
 「誘ってくれて、ありがとう」
 
 陽奈の顔が赤らみ、心拍数がぐんぐん上がった。

 「そ、空くん。今日は何してたの?」
 「今日は午前中講義があったから、学校に行ってたよ」
 「夏休みに学校行ってたら、夏休みじゃないじゃん!」
 「そうだよね。正直、夏休みだから、グータラしてたいよ。でも、受験生だからね。陽奈ちゃんも受験生だよね。どこを受けるの?」
 「私、まだ決めてなくて。どこ行ったらいいのか、何をしたいのかも分からなくて」
 「焦らなくても、大丈夫だよ。ゆっくり考えればいいよ」

 談笑しながら歩いていると、いつの間にか駅に着いた。駅には、先に家を出た風馬と同級生の加藤大樹が一緒にいた。

 「あと、5分位で汽車が来るね」

 空は、携帯で時間を確認した後、目の前の景色を眺めた。海の近くにあるので、海の様子がよく見えた。
 陽奈も海を眺めた。時々、横目で空を見るが、恥ずかしくなり視線を外す。しかし、また空を横目で見たりしていた。
 数分後、汽車が到着し、二人は乗り込んだ。窓から風が吹き込み、空の匂い、石鹸の香りが陽奈の鼻に広がった。
 陽奈の鼓動が再び高まった。二人は、空いてる席に対面で座った。

 「花火楽しみだなぁ」
 「花火好きなの?」
 「うん。父さんが花火好きでね。夏になると色んな所の花火大会に家族で行ってたんだよ。風馬とかき氷を食べながら見てたなぁ」
 
 駅員の放送が流れ、下車駅に着いた。
 
 「もう着いちゃったね。降りようか」

 二人が汽車から降り、駅を抜けると、辺りは人混みで賑わっていた。
 
 「まだ、花火まで時間あるから、屋台見て行く?」
 「うん」

 二人は並んで歩き出した。

 「いい匂い」

 陽奈は鼻をひくひくさせた。

 「陽奈ちゃんは何が食べたい?」
 「どれも美味しそう。うーん。」

 唐揚げやフランクフルトが食べたいけど、女の子らしくないし。焼きそばやたこ焼きは、歯に青のりが付いちゃう。チョコバナナは、口の周りがチョコで汚れそうで上品じゃない。
 陽奈は、悩みに悩み唸っていた。

 「じゃあ、かき氷にしようか?」 
 「う、うん」
 
 陽奈はいちご味、空はブルーハワイを注文した。二人はかき氷を食べながら歩いた。空が急に住宅街の方に曲がった。

 「空くん。花火会場は海の方だよ」
 「陽奈ちゃんにとっておきの場所に連れてってあげる」
 
 住宅街に少し入ると、急な下り坂にかかった。坂に下がる手間で空は止まり、塀の方を向いた。

 「空君?」
 
 よく見ると塀と塀の間に階段があった。

 「ここだよ」
 「え⁈ここって⁈」
 「暗いから気をつけて」

 空は、携帯のライトで足元を照らした。

 「空君。ここってどこに繋がるの?」
 「着けば分かるよ」
 
 空は、ニンマリと笑みが溢れていた。
 階段を上がり切ると、小さい丘の様な所だった。街灯が薄暗く付いており、ベンチが一つポツンとあった。

 「ここって?」
 
 陽奈は、近くにあった看板に気づいた。

 「町役場憩いの場。え?ここって役場なの?」
 「そう。役場の裏だよ」
 「ここから、花火が見えるの?」
 「見てのお楽しみ」

 空が答えを焦らすと、ひゅーと音が上がった。陽奈が振り向くと、夜空に金色の大きな花火が上がった。一発目が打ち上がると、次々と花火が上がった。
 
 「すごい!綺麗!綺麗!こんなに近くて、目の前に上がるなんてすごい!」
 「ここは、ちょうど良い位置で花火が見えるんだ。父さんが教えてくれた所なんだ」
 「人もいないし、隠れスポットだね」
 「あの、陽奈ちゃん!」
 「何?」

 陽奈は平然としていたが、内心名前を呼ばれただけで、ドキドキしていた。

 「ちょっと、お願いがあるんだけど良い?」
 「うん?」
 「手を繋いでも良い?」
 「え?」
 「ごめん!急にキモいよね!俺、今まで彼女とかいないから、カップルってどんな感じなのかな?って思って!ごめん!いいよ!」
 
 空は、自分のとんでもない発言に恥ずかしくなり、陽奈から離れた。

 「い、いいよ!私で良ければ!」

 陽奈は、空に手を差し出した。

 「あ!待って!手汗が!」

 陽奈は、浴衣に手を擦り付けた。
 二人は、おずおずと手を繋いだ。お互い久しぶりに手を繋いだ。小さい頃は、手を繋いで歩いたり、遊んだりした。しかし、年齢が上がると羞恥心が勝り、手に触れる事自体恥ずかしかった。もう、男女として意識していて、子供の頃のように無邪気に触れられなかった。
 空の手は、大きくて、少し硬かった。
 陽奈は、視線だけ空に向けた。
 こんなに近くで空を見られて。空の温もりが直に伝わる位、近くにいられて。陽奈の頭の中は、興奮しておかしくなっていた。
 花火の感想、花火所ではなかった。

 このまま、ずっと続けば良いのに。

 花火が終盤に差し掛かると、大きい花火が連発で打ち上がった。次第に、花火大会が終わる事を悟った。
 
 この花火が終わったら、手が解けちゃう。

 最後の花火が消えた途端、沈黙が寂しさを漂わせた。

 「終わっちゃったね」
 「すごく綺麗だったね」
 「来年も陽奈ちゃんと見たいな」
 「私も、空君と行きたい」

 空は、繋いだ手の反対の手を出した。そして、小指を突き出した。
 
 「約束。来年も一緒に観よう」
 
 陽奈は、小指を組み指切りげんまんをした。

 しかし、約束は果たされなかった。花火大会の1週間後、あの事件が起きた。
 あれ以来、空の記憶を閉ざされたのだ。
 


 
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