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イオが戻ってきたのはほどなくの事で、いったいどうやってかなりの距離をあっという間にどうしたのだろうか、という疑問が頭に浮かんでしまった。
だがそれ以上に気になったのは、彼の傷だった。
「出血が増えていらっしゃいます」
彼女の指摘の通り、出血の量は明らかに増えていた。滴り落ちる血の量が、ずっと多くなっているのだ。
「麻痺しているから一層血が流れていらっしゃるのですか?」
パルミラの言葉に、イオが眉を一瞬だけ動かした。
「そんなものによく気付いたな」
「それだけ血が滴っていれば誰だって、気付くに決まっています。……あの、本当に差し出がましいとは思います、でも傷に新しい布を巻かせてはいただけませんか」
その言葉を聞き、イオが厳しい唇を開く。
投げかけられたのは疑問の言葉だった。
「お前がそうする理由はなんだ? お前は何が望みなんだ」
「一晩凍える場所から助けていただいたのです。だから手当をしたいと思うのはそんなにもおかしい事でしょうか」
「おかしい事だな、俺の事を知っていれば、なおさらおかしい事だと誰でもいうだろう」
否定されたパルミラは、イオをまっすぐに見つめて言い切った。
「私はあなたを存じませんもの。私が知っているのは、あなたがどこのものとも知れない女を、哀れんで、凍える外の雪の世界から、建物の中に入れてくれて、毛皮を敷いて寝かせてくれるほどの優しい方だという事くらいです」
「俺が、お前を利用するために助けたとは、思わないのか? 欠片も?」
「私には、見ての通りのものしか持ち合わせがございません。私を利用するといった所で、何に利用するのでしょう。私は着の身着のままのものしか持っていません」
「お前は見た目が美しいものを持っている。売り飛ばすために手元に置いたとは?」
「そんな事を口でおっしゃる方が、そのような事を私にするとは思い難いのです」
そう言った物は隠しておくものであり、こうやって質問を投げかける形で知られてはいけない物のはずだったのだ。
そのため、彼女はこういう事を言えたのだ。
「……出血が本当にひどくなっていらっしゃいます。手当をさせてください」
パルミラの泣き落としに似た懇願に、ようやくイオが頷いた。
「傷を見ても、悲鳴をあげたりするなよ。……そこの棚に使っていない布と、消毒用の度数の強い酒がある。それを持ってこい」
「はい」
パルミラは言われた棚から、明らかに包帯用の布やあて布、そして消毒用のきつい度数の酒を取り出し、胡坐をかいて座る彼の脇に座り込んだ。
外套を脱ぐと、その出血がいかにひどいものか明白であり、包帯を解いていくだけでも、彼女の指に赤い色がたっぷりとつくほどだ。
「あなたはこんなに血を流しているのに、あちこち歩いていらっしゃるのですか? 馬鹿なのですか? 出血多量で死んでしまいますよ」
「これしきでは命が終わったりはしない」
一瞬彼をとてもひっぱたきたくなったパルミラであるが、ぐっと飲み込んで、あて布までをやっと外した。
「化膿なんて物じゃ済みませんよ、腐りそうな傷ではありませんか」
右の首筋と肩甲骨の間に、何かが刺さっている。
そしてその周囲は真っ赤に腫れ上がり、てらてらと光沢をまとい、じわじわと膿をにじませ、さらにはとめどなく血を滴らせていた。
「何か刺さったままではありませんか! 抜かなければ良くなるものもよくなりませんよ!」
「誰も抜けなかったものだ」
「触れても?」
「お前が何かできるとは思えないのだが」
「許可されたと思いますよ」
そう言って、パルミラはその何かに指先を当てた。
すると、どろりと鈍い銀色に、毒々しいくらいの赤錆色が、傷から滴り落ち、彼女がその近くに添えていたあて布に、しみ込んでいった。
「刺さっていた物は取れたと思います。膿を出し切ります。痛いですが、ぐっとこらえてください」
