恋のおまじない

くるみ

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支配者が入れ替わる日

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 瞳は全ての記憶を思い出した。

 「私、あの後…どうなったの?」
 
 ゆっくり目を開くと、辺りは紫と黒が混ざり合った浮遊空間だった。

 「えっ⁈ここはどこ⁈先生!誰かいないの⁈」
 「ようやく目覚めたのかい?呑気な童だね」
 
 目の前に、瞳の身長(150㎝)2倍程ある化け物が現れた。目が溢れそうな程大きく、口は耳まで裂けていた。髪は真紅なのに、顔色は真っ青を越えて紫色をしていた。目の前に現れた化け物に、瞳は恐怖で気を失いそうになった。

 「人選が悪かったね」
 「あ…や…いや。ぎゃー!!」
 
 瞳は、化け物から逃げ出した。下を向いて、思いっきり突っ走った。化け物に追いつかないように必死に走る。しかし、どんなに走っても、どこにも辿り着かない。次第に息が続かず、足がもつれて転んだ。

 「何で、どこにも着かないの⁉︎」
 
 瞳は、膝に手を付き立ち上がろうとした。

 「え?」
 
 よく見ると手、体全体が透けていた。

 「何で足が透けてるの?」
 「ここは、黄泉の世界」
 
 目の前に、さっきの鬼の化け物が現れた。

 「お前はもう死んでいるんだよ」
 「死んでる?」
 「そう。わしと契約を交わしたからさ」
 「契約?」
 「恋のおまじない…」
 「あ!ハローに載ってたおまじない!あんなのただのおまじないじゃない!」
 「ただのおまじないに、お前は願いを叶える為にすがったんだろ?」
 
 瞳は図星を突かれ、口をつぐんだ。
 「そ、そもそも何も叶ってない!」
 「ちっ、ピーピーうるさいね。今から叶えるんだよ」
 「今から叶えたって、翔太は…」
 
 瞳は、拳をギュッと握った。

 「今からお前の片想いの相手、佐伯翔太をこの世界に連れてきてやる。死後に結ばれても、両想いは両想い。契約完了だ」
 「そんなの両想いじゃない!」
 
 鬼が両手を伸ばすと、黒く大きな球体が現れた。球体が少しずつ消えかけると、そこから翔太が現れた。

 「嘘…翔太!」
  
 瞳は翔太の元に駆け寄った。

 「あれ?瞳?ここは?俺体育館にいた…ぎゃー⁈化け物!!」
 
 翔太は、驚くあまり瞳に抱きついた。

 「さあ、これであんたの人生は私の物だ」
 「どうゆう事?」
 「両想いの代償に、途切れた人生を送るとあったろ?あんたは私の代わりに、この黄泉の世界を支配し、わしはお前の代わりに現世で生きて行く。そう書いてあっただろ?」
 「私が、黄泉の支配者になるなんて書いてなかったじゃない!」
 「それでも、お前はわしの術にはまったんだよ。まぁ、恋は人を盲目にさせるから。気持ちは分からなくはないよ」
 
 瞳は、恥ずかしくなり顔を赤らめた。

 「わしは、人間の嫉妬で生きている。恋の嫉妬は、蜜のようにとっても美味だよ。お前の嫉妬も、なかなか美味かった。好きな男と交際相手への嫉妬。それと、男に夢中で蚊帳の外にされた女の嫉妬も美味そうだったが、契約を交わしてないから食べられなかったわ」
 「…沙織の事?」
 
 瞳は、唇を振るわせた。
 「さて、お前に代わって、現世を謳歌しなきゃね。わしに代わって、この世界にいる何百人もの人間収集録を頼んだよ」
  
 そう言い残し、鬼は一瞬にして消えた。
 
 「人間収集?」
 「瞳。上、よく見てみろ」
 
 何百人もの人達が、瞳達を見下ろしていた。着物姿の男女、モンペ姿の女の子、戦闘服の男、ちょんまげの男。社会の教科書で見るような人達の視線が2人に注がれた。何百もの青白い顔から、哀れめや蔑んだ感情が見て取れた。

