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葬儀
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葬儀2日前
「もしもし」
「もしもし?大樹?」
「どうした?警察に通報する気になった?」
「通報はしないよ。私、全部思い出したの」
「思い出したって、記憶を⁈」
大樹は一瞬動揺した。
「犯人は風馬だよね。でも、どうして、大樹が風馬をかばったの?」
「それは、風馬は大事な人だからな。大事な人は、自分を犠牲にしてでも守りたいもんだろ」
「それが、人を殺す事だとしても?」
「ああ。人を殺すのは絶対だめだ…」
大樹は、振り絞るように話した後、沈黙した。
「でも、俺はそれでもあいつの事が好きなんだ…」
震える声が受話器の奥から聞こえてくる。
「大樹?大丈夫⁈」
陽奈は、大樹の様子が心配になった。
「陽奈が生きてて良かった。俺、風馬を逃した後、偽装工作するので必死で。陽奈が目の前で倒れてるのに、助けられなくて、ごめん」
大樹は、泣きそうになり、声を振り絞って謝った。
「…本当だよ。あのまま死んでたら、風馬の気持ちも知らなかったし、風馬がやった事だけど、風馬も余計おかしくなってたよ」
「本当にごめん」
「じゃあ。もう、事件の事は終わりにしよう、ね!」
「ああ。あれ⁈そういえば、陽奈、普通に話せるようになったの?」
大樹は、陽奈と数分話した後に、ようやく陽奈の様子に気づいた。
「大樹とはね。まだ、他の人は信用できなくて、話せないけど」
「そっか。でも、前みたいに話せて嬉しいよ」
「うん。あ、あのさ!大樹、中学の時、カバンとか隠されたって言ってたじゃん。あれ、私じゃないからね!」
「分かってる。あんなの陽奈がやる訳ないじゃん。それより、風馬の事どうするんだ?」
「…どうしたらいいか、分からないんだ。記憶が戻ってから、風馬とは連絡も取ってなくて」
「でも、風馬の気持ちに気づいてるなら、そろそろ、白黒つけたら?」
「え⁈大樹知ってたの?」
陽奈は、受話器の向こうから、顔を赤くして、焦っていた。
「そりゃ、相談もされてたし。俺は、風馬とはこれ以上の関係にはなれない。だから、風馬には幸せになってほしい。でも、陽奈には陽奈の人生があって、陽奈にも幸せになってほしい」
「大樹…ありがとう。私、風馬と向き合ってみる。大樹、ありがとう!」
「ああ。じゃあ、また」
大樹の最後の言葉に、陽奈の心がほわっと温かくなった。固く、締め付けられていた気持ちが、柔らかく解けていった。
陽奈は、風馬とは関係を断とうと考えていた。
風馬は振り向きもしない自分を、好きでいてくれた。もし、陽奈が風馬だったら、姿が見えただけでも、切なくて、苦しかったと思う。いっその事、いなくなってほしいけど、一緒にいると楽しい。その繰り返しがずっと続くなんて。風馬は、ずっと悲惨で辛い目にあっていたんだ。
葬儀当日
数週間前に、風馬の母から葬儀の連絡があり、陽奈は再び地元に戻った。
式場は、古民家をリフォームした所だった。
玄関先には、風馬の母と父喪服姿で立っていた。親族や空の同級生を合わせて、20人以上が集まっていた。
「おばさん。連絡ありがとうございます」
「陽奈ちゃん、来てくれてありがとう。空、きっと喜んでるよ。実はね、火葬場を出た途端、土砂降りになってね。ここに着くまでに、降ったり、止んだりしてたの。でも、今すっごい晴天になって。空、嬉しかったんだね」
空を見上げると、雲一つない、綺麗な青空だった。
「中で待ってて。風馬もいるから」
陽奈は風馬の母に一礼してから、中に入った。
風馬とは、空が亡くなってから連絡を取っていなかった。
壁を取り除いたやや広い部屋に入ると、一番最初に空の遺影が目に入った。免許証の写真なのだろうか。空は、無表情でラフなシャツ姿だ。
陽奈は、空が亡くなってから毎日涙を流した。涙が枯れる位泣いたのに、遺影を見た途端、涙が込み上がった。
遺影から目を逸らすと、風馬の姿があった。覇気がなく、呆然としていた。いつもおちゃらけているのに、初めてみる姿だった。
陽奈は、風馬から離れた位置に立ち、葬儀が始まるのを待った。
しばらくすると、喪主の風馬の父が参列者を纏め、敷かれていた座布団に座り始めた。陽奈も周りに合わせ、座布団に座った。
そして、奥通路から坊主が現れた。
坊主は軽く挨拶を済ませ、お経を唱え始めた。
木魚の音が規則的に鳴る。そして、作法が分からないまま、お焼香が回ってきた。陽奈は、隣の女性のお焼香の仕方を横目で、まじまじと観察し、その作法でお焼香をした。
1時間程で葬儀は終わった。葬儀自体何とも思わなかった。これが、空とのお別れになると思っていなかったからだ。
陽奈は空を見上げながら、幽体だった頃の空との日々を思い返した。
「風馬の事、許してほしい」
陽奈は、はっとした。
空は、事件の犯人を知っていた。誰にも言わず、ずっと隠し通していたのだ。
陽奈の胸がギュッと締め付けられた。空は、自分がいなくなるというのに、風馬への許しを乞いでいた。大切な弟を守る為に。
