散る花火と現れた星

くるみ

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14日 成人式

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 陽奈の気分はとても重かった。床に伏せたまま、ため息が止まらなかった。呼吸もしたくないほど憂鬱だった。
 この憂鬱の原因は、今日の成人式だった。

 「あいつらに会いたくないけど、行かないと」

 陽奈のおでこと床が密着した。この状態でも成人式に出ようと思うのは、親の希望と高校の友達が新成人代表スピーチをするからだ。親の期待と友達を裏切れなかった。
 携帯を開くと七時半を過ぎていた。

 「あー、支度しないと」

 陽奈は重い体を起こし、紺色のワンピースドレスに着替えた。使い慣れないヘアアイロンで、髪を緩く巻く。そして髪を結い上げた。
 薄化粧だが、とりあえず目だけは、きちんとメイクをした。
 誰かが部屋のドアをノックした。

 「陽奈ー。わぁ、見違えたわね」

 陽奈の艶やかな姿に、陽奈の母親は目を丸くした。

 「恥ずかしいから、終わったらすぐ帰るから」
 「午後は写真屋さん行くからね。もう、出れそう?」

 陽奈は頷いた。母親の車で、会場まで送ってもらう事になっていた。シンプルなワンピースドレスだが、皺を付けてはならないと、慎重に車に乗り込んだ。会場は、普段人一人入るか怪しいコンサートホール。今日はだだっ広い駐車場が埋まる位混雑していた。

 「隅っこで見てるからね」
 「うん」
 
 広いエントランスには、スーツやドレスで着飾った新成人で溢れていた。その中に、風馬の姿があった。
 風馬は人懐こい性格で、昔から色んな人に声をかけ、コミュニケーションを取っていた。友好関係は、高齢者から幼児まで幅広かった。中学に上がると、周りは異性を気にして、会話をする事が減ったが、風馬は気さくに女子にも話しかけていた。それがきっかけで、風馬は女好きと冷やかされる事もあった。
 陽奈は、風馬の事は気にかけず、友達を探す事にした。その友達は、すぐに見つかった。彼女の身長は、170センチ近くあり、男性と同じ位あった。

 「夏美」
 「陽奈!久しぶり!」
 「卒業以来だけど、大分変わったね」
 「そんな事ないよ」

 大アリだと陽奈は思った。彼女、出川夏美は現役モデルなのだ。170センチの長身、タレ目が印象的で、フェロモンを感じる顔をしていた。
 夏美は高校卒業後、進学の為、地元を離れた。転居先にある美容室に行ったところ、店長の目に止まった。店長の知り合いから、ブライダルモデルのバイトを勧められ、今は、モデル業と学業の二刀流をこなしている。
 モデルで得た経験なのだろう、彼女は自信に満ち溢れていて、堂々としていた。エントランスにいるほぼ全員が、彼女に目が行った。

 「いや、かなりでしょ。さすが、モデルさんだよ。隣にいるのが恥ずかしいよ」
 「そんな事言わないで~。私の友達、陽奈しかいないんだから」
 「夜は大丈夫?」
 「大丈夫だよ。いっぱい食べて、いっぱい話そうね!電話だけじゃ、足りないもん」

 陽奈と夏美の出会いは、高校入学の時だった。同じ田舎町出身で同じクラスになり、前後の席で仲良くなった。
 何より、お互いいじめられた経験があり、それがきっかけで仲が深まった。陽奈は彼女がいたから、高校に通う事ができ、友達で良かったと心の底から感謝していた。

 「陽奈、来てたんだ」

 二人の会話に、風馬が入ってきた。

 「あ、風馬。今、来たとこだよ」
 「陽奈の隣にいる美人さんに引き寄せられて、ついでに陽奈も見にきた。まぁ、馬子にも衣装だな」
 「あんた失礼ね。夏美は見せ物じゃないの!虫はあっち行きなさい」

 陽奈は、風馬を手で払った。

 「夏美さんって言うの?こいつ、怖いよね」
 「早く、あっち行ってよ」

 陽奈は、風馬の背中を押した。

 「ちぇー。じゃあね。夏美さん」

 風馬は、夏美に手を振り、引き返えした。

 「ったく。女好きが」
 「陽奈!話せる男の子がいたの⁈」
 「いや、あいつはただの同級生で。まぁ、唯一話せる男は風馬しかいないかな」
 「すごい!男嫌いな陽奈が話せる男の子がいるなんて!学校の先生とも、なかなか話せなかったに!」

