偽りの家族

くるみ

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「これが全てだよ」
直美は、深く息を吐きながら項垂れた。
「本当に、おばさんが私のお母さんだったんだ」
「葵は、いつから気づいていたの?」
「小学校の高学年辺りかな。最初は、何となく叔母さんと顔が似てるなぁって思う位だった。本当の親子だったりしてって、半分冗談で調べたら…」
「それで、母子手帳で判明したって事か。母子手帳だけじゃ、親子だって分からないんじゃない?」
「字が違った。私のは、最初叔母さんの字だった。それで分かったの」
「私の字?」
「ごめんなさい。叔母さんの部屋に入ってアルバム見たんだ」
「あぁ?」
直美は気の抜けた返事をした。
「叔母さん。私を引き取れなかった理由は分かったけど。みゆちゃんは育てて、どうして、私は無理にでも育ててくれなかったの?」
葵は、一番気になっていた事を直美にぶつけた。
「一人では、もう自信がなかったの。それに、お父さんと結婚して、もう一度子供を育てたいと思った。葵は、育てられなかったけど、もう同じ過ちをしないように、みゆは絶対に育てようと思った」
「じゃあ、私は失敗作なんだ。まぁ、不倫男の血が入ってるしね。そりゃ、一緒に居たくないよね」
「そうゆう事じゃない!」
「もういいよ!私は、お母さんの子でも、叔母さんの子でもない事が分かった!ただの捨て子なんだから!」
葵は、立ち上がり、出口に向かった。直美は、葵を追いかけ、腕を掴んだ。
「どこに行くの⁉︎」
葵は、必死に直美の腕を振り払おうとした。
「帰る!離してよ!不倫女!」
直美の動きは、電源が切れたゲーム機の様に、一瞬にして止まった。葵も、直美の様子を見て、我に返った。怒りで興奮していた血が、少しずつ引いていた。
「ごめん。じゃあ、駅まで送るわ」
葵は、黙って頷いた。一刻も早く、直美から離れたかった。顔を見るだけでも、声を一瞬聞くだけでも、腹わたが煮え返りそうな位、直美への嫌悪が強く出た。直美がいるというだけで、この街も嫌いになってしまった。今すぐ走り出したかったが、道に迷い、嫌いな街をぐるぐるする事も嫌だった。それなら、さっさと直美に駅まで送ってもらい、この街をおさらばしようと葵は考えた。
車中では、無言を貫き、五分も経たずに駅に着いた。
「気をつけ」
バン!直美の挨拶が途中だったが、車のドアに怒りを込めた。振り向きもせず、駅に向かった。時刻表を見ると、30分後に電車が来るようだ。葵は、先に切符を買い、待合所の空いている席に座った。待合所には、5、6人の客が電車を待っていた。葵は
ため息を着いた。何度時計を見ても、針は大して進んでいなかった。外の様子を眺めて時間を潰したりした。駅なのに、人通りは少なく、むしろ車通りの方が多かった。外の景色にも飽きた頃に、駅員のアナウンスが流れた。外で待っていた学生が、いち早く改札口に並び、最初にいた人数より、3倍の人数が電車を待ち構えていた。葵は改札口を通り、電車に乗り込んだ。空いている席に座ると、ぐったり力が抜けた。窓際に頭を預け、ため息を漏らす。虚しさが溢れた。ずっと気になっていた叔母との関係が解決したと思ったら、違う問題が出てきた。今帰る家族は、自分だけ血が繋がっていない事を。
「知らなきゃ良かった」
電車が動き出し、体が小さく揺れた。電車には乗ったが、本当は帰りたくない。きっと、家族と自分の間に変な隙間ができる。それなら、帰らないで、このまま消えた方がいい。急に家族を受け入れられなくなった。血が繋がっていなくても、家族が葵を受け入れてくれるだろうという考えも嫌になった。ずっと堪えていた涙が、零雨のように流れた。嗚咽は堪えたが、静かな空間で何度も鼻をすすり、一人気まずかった。車内に何人いるのか確認する気にもならなかった。夕焼けが熱く眩しさを感じ、目を細めた。2時間電車に揺られ、駅に到着した。電車を降りたのは、葵含め四人程だった。夕日は沈みかけ、空は薄い青紫のグラデーションができていた。葵は、駅の外にあるベンチに腰をかけた。そして、無意識にため息をついた。駅前の交差点で、行き交う車をぼんやり眺めた。何分位経っただろうか、葵が利用した電車とは逆方向からの電車が駅に到着した。甲高い女子の声や、誰かをいじるチャラついた男の声が駅の中から飛んできた。葵は顔が見られないように下を向いた。多数の足音が、駅から出てきた。それぞれ、あいさつを交わして別れたのだろう。足音がほとんど聞こえなくなった頃、顔を上げた。
「何してんの?」
