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鶏を買ったら……知り合いが増えた。

わからずや

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「なっ! 何でかわさないの! このままじゃ、ニクスごと切れちゃう」

「切れないよ」

 ルパの持っている剣の穂先はずたぼろになり、切れ味が落ちていた。そのため、硬い木に当たってもスパッと切れず、引っかかっている。

 結果、ルパは手に持っている剣が動かせなくなっていた。

「え、嘘っ! 引っかかってる」

 僕は剣が引っ掛かっている状態で木の棒を手頸の力を使ってひねる。すると、空中にいたルパも剣につられてひねられ、地面に叩きつけられた。

 ルパは仰向けになって全く動かない。

「ルパ、動かないの。このままだと腕を掴まれるよ」

「どうぞ、ご自由に!」

 ルパは両腕を天に突きだして、自ら負けを認めた。

「いいの? 今日は調子がいいんでしょ。僕は眠たくて調子が悪いよ。好機だと思うけど」

「今の私じゃこれ以上やっても勝てない。そう思った」

「そう。わかった」

 僕はルパの手を握り、立ち上がらせる。

「今日も僕の勝ちだね~」

 僕はニンマリと笑ってルパの体に着いた砂や草を払う。

「グぬぬ……。その顔、いつか悔しがらせてやる」

「はは……。そうなった時は僕の最後だろうね……」

 ルパはホルダーから金平糖の入った瓶を取り出し、僕に手渡してきた。

「どうしたの?」

「食べさせて」

「なんで?」

「その方が美味しい……」

「わかった」

 僕は瓶を受け取り、蓋を開けた。

 瓶の口から赤色の金平糖を出し、親指と人差し指で摘まむ。

「はい」

「アム……」

 ルパは金平糖を食べた。

「やっぱり……。この方が美味しく感じる」

「何でだろうね。でも、美味しいと思えるのなら別に気にしなくてもいいか」

 僕は瓶の蓋を閉じてルパに返した。

「さてと、生き残れたのは良かった。でも、ルパ。剣をこんなにボロボロにするなんて、本当はやっちゃダメなんだからね。真剣は一本でも凄く高いんだから、こんな使い方してたらすぐに買い替えないといけなくなる。そんな無駄な消費は出来ないから、ルパはその剣が壊れるまで練習用の武器として使うこと。わかった?」

