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本編
31,騎士になった理由を吐露する
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「なにを驚く。貴族の子どもが誘拐される話は昔からあるだろう。
魔眼目当ての他国の間者。
瞳の色目当ての好色の権力者。
奴隷市で、色付きの瞳が破格の値がつくのは有名な話だ」
「それを自分で言うか~」
平然と答えるセシルに、デュレクの方が仰け反った。
「普通に金銭目当ての誘拐もあるな。一般的すぎて、理由から抜いてしまった」
「待てよ、そういうことじゃないからな」
「誘拐は未遂で終ったんだ。だから、私はここに無事でいる」
「それはそうだけどなあ……。いくつの時だよ」
「七歳くらいかな」
「記憶に残っているだろ」
「まあね」
「よく、未遂で済んだな」
「運が良かっただけだよ」
デュレクはこれ以上、聞けないと口をつぐむ。
セシルの方が、話し始めた手前、止めることができなかった。
「それまでは私も一般的な子爵家の娘として、巫女になる教育を受けていた。
誘拐事件を経て、教育方針を変えたのは母だ。
なにがあっても身を守れるようにという意図を込めて、剣術や体術の教師を招き入れた。私はたまたま、それらが性に合っていたんだ。
ちょうど、王太子殿下が女性と言うこともあり、女性騎士をいつもより多く採用していたこともあって、私は騎士の道を選んだんだよ」
「なかなか、すごい母親だな。巫女から騎士に鞍替えとは……」
「騎士になることを選んだのは私だ。母はその時には亡くなっていた」
「……」
デュレクは、またいらないことを言ってしまったとばかりに、苦虫をかみつぶした顔になる。
「私の誘拐事件の数年後に、母は突然亡くなった」
「元は母親が当主……。女系か」
「巫女の家系だからな。そんな母が早世し、幼い私が家督を継ぐまで、父が代理当主になった。それが今の子爵家(うち)の実態だ。
実権を握った父にとって、使用人との間に生まれた娘、私にとって腹違いの妹の方が可愛かったのだ。子爵家の領地は目立った特徴のない平凡なものだ。裕福ではない。
そこで父は、一代限りの財で地位を買った男爵家の子息を婿に向かえることにした。
財をなす才覚と、子爵家の世襲できる地位を交換したようなものだよ。私は母が父を軽んじたように婚約者を見下したつもりはなかったのだが、このような職業となりをしていたため、可愛げなく嫌悪されたのだろう」
「だからってなあ……」
「母の血統主義に無理やりつきあわされ、一歩引いたところで尊厳を貶められていた父だ。
血統主義の母に蔑まれていたと感じている父から見て私は嫌悪の対象だ。父は、私の瞳の色と母の瞳の色を重ねて見ている。
父は母の代わりに私を貶めたのだ」
「……弱い父親だな」
デュレクとセシルは親に恵まれない不遇さが似通っている。偶然にしても、こんなに近い印象の人間と出会えることはなかなかない。二人は同時にそう感じていた。
「親に恵まれないのは、私もデュレクと変わらない」
「そんな父親ならな」
「父だけではない。母にも恵まれてはいない。
母は生粋の血統主義だ。その主義にのっとって、分家で最も綺麗な菫色の瞳を持つ父を夫にした」
「侯爵家(うち)も同じだ。
血統を重んじるというより、瞳の色を優先して、血縁と非血縁を分けるようになった」
「魔眼が失われている以上、色しか判断基準が無くなったのだろう」
「偏りが激しすぎるよ」
デュレクが天井を仰ぎ、口を折り曲げる。
「俺は兄貴が両眼とも紅だからな。後継ぎもいて、俺さえ追い払えば、良かったんだ。前線に志願して消えても問題なかったが……、セシルはそうはいかなかったんだな」
「そうだな。魔眼もあり、色もあり、私を当主に立てないいわれはない。それこそ、ごり押しで妹を当主に据えたらいいのに、父にはそれを行う度胸もないんだ。
だから、私を当主に据えて、男爵家の子息と仮面夫婦にして、実際に子を成すのは、男爵家の子息と使用人の娘と言う構図を作ろうとしたんだ。
体裁を整え、商才ある縁者と繋がり、うらみのある母の娘を飼い殺し、愛する娘の子を次代の当主とする。
よくできた計画だと思うよ」
「……ごめん、その発想、ついていけねえ」
「貴族に生まれて何を言う。自分の境遇を棚に上げて、子爵家(ひと)の家をおかしいと言えるのか」
「いえないけどさ。貴族の発想は、ついていけねえ……」
セシルが淡々とするのもデュレクは理解できる気がした。
(もっと守られたご令嬢だと思っていたよ。のっぴきならない理由があって、家を出たとしても、もっと他愛無いことだと思っていた。
自立心旺盛なお嬢様が、血統書付きの過保護な実家の扱いに嫌気をさして飛び出してきたとかな)
淡々とするのも、長年休まる日々、心を開く相手がいなかったからかもしれない。場合によっては、感情を殺して、耐えていたからかもしれない。
デュレクは、そんなセシルに、手を伸ばした。
流れる髪を一房取り、するりと撫でる。
髪をなでられたセシルは、ぱちぱちと不思議そうに両目を瞬いた。
魔眼目当ての他国の間者。
瞳の色目当ての好色の権力者。
奴隷市で、色付きの瞳が破格の値がつくのは有名な話だ」
「それを自分で言うか~」
平然と答えるセシルに、デュレクの方が仰け反った。
「普通に金銭目当ての誘拐もあるな。一般的すぎて、理由から抜いてしまった」
「待てよ、そういうことじゃないからな」
「誘拐は未遂で終ったんだ。だから、私はここに無事でいる」
「それはそうだけどなあ……。いくつの時だよ」
「七歳くらいかな」
「記憶に残っているだろ」
「まあね」
「よく、未遂で済んだな」
「運が良かっただけだよ」
デュレクはこれ以上、聞けないと口をつぐむ。
セシルの方が、話し始めた手前、止めることができなかった。
「それまでは私も一般的な子爵家の娘として、巫女になる教育を受けていた。
誘拐事件を経て、教育方針を変えたのは母だ。
なにがあっても身を守れるようにという意図を込めて、剣術や体術の教師を招き入れた。私はたまたま、それらが性に合っていたんだ。
ちょうど、王太子殿下が女性と言うこともあり、女性騎士をいつもより多く採用していたこともあって、私は騎士の道を選んだんだよ」
「なかなか、すごい母親だな。巫女から騎士に鞍替えとは……」
「騎士になることを選んだのは私だ。母はその時には亡くなっていた」
「……」
デュレクは、またいらないことを言ってしまったとばかりに、苦虫をかみつぶした顔になる。
「私の誘拐事件の数年後に、母は突然亡くなった」
「元は母親が当主……。女系か」
「巫女の家系だからな。そんな母が早世し、幼い私が家督を継ぐまで、父が代理当主になった。それが今の子爵家(うち)の実態だ。
実権を握った父にとって、使用人との間に生まれた娘、私にとって腹違いの妹の方が可愛かったのだ。子爵家の領地は目立った特徴のない平凡なものだ。裕福ではない。
そこで父は、一代限りの財で地位を買った男爵家の子息を婿に向かえることにした。
財をなす才覚と、子爵家の世襲できる地位を交換したようなものだよ。私は母が父を軽んじたように婚約者を見下したつもりはなかったのだが、このような職業となりをしていたため、可愛げなく嫌悪されたのだろう」
「だからってなあ……」
「母の血統主義に無理やりつきあわされ、一歩引いたところで尊厳を貶められていた父だ。
血統主義の母に蔑まれていたと感じている父から見て私は嫌悪の対象だ。父は、私の瞳の色と母の瞳の色を重ねて見ている。
父は母の代わりに私を貶めたのだ」
「……弱い父親だな」
デュレクとセシルは親に恵まれない不遇さが似通っている。偶然にしても、こんなに近い印象の人間と出会えることはなかなかない。二人は同時にそう感じていた。
「親に恵まれないのは、私もデュレクと変わらない」
「そんな父親ならな」
「父だけではない。母にも恵まれてはいない。
母は生粋の血統主義だ。その主義にのっとって、分家で最も綺麗な菫色の瞳を持つ父を夫にした」
「侯爵家(うち)も同じだ。
血統を重んじるというより、瞳の色を優先して、血縁と非血縁を分けるようになった」
「魔眼が失われている以上、色しか判断基準が無くなったのだろう」
「偏りが激しすぎるよ」
デュレクが天井を仰ぎ、口を折り曲げる。
「俺は兄貴が両眼とも紅だからな。後継ぎもいて、俺さえ追い払えば、良かったんだ。前線に志願して消えても問題なかったが……、セシルはそうはいかなかったんだな」
「そうだな。魔眼もあり、色もあり、私を当主に立てないいわれはない。それこそ、ごり押しで妹を当主に据えたらいいのに、父にはそれを行う度胸もないんだ。
だから、私を当主に据えて、男爵家の子息と仮面夫婦にして、実際に子を成すのは、男爵家の子息と使用人の娘と言う構図を作ろうとしたんだ。
体裁を整え、商才ある縁者と繋がり、うらみのある母の娘を飼い殺し、愛する娘の子を次代の当主とする。
よくできた計画だと思うよ」
「……ごめん、その発想、ついていけねえ」
「貴族に生まれて何を言う。自分の境遇を棚に上げて、子爵家(ひと)の家をおかしいと言えるのか」
「いえないけどさ。貴族の発想は、ついていけねえ……」
セシルが淡々とするのもデュレクは理解できる気がした。
(もっと守られたご令嬢だと思っていたよ。のっぴきならない理由があって、家を出たとしても、もっと他愛無いことだと思っていた。
自立心旺盛なお嬢様が、血統書付きの過保護な実家の扱いに嫌気をさして飛び出してきたとかな)
淡々とするのも、長年休まる日々、心を開く相手がいなかったからかもしれない。場合によっては、感情を殺して、耐えていたからかもしれない。
デュレクは、そんなセシルに、手を伸ばした。
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