斜め後ろから聞こえた男の声に、心臓が破裂する程驚いた。驚きなから、勢いよく振り向く。そこには、楓が立っていた。
「あ、楓かぁ~。まじで、びっくりした~」
「今日休みじゃなかった?ここで、何してんの?」
「あ~いや別に」
葵は、楓から目を逸らした。
「帰らないの?」
「親迎えにくるから」
「じゃぁ、迎えに来るまで俺も待ってる」
「いやいやいや、遅くなるから帰って!」
「女子一人、暗い所に置いてたら危ないだろ」
楓の一言に胸がドキッと鳴った。
「あんた、そんなキャラだった?」
「元からだよ」
楓は、一人分のスペースを空けてベンチに座った。ベンチが少し沈んだ。車や歩行者の一人も通らず、辺りは静寂な空気に包まれた。葵は、楓の優しさと己のついた嘘に罪悪感を感じた。
「嘘」
葵は、小さく呟いた。
「ん?」
「親は迎えに来ないし、家には帰らないよ。だから、楓帰っていいよ」
「帰らないって、何かあったのか?家出か?」
「家出というか、家に居たくないの!」
「何で?」
葵の目に涙が浮かび、目を擦った。
「楓は、親と血が繋がってなかったら、どう思う?」
「えっ、ん~、ショックかな。親だと思ってたら、本当は違くて。別に親がいる訳で、さらにショックだな」
葵が黙ったままでいると、楓はその様子を悟った。
「まさか」
「私、お母さんの子じゃないの。本当の親は、お母さんの妹。しかも、不倫でできたみたい」
楓は、言葉が出ず、固まっていた。
「お母さんは、赤ちゃんの私を投げるに投げられなくて、今まで育ててくれたんだろうね」
「んな訳ないだろ!」
葵は、楓の手首の裾を掴んだ。そして、大粒の涙を溢しながら、楓を見つめた。
「でも、本当はお母さんに捨てられたくないの!」
葵は、声を出して泣き始めた。楓は、葵にピタリと寄り添い、背中を撫でた。すると、急にライトが二人を照らし出した。駅の駐車場に、車が止まった。そして、車から降りてきたのは、真由美だった。
「葵!」
葵は、泣きっ面の顔を上げた。
「お母さん!」
「直美から連絡があったの。帰りが遅いから心配したのよ!」
真由美は、葵の隣にいる楓を見た。
「もしかして、楓君⁈」
「はい、お久しぶりです」
楓は、軽く会釈をした。
「すっかり、大きくなったのね。葵を心配してくれたの?ありがとう。葵、帰って話をしよう」
葵は、黙って頷いた。立ち上がると楓を見た。楓も黙って頷いた。車に乗り込むと、メールの着信音がなった。メールを開くと、楓のものだった。
「落ち着いたら連絡しろよ!」
葵は携帯を閉じ、強く握りしめた。
家に到着すると、真由美に寝室に行くよう促された。
心ここに在らず、葵がぼんやり立ち尽くすと、真由美が寝室に入ってきた。
「座って」
二人は、ベッドに座った。
「葵、本当の事黙っていてごめんね。この事は、知られずに済んだら、墓場まで持っていくつもりだったけど、直美が話してしまったからね」
「お母さん、私どうしたら…」
「直美が、本当の母親だって聞いたんだよね?」
「えっ?うん」
真由美は、額に手を当てて、ため息を着いた。真由美に、どんな話だったか問われ、葵は直美から聞いた事を全て話した。
「葵、出来事は全て本当よ。でも、一つだけ違う事がある」
「違う事?」
「あなたの、本当の親は直美ではないわ」
少しの間、葵の思考が停止した。
「え⁈嘘⁈だって、叔母さんは、実の親は自分だって言ってたよ!それに、叔母さんとは顔が似てるし、母子手帳の字だって叔母さんだよ!叔母さんでなければ誰なの⁈」
真由美は、一度息を着いた。
「あなたの、本当の母親は亡くなった恵美よ」
予想外の名前が出てきて、葵はすぐに顔が出て来なかった。
「恵美って、交通事故で亡くなった、お母さんの一番下の妹だよね」
「うん。あなたを預かった時、直美も居たの。でも、直美は業績が見込まれて、九州への異動が決まっていた。直美は、家族の危機に、自分が一番協力出来なかった事を後悔していたわ。恵美が、不慮の事故で亡くなってしまって。もし、この日が来た時の為に、敵役を買ったの」
「敵役?どうして?何で、正直に言ってくれなかったの?私、叔母さんにあんな…」
葵は、昼間の事を思い出し、罪の意識に苛まれた。捨て子や不倫男、不倫女、直美を傷つける言葉を、怒りのままぶつけてしまっていた。
「私は正直に言っても良いと思ってた。でも、直美が、葵に死を受け入れる経験はさせたくない。死を受け入れる事は、私達が死んでからでもいいって。恨まれるだろうけど、自分が恵美になって、恵美の死を回避しようって」
真由美は、涙ぐみながら続けた。
