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新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。

良い者か敵か

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「ふふふっ! やった! やりましたよ~! とうとうあの白鼠に一泡ふかせてやりました! やっぱり主はすごいです!」

 プルスは頭の上でピョンピョン飛び跳ね、火を噴き嬉しがっている。僕としてはまたあんな怖い男と戦わせられなければいけないという恐怖が尽きない。いったいあの男は何者なんだ。白髪は何者なのかというのを考えるより前に、子供達を運ばなければ。

「ルパ、立てる?」

「う、うん……。でも怖すぎてちびっちゃった……」

「プルスに燃やしてもらえばいいよ。まずは子供達を病院に運ぼう。僕だけじゃ、一〇人も運べない。このままここに子供達を置いておくわけにもいかないし、ルパも手伝ってほしい」

「子供を運ぶの……。ま、まぁ……。子供なら何とか……」

 ルパは僕の手を取って立ち上がる。プルスはルパのショートパンツに火を噴き、水分だけを燃やした。

 子供を前、背中、両脇に抱える。同じようにルパも四人の子共を持った。あと二人はプルスが炎で持ち上げ、ついてきてくれるようだ。

「プルス、病院はどの方向にあるの?」

「南東の方にあります。火事が起きていた場所とは結構離れているので今行けば人に見られず子供を病院に置いてこれるかと」

「そうなんだ。なら、すぐにいこう。なんかこの格好、犯罪者みたいだし」

 僕とルパは子攫いのような状態なのでなるべく人に見られる訳にはいかない。プルスの指定する病院まで走り、子供達を看護師さんに託した。相手はいったい何が起こっているのかわからない状況だったが半場無理やり預け、僕達は病院を去る。

「ニクス、なんでそんなに急いでいるの?」

「何でって……、火事が広がっているからだよ。なぜか未だに火が消し止められていないようだし、街が混乱している。こんな時に犯罪が一番起きやすいんだ。さっきの白髪が誰かわからないし、もしかしたらこの場に何か悪い状況が起るかもしれない。出来るだけ状況を把握しておかないと対処が出来ないんだ」

「街の外に逃げないの? さっきみたいな怖い人がいるかもしれないんだよ」

「今の状況で逃げたら悪者扱いされるかもしれない。最悪逃げるけど、今は状況がおさまるまで静かな場所を見つけて身を隠そう」

「別に逃げても悪者扱いされないと思うけどなぁ……」

 僕とルパは火事が起こっている場所の近くにやってきた。すると、消防団の人達が倒れており、血をながしていた。

 予備兵らしき人達も倒れており、その周りには数名の黒いローブを着た男達がいたのだ。その中に白髪の男はいなかったが、何かを話している。全く聞き取れない。この火事は犯行的な仕業だったのだろうか……。そうなると黒色のローブ達は敵領の者達だと考えられる。

「ねえ、ニクス……。何であの人達は同じ種族なのに人を殺してるの……」

 ルパは狂気を見てしまった子供のように振るえ、僕にしがみ付いている。

「えっと……。領土争いというのがあって敵の領土を奪い取ろうとしている者達だからかな。火事で一気に街を燃やして翻弄させ、戦いを有利に進めようとしているんだ。火攻めって言う方法だよ……。でも、いったいどこの領土なんだ……」

「街の者達よ、聞け! 死にたく無ければ降伏しろ。我ら黒……」

 黒いローブを着ていた男は大きな声で話していた。だが、何かを名乗ろうとした時、白髪の悪魔(黒いローブ)が小さなナイフで喋っていた男の首を切り裂いた。

 右側の頸動脈を掻っ捌き、真っ赤な血が拭きだしている。あの量はもう助からない。他にもいた黒ローブ達は白髪の男に殺されて行った。何が起こっているのか全く以てわからない。仲間じゃないのか。

「ふわぁ~。めんど草……。白、これで仕事は終わり?」

「ああ。あとは帰るだけだ。黒いローブはもういらん。捨てて置け」

「ん~」

 白髪の男は血塗られた黒いローブを捨て、全身が真っ白の服に変わった……。ナイフから赤い血が滴り落ちているのを見ると高級店の料理人のようだ……。でも、どこか見覚えのある恰好だが、思い出せない。加えて状況も読めない。

「主、今なら不意打ちで倒せますよ。あっちは我々に気づいてません。投てきで倒しましょう」

 プルスは地面から嘴で石を拾い、僕に投げてくる。

 僕は受け取ったのはいいものの、白髪が良いやつか悪いやつか分からないし。いや、人を殺しているんだ。悪いやつなのかも。でも、敵国と戦っているガイアス兄さんだって人を殺しているようなものだし……。

 僕が迷っていると、目の前にナイフが飛んできた。手に持っている石で防ぐ。

「ほんっと、めんど。じゃあ、僕はもう帰るから~。後片付けはよろしく~」

「最適解、頭も切れるようだな。ほんと、面倒だ」

 白髪と白鼠は呟いてその場から消えた。

「ナイフを投げるなんて卑怯ですね!」

 プルスは投てきで倒そうと言ってきたにも拘わらず、相手が投てきしてきたら、激怒した。自分勝手な奴だ。

 血塗られたナイフが地面に落ちる。周りは大量の血と炎でてんやわんや。少しすると、騎士達が駆けつけ、消火活動に取り掛かった。

 街の炎が消され、死体も回収されて行った。騎士の発言をルパが聞き取っていたらしく、別の領土の者ではなく、氾濫組織の一味だったらしい。

 街の子共たちを狙った襲撃、又は潤っている資源、金品の強奪が目的と推測された。

 子供を殺そうとしていたあの白髪は氾濫組織を殺し逃亡した。

 敵か味方が変わらない人物だ。でも、ルパはその男のにおいを覚えたらしく、一キロ圏内なら嗅ぎ分けられるそうだ。もし、近くにあの男がいるのなら、知らせてくれるらしい。

「はぁ、プルス。神獣って何体いるの?」

「ざっと一二体います。ですが、契約していないと意味がないのでそう滅多に出会わないんですけどね。ま、死なない限り出会いますね」

「一二体……。つまり、あんな奴が一二人も……」

「いえ。神獣が悪かどうかは契約者によって決まります。契約者が常識人なら神獣も常識人のようになり、悪人なら神獣も悪人のようになります。ですが、元の特徴は変わりありません。白鼠はずるがしこく、不意打ちもいとわない残忍なやつです。あの白髪とは相性がよさそうですね」

 プルスはウキウキ気分で話している。どうも、神獣と相対出来て嬉しいみたいだ。
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