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仲間が増えた生活

散歩先

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「ふんっふんっふんっふんっー。お散歩、お散歩」

 ルパは僕の手を握りながら腕を大きく振り、意気揚々と歩いていた。

「はぁ、寒い……。手が凍ってしまいます……」

 ミアは僕の手を握り、体を出来るだけくっ付けながら歩く。彼女は寒がりなのでルパほど元気に歩けない。

 散歩をしていると、人通りのある繁華街にやってきた。屋台の料理が並び、湯気が黙々と立っている。もう、においからして美味しそうだ。

「はわわ……。もう匂いを嗅いだだけで美味しいってわかる……」

 ルパは鼻を鳴らし、お腹を摩る。丁度昼食時だったので屋台で料理を買い、食べようと言う話になった。

 僕はフラマンドと言う料理を購入。
 おじさんは木製の皿に煮込まれた大きな牛肉とマッシュルーム、玉ねぎなどの具材を入れ、ビーフシチューのような赤黒いスープを注いだ。一杯銅貨八枚ほど。僕は四杯頼み、銀貨三枚と銅貨二枚を支払う。

 簡易的に作られた木製のテーブルにルパとミアは座っており、料理を今か今かと待ちわびていた。木製の盆に四つの皿と木製のスプーンを置き、ルパ達のもとに持っていく。液体から白い湯気が立ち昇り、深みのある匂いが漂ってくる。

「いただきますっ!」

 僕達はフラマンドを食した。体に沁み渡る暖かいスープが玉ねぎの甘味と牛肉の脂を凝縮したような濃厚な味わいで、一口目から美味しい。
 牛肉がスプーンで解れてしまうほど柔らかい。口の中に入れるとほろりと蕩けた。あまりに美味しいので、プルス以外、あっと言う間に食してしまう。プルスは皿に盛られた灰を突いており、僕達と同じ味を感じられない。そう思うと不憫だ。

「ああー、美味しいぃ。もっと食べたい」

 ルパは口周りを汚すほど美味しかったのか、お替りを要求してきた。

「私ももっと食べたいです」

 ミアも要求してきた。

「まだほかにも多くの屋台があるけど、お腹を膨らませても良いの?」

「うぅ……。そう言われると、困る……。もう一杯食べたいし、他のお店の料理も食べたい」

「決めるのが難しいです……」

 ルパとミアはうんうんと唸りながら考えていた。
 お金の心配をする必要はないので、大いに考えてもらえばいいだろう。
 自分のお腹と相談し、ルパ達は一杯を半分にして食すことにしたそうだ。
 
 僕は了承し、おじさんにフラマンド一杯分のお金を払うと、二杯分出てきた。どうやらおまけのようだ。美味しく食べてもらって嬉しかったのだそう。

 僕はありがたくいただき、ルパとミアに一杯ずつ渡す。すると、驚きながらも、一杯食べられる嬉しさを噛み締め、二杯完食した。これで他の料理がお腹に入る量は減ったが、満足できたようなのでよしとしよう。

 その後も美味しそうな料理があるたびに食事をした。持って食べられる品は歩きながら、座ってないと食べられない品は座って料理を楽しむ。
 外は寒いが、歩きながら暖かい品を何度も食べているので消化熱による体温の上昇が起こり、体がぽかぽかだ。あまり食べすぎると夜食が入らなくなるため、腹八分目で終わらせた。

 ルパとミアはもっと食べたそうにしていたが、楽しみは残しておいた方が、幸福度が何倍も高い。

 午後三時頃、喫茶店に入り、暖かい店内で暖かい紅茶とケーキの組(セット)を購入した。僕はショートケーキ、ルパはモンブラン。ミアはチーズケーキを選び、チビチビと食べていく。

「んんーっ、おいひぃー」

 ルパは耳と尻尾を震わし、紅茶で口を潤す。そのまま息をほっと吐き、微笑む。その姿を見るだけで僕も心が温まった。

「ああー、口の中が幸せですー」

 ミアはチーズケーキを口に含み、紅茶を飲む。二名は甘いお菓子が大好きなので、ケーキも大好きだ。

 僕はプルスに生クリームを与える。だが、食べても味がわからず、空気を食べているようだと語る。

 僕はショートケーキのイチゴを残しながら、食べ進め、店内でおかれている記事を見た。

「一二月二五日、大量の死体がプルウィウス領で発見された。死体は原型をとどめておらず、何者かに食い散らかされているような形跡が見られる。犯人の情報は無く、今も逃走中。同じような事件が他の地域でも発生する可能性があり。何か情報を持っている者がいれば、情報を求む」

「プルウィウス領で大量殺人……」

 僕は橙兎と少女の姿が目に浮かぶ。彼女の仕業かわからないが、可能性が無くはない。

「金品の盗難事件がルークス王国の王都にて発生。容疑者不明。目撃者によると長身の男だったと語る」

 良い話はないのだろうかと調べるも「青髪の女性、誘拐されていた子供達を助ける。その後、犯人への極度の暴力行為を目にした一般市民が騎士に連絡。自称刑事が書類送検された」と言う話くらいしか、乗っていなかった。

 僕は余ったイチゴを食べようとした。だが、ガラス製の皿から甲高い音がなるだけで、イチゴが無かった。ルパとミアのどちらが食したのだろう。わからないが、口をもごもごさせている方に違いない。

「イチゴを食べたのは誰……?」

「プルス」

「ぴ、ぴよ。私はイチゴなんて食べていません。本当ですよ。信じてください」

 プルスは全否定していた。だが、よく見たら、皿に白っぽい灰が乗っている。

「はあ、食べたかったのに。まあ、イチゴを一つ食べられたくらいじゃ、怒りはしないよ」

 僕はプルスの顎下を撫で、許した。食べ物の味がしないのは辛いと思うし、気になったのならしょうがない。お金を払えば、また食べられるのだから、必要以上に怒る必要はない。

 ルパとミアはお替りが欲しいと言うので、銀貨一枚でケーキを買って来てもらう。僕はもういらないので、好きな品を他の出来たらと言い、送り出す。

 八分後、ルパとミアはイチゴが沢山乗ったケーキを買ってきた。皆で食べたいのだそうだ。
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