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外伝集
その手を選べ、Femme fatale
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「あら、ずいぶんと汚い男じゃのう」
倒れ伏した体に、かけられた笑い声。その声に続く声は、咎めの声だ。
「陛下、このような者、捨ておきましょう」
「おやおや、天啓によればこの町のこの通りに、わらわの運命を変える何かしらが転がっているのじゃろう、神殿の託宣を疑うのかえ? わらわは分かるぞ、これが運命を変える何かしらじゃ」
「陛下。お戯れを」
「そのような言い合いは無駄じゃ、のうおぬし、わらわについてこないかえ?」
疲れた思いで顔を上げた。そこには身なりの豪奢な女が立っている。
豪奢な身なりは宮廷風衣装とでもいうのだろうか。平民の底辺に暮らしていた自分にとってみれば、それくらいしかわからない。
彼女はそれでも、覇気に満ちていた。圧倒される迫力は、断じてこの女が美しいからではないのだ。
そう、ずいぶんと太っている女だ。太っていて肌には消えないシミが点々と見受けられた。
さらに若くはない。見たところ四十を超えていそうだ。
金髪だからか、白髪は見受けられないのだが。目元の隠せないしわ、口元の乾いた感じが重ねてきた歳を知らせてくる。
それを化粧で隠さない潔さが、彼女の強さのようにも思えた。
そのだるまのような体形を包む衣装の豪華さや布地の多さから、この女の只者ではない感じが伝わってくる。
それ以上にこの女は並みの女ではない。
この女はいったい……わからない。
顔を上げしげしげと眺めていると、女が上機嫌の声で笑った。
「ついてきやれ、わらわがお前を飼ってやろうぞ」
底辺を這う生活で、まともな食事とまともな衣類を安息が得られる眠りの場所があるならば、飼われるのも悪くないだろう。
ちょうど足の骨を痛めて、しばらくまともな生活ができない予想が立っていたのだから。
「あんたは……」
「わらわの事じゃろう? おやおや飼い犬は主人の名前も知らぬようじゃ」
「知らねえよ、そんなもの」
この反論のどこがおもしろかったのだろうか。彼女は転がしたような笑い声をあげ、言った。
「わらわはアリアノーラ・トルメンタ・エンケリス。みなはわらわを女帝陛下と呼ぶのう」
絶句した。名前くらいは知っていた。この大国の……この強大無比の国の頂点。
そんな存在が、自分に手を伸ばすなど。
泥にまみれ、冷たく冷えた指先で、触れていいのか迷ったというのに、女帝は明るい笑顔を浮かべ、言った。
「ついてこないのならば、それまでじゃ、行くぞお前たち」
彼女は踵を返そうとする。その後を追うために残った力をかき集めた。
「お待ちください!!」
道は選んだ。彼女の子飼いになるという選択を、ためらうわけもなかった。
女帝は笑った。行動すら読んでいたらしい。
「ほれ、こやつはついてくる。今からおぬしはわらわの物じゃ、存分に楽しませてもらうぞえ?」
扇子をこちらのあごに突き付け、不敵にほほ笑む女帝様。
その笑顔が、どんな美姫よりも魅力的だと本気で考えた。
恋に落ちた音がした。
倒れ伏した体に、かけられた笑い声。その声に続く声は、咎めの声だ。
「陛下、このような者、捨ておきましょう」
「おやおや、天啓によればこの町のこの通りに、わらわの運命を変える何かしらが転がっているのじゃろう、神殿の託宣を疑うのかえ? わらわは分かるぞ、これが運命を変える何かしらじゃ」
「陛下。お戯れを」
「そのような言い合いは無駄じゃ、のうおぬし、わらわについてこないかえ?」
疲れた思いで顔を上げた。そこには身なりの豪奢な女が立っている。
豪奢な身なりは宮廷風衣装とでもいうのだろうか。平民の底辺に暮らしていた自分にとってみれば、それくらいしかわからない。
彼女はそれでも、覇気に満ちていた。圧倒される迫力は、断じてこの女が美しいからではないのだ。
そう、ずいぶんと太っている女だ。太っていて肌には消えないシミが点々と見受けられた。
さらに若くはない。見たところ四十を超えていそうだ。
金髪だからか、白髪は見受けられないのだが。目元の隠せないしわ、口元の乾いた感じが重ねてきた歳を知らせてくる。
それを化粧で隠さない潔さが、彼女の強さのようにも思えた。
そのだるまのような体形を包む衣装の豪華さや布地の多さから、この女の只者ではない感じが伝わってくる。
それ以上にこの女は並みの女ではない。
この女はいったい……わからない。
顔を上げしげしげと眺めていると、女が上機嫌の声で笑った。
「ついてきやれ、わらわがお前を飼ってやろうぞ」
底辺を這う生活で、まともな食事とまともな衣類を安息が得られる眠りの場所があるならば、飼われるのも悪くないだろう。
ちょうど足の骨を痛めて、しばらくまともな生活ができない予想が立っていたのだから。
「あんたは……」
「わらわの事じゃろう? おやおや飼い犬は主人の名前も知らぬようじゃ」
「知らねえよ、そんなもの」
この反論のどこがおもしろかったのだろうか。彼女は転がしたような笑い声をあげ、言った。
「わらわはアリアノーラ・トルメンタ・エンケリス。みなはわらわを女帝陛下と呼ぶのう」
絶句した。名前くらいは知っていた。この大国の……この強大無比の国の頂点。
そんな存在が、自分に手を伸ばすなど。
泥にまみれ、冷たく冷えた指先で、触れていいのか迷ったというのに、女帝は明るい笑顔を浮かべ、言った。
「ついてこないのならば、それまでじゃ、行くぞお前たち」
彼女は踵を返そうとする。その後を追うために残った力をかき集めた。
「お待ちください!!」
道は選んだ。彼女の子飼いになるという選択を、ためらうわけもなかった。
女帝は笑った。行動すら読んでいたらしい。
「ほれ、こやつはついてくる。今からおぬしはわらわの物じゃ、存分に楽しませてもらうぞえ?」
扇子をこちらのあごに突き付け、不敵にほほ笑む女帝様。
その笑顔が、どんな美姫よりも魅力的だと本気で考えた。
恋に落ちた音がした。
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