 ~現代~
 
 瞳に入れ替わった鬼が目を覚ました。
 
 「瞳?目を覚ましたの⁈」
 
 瞳の母親が、鬼の瞳に抱きついた。
 
 「良かった!もう目を覚さないかもって、心配だったんだから!」
 
 鬼はゆっくり起き上がった。

 「瞳!大丈…夫…」
 
 沙織は、急に言葉を失った。

 「沙織ちゃん!ちょっとナースステーションに行ってくるね!」
 
 瞳の母親は、興奮気味で病室を出た。

 「瞳。昨日の事覚えてる?体育館で点呼取った時、みんな倒れたみたいなんだけど、すぐ目を覚ましたの。だけど、瞳と翔太だけ目を覚さなくて。救急車と警察が来て、お泊まり学習中止になったんだ」

  鬼は、ふーんとだけ返した。

 「翔太、まだ目が覚めてないけど大丈夫かな?」
 
 鬼は、ニヤリと笑った。あの童は、一生目が覚めないよ。肉体が朽ちるまでは。肉親も、最初は一生懸命に看病してやるが、次第に諦めが着き、放り投げていく。生きている方も、死にかけてる方も生き地獄なのさ。鬼は、今まで黄泉の世界に連れて行った後の事を思い返していた。
 その後、血液検査、医師の診察を受け、退院許可が降りた。

 「ありがとうございました!」
 
 瞳の母は、涙ぐみながら、ナースステーションに挨拶をしていた。瞳と沙織は、玄関を出ると、瞳の母親について歩いた。

 「瞳。さっきお父さんにも連絡したら、瞳の好きなケーキ買って帰るって。退院してすぐだけど、何か食べれる?」
 「分からん」
 「?…じゃあ、どうしよう。今日は家にあるものでいい?」

 瞳の母は、いつもと違う瞳の口調に戸惑いを見せた。

 「沙織ちゃん。荷物持ってくれてありがとう。先にそれ乗せちゃうね」

 瞳の母は、沙織から荷物を受け取り、後部座席に詰め込んだ。

 「沙織ちゃん、家まで送ってく?」
 「大丈夫。歩いて帰るよ」
 「そお?じゃあ、気をつけて帰ってね」
 
 瞳の母が車のエンジンをかけると、鬼と沙織はふたりきりになった。


 「あんた、瞳じゃないよね?瞳と翔太はどこにいるの?」

 沙織は、鬼を睨みつけた。

 「さぁ」

 鬼はニヤリと笑い、車に乗り込んだ。
 日が沈み、夜になった。

 「瞳、箸が止まってるけど食欲ない?」
 「食いたくない」
 「病み上がりだから、仕方ないだろう。ケーキはどうだ?瞳の好きな店のショートケーキだぞ」
 
 瞳の父が、母とアイコンタクトを取った。母は、いそいそとケーキを冷蔵庫から取り出した。鬼は目の前に出されたケーキを、ひとつまみ食べた。

 「甘い!甘すぎる!ぺっ!ぺっ!」
 
 鬼は、床に唾を飛ばした。

 「えっ⁉︎瞳。ここのケーキ好きだったよな⁈」
 
 娘の思いがけない反応に、父は足下から鳥が立つような思いだ。

 「まずいもんは、まずいんだよ!」
 
 鬼はそっぽを向いた。両親は、一時台所に退避した。

 「お母さん、反抗期かな?」
 「確かに、時期的にもあり得るし。お父さんの服と一緒に洗濯しないでと言われた事はあるけど。一晩で、あんなにやさぐれないわよ」
 「言葉遣いもいつもと違うし。何か悪い奴に影響されたのかな?」
 
 2人は首を傾げた途端、リビングの方で大きい物音がした。

 「気分が悪い!寝る!」
 
 ドアを思い切り閉め、足を踏み鳴らして、階段を登った。

 「くそっ!久しぶりに人に触れると、こんなに疲れて、むしゃくしゃするものだったか」
 
 鬼は、ギリギリと歯を食いしばった。




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