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新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。

凍る世界

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「ルパ、手伝って!」

「うん!」

 僕たちは展望台から飛び降り、一瞬だけ炎の翼を出して速度を落とす。
 僕は地面にふわりと着地したあと奴隷さん達の檻を掴む、鉄格子を燃やし、奴隷たちの脚についているくさびなども燃やした。

 僕は獣族の奴隷たちを解放する。この状況では奴隷商の者がどこにいるかわからず、全員の首に繋がっている鉄首輪も燃やした。

「イッタイナニヲシタ……」

 獣族の者が喋ったが僕はビースト語が分からないので何を言っているか理解できない。

「ルパ、なんて言ってるの?」

「いったい何をしたって。言ってる」

「全員の鉄首輪を燃やしました。今すぐ走って逃げてください。助かるかわかりませんが、無駄死にはしたくないでしょ」

「ゼンインノテツクビワヲモヤシマシタ。イマスグハシッテニゲテクダサイ。タスカルカワカリマセンガ、ムダジニハシタクナイデショ」

 ルパは僕の言葉をビースト語に直して通訳してくれた。

「……カンシャスル」

 獣族の男性が仲間らしき、者たちを連れて外に逃げる。子供や女性なども皆逃げた。

「あ、あり、が、と……」

 獣族の少女が抱き着いてきて感謝してくれた。今の僕には奴隷を逃がすことくらいしかできない。でも、希望は与えたい。

「絶対に行き伸びるんだよ。必ず助かる」

「ゼッタイニイキノビルンダヨ。カナラズタスカル」

 ルパは僕の言葉を繰り返した。

 少女はこくりと頭を動かし、思いっきり走っていった。

 僕は森の民(エルフ)が捕まっている檻も燃やし、獣族と同じように鉄首輪を燃やした。

「早く逃げてください。津波がすぐそこまで迫ってきています」

「…………」

 森の民は僕の言葉がわからないのか、泣きながら混乱している。今、どうしたらいいのか分からないらしい。僕は外に連れ出して、海とは反対方向に逃げるよう指をさして伝える。

「逃げろ! 今すぐに逃げるんだ! ルパ、ビースト語で翻訳して」

「う、うん! ニゲロ! イマスグニニゲルンダ!」

「ワ、ワカッタ。あ、ざます」

 森の民はビースト語ならわかったらしく、僕に頭を下げて仲間を連れて走っていく。多くの者が大人の女性で、少女は比較的少ない。逆に男性は少年ばかりだった。僕は森の民から熱いキスを何度も貰い、ルパに肩を噛まれ、無駄な流血をする。

 僕は続いて人の奴隷たちを解放していった。皆、萎縮しており、声を出すのも怖がっている。ほぼ子供で美人な女性が数名いるくらい。

 僕は檻を燃やし、奴隷たちを助ける。皆、あまりにも怖がっているので、どうしたら恐怖心なく、逃げてくれるだろうか。いや、その恐怖は忘れなくてもいい。

「皆、これから生きていくのは辛いかもしれないけど、生きるんだ。生きていればいいことがある。悪いことばかりの人生なんて嫌だろ。死に物狂いで生き残るんだ」

 僕は子供達の首についている鉄首輪を炎で燃やしていく。全てを燃やしきると、子供達はよろよろと立ち上がり、海とは反対方向に走って行く。

「あ、ありがとうございました。このお礼は必ず……」

「お礼なんて必要ないですから、自分が生き残ることだけを考えてください!」

 僕は女性の背中を押し、走らせる。

「ニクス、もうすぐそこまで津波が来てる! 私達も逃げないと飲み込まれちゃうよ!」

 ルパは僕の腕を引っ張り、早く逃げたいと言っているようでどうも、落ち着きがない。もちろん、焦らないといけないのはわかっている。でも、だからこそ、冷静にならないと。

「わかってる。でもルパ、ここは冷静になるんだ。どれだけ、焦っても状況は変わらない、必要なのは冷静になることで……」

「もう、そんなお説教は後! 早く逃げるよ!」

 僕はルパに腕を掴まれて、走る。体が上手く動かず、いつも以上に足が遅く本当にどうしようもないな。何もかも、悪い方向に状況が進む。

 僕はルパに腕を持たれ、引っ張られるようにして走る。後方を見ると、ディアさんが今でも魔法を放ち続けており、今にも倒れそうだ。

 ――本当にどれだけ魔法を放つ気なんだ。これ以上、魔法を放ち続けたらディアさんが逃げる時の魔力が無くなってしまう。

 僕は炎の翼さえ、発動できれば空中に浮遊できる。でも、ディアさんはそうもいかない。ペガサスが飛べなくなったら終わりだ。

「はぁあああああああああああああああっ!」

 ディアさんは大きな声を上げながら、魔法を放ち、少しずつ迫りくる津波の速度を遅くしていた。でも、進んできているのは変わりないので、魔力の無駄遣いのような気もする。って、何もできていな僕が言うのは駄目だな。どうすれば、この状況を変えられる。少しでもいい方向にもっていくにはどうしたらいい。考えろ、考えるんだ。

「はぁあああああああああああああああっ! くっ!」

 ディアさんを乗せているペガサスの体が傾いた。

「ディア! もう限界だ。これ以上は空中で飛んでいられない!」

「まだだぁ。まだ、あと少しなんだ。あと少しで、津波を止められる……」

「馬鹿野郎! 熱すぎにも、程度があるんだよ! さっさと戻らねえとお前が死ぬぞ!」

「ここまで着て諦める訳ないだろ! 全力の魔力をさっさと絞り出せ!」

「くっ! この熱血野郎! どうなっても知らねえからな!」

 ペガサスは銀色の輝きを放ち、ディアさんに魔力を送る。魔力はランスの先に続き、魔法となって津波に向った。

「はああああああああああああああああっ! 凍りやがれぇえええええええええ!」

 ディアさんは男気溢れる大声で叫ぶ。あまりにも男らしいので逆に惚れそうになった。魔法陣が二倍になり、出てくる魔法も二倍の大きさになる。津波は凍っては壊れ、凍っては壊れを繰り返しているものの、巨大な波が未だに押し寄せてくる。

「プルス、僕達も何か出来ないかな……」

「死なないで、となると今の主に出来ることはありません……」

「そうだよね……」

 僕はルパに手を引かれながら走るも、このまま逃げていてどうにかなるのかわからなかった。このまま逃げていても助かる見込みは少ない。

「ルパ、来て」

「ちょ、ニクス、何をするの」

 僕はルパを抱き寄せて炎の翼で浮遊する。魔法を発動などできない。ただ、飛び上がり、上空に浮遊するのが手いっぱいだった。何か出来る訳でもないが、一人より二人……。二人より三人……。数が多い方が出来ることも多いはず……。ただの足手まといになるかもしれないけど、出来ることは何かあるはずだ。

 ――止まれ! ヒヨコ野郎!

 ベガサスの方から、念話が送られて来た。
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