「……」
イオは愕然とした顔で、彼女の事を見ていた。
だがそれ以上に気になったのは、彼の傷だった。
「出血が増えていらっしゃいます」
彼女の指摘の通り、出血の量は明らかに増えていた。滴り落ちる血の量が、ずっと多くなっているのだ。
「麻痺しているから一層血が流れていらっしゃるのですか?」
パルミラの言葉に、イオが眉を一瞬だけ動かした。
「そんなものによく気付いたな」
「それだけ血が滴っていれば誰だって、気付くに決まっています。……あの、本当に差し出がましいとは思います、でも傷に新しい布を巻かせてはいただけませんか」
その言葉を聞き、イオが厳しい唇を開く。
投げかけられたのは疑問の言葉だった。
「お前がそうする理由はなんだ? お前は何が望みなんだ」
「一晩凍える場所から助けていただいたのです。だから手当をしたいと思うのはそんなにもおかしい事でしょうか」
「おかしい事だな、俺の事を知っていれば、なおさらおかしい事だと誰でもいうだろう」
否定されたパルミラは、イオをまっすぐに見つめて言い切った。
「私はあなたを存じませんもの。私が知っているのは、あなたがどこのものとも知れない女を、哀れんで、凍える外の雪の世界から、建物の中に入れてくれて、毛皮を敷いて寝かせてくれるほどの優しい方だという事くらいです」
「俺が、お前を利用するために助けたとは、思わないのか? 欠片も?」
「私には、見ての通りのものしか持ち合わせがございません。私を利用するといった所で、何に利用するのでしょう。私は着の身着のままのものしか持っていません」
「お前は見た目が美しいものを持っている。売り飛ばすために手元に置いたとは?」
「そんな事を口でおっしゃる方が、そのような事を私にするとは思い難いのです」
そう言った物は隠しておくものであり、こうやって質問を投げかける形で知られてはいけない物のはずだったのだ。
そのため、彼女はこういう事を言えたのだ。
「……出血が本当にひどくなっていらっしゃいます。手当をさせてください」
パルミラの泣き落としに似た懇願に、ようやくイオが頷いた。
「傷を見ても、悲鳴をあげたりするなよ。……そこの棚に使っていない布と、消毒用の度数の強い酒がある。それを持ってこい」
「はい」
パルミラは言われた棚から、明らかに包帯用の布やあて布、そして消毒用のきつい度数の酒を取り出し、胡坐をかいて座る彼の脇に座り込んだ。
外套を脱ぐと、その出血がいかにひどいものか明白であり、包帯を解いていくだけでも、彼女の指に赤い色がたっぷりとつくほどだ。
「あなたはこんなに血を流しているのに、あちこち歩いていらっしゃるのですか? 馬鹿なのですか? 出血多量で死んでしまいますよ」
「これしきでは命が終わったりはしない」
一瞬彼をとてもひっぱたきたくなったパルミラであるが、ぐっと飲み込んで、あて布までをやっと外した。
「化膿なんて物じゃ済みませんよ、腐りそうな傷ではありませんか」
右の首筋と肩甲骨の間に、何かが刺さっている。
そしてその周囲は真っ赤に腫れ上がり、てらてらと光沢をまとい、じわじわと膿をにじませ、さらにはとめどなく血を滴らせていた。
「何か刺さったままではありませんか! 抜かなければ良くなるものもよくなりませんよ!」
「誰も抜けなかったものだ」
「触れても?」
「お前が何かできるとは思えないのだが」
「許可されたと思いますよ」
そう言って、パルミラはその何かに指先を当てた。
すると、どろりと鈍い銀色に、毒々しいくらいの赤錆色が、傷から滴り落ち、彼女がその近くに添えていたあて布に、しみ込んでいった。
「刺さっていた物は取れたと思います。膿を出し切ります。痛いですが、ぐっとこらえてください」
「……」
イオは愕然とした顔で、彼女の事を見ていた。
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