「わ、わかった……」

 ルパは潔く了承した。

「わかったならもう何も言わないよ。さ、今日も鍛錬をして身を鍛えようじゃないか」

「当たり前。ニクスを倒すまで鍛錬する。遊んでる暇なんてない。絶対に倒してみせる!」

 ルパは僕に指をさして宣言する。

「ルパ。人に指をさしてはいけません」

「もう! いちいちうるさい! 私は人じゃないからいいの!」

 ルパは地面をドタドタと踏み、苛立ちを表に出した。

「早くその剣を返して」

「はいはい」

 僕は木の棒に引っかかっている剣を取り、ルパに手渡す。

「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ!」

 ルパは剣を手にした瞬間、素振りを始める。

「ルパ、剣を適当に振っても意味がないよ。一回一回完璧を目指してちゃんと振るんだ」

「わ、わかってるよ!」

 ルパが素振りを始めたので、僕も隣で素振りを始める。

「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ!」

 ただ真っ直ぐ丁寧に剣を振る。剣を振る音は聞こえず、風を切る音も聞こえない。

 僕が剣を振り始めると、ルパは剣を振るのを止めた。

「どうしたの?」

「な、何でもない。気にせずに続けて」

「そう……。なら、気にせず続けるよ」

 僕はルパに見られながら、剣を振り続けた。

 ルパの視線は僕の全体像をとらえ、口角を少し上げ、剣の柄をぎゅっと握ったあと、何か誇らしげな表情を浮かべて素振りを再開した。

 七日後。

 僕たちは荒野で剣の鍛錬をしていた。

「はぁ!!」

 ルパは剣を横に薙ぎ払ってくる。

「踏み込みが甘いよ。それじゃあ、短い剣は僕にとどかない」

 僕は後方に移動し、剣をかわそうとする。

「まだまだ!!」

 ルパは可動域がないにも拘わらず、無理に脚を動かして剣をとどかせようとしてきた。

「危ない!」

 僕は迫りくる剣を蹴り上げてルパの体に抱き着き、持ち上げる。

「ルパ、無理して動かしたら体を痛めるよ。今は練習なんだから、自分の限界を無理に超えようとしない」

「でもぉ……、って! 放せ! 咄嗟に紛れて抱き着いてくるな!」

 ルパは僕の腕の中でじたばたと暴れる。

「わかった。下すから、落ちついて」

 僕はルパを地面におろす。

「私なら、あれくらい問題ない! 獣族の体を舐めるな」

「人と獣族の体の作りはほぼ同じだよ。獣族の方が、筋力があるだけで動かせる可動域はほぼ一緒なんだ」

「そんな訳ない。だってほら、別に何とも……痛っ!」

 ルパは足踏みしようとしたら、顔を引きつらせる。

「あぁ、やっぱり、足首を痛めちゃったか」

 ルパは無理に踏み込んだせいで足首に大きな負荷がかかったらしい。

「今日はここまでだね。足首は無理に動かすと痛めやすいんだよ。あんな無茶な踏み込みをするから、痛めちゃったのかな。今度からは気をつけるんだよ」

「うぅ……。ジンジンする……」

 僕はルパの足を見る。僕の手の平よりも小さくて可愛らし足だった。

「あれ、ルパ、靴は?」

「靴? 履いてないけど」

「僕、草履を渡さなかった?」

「貰ってない」

「何だ。靴を履いていないなら、早く行ってよ。足裏を切ったら大変じゃないか」

「別に、靴が必要なかったから言わなかった。獣族は裸足も多い。戦うとき、靴だと踏み込みが難しい。もし、脱げたりしたら隙になるし、危ない」

「まぁ、そうかもしれないけど、履くのと履かないのとでは大分変ってくるよ。地面に危険な物が落ちてたり、砂利道とかを歩いたりする時は靴を履いたほうが良い。家に帰ったら作ってあげるね。今は足首の固定だけをする。薬草が森の近くに生えていないか見てくるから安静にしててよ」

「これくらい、何ともない。痛っ……」

 ルパは無理に立とうとした。

「もう、安静だって言ってるでしょ。はい。僕の背中に乗って」

「じ、自分で歩くからいい」

「いいから、早く乗って。これ以上怪我されても困るんだよ。無駄にプルスの炎をつかいたくないんだ。怪我してもすぐ治せるなんて思ってほしくないからね」

「ぴよ~。せっかく私の出番だと思って火を噴く準備体操してたのに~」

 プルスは翼を大きく羽ばたかせて呟いた。

「火を噴く準備体操って何?」

「息を吸って、吐く、を繰り返す運動です」

「それはただの深呼吸なのでは?」

「そうとも言いますね~」

 プルスは僕の頭でくつろいでいた。

「ニクスに触られたくない。だから、自分で歩く。痛っ!」

「もう、わからずや」

「ちょ!」

 僕はルパの両膝裏に左手を入れ、背中を右腕で支える。簡単に言うとお姫様抱っこをしてルパを持ち上げた。

「や、止めろ。こ、これ、恥ずかしい! 私は赤子じゃない!」

「暴れないの。これ以上足を痛めたら僕を倒せなくなるよ」

「そ、それは嫌だけど、これも嫌! 早く放して!」

「嫌だよ。ルパにはこれ以上怪我してほしくないからね」

「ハグ!!」

「痛っ!!」

 ルパは僕の右腕に噛みついてきた。だが、それでルパを放り投げるほど、僕は無責任じゃない。ルパが腕を噛んでいる間は声を出せないので、静かになる。その間に僕は家まで走る。
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