 陽奈は男性恐怖症で、男性教諭と全く話せなかった。しかし、夏美が仲介したり、話せるようにフォローしてくれたおかげで、カタコトだが話せるようにまで回復した。しかし、誹謗中傷の傷は残り、風馬以外の男性は全く信用していない。
 会場に成人式開始の放送が流れた。

 「はぁ。中学の同級生に会いたくない」
 「私も。会いたくないし、代表スピーチやりたくない」
 「夏美なら大丈夫だよ。いじめてきた奴らを踏み潰せる位のモデルになったんだよ。スピーチ頑張ってね!」
 「ありがとう!じゃ、またね」

 お互い引っ込みがちだったのに、夏美は変わり、前に進んでいた。
 陽奈は、前に進もうとも変わろうともしない、過去に引きずられっぱなしの自分に苛立ち、惨めな気持ちになった。 
 陽奈は、同級生に気づかれない様に、端っこにひっそりと席に座った。

 「あれ⁈陽奈じゃん!」

 少し離れた席の女子が陽奈に気付いた。そして、一気に注目の的になった。

 「久しぶり!元気だった?」
 「うん」
 「全然会わなかったから、気づかなかった。中学校卒業して以来かも!女子校に行ってたんだっけ?」
 「うん」
 「ちーす。ここ空いてる?」

 風馬が急に現れ、陽奈の隣の席に座った。そして、陽奈の代わりに、女子達の話し相手をしてもらった。
 注目の的が外れ、陽奈が安堵の息を吐こうとした時、胸に釘が刺さる様な恐怖にかられた。
 女子達の前列に、陽奈をいじめていた男子達の姿があった。
 陽奈の手が震え、顔から血の気が引いていた。
 
 「大丈夫か?あいつらは近寄らせないようにするから」
 「うん、大丈夫」

 陽奈は卒業後、短大に進学した。地元を離れれば、多少は変わるかもしれない。と希望を持っていたが、いざ、男性を前にすると、いじめを受けたトラウマが蘇った。
 そして、男性と話せなくても生きていける事を日々の生活で実感した。
 開会式が始まる。町長の長い祝辞の後、新成人代表のスピーチで、夏美が登壇した。

 「さすがモデルだな。堂々としてる。自慢の友達だな」
 「うん。かっこいいよね」

 夏美の神々しい姿に、陽奈は涙ぐんでいた。
 成人式が終わり、陽奈はそそくさと帰ろうとしたところ、男に呼び止められた。
 長身で細身、肩位までありそうな髪を結っている。 

 「久しぶり。俺の事覚えてる?」
 「あ!」

 陽奈は、大樹を思い出す事はできたが、それ以上言葉が出なかった。
 清水大樹は、小さい頃から風馬と一番仲が良かった。何をするにもいつも一緒だった。陽奈も、あの事件が起こる前は、よく大樹と話ていた。

 「風馬に聞いたけど、記憶が戻ったんだって?」

 陽奈は小さく頷いた。

 「まだしゃべれないの?」

 陽奈は、また頷いた。

 「まだ、俺とも話せないんだ…そう、事件の事なんだけど。俺と風馬は、あの犯人は恵の兄貴だと思うんだ。風馬が恵に告られたのは知ってる?」
 
 陽奈は頷いた。

 「恵の兄貴、かなりシスコンなんだよ。妹が振られ、かつ、可愛い妹に近づいた事に腹が立って、陽奈に手をかけた」
 
 陽奈は自分に指を差した。

 「野中涼介は、風馬に仕返しをするなら、直接じゃなく、間接的に痛めつけようと考え、風馬と仲が良かった、陽奈を殺そうとした。俺達、ここまで考えたんだけど、証拠がなくて、誰にも言えなかったんだ」

 「おーい、大樹。え?陽奈?珍しい組み合わせじゃん。何したの?」

 「別に。そろそろ帰るか?」
 「おう。俺ら一緒に来たんだ。じゃ、陽奈また連絡するな」

 陽奈は、何も言わずに手を振った。

 「大樹、何で事件の事話したんだろ?」

 陽奈は多少気になったが、それよりもこの場を去りたい気持ちが強く、早々と帰った。

 その日の夜、隣の市まで車を運転し、ファミリーレストランで夏美と待ち合わせた。
 到着した事をメールで送り、車から降りると、店の前を歩いている女性がいた。陽奈が声をかけると、夏美の長い髪がひらりと舞った。
 店内は、夕食時で混み合っていた。席が空くまで、二人は立ち話をした。

