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新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。

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「もう! せっかく作ってるのに、料理が冷めるでしょ。早く食べてって」

 ルパは頬を膨らませながら怒っていた。

 僕は頭をペコペコと下げながら、磨いている途中の石を小さな箱に入れて保管する。その後、ルパのもとに向かい、ローテーブルに置かれた料理を一緒に食べる。

「ニクス、最近、何を熱心に作ってるの?」

「結婚指輪だよ」

「け、けけ、結婚! わ、私はまだ、了承してないのに!」

 ルパは頬を真っ赤にして叫ぶ。

「違う違う。ガイアス兄さんの結婚式に送ろうと思ってさ。相手はいい家柄のお嬢さんだって言うから、少しくらい見栄を張ってもいいかなって」

「な、何だ……。ニクスのお兄さんの結婚指輪か……。ん? 送る……。行かないの?」

「僕も行こうかどうか迷っているんだけど……、家を追い出されてるからさ、帰り辛くて」

「お兄さんの結婚式って大切なんじゃないの? わ、私のお兄ちゃんが結婚式をするって言ったら絶対に行くのに……」

 ルパは露骨に落ち込んだ。ルパのお兄さんはもう、この世界にいないのだ。

「ルパ……」

「ご、ごめん……。何でもない。別に気にしないで」

 ルパは僕に背を向けて眼の下を擦りまくっている。泣き顔を見られたくないようだ。

 僕とルパは午後から手紙を書くことにした。ルパはディアさんに、僕は家族宛てだ。

 ルパはルークス語がだいぶうまく書けるようになったので、手紙もスラスラと書いていく。まだ文字はいびつだが、難なく読めるくらいに綺麗だ。

「えっと……。ガイアス兄さんが家に戻ってくるのは八月から九月辺りか。そのあたりで結婚式をするとなると、手紙は速達便の方がいいな」

 僕は父さんに手紙を書く。

「アレス・ガリーナ様。拝啓 雨に濡れる朝顔の花が目に留まる季節になりました。その後、お変わりありませんか。おかげさまでこちらは元気に過ごしております。
 ガイアス兄さんの結婚式の件についてですが、私も共に参列してもよいかお伺いしたく、この度、手紙と言う形で連絡させていただきます。
 どうかお体を大事にお過ごしくださいますように。
 今年も半年が過ぎてしまいましたが、うかがえる機会がありましたら、実家に顔を出そうとおもいます。その時は快く受け入れていただけるとありがたいです。敬具」

「よし、書けた。でも、なんか硬いな……。もっと柔らかくした方がいいのかな……」

 僕はルパの書いている手紙を少し覗いてみる。すると、ありがとうとか、カッコよかったとか、また戦いたいとか、手紙の形に捕らわれず、自由に書いていた。相手に伝わるかは置いておいてとても自由で楽しそうだった。

「僕も兄さんには自由に書こうかな……」

 僕はクワルツ兄さんに手紙を書く。

 主に、ミートさんの話しとロミアさんの話を綴った。なんなら、あの二人のどちらかと結婚してくれてもいいと思えるくらい良い人たちなので、興味を持ってくれたら幸いだ。

 ガイアス兄さんには結婚のお祝いを手紙に書いた。それに沿えて祝い金でも送ろうかな。でも、ガイアス兄さんが結婚なんて今考えても少し笑ってしまう。
 ガイアス兄さんと僕は六歳くらい年が離れている。子供のころはよく遊んでくれていた気がする……。

 ガイアス兄さんは一五歳で家を出て騎士として戦場にでていた。
 長男が戦場で武功を上げ、生き残って帰ってくると家の存続に繋がるという古き風習を未だに受け継いでおり、弱小ながらガリーナ家は歴史が一応古い。

 昔は中級、上級貴族だった時もあるそうだが現在は安定の下級貴族だ。でも、ガイアス兄さんが中級騎士になったことでもしかすると家の位が一つ上がるかもしれない。騎士の階級が上がると王から給付金が貰える。まぁ、中級貴族に配られる給付金なんてたかが知れているけど……。

 僕は自分でお金を稼ぎ、今では小金持ちだ。本気で稼げば大金持ちにもなれる。でも、ならない。理由は単純にルパとプルス、僕の三名で小さな家に住んでいるだけで充分すぎるほど幸せだからだ。

 プルスは案の定、眠りこけており、よく飽きないなと思わざるを得ない。

 僕は封筒口に蝋を垂らし、プルスの足で踏みつける。蝋印にプルスの足型が浮かび上がっており、少々高級感が出た。

「ニクス、早く出しに行こう! ディアさんから手紙のお返事貰いたい!」

「直ぐに出しても返事は来ないよ。今日は雨だから、晴れの日にギルドに持って行こう。今日の残り時間は勉強だ」

「はぁ~い」

 ルパが書いた手紙と僕が書いた手紙を棚の上に置き、ローテーブルで勉強を始め、ルパと二人で知識を頭に定着させていく。

「魔法を使うには呪文と魔法陣の二種類がある。呪文は文字を読み、魔法が発生する。魔法陣の方は詠唱によって簡略化されているためすぐに魔法が放てる。ただし、威力には限度がある……。はぁ~、私も魔法使いたかったな……」

 ルパは魔法学を勉強しており、毎度毎度同じことを呟く。

 ルパには魔力がほぼ無く、魔法が使えない。その代り、獣族特有の超絶的な身体能力があるので、魔法を使える者とどっこいどっこいだ。

「ルパ、魔法にばかり目を向ける必要は無いよ。身体能力が高いのも魔法と同じくらい価値があると思う」

「だって魔法が使えたら、ニクスに勝てるかもしれないでしょ。ニクスは魔法が苦手だって言うし、今より強くなれそうなんだもん」

「ん~、今より強くなれるかどうかはわからないよ。どっちつかずで終わってしまう可能性だってある。ディアさんみたいに魔法と武術がどっちも卓越している場合はのぞいて普通どちらか一方を極めた方が強いと僕は思う」

「そうかな……」

「剣術が一〇〇上手い人がいたとして、剣と魔法が五〇ずつ上手い人がいるとする。合わせた数値はどちらも同じだけど、剣術が一〇〇の方が倒せる敵は多いんじゃないかな」

「ええ。色々使えた方が強いでしょ。ニクスを色んな方法で倒せるかもしれない」

 ルパは僕と対立していた。でも、だからこそ話が進む。

 僕達は話合いをした結果。剣と魔法を一〇〇使える者の方が強いという結果に至り、笑いあった。

次の日……。久しぶりに晴れたので、街のギルドに向かい、テリアさんに手紙を渡す。

 僕の実家宛てとディアさんがいる王都の騎士団宛てだ。僕の手紙は速達便でお願いすることにする。大体一ヶ月くらいで家までとどくそうだ。速達でも時間が掛かるんだな。思うが、まだ十分間に合うだろう。
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