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本編
30,家出の理由を吐露する
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デュレクは紅茶を一口飲んでから、話し始めた。
「俺さあ、貴族の家に生まれてながら、貴族の子として扱われたことがないだろ」
太子御所からの戻る道すがら聞いた、左右の光彩が色違いのせいである。
(難儀な目を抱えて生まれてきたものだ。お互い様とも言えるが……)
思うところはあっても、セシルは黙って耳を傾ける。
「長らく、平民に紛れて生きているし、自分が貴族だって意識したこともない。意識したら、なんでこんな境遇って恨んでしまうだろ」
「恨めばいいだろ」
「嫌だよ。あいつらの問題を、なんで俺が背負わなければいけない」
「……」
「だからだよ。正直に言うと、宰相閣下と会っても、王太子殿下と会っても、どうしていいかわからなかった。
仕方ないから、俺は横にいたセシルの行動をなぞっていたんだ。どうしていいかわからない者は、慣れた人間の真似をするしかない。今ここで、一人で暮らすにはどうしたらいいか悩むセシルと変わらないだろ」
セシルは歪な笑みを浮かべる。
「そんなものかな」
「そういうものだよ。だからさ、この家で暮らすってどういうことか知ればいいじゃない。例えば、日常着なら、家で洗濯する。仕事着は洗濯屋に頼む。仕事が忙しいなら、下着以外は洗濯屋に頼めばいい。その辺はお金で解決できるだろ」
「お金と言えば、ここで厄介になるのに家賃はどうしたらいい? 幾ばくかでも支払う方が望ましいだろうか」
「実はこの家は、侯爵家で借り受けているから、俺の懐は痛まないようになっているんだよね」
「団長が支払っているのか?」
「支払いまでは分からない。近衛騎士副団長の公宅として借り上げているかもしれないし、ちょっとそこまでは確認してないや。
俺たちって『お前は、ここに住め』『はい、はい。わかりましたよ』って、関係だからさ」
「いい加減だな」
「そんなもんだよ、昔からね」
カップから手を離したデュレクが頬杖をつく。
セシルはデュレクの視線に気づき、カップを置き、改めて座りなおした。
「なにかあるか?」
「なあ。セシルは、なんで家を出たんだ」
「なんでって……」
セシルは口元に手を寄せた。
「言いたくないなら、いいけどさ……」
(言いたくない……、言いたくないことではある。しかし……)
セシルは、顔をあげた。両手を机に乗せて、拳を握る。深く息を吸い、吐きながら話しだした。
「簡単に言えば、使用人に婚約者を寝取られたからだな」
「それは、また……」
「仕向けたのは、父だ」
「またまた、よくも……」
「使用人は、父側の非嫡出子だ。瞳の色も私と一緒だ」
「……ごめん、聞いた俺が悪かった気がしてきた」
額に手を添えたデュレクが嘆息する。
そんな表情もセシルは淡々と受け止める。
「貴族の家はそんなものだろう。自分の胸に手を当てれば、分かるだろう」
「そりゃあね。俺も大概だと思うよ。でもさ、自分の境遇を受け止めることと、人の境遇を聞くことってのはちょっとは違うだろ。
セシルだって、自分の境遇はさておき、俺の背景を聞いて、どう思ったよ」
「瞳の色だけで子どもを差別するなんて、ひどい親だと思ったよ」
「だろ」
二人は沈黙する。
語るセシルに嫌な気持ちはなかった。
むしろ誰にも言えずにいることを話せて、すっと胸が透いていた。こんなに気安く言葉にできる日が早々と来るとは思わなかった。
(昨日から、不思議と縁のある男だな)
申し訳なさげに、紅茶をすする男をまじまじと見つめた。
(色んなことが違うはずなのに、どうしてこんなに似た一面ばかり見えてくるのだろう)
家のことはつい口を滑らせて、広まっては取り返しがつかない。勘繰られたくもない。噂の的にもされたくない。
必然的に、家庭のことこそ誰にも語れないものだ。
「デュレクだって私に言わなくていいことを話しただろう。同じじゃないか」
額に手を当てたデュレクが、眼球だけセシルに向ける。
褐色の眼に上目遣いでとらえられ、どきりとセシルの心臓が跳ねた。
「それだけ綺麗な眼をもつ子爵家のご令嬢が一夜の宿を求めて夜の街を歩いているなんて尋常じゃないからな。しかも、魔眼持ちだろ。絶対に、家が手放さないだろ。普通ならな」
「母が血統主義だった反発で、父は魔眼を持つ私が嫌いなのだ。母と重ねているとも考えられる」
「母親が血統主義なら、なんで騎士をやっているんだ。
まっとうに考えれば、浄化の魔眼を持つ子爵家は、僧侶や巫女という聖職者然とした職に就くことが一般的なのに」
「それは、私が幼少期に誘拐されたせいだよ。もちろん、原因は瞳の色だ」
真顔で淡々と答えるセシルに対し、デュレクはまたいらないことを聞いてしまったと気まずいの表情を浮かべた。
「俺さあ、貴族の家に生まれてながら、貴族の子として扱われたことがないだろ」
太子御所からの戻る道すがら聞いた、左右の光彩が色違いのせいである。
(難儀な目を抱えて生まれてきたものだ。お互い様とも言えるが……)
思うところはあっても、セシルは黙って耳を傾ける。
「長らく、平民に紛れて生きているし、自分が貴族だって意識したこともない。意識したら、なんでこんな境遇って恨んでしまうだろ」
「恨めばいいだろ」
「嫌だよ。あいつらの問題を、なんで俺が背負わなければいけない」
「……」
「だからだよ。正直に言うと、宰相閣下と会っても、王太子殿下と会っても、どうしていいかわからなかった。
仕方ないから、俺は横にいたセシルの行動をなぞっていたんだ。どうしていいかわからない者は、慣れた人間の真似をするしかない。今ここで、一人で暮らすにはどうしたらいいか悩むセシルと変わらないだろ」
セシルは歪な笑みを浮かべる。
「そんなものかな」
「そういうものだよ。だからさ、この家で暮らすってどういうことか知ればいいじゃない。例えば、日常着なら、家で洗濯する。仕事着は洗濯屋に頼む。仕事が忙しいなら、下着以外は洗濯屋に頼めばいい。その辺はお金で解決できるだろ」
「お金と言えば、ここで厄介になるのに家賃はどうしたらいい? 幾ばくかでも支払う方が望ましいだろうか」
「実はこの家は、侯爵家で借り受けているから、俺の懐は痛まないようになっているんだよね」
「団長が支払っているのか?」
「支払いまでは分からない。近衛騎士副団長の公宅として借り上げているかもしれないし、ちょっとそこまでは確認してないや。
俺たちって『お前は、ここに住め』『はい、はい。わかりましたよ』って、関係だからさ」
「いい加減だな」
「そんなもんだよ、昔からね」
カップから手を離したデュレクが頬杖をつく。
セシルはデュレクの視線に気づき、カップを置き、改めて座りなおした。
「なにかあるか?」
「なあ。セシルは、なんで家を出たんだ」
「なんでって……」
セシルは口元に手を寄せた。
「言いたくないなら、いいけどさ……」
(言いたくない……、言いたくないことではある。しかし……)
セシルは、顔をあげた。両手を机に乗せて、拳を握る。深く息を吸い、吐きながら話しだした。
「簡単に言えば、使用人に婚約者を寝取られたからだな」
「それは、また……」
「仕向けたのは、父だ」
「またまた、よくも……」
「使用人は、父側の非嫡出子だ。瞳の色も私と一緒だ」
「……ごめん、聞いた俺が悪かった気がしてきた」
額に手を添えたデュレクが嘆息する。
そんな表情もセシルは淡々と受け止める。
「貴族の家はそんなものだろう。自分の胸に手を当てれば、分かるだろう」
「そりゃあね。俺も大概だと思うよ。でもさ、自分の境遇を受け止めることと、人の境遇を聞くことってのはちょっとは違うだろ。
セシルだって、自分の境遇はさておき、俺の背景を聞いて、どう思ったよ」
「瞳の色だけで子どもを差別するなんて、ひどい親だと思ったよ」
「だろ」
二人は沈黙する。
語るセシルに嫌な気持ちはなかった。
むしろ誰にも言えずにいることを話せて、すっと胸が透いていた。こんなに気安く言葉にできる日が早々と来るとは思わなかった。
(昨日から、不思議と縁のある男だな)
申し訳なさげに、紅茶をすする男をまじまじと見つめた。
(色んなことが違うはずなのに、どうしてこんなに似た一面ばかり見えてくるのだろう)
家のことはつい口を滑らせて、広まっては取り返しがつかない。勘繰られたくもない。噂の的にもされたくない。
必然的に、家庭のことこそ誰にも語れないものだ。
「デュレクだって私に言わなくていいことを話しただろう。同じじゃないか」
額に手を当てたデュレクが、眼球だけセシルに向ける。
褐色の眼に上目遣いでとらえられ、どきりとセシルの心臓が跳ねた。
「それだけ綺麗な眼をもつ子爵家のご令嬢が一夜の宿を求めて夜の街を歩いているなんて尋常じゃないからな。しかも、魔眼持ちだろ。絶対に、家が手放さないだろ。普通ならな」
「母が血統主義だった反発で、父は魔眼を持つ私が嫌いなのだ。母と重ねているとも考えられる」
「母親が血統主義なら、なんで騎士をやっているんだ。
まっとうに考えれば、浄化の魔眼を持つ子爵家は、僧侶や巫女という聖職者然とした職に就くことが一般的なのに」
「それは、私が幼少期に誘拐されたせいだよ。もちろん、原因は瞳の色だ」
真顔で淡々と答えるセシルに対し、デュレクはまたいらないことを聞いてしまったと気まずいの表情を浮かべた。
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