恋文配達人

ときしろ めぐみ

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「さ、どうぞどうぞです」
「じゃ、遠慮なくおっじゃましまーす」
 伝子の家は駅から程近い所にあるマンションの5階にあった。家に上がるとキッチンの方から伝子のお母さんが顔を出す。
「あら、いらっしゃい。久しぶりね、真穂ちゃん」
「どうも、ごぶさたしてます」
 伝子のお母さんは伝子とは対照的に背が高く、すらっと伸びた手足に、さっとまとめ上げた髪がよく似合う、主婦というよりはキャリアウーマン風の綺麗な女性だった。
「ゆっくりしていってね。あ、後でお茶を用意しますから」
「あ、はい。ありがとうございます」
 伝子のお母さんの前で、ちょっと緊張している真穂の手を引っ張って、「じゃ、真穂ちゃん、お部屋の方にいこ」と伝子が真穂を部屋の方へ案内する。
 真穂が伝子の家に来るのは半年ぶりくらいだが、相変わらずな部屋だった。何が相変わらずかというと、外見だけじゃなく部屋まで小学生女子っぽい。
「なんつーか、相変わらずオトメな部屋だねぇ」
「ちょっと、それどーゆー意味ですか」
「ぬいぐるみとか少女マンガ雑誌の付録をちゃんと作って置いてあるとことか」
 かわいらしい白いタンスの上にそんな色とりどりの小物が載っかっていたりする。
「そ……それはですねぇ……こないだ遊びに来た姪っ子が置いていったんです!」
 目をそらしバレバレのウソをつく伝子。
「まあ、いいや。とりあえず宿題かたづけちゃお」
 真穂はタンスの上の付録をもてあそびつつそう言う。
「そ……そうですね。今テーブルを用意するです」
 伝子は、折り畳み式の丸いテーブルを部屋の隅から引っ張り出してきて真ん中に置いた。そして二人は、教科書やノートを広げて、早速宿題にとりかかった。
「ねねっ、伝子、ここはどーいうことなの?」
「もう、真穂ちゃん、少しは自分で考えないとだめだよー」
「あはは、ごめんごめん」
 考えることを初めから放棄しているのか伝子に聞いてばかりの真穂。そんな感じで宿題を進めていると「伝子ちゃーん、ちょっと来てー」と伝子のお母さんがキッチンの方から呼ぶ声が聞こえた。
「はーい。ごめん、真穂ちゃん。ちょっと行ってくるね」
 そう言って伝子はテテッと部屋を出て、キッチンの方へ向かった。
 その間、真穂は宿題の手を休め、何げなく部屋の隅にあるピンクのゴミ箱の方へ目をやった。よく見ると、そこには何やら手紙のようなものが捨ててある。
「なんだろ?」
 好奇心を押さえきれない真穂は、部屋をキョロキョロと見回して誰もいないのを確かめると、「よーし、今のうちに……」とつぶやいて、ゴミ箱からクシャクシャになっている手紙をひょいと拾い上げて広げてみた。そして、ざっと読んでみる。
「これって……」
 その時、「おまたせー」と伝子がコーヒーとチーズケーキを持って部屋に戻って来た。真穂はあわててポケットに手紙を突っ込み、勉強していたふうに装う。
「さ、一休みしよ」
「あ、う……うん、そうだね」


 そうして、テーブルの上の教科書類をいったん床の上に寄せ、二人はティータイムにすることにした。
「真穂ちゃん、コーヒーにお砂糖はいくつ?」
「あ……ううん、今日はいいわ、いらない」
「どうしたの? 甘い物好きの真穂ちゃんが何も入れないなんて。ひょっとしてダイエット中?」
「あははは……うん、そんなとこ。ところでさぁ……」
 真穂はさっき見た手紙のことが引っ掛かっていたが、それを悟られないように何げない話を始めた。ドラマやファッション等の適当な話題で場を繋ぐ。そのせいか、ほどよい甘みと爽やかな酸味がベストマッチの伝子のお母さん特製チーズケーキもよく味わえなかった。
 そして、話が途切れた時を見計らい、思いついたように腕時計を見るふりをしながら、
「あ、ごめーん。そういえば私、今日急用があったんだ。ごちそうさま。じゃ、また明日ねー」
「あ、真穂ちゃん、まだ宿題終わってないよー?」
「だいじょーぶ、後は自分だけでなんとかするから」
 そう言って真穂は教科書やノートを鞄に放り込むと、逃げるようにそそくさと帰っていった。
「変な真穂ちゃん」
 伝子はカップに残った甘いミルクコーヒーを一口飲む。開けっ放しのドアを見つめながら、さっき出て行った真穂の変な様子を少し気にしたが、「ま、いっか」と宿題の残りを片付け始めた。
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