恋のおまじない

くるみ

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記憶〜迫り来る者〜

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 宿泊学習当日。

 瞳は前日に大泣きをした為、眼球、目の周りが真っ赤になり、鼻の下も鼻水のかみ過ぎで赤くなっていた。

 「こんな顔じゃ、学校行けないよ」

 瞳はブサイクな顔が、余計ブサイクになり気が滅入った。しばらく、冷タオルで顔を冷やした。親に心配をされたが、親友の沙織とケンカしたと嘘をついた。
 重い足取りで学校に向かった。空は、雲一つなく澄み渡っていた。どこまでも、どこまでも青空が天高く続いていた。瞳の気持ちは、違う意味でブルーだった。
 教室には、まだ美穂と翔太は来ていなかった。瞳が怠そうに、ランドセルから教科書を取り出していると、翔太が入ってきた。翔太は、瞳の前を通った。

 「おはよう」

 翔太に挨拶をされたが、瞳は無視をして教室を出た。再び、目に涙が溢れた。擦り過ぎた皮膚に涙が滲みて、痛みが走った。
 今日は午前授業で帰宅し、16時に宿泊学習の為、もう一度学校に集合する。
 宿泊学習は、6学年の行事で、小学校生活の思い出作りで設けられた。学校で泊まる、一泊キャンプのようなものだ。6年生ビックイベントの前日に、瞳は失恋をしたのだ。
 翔太と同じ教室にいる事が辛くなってきた。声を聞くだけで気まずかった。いなくなりたい。瞳は、それだけを思っていた。長い午前授業が終わり、一度帰宅となった。
 
 「瞳!一緒に帰ろう」
 帰り道、沙織は昨日の事を聞いて来なかった。
 実は、翔太と美穂の関係はとっくに知っていて、翔太と離す為に、今まで割り込んで来たのだろうかと、瞳は推測していた。

 「瞳は、何担当するの?」
 「えっ⁈何が?」
 「班で何作る係か決めてないの?」
 「ああ。一応、炒飯作る担当になったよ」

 沙織、翔太、瞳は、それぞれ別の班に分かれていた。沙織は、瞳の元気がない様子を見て、何とか話だけでも盛り上げようとした。
 帰宅してすぐに、瞳はシャワーを浴びた。次に、事前に準備したお泊まり道具を確認する。しばしば、ため息を着いた。また、2人の顔を見るのかと思うと、辛くて涙が出てきた。初恋は、相手に恋人がいた。おまじないにも頼ったのに玉砕し、惨めな気持ちになった。
 再登校に体が拒否していた。教室には、生徒の半分以上が集まっていた。10分後には、ほぼ全員集まり、先生からこれからの流れを説明された。
 夕食は、事前に決めたグループで作る。複数の先生に試食してもらい、審査をしてもらう。上位1チームには豪華賞品、最下位には多量の課題が科さられる。食後は、就寝時間まで教室で自由に過ごす。            
 説明後、夕食作りが始まった。瞳のグループは、チャーハン、麻婆豆腐、餃子の中華料理を作る事にした。
 瞳は米を研ぎ、炊飯器の場所を探した。見つけたと思うと、炊飯器は翔太のグループの後ろに設置されていた。瞳は遠回りをして、炊飯器の前まで行った。翔太が作業している間に、素早くお釜を戻し、スイッチを押した。そして、機敏な動きで自分のグループに戻った。

 「ふー」

 瞳は、大きな息を吐いた。今ので、かなり集中力を使い果たした。ご飯が炊き上がる前に、具材を切って準備をした。大きさがまばらだったり、下にこぼしたりとひどいものだ。      
 見ないようにしているのに、なぜ視界に入ってくるのだろう。翔太が目に入ると、つい下を向いていた。
 何はともあれ、夕食作りは無事に終えた。みんなで夕食を取り、そして美味しい夕食ランキングが発表された。瞳、沙織、翔太それぞれのグループは、1位にはなれなかったが、ビリは免れた。
 夕食後の自由時間は、女子はトランプや心理テストなどで盛り上がっていた。男子は、体育館で遊んだり、持ち込んだ漫画を読んだりしている。
 瞳は、失恋の傷でとにかく1人になりたくて、机に伏していた。
 「瞳」