「優しすぎるよ」
陽奈は、泣き顔を両手で隠した。
「もしもし」
「もしもし?大樹?」
「どうした?警察に通報する気になった?」
「通報はしないよ。私、全部思い出したの」
「思い出したって、記憶を⁈」
大樹は一瞬動揺した。
「犯人は風馬だよね。でも、どうして、大樹が風馬をかばったの?」
「それは、風馬は大事な人だからな。大事な人は、自分を犠牲にしてでも守りたいもんだろ」
「それが、人を殺す事だとしても?」
「ああ。人を殺すのは絶対だめだ…」
大樹は、振り絞るように話した後、沈黙した。
「でも、俺はそれでもあいつの事が好きなんだ…」
震える声が受話器の奥から聞こえてくる。
「大樹?大丈夫⁈」
陽奈は、大樹の様子が心配になった。
「陽奈が生きてて良かった。俺、風馬を逃した後、偽装工作するので必死で。陽奈が目の前で倒れてるのに、助けられなくて、ごめん」
大樹は、泣きそうになり、声を振り絞って謝った。
「…本当だよ。あのまま死んでたら、風馬の気持ちも知らなかったし、風馬がやった事だけど、風馬も余計おかしくなってたよ」
「本当にごめん」
「じゃあ。もう、事件の事は終わりにしよう、ね!」
「ああ。あれ⁈そういえば、陽奈、普通に話せるようになったの?」
大樹は、陽奈と数分話した後に、ようやく陽奈の様子に気づいた。
「大樹とはね。まだ、他の人は信用できなくて、話せないけど」
「そっか。でも、前みたいに話せて嬉しいよ」
「うん。あ、あのさ!大樹、中学の時、カバンとか隠されたって言ってたじゃん。あれ、私じゃないからね!」
「分かってる。あんなの陽奈がやる訳ないじゃん。それより、風馬の事どうするんだ?」
「…どうしたらいいか、分からないんだ。記憶が戻ってから、風馬とは連絡も取ってなくて」
「でも、風馬の気持ちに気づいてるなら、そろそろ、白黒つけたら?」
「え⁈大樹知ってたの?」
陽奈は、受話器の向こうから、顔を赤くして、焦っていた。
「そりゃ、相談もされてたし。俺は、風馬とはこれ以上の関係にはなれない。だから、風馬には幸せになってほしい。でも、陽奈には陽奈の人生があって、陽奈にも幸せになってほしい」
「大樹…ありがとう。私、風馬と向き合ってみる。大樹、ありがとう!」
「ああ。じゃあ、また」
大樹の最後の言葉に、陽奈の心がほわっと温かくなった。固く、締め付けられていた気持ちが、柔らかく解けていった。
陽奈は、風馬とは関係を断とうと考えていた。
風馬は振り向きもしない自分を、好きでいてくれた。もし、陽奈が風馬だったら、姿が見えただけでも、切なくて、苦しかったと思う。いっその事、いなくなってほしいけど、一緒にいると楽しい。その繰り返しがずっと続くなんて。風馬は、ずっと悲惨で辛い目にあっていたんだ。
葬儀当日
数週間前に、風馬の母から葬儀の連絡があり、陽奈は再び地元に戻った。
式場は、古民家をリフォームした所だった。
玄関先には、風馬の母と父喪服姿で立っていた。親族や空の同級生を合わせて、20人以上が集まっていた。
「おばさん。連絡ありがとうございます」
「陽奈ちゃん、来てくれてありがとう。空、きっと喜んでるよ。実はね、火葬場を出た途端、土砂降りになってね。ここに着くまでに、降ったり、止んだりしてたの。でも、今すっごい晴天になって。空、嬉しかったんだね」
空を見上げると、雲一つない、綺麗な青空だった。
「中で待ってて。風馬もいるから」
陽奈は風馬の母に一礼してから、中に入った。
風馬とは、空が亡くなってから連絡を取っていなかった。
壁を取り除いたやや広い部屋に入ると、一番最初に空の遺影が目に入った。免許証の写真なのだろうか。空は、無表情でラフなシャツ姿だ。
陽奈は、空が亡くなってから毎日涙を流した。涙が枯れる位泣いたのに、遺影を見た途端、涙が込み上がった。
遺影から目を逸らすと、風馬の姿があった。覇気がなく、呆然としていた。いつもおちゃらけているのに、初めてみる姿だった。
陽奈は、風馬から離れた位置に立ち、葬儀が始まるのを待った。
しばらくすると、喪主の風馬の父が参列者を纏め、敷かれていた座布団に座り始めた。陽奈も周りに合わせ、座布団に座った。
そして、奥通路から坊主が現れた。
坊主は軽く挨拶を済ませ、お経を唱え始めた。
木魚の音が規則的に鳴る。そして、作法が分からないまま、お焼香が回ってきた。陽奈は、隣の女性のお焼香の仕方を横目で、まじまじと観察し、その作法でお焼香をした。
1時間程で葬儀は終わった。葬儀自体何とも思わなかった。これが、空とのお別れになると思っていなかったからだ。
陽奈は空を見上げながら、幽体だった頃の空との日々を思い返した。
「風馬の事、許してほしい」
陽奈は、はっとした。
空は、事件の犯人を知っていた。誰にも言わず、ずっと隠し通していたのだ。
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陽奈は、泣き顔を両手で隠した。
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