 「夏美、代表スピーチかっこよかったよ。自慢の親友だよ」
 「ありがとう。かなり緊張したけど、嫌な人達を見返せて、スッキリした!それより、陽奈大丈夫だった?あの中に、いじめていた人達がいたんでしょ⁈」
 「ああ、大丈夫。見向きもされなかったよ。もう、忘れてるんだろうね」
 「それもひどくない⁈散々いじめておいて、知らない振りなんて!そんな人達バチが当たればいいのに」

 夏美は、普段おっとりしているが、珍しく感情的に怒りを露わにした。
 ♪♪~突然陽奈の携帯が鳴り出した。
 
 「もしもし、陽奈⁈同窓会の二次会来ないの⁈」

 電話をかけてきたのは風馬だった。

 「出ないよ。一次会も出てないのに、二次会なんて行く訳ないでしょ。今、友達とご飯食べてるから。じゃあね」

 陽奈は、強引に電話を切った。
 
 「だれだれ~」

 夏美はニヤニヤしていた。

 「風馬だよ。成人式の時に話しかけてきたやつだよ」
 「仲いいね~」
 「あいつは、ただの友達だから」

 そうしている間に席が空き、店員に案内された。メニューを開き、二人は何を食べるか悩んだ。

 「私は、チーズハンバーグセットとドリンクバーにしよう」
 「カロリーとか大丈夫?」
 「普段セーブしてるから、こうゆう時は我慢しないの。常にカロリーとか考えてたら、ストレスで後々おかしくなっちゃう。あ、食後のデザートも食べよ」
 「きちんと考えてるじゃん。私は、ハンバーグとウィンナーセットとドリンクバーにしよ」
 
 二人はそれぞれ注文し、話を続けた。

 「そう!私ね、少しだけど、記憶を思い出したの」
 「え⁈本当に?何を思い出したの?」
 
 陽奈は顔を赤らめ、少し置いてから話した。

 「昔、好きだった人の事」
 「好きだった人って、誰々⁈」
 「…風馬のお兄さん」
 「あの人のお兄さんって事は、三角関係ね!」
 「勝手に三角にしないで!あいつは、そんなんじゃないから」
 「そうかな?陽奈は、今お兄さんの事好きなの?」
 「う~ん。分かんない。何年も会ってないし、思い出したからって、急に好きにならないかも」
 「じゃあ、もう脈なしかぁ。事件の事は思い出したの?」
 「ううん。全然。でも、犯人かもしれない人の情報があったの」

 二人が注文したメニューが、テーブルに運ばれた。二人は一時会話を中断した。

 「犯人の情報って、犯人は誰だったの⁈」
 
 夏美は小さな声で問う。陽奈は、成人式での大樹との事を話した。

 「そのシスコンの人を問い詰めれば、犯人           か分かるかもしれないの?」
 「まぁ、可能性はあるけど。証拠がないから…まず、恵のお兄さんがどこにいるのかも分からないし」
 「なんか、変に期待しちゃったね」
 「でも、私は少しだけど記憶を思い出せたから進歩したかな」
 「でも、なんで好きな人の記憶だけ無くしちゃったんだろうね?」
 「さぁ?」
 「お兄さんには会わないの?風馬君?だっけ?連絡先とか分かるんじゃない?」
 
 陽奈は、箸でハンバーグをつまむ手を止めて考えた。会える事は会えるが、摩訶不思議なあの状況を説明しても、信じてもらえないと思った。
 
 「今会っても、ただ恥ずかしいだけだよ。こうなってから、男の人と話せないし、信用できないし」
 「やっぱり、風馬君しかいないよ!」
 「あいつは、そんなんじゃないよ!あいつは、小さい頃から一緒にいたから、もう異性として見てない!まず、女好きだから無理!」
 「そうねぇ。浮気性は、交際する上で頂けないよね」
 
 その後二人は、お互いの大学の事やバイトの事、溜め込んでいたストレスを会話で吐き、三時間話し込んだ。
 帰宅すると、陽奈はベッドに倒れ込んだ。

 「疲れたぁ。久しぶりにいっぱい話したぁ」

 陽奈は、大樹との会話が頭に引っかかっていた。全く接点がなかったのに、急に出てきた同級生の兄。

 「明日、空さんに聞いてみよう。それと、空さんの事思い出した事も言わなきゃ」

 陽奈は目を閉じて、そのまま眠りについた。
 
 

 
 

 











 
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