 顔を上げると、沙織が隣の席に座った。

 「もしかして、翔太の事?」
 「何が?」
 「昨日泣いてたの」

 やっぱり分かってたんだと思うと、瞳の胸に痛みが走った。

 「大丈夫だよ!これから、翔太よりいい人が現れるよ!それに、私達まだ小学生なんだから。出会いなんて、中学、高校、大人になってからもあるよ!」

 沙織は、瞳の肩に優しく触れた。

 「瞳に彼氏ができるまで、私がそばにいてあげる。私、翔太より背は大きいし!」

 沙織は、満面の笑みで笑った。瞳は、クスリと笑ったあと、再び涙が込み上げた。翔太との間を邪魔され、イライラした事もあったが、結局は沙織の優しさに安心してしまった。

 「6年生のみなさん。寝袋を持って、体育館に移動してください」

 教室に先生の放送が流れた。教室にいる生徒達は、寝袋を持って体育館へ移動を始めた。窓の外は真っ暗になり、いよいよ夜本番。室内は明るいが、外や廊下の隅に誰かが立っていそうな不気味な雰囲気が漂う。

 「沙織!お願い!隣で寝て!」

 瞳は、沙織の腕をがっちり掴んだ。

 「もちろん!そのつもりだから。幽霊なんて気にしなきゃいいのよ。幽霊だって元人間だからね。気にされたら、その気になっちゃうの」
 「沙織は怖くないの?」
 「あんまり。私も昔、怖い時があったけど、おばあちゃんのおまじないで怖くなくなったよ」
 「ど、どんなおまじない⁈教えて!」
  
 瞳は、藁にもすがる思いで食らいついた。

 「おばあちゃんは、自分に光を持てって言ってた。自分に太陽のように、優しく、眩しく、暖かいオーラに包まれてるイメージすれば、幽霊も嫌がっていくみたいだよ」
 「包まれてるイメージね。難しそうだけど、やってみるよ!」
 
 体育館に移動すると、2クラスみんなが集まっていた。合わせると60人前後いる。

 「出席番号順に並べよー!点呼とっ…」
 
 何の前触れもなく、男の先生が急に倒れた。
 
 「高野先生!」
 
 瞳のクラスの担任、松山千夏先生が高野に駆け寄り、体をゆすった。

 「高野先生!たか」
 
 松山先生も高野にもたれるように倒れた。

 「先生!先生!」
 
 1人の女子生徒が松山に触れた途端、またも倒れた。異様な様子に生徒全員が叫び声を上げた。体育館に瞬く間に声が響き渡る。体育館から逃げ出す生徒もいたが、その生徒達も出入り口前で倒れた。生徒達はドミノのように倒れて行く。不可思議で不気味な光景になす術はなく、瞳はただ怯えていた。

 「沙織!」
 
 瞳は、沙織の腕にしがみついていると、ガ
クンと下に落ちた。

 「沙織!沙織!」
 
 強く揺さぶっても、沙織は目を閉じて起きる様子はない。しんと静まり返った体育館。周りを見ると、瞳以外は全員倒れていた。

 「何⁈何があったの⁈」
 
 瞳は恐怖で涙を流した。

 「助けて!誰か助けて!」
 
 瞳の声が体育館に響く。

 「イシシシ」

 しゃがれた笑い声が、瞳の耳元で囁かれた。瞳は怖くて耳を塞ぎ、さらに頭を下げた。笑い続けるしゃがれた声が、瞳にまとわりついた。

 「止めて!一体何なの⁈」
 
 笑い声が止まる。

 「お前が久住瞳か」
 
姿のない声の主が、瞳の名を呼んだ。




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