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幕間6
閑話6
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花の王。それは歴史を紐解けば行き着く、ラジャラウトスの君臨者。彼は息を吐き出した。
大輪の花を咲かす、あでやかな、それは艶やかな王だという。魔神とも、魔王とも。果ては邪悪ですらなく、聖なる存在であるとも伝えられている存在。
かの王はラジャラウトス第一期、最も国を繁栄させた王だったとされている。
しかし花の王は、古代クレセリア帝国を水の中に沈めた、ゆえに邪悪という見方が強い存在でもあった。
かの者の美しさは、並ぶものなくそれだけは、あの男と共通している。
見てみたいなどと思った事はない、華の帝。王魚とあらそい敗北し、封じられた理由は諸説あるが、一説では王魚に恋をしたからだとまで言われている。それが阿呆らしいと思うのは、何も彼だけではないだろう。
彼とて、恋をしたから敗北するなど、到底あり得ないと思っていた。ついこの間までは。
恋と言う物が、どれだけの力を持って心に宿るのかを知らなかった昨年までは。
しかしそれでも業深いと思う。王魚は花の王とは対極にいる存在だ。二つは相いれないし交わる事も出来ない。喰いあい潰しあう事しかできないのだ。
彼はそんな事を思って息を吐き出した。思ったよりも根を詰めすぎたらしい。
反乱は収まり、しかしそれ相当の犠牲者を出してしまった。補償や追加手当、軍隊の組み直し。彼の肩にのしかかる物はどれも重要で、山積みときていた。
そんな物に追われた頭に、赤い髪が翻った。あの男とは違う、燃えそうな緋色の髪だ。
その髪が翻った。笑い声まで聞こえてきそうなほど、彼はその髪の持ち主をありありと思い浮かべる事が出来た。
恋などと言えば聞こえの言い物だ。自分はあの緋色に毒されている。
会いたい、声が聴きたい、果ては抱きしめて接吻をし……妄想はもう重度だった。
あのためらいという物を知らない強い瞳にとらえられて、離す事などとてもできない。
やや遅れて脳裏に浮かんだのは、闇のように明かり一つない漆黒の大男だった。炎の傍らに影ができるように、あの猩々緋の脇煮る大男。――――あれが人の道理から外れている物だという事は一目見てわかっていた。あれは人ではない。もっと恐ろしい、とんでもない物。
しかしあれはとても大事そうに、あの紅色を守るのだ。
そこにあるのは、その二人にあるのは自分にとってありがたい事に、恋情ではない。あの間にあるのはどこまでも信頼。
「……」
報告書をさばいていく。諜報員からの連絡が入って来たのは午前中で、バスチアで花の王が目覚めたという報告だった。
封印が解かれたのだろう。歴史だけならば長いこの国は、たかだか数百年前にできたバスチアなどよりも隠された真実が残されている。
何しろラジャラウトスは、古代クレセリアがあった時代からあり続けた超大国なのだ。
彼は記憶を漁る。
花の王の封印は実はもろい。もろくもなかなか解除できず、しかし封印を解く条件はただ一つ。
七つの民の血を引く王が、玉座に座る事、これだ。
それは花の王が七つの血を引く乙女に封じられたからとも、花の王自身が七つの民の出身だったからとも言われている。
とにかく七つの民の血は、花の王と共鳴し合いやすい血だ。
だが女児が生まれる事が滅多になく、女に生まれたからゆえに、自分が七つの民だと知らない女も多いと聞いた。
そして血は薄まっていく一方だとも。
つまりそこなのだ。あの国の古文書で、王の血を継がない王が玉座に座る事で花の王が目覚めるとされた理由は。
男しか生まれないと言われている部族の血を王族が引くためには、王ではなく七つの民の男に股を開かなければならない。
つまり、王族ではない妃などが、七つの民の男に身を任せる事でしか条件は満たされないと、言う事なのだ。
それがありえないと彼は知っていた。
そして一際美しい娘を思い浮かべた。あの美しさは七つの民の血を引くのが間違いない美しさだった。七つの民は総じて、美貌が多い。
人間離れした美。七つの民が古い時代に、魔性に属するとされた理由だ。
傾城、傾世。まあ、血をひかずとも馬鹿らしいほど美しい男もいたわけだが。
思考がかすかにずれた。同じ両親から生まれた双子。しかし外面は天と地ほどの差ができた。死んだ男を思い浮かべると、記憶は美化され美しさだけが脳裏に思い浮かぶ。
かちゃりと扉が開く音に首を巡らせる。そして書類にサインをしていた手が滑り、インクが紙を汚した。
何故ここに、何故今になって。
混乱しそうな頭、ありえないと訴えて来る常識。唖然と見つめていると、相手は苦笑いをした。
そうだ、この男は自分以外の前では表情を滅多に動かさなかった。
「ああ、お前は今も無理をして。これだからこの身の弟は、しょうもない」
「……何故、生きて」
「この身の生死などどうでもよかろ。バーティミウスはバスチアに。あの娘が好きなのであろう、行ってやれ。あの娘を手に入れたいのならばな」
バーティミウス、とその名前を読んだ時だけ、その相手の顔はわずかに優しくなる。
「お前はいいのか」
お前は思っていないのか。そう言う疑問を投げつけると、相手は笑う。何を言っているのかと言いたげな表情をして笑う。
「あれは友人だ。最初から最後まで友人にしかなりえない。あれとともにいると心が温かくなるがそれだけだ。お前のように求めようなど思わない。背中合わせの友人だ」
笑いながら言い、傾世は彼の顔を覗き込んだ。
「さてはて、いかようにする? わが弟よ」
大輪の花を咲かす、あでやかな、それは艶やかな王だという。魔神とも、魔王とも。果ては邪悪ですらなく、聖なる存在であるとも伝えられている存在。
かの王はラジャラウトス第一期、最も国を繁栄させた王だったとされている。
しかし花の王は、古代クレセリア帝国を水の中に沈めた、ゆえに邪悪という見方が強い存在でもあった。
かの者の美しさは、並ぶものなくそれだけは、あの男と共通している。
見てみたいなどと思った事はない、華の帝。王魚とあらそい敗北し、封じられた理由は諸説あるが、一説では王魚に恋をしたからだとまで言われている。それが阿呆らしいと思うのは、何も彼だけではないだろう。
彼とて、恋をしたから敗北するなど、到底あり得ないと思っていた。ついこの間までは。
恋と言う物が、どれだけの力を持って心に宿るのかを知らなかった昨年までは。
しかしそれでも業深いと思う。王魚は花の王とは対極にいる存在だ。二つは相いれないし交わる事も出来ない。喰いあい潰しあう事しかできないのだ。
彼はそんな事を思って息を吐き出した。思ったよりも根を詰めすぎたらしい。
反乱は収まり、しかしそれ相当の犠牲者を出してしまった。補償や追加手当、軍隊の組み直し。彼の肩にのしかかる物はどれも重要で、山積みときていた。
そんな物に追われた頭に、赤い髪が翻った。あの男とは違う、燃えそうな緋色の髪だ。
その髪が翻った。笑い声まで聞こえてきそうなほど、彼はその髪の持ち主をありありと思い浮かべる事が出来た。
恋などと言えば聞こえの言い物だ。自分はあの緋色に毒されている。
会いたい、声が聴きたい、果ては抱きしめて接吻をし……妄想はもう重度だった。
あのためらいという物を知らない強い瞳にとらえられて、離す事などとてもできない。
やや遅れて脳裏に浮かんだのは、闇のように明かり一つない漆黒の大男だった。炎の傍らに影ができるように、あの猩々緋の脇煮る大男。――――あれが人の道理から外れている物だという事は一目見てわかっていた。あれは人ではない。もっと恐ろしい、とんでもない物。
しかしあれはとても大事そうに、あの紅色を守るのだ。
そこにあるのは、その二人にあるのは自分にとってありがたい事に、恋情ではない。あの間にあるのはどこまでも信頼。
「……」
報告書をさばいていく。諜報員からの連絡が入って来たのは午前中で、バスチアで花の王が目覚めたという報告だった。
封印が解かれたのだろう。歴史だけならば長いこの国は、たかだか数百年前にできたバスチアなどよりも隠された真実が残されている。
何しろラジャラウトスは、古代クレセリアがあった時代からあり続けた超大国なのだ。
彼は記憶を漁る。
花の王の封印は実はもろい。もろくもなかなか解除できず、しかし封印を解く条件はただ一つ。
七つの民の血を引く王が、玉座に座る事、これだ。
それは花の王が七つの血を引く乙女に封じられたからとも、花の王自身が七つの民の出身だったからとも言われている。
とにかく七つの民の血は、花の王と共鳴し合いやすい血だ。
だが女児が生まれる事が滅多になく、女に生まれたからゆえに、自分が七つの民だと知らない女も多いと聞いた。
そして血は薄まっていく一方だとも。
つまりそこなのだ。あの国の古文書で、王の血を継がない王が玉座に座る事で花の王が目覚めるとされた理由は。
男しか生まれないと言われている部族の血を王族が引くためには、王ではなく七つの民の男に股を開かなければならない。
つまり、王族ではない妃などが、七つの民の男に身を任せる事でしか条件は満たされないと、言う事なのだ。
それがありえないと彼は知っていた。
そして一際美しい娘を思い浮かべた。あの美しさは七つの民の血を引くのが間違いない美しさだった。七つの民は総じて、美貌が多い。
人間離れした美。七つの民が古い時代に、魔性に属するとされた理由だ。
傾城、傾世。まあ、血をひかずとも馬鹿らしいほど美しい男もいたわけだが。
思考がかすかにずれた。同じ両親から生まれた双子。しかし外面は天と地ほどの差ができた。死んだ男を思い浮かべると、記憶は美化され美しさだけが脳裏に思い浮かぶ。
かちゃりと扉が開く音に首を巡らせる。そして書類にサインをしていた手が滑り、インクが紙を汚した。
何故ここに、何故今になって。
混乱しそうな頭、ありえないと訴えて来る常識。唖然と見つめていると、相手は苦笑いをした。
そうだ、この男は自分以外の前では表情を滅多に動かさなかった。
「ああ、お前は今も無理をして。これだからこの身の弟は、しょうもない」
「……何故、生きて」
「この身の生死などどうでもよかろ。バーティミウスはバスチアに。あの娘が好きなのであろう、行ってやれ。あの娘を手に入れたいのならばな」
バーティミウス、とその名前を読んだ時だけ、その相手の顔はわずかに優しくなる。
「お前はいいのか」
お前は思っていないのか。そう言う疑問を投げつけると、相手は笑う。何を言っているのかと言いたげな表情をして笑う。
「あれは友人だ。最初から最後まで友人にしかなりえない。あれとともにいると心が温かくなるがそれだけだ。お前のように求めようなど思わない。背中合わせの友人だ」
笑いながら言い、傾世は彼の顔を覗き込んだ。
「さてはて、いかようにする? わが弟よ」
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