恋文配達人

ときしろ めぐみ

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 その日の放課後。今にも泣き出しそうだった空はついに涙をこぼし始めた。
「あーあー、やっぱり降ってきたか」
 昇降口で傘を開きながら真穂がぼやく。その横で伝子も傘を開いていた。
「……あんたさぁ、いつまでその傘つかってんの?」
「え?」
 伝子が開いたのは学童用の黄色い傘。小学校のときから愛用しているものらしい。
「だって、壊れてないし」
「ってゆーか、それでランドセル背負ってたらホント小学生だわ」
 その言葉に伝子はちょっとムッとして「ひっどーい」とむくれた。
「ごめんごめん。じゃ、いこっか」
 二人して雨の中に出ようとすると、聞き覚えのある低い声が後ろから聞こえた。
「ついてねぇな、雨かよ」
 振り返ると裕二が空を見上げてぼやいていた。
「どうしたんだ、裕二。まさか傘忘れたのか?」
「悪いかよ。あーあ、こんな日に限って折り畳みも忘れてるしよぉ」
 嫌いな野菜を目の前に出された子供のような顔で「しかたない」とぼやきつつ、鞄を頭に乗せて駆け出そうとする裕二。と、その時、突如目の前を黄色い物体がさえぎった。
「あ……あの、よかったら、こ、これを」
 伝子が自分の傘を震える手で差し出す。裕二はちょっと驚きながらも、ふざけつつ
「さすがにこれは恥ずかしいよ。それに、日向野さんはどうするんだい?」
「あ……えと、その……」
 伝子は次の言葉が見つからずしどろもどろになってうろたえた。その時、真穂が横からフォローに入る。
「だったらあたしの傘でも使うかい? もっとも、こっちのほうが恥ずかしいかもしんないけどね」
 真穂は実はかわいい物好きで(その中には伝子も含まれている?)、それが傘にもあらわれている。水玉模様にテディベアのイラストが入ったラブリーな傘だ。明らかにイヤそうな顔をする裕二に対し、真穂は「大丈夫、伝子はわたしの傘に入れてくから。アンタはこの傘持っていきな」と伝子の傘を奪い取り、裕二に押し付けた。
「じゃ、またな。ちゃんと洗って返せよ」
 そう言いつつ、あっけに取られている伝子の肩を引き寄せ、相合い傘でしとしと降る雨の中出て行った。
「ったく、傘をどう洗えってんだよ」
 裕二は苦笑しながらつぶやき、小さくなっていく真穂たちを見送った。そして二人が見えなくなった頃、裕二も諦めがついたのか、ひらがなで『いちねんいちくみ ひがのでんこ』とマジックで書かれた黄色い傘を差して帰途についた。
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