偽りの家族

くるみ

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似ている顔

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2008年東北の長い冬が、ようやく春にバトンを渡した。4月中旬には、心地よい気温の日が増え、桜の花々が少しずつ花ひらいた。地元の高校に通う葵は、授業終了後自宅に直帰した。
「ただいまぁ」葵が玄関を開けると、母親の靴の隣に、黒いパンプスが並んでいた。お客さんかな…疑問に思いながら、リビングに向かうと、葵の母と女性の声が聞こえてきた。顔をひょっこり出すと、先に女性の方が葵に気づいた。
「葵!久しぶり!」小刻みに手を振る女性。
「叔母さん!久しぶり!今日はみゆちゃんは?一人なの?」葵は2人の元に駆け寄った。彼女は、伊藤直美。葵の母の妹である。
「今日は出張があって、ちょっと寄っただけなの。あ!待ってね。はい、お土産」
直美はショルダーバッグから、小さな紙袋を取り出し、葵に渡した。
「ありがとう!何だろう?開けてもいい⁈」
「いいよ」
葵は興奮が抑えきれず、早速紙袋を開けた。お土産は、数種類のパワーストーンを組み合わせたストラップだった。あまりの綺麗さに、葵はストラップに見惚れて、きれいと小さな声を漏らした。
「お土産も渡せたし、そろそろ帰るね。みゆも家に着いてるかもしれないし」
直美は、ソファーから立ち上がり、窓際にある棚に足を運んだ。棚の上にある写真を眺め、数秒手を合わせた。
「よし、と。じゃあ、今度はみゆと一緒にくるからね」
みゆは、直美の一人娘である。3人は一緒に玄関に向かった。
「気をつけてってね」
別れ際、葵の母が声をかけると、じゃあねと直美は手を上げて、玄関を出た。
「さてと、じゃあ、お母さんはご飯の準備するね」
「今日の夜は、何にするの?」
「冷蔵庫の有り余りでもいい?」
「何でもいいよ」
二人は何気ない会話をしながら、リビングに戻った。
葵は、直美に会うたび、思う事があった。それは、葵と直美は、実の親子なのではないかという事。理由は、顔が似ているという事なのだが。葵は、どちらかというと、直美似の顔をしている。末広がりの二重と湾曲した鼻に、直美の面影があった。叔母という血縁関係にあれば、顔が似ていても仕方がないのだが、似ている顔を目の前にすると、半分本気で考えてしまう。
直美と会ってから、数日経った土曜日。葵は、午前中の部活を終え帰宅した。
「疲れたぁ」
葵は、バスケ部に入部している。小学生の時に、ミニバスケットボールを始め、中学、高校とバスケを続けている。走りっぱなしの足は、疲労が蓄積され、足を上げても、ジャージの裾が床を這う。いつもなら、母が作っておいた昼食を食べ、その後ソファーで昼寝をするのが習慣になっているが、今日は違った。葵は、リビングには行かず、2階に向かった。そして、ある部屋の前で止まった。その部屋は、直美の部屋だった。直美は、県外の短期大学に進学する為、高校卒業後、実家を出ていた。母親、直美から、絶対部屋に入らないでほしいと、強く言われていたが、その言葉は、葵の好奇心を余計に引き出してしまった。葵は小学生の頃、一度、直美の部屋に入った事がある。その時、部屋には机と空のベッドしかなく、お宝を求めていた好奇心はガッツリ削がれ、すぐに部屋を後にした記憶がある。あれから数年が経ったが、直美の部屋には全く興味がそそられず、近寄る事もなかった。久しぶりに触れる引き戸の感触に、少し胸が高鳴った。ゆっくり開けると、あの時と変わらない景色が広がった。部屋は、生暖かく、カビと埃臭さが混ざった匂いが充満していた。見た所、当時とほぼ何も変わっていなかった。
「変わってなー」葵が発すると、部屋の壁に声の振動が響いた。
最初に押し入れの中を探す事にした。戸に手をかけ、ゆっくり開け始めた。心音がドクドクドクと速く、大きく鳴る。葵は、幽霊、ネズミ、妖怪、何かが出てこないかと恐怖に包まれていた。押し入れの3分の1が見えて来た。少しスピードを上げ、さらに開ける。2分の1まで開けると、何もないように見え、最後は思いっきり開けた。中には何もなかった。天井側や、下段の中をおずおず見るが、やはり何もなかった。葵は、ふぅーと息を着き、胸を撫で下ろした。ゆっくり息をして、地縮み上がった心臓を落ち着かせた。
「やっぱり、何にもないや」
葵は、押入れの戸を閉めた。
「次は机」
机の引き出しを全部出しだが、ここもまた、何もなかった。
「ここも、何にもないじゃん」
しゃがみこむと、足元スペースに、厚いファイルの様なものが見えた。
「えっ!何だろ⁈」
椅子を引き、厚いファイルを取り出した。表紙をめくると、写真が入っていた。
「アルバムだ」
制服姿の女の子が何人も写っていた。写真には、メッセージが添付されていた。
「修学旅行。直美、栄子、里子」
3人写っている写真を見て、すぐ直美だと分かった。葵とそっくりな、末広がりの二重目、湾曲した鼻。学生時の直美は、髪が胸元位まで長かった。葵は、ショートカットだが、髪が長ければ、直美によく似ている。葵は複雑な想いだった。親子ではない証拠探しは、軽い気持ちでやっていた。母親がいるのに、本当は叔母と親子だったなんて馬鹿げてる。そんな話、聞いた事もない。あり得ない。そんな気持ちとは裏腹に、出てきた証拠は事実を証明しているようだった。葵は両親、妹とはあまり顔が似ていない。顔だけで決めつける事ではないと、葛藤を押し殺した。偽証拠から逃げるように、アルバムを足元スペースに急いで戻した。そして逃げるように部屋から出ていった。
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