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新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。

新たな旅

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 体をプルスに乾かしてもらい、明かりもともしてもらう。

 二人が寝られるほどの地面を探し、焚火を作る。携帯食料の干し肉を齧って飢えをしのぐ。

「はぁ、旅は楽しいけど、料理がなぁ……」

「ルパは料理が上手くなっちゃったからね。僕もルパの料理が恋しいよ。旅先で料理が出来るといいんだけど、難しいよね」

「ニクス、私の料理が好きなの?」

「もちろん。僕はルパが好きだけど、ルパの料理も大好きだよ」

「ふ、ふ~ん。あっそ……。ただ焼いて調味料入れただけの粗末な料理が好きなんて変わってるね」

「何たってルパの愛情入りだからね。どんな料理でも美味しくなっちゃうよ」

「ば、馬鹿。愛情なんて入れてないし……。か、隠し味程度だし……」

 ルパは干し肉を齧りながら呟く。少し照れているルパも凄く可愛らしい。

「ハァ~熱々ですね~」

 プルスは意味深な発言をしてルパに潰された。
 ただ、焚火が熱そうだっただけかもしれないのに話も聞かず蚊を潰すみたいに躊躇が無かった。

「家に一度帰って出発の準備を整えようか。今回の旅で大分感覚がつかめたでしょ」

「うん。何となく……。怖いのは変わりないけど、旅が楽しいのはよくわかった」

 ルパは少し頷いて僕の方に近寄ってくる。体の側面がくっ付き合い、もの凄く近くにいる。

「毎日こんな風に野宿するのかな……」

「さぁ。宿があったらお金を払えば泊めてもらえると思うから、気にしすぎなくてもいいんじゃないかな」

「そうなんだ……。じゃあ、抱き合って寝れるんだね」

 ルパは僕の腕に抱き着いてくる。僕もルパに抱き着いて地面に横になった。

 朝目が覚めると雨が降っており、僕とルパはびしょぬれになっていた。炎の翼で家まで戻り、いったん休憩する。

 体を乾かして綺麗な服に着替えたあと雨が過ぎ去るのを待った。何もない時は石を削って時間を潰す。形を少しでも良くしようと心掛け、石の輝きを増させる。

 ルパは僕の手伝いをしてくれており、石を削るのが上手くなっていた。
 昔から行っているので手つきも似ている。
 ルパが下磨きを行い、僕が本磨きを行う。

 僕とルパで磨いた石が家の中には沢山あり、お気に入りの石は棚に飾ってある。売ったらお金になると思うが売る気はない。
 ルパとの共同作業で生み出した綺麗な石なのだから、僕達の子供みたいな存在だ。簡単に売れない。

 プルスの糞も大量にあり、すでに三六五個以上が籠のなかに入っている。

 ガイアス兄さんに渡す石も形が大分整ってきた。
 移動中に終わらせられたらいいのだけど、もしかしたら終わらないかもしれない。それだけ手を込んでいるのだ。

「ん~。こんな感じかな?」

「もう少し削った方がいいんじゃない。なんか歪んでいるように見える」

 僕はルパに石を見せると左側面をもう少し削った方がいいと指摘された。じっと見ていると確かに少し膨らんでいる。ルパに言われた通りに削ると形がピシッと安定した。

「ありがとう、ルパ。やっぱり感覚が鋭いね」

「どういたしまして」

 僕達は石を磨き、夜の間に出発の準備を整えた。

「よし、じゃあ、出発地点の街に移動するよ」

「今回もわざわざ街から移動するの?」

 ルパは大きな革袋を背負い、短剣を両腰に掛けている。ホットパンツにへそ出しの上着と胸当て。
 日光と砂を遮る薄手のローブを羽織っている。

「旅だからね、直接炎の翼で飛んで行ったら面白くないでしょ」

「面白い面白くない抜きにして行けるならすぐについたほうが楽で安全でしょ」

「それを言ったらおしまいだよ……。ま、確かに炎の翼で移動したら安全かもしれないけどさ、他の人に空を飛んでいる人間がいると知られたら不審がられるでしょ。何かの犯罪に巻き込まれるかもしれないし、地面を歩いたほうが鍛錬になるよ」

「むぅ……。確かに」

 ルパは僕にギュッとくっ付いて僕は炎の翼で高く飛び上がる。

「プルス、街まで移動してくれる」

「了解です」

 プルスの自動飛行で方角を知った僕は途中から自分で飛行するようにした。
 空中戦も想定して翼の動きを確認しておく。
 決して無理はせず、どこまでの動きなら、許容できるのかと調べておかないと後々危険だと思ったのだ。

 街まで三〇分ほどで到着した。
 この街に来るようになってもう一年経ったのかとしみじみ思う。

 テリアさんとルパは仲良しになり、街に来ると顔を合わせる仲になっていた。

「テリアさ~ん。私、怖いけどまた旅に行ってきます……」

 ルパはテリアさんにギュッと抱き着いて尻尾を振る。テリアさんは相当懐かれていた。

「そうなんだ、また寂しくなっちゃうな~。でもルパちゃん。旅は怖いだけじゃないからね。あとルパちゃんのすぐ近くには物凄く強いニクスさんがいるんだから大丈夫。ルパちゃんも日々、鍛えているんでしょ。だったら何も怖くないよ」

「私、ニクスの役にたてるかな。まだ、一度も倒せてないし、負けてばかりだけど大丈夫かな……。鍛錬が自分の力になってるのかわからないよ」

「大丈夫。ルパちゃんは強い。自分の弱さをしっかりと見つめられているんだから、絶対に強くなってるよ。私、戦いは専門外だけど、ルパちゃんは一年前よりも見違えてるよ」

「ありがとう、テリアさん。私、無事帰ってくる。ニクスに何かあっても絶対に足でまといにならない」

「ルパ、意気込みすぎなくてもいいからね。少しずつ少しずつが重要だよ。一気に強くなっても何も意味がない。自分の力に酔わないように着実に力をつけるんだ」

 僕はルパの頭を撫でて不安を解消してもらう。数秒後にルパはテリアさんから離れた。

 冒険者ギルドの中には新米冒険者の皆さんがおり、依頼を吟味している。
 グラスさんの指導もあり、今のところ死亡数が前年度より明らかに低いそうだ。

 不幸が重なって亡くなってしまう冒険者もいるそうだが、前年度の八分の一以下にまで死亡率が低下している。

 どれだけ指導が大切かわかり、使った時間の分だけ新人冒険者たちが成長している。
 死亡率が低ければ優秀な冒険者が新人を教えられるので、これからはもっと死亡率が下がるだろう。

「じゃあ、テリアさん。僕とルパは自分の兄の結婚式に出席してきます。王都にもよれたら向かうので何かお土産を買ってきますね」

「本当ですか。楽しみに待っていますね」

 テリアさんの眩しい笑顔は今ではギルドの看板そのものだ。

 多くの若者を虜にしてしまっているようだが、すでにグラスさんといい関係っぽい。グラスさんも隅に置けないな。
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