「恵美の死を受け入れるのは、しばらく時間がかかったわ。目が覚めると、当たり前の日常が始まると思っていた。けど、恵美は硬く冷たいまま布団に寝ているの。目の前にいるのに、もう起きることはない。そして、この世からいなくなるの。確かに、こんな辛い思いするのは、私達だけでいいわ」
真由美は、葵の顔を見つめた。そして、葵の頬にそっと触れた。
「私も薄々だけど、葵は直美に似ているなって思った事があるわ。直美と恵美は、おばあちゃん似だけど。不思議ね。あなたは、直美に似ているわ」
葵は、頬に触れている真由美の手に触れた。
「葵、母子手帳の字って言うのは?」
葵は、母子手帳の字と直美のアルバムの字がそっくりだった事を話した。
「あなた、直美の部屋に入ったの?」
「勝手に入ってごめんなさい。どうしても気になって」
「あの部屋はね、直美と恵美が使っていたの。直美は、九州の人、おじさんと結婚して、家を出るって意味で、物をほとんど捨てたの。恵美のは…」
真由美は、頬から手を離すと、葵の手を握った。
「物があれば、恵美が成仏できないって、ほとんど捨ててしまったの。古い迷信信仰な親だったから、私達もそれで傷つけられたわ」
真由美は立ち上がると、衣装ケースを開けた。
「ごめんね。恵美の形見になるのが、これしかないの」
真由美が持っていた物は、母子手帳が入った花柄のポーチだった。
「いらない」
「えっ?」
「お母さんは、私のお母さんでいて!」
葵は、ポロポロ大粒の涙を溢した。
「家族の中で、私だけ血が繋がってないし、本当の事知ったら、お母さんに捨てられるんじゃないかって思って、怖くて、怖くて。本当の親はお母さんがいい!お母さんは私のお母さんでいて!」
葵は、泣きながら必死に訴え、真由美は、葵を強く抱きしめた。
「バカ!血なんて関係ない!お母さんが葵を捨てる訳ないじゃない。こんなに可愛い子。お母さんも、葵が本当のことを知ったら、離れていくんじゃないかと思って、すごく、すごく不安だった。でも、良かった。これからも、ずっと葵のお母さんでいれるね」
葵は、真由美の腕の中で大きく頷いた。二人はしばらく抱き合った。真由美の温もりが、とても心地良く、次第に葵の気持ちが落ち着いていった。
「葵、お腹空いてない?ご飯にしよう」
「うん。あ、ちょっと、待って。お母さん、叔母さんに電話したいから、携帯貸してちょうだい」
真由美は、葵に携帯を渡すと、夕食の準備で先に部屋を出た。葵は、電話帳の画面を開き、直美の番号にかけた。
「もしもし」
「もしもし、おばさん。葵だけど。あの、お母さんから本当の事聞いたよ」
「そう」
直美の声は、深海の暗闇程深く暗かった。
「あの…叔母さん!あの時、酷いこと言って、ごめんなさい!叔母さんは、ずっと、私を守ってくれたのに。私、知らないで酷い事言った。本当にごめんなさい!」
電話の向こうから、春風の様な暖かく、優しいものが流れた。
「いいよ。こうなるのは、覚悟してた事だからね。それより、お姉ちゃんとは大丈夫だった?」
直美の声色が、少しずつ明るさを取り戻している。
「大丈夫。ちゃんと、気持ちは伝えたから。叔母さん、今まで守ってくれてありがとう。大好きだよ」
「私も葵の事大好きだよ。今度、ちゃんとランチ行こうね」
「うん!じゃあ、またね」
直美の電話わ切った後、ある人物を思い出した。葵は、自分の携帯を開き、メールを打ち込んだ。
「心配かけてごめん!何とか落ち着いたよ」
楓からの返事は、すぐに返ってきた。
「良かったな!後で、ジュースおごれよ!」
葵は泣き腫らした顔で、うまく笑顔が作れなかったが、ゆっくり微笑んだ。
リビングに入ると、父親と百合が、ソファーで並んでテレビを見ていた。普段は、父はテレビ、百合は携帯を見ていて、二人とも離れてソファーに座っているが、今日は葵の様子を察したのか、並んでテレビを見ていた。
「葵、ご飯食べて。だし巻き卵作ったから」
出来立てのだし巻き玉子は、ホワホワと湯気を立てていた。葵は、テーブル席に座り、手を合わせた。
「頂きます」
大好きなだし巻き卵を頬張る。痛めた心に、優しく沁みいり、とても美味しい。
「お母さんも頂きます」
真由美は、葵の向かいに座り、箸を取った。少食の真由美のご飯茶碗には、3口分程のご飯しか入っていなかった。
食事を終えると、葵は恵美の写真を見つめた。この人が本当のお母さん。葵は、写真に向かって、手を合わせた。今まで、お母さんだと気づかなくてごめんなさい。産んでくれて、守ってくれてありがとう。私は今最高に幸せだよ。本当のお母さん、ありがとう。大好きだよ。
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