ヘテロクロミアの魔眼騎士

礼(ゆき)

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本編

59,真相

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「私と宰相の取り組みは、長年の思想に毒されている一部の貴族にとって、好ましくないものだ。彼らにとっては、思想こそが拠り所なのだ。

 魔眼を失い、色をも消えかけている昨今。偏った基準を振りかざし峻別することで、誇りを維持する者が現れることは致し方ないとも言える。

 そんな背景のなかで、純粋に色を優先するなら、色を優先するで、跡取りを育てればいいものを、魔眼を持たない子どもを間引いてきた悪習から抜け出せずに、儀式だけが形骸化して残っていた」

 デュレクは兄を思う。まるで慣例の前に思考を欠いた人形のように疑問を呈さず繰り返す人間しかいなかったのかと腸(はらわた)が灼ける。

「私と宰相の動きは、その一部を除き、支持されている。静観している貴族もほとんどが支持派だ。長年のあり様に限界を感じている者が多いのだ。動き出さないのは、突出することを恐れ、左右ばかりを気にする、保身や立場を優先していたからに過ぎない。そこを宰相はうまく動き、彼らを取り込んでくれた。
 とうの昔に潮目は変わっている。
 大局の流れには王だとて逆らえない。勝ち馬にのりつつも、思想を是とし、足掻いている。その一つの動きが、今回の霧だ」

 この一計が近衛騎士団長に行きつくとしたら、王や一部の貴族は野放しなまま終わる。どんなに兄に憎まれようが、剣を向けられようが、デュレクにとって、兄だけが責を負う結果は受け入れがたかった。

「この霧は、兄貴が画策したことなのか」
「そうとも言えるし、違うとも言える。
 この動きには四つの流れが絡んでいる。
 
 一つ目は、私を煙たがる王の意向。
 二つ目は、私と宰相の行いを煙たがる貴族の意向。
 この二つは、自ら手を下さずに結果を求める裏の働きかけだな。あわよくば私を消し、宰相と私の為すことを踏みにじりたいのだ。

 三つ目は、近衛騎士団長の意向だ。この男が、複雑なのだよ。二つの勢力に加担しつつ、そのさらに裏で私に協力しながら、弟に対する私情を混ぜこんできたのだ」

 デュレクが兄に目を向けると、瞼を閉じて殿下の言葉を聞いているようであった。まだ体を起こせる状態ではないのだろう。
 セシルは地に視線を落とし、静かに耳を傾ける。

「四つ目は私の意向である。
 つまるところ近衛騎士団長は、王、貴族、私。三つ巴の間にその身を置いたのだ。

 侯爵家の近衛騎士団長は若くして頭角を現した美丈夫だ。社交の場での人気もなかなかと聞く。
 美しい紅の光彩。立ち振る舞い、業績、出自。魔眼を持たなくても、なにをしても常に立派な結果を出していた。この男は、誰が見ても、非の打ちどころがない者。
 
 しかし、その本質は紛い物。
 世上の評価と自身の評価。それが乖離していくことがどれだけの苦しみになるか。語るに難しい。

 デュレクにも、輝かしい立派な兄に見えていただろう。見栄えは、本当に貴族の理想そのものだ。反目する貴族が同類と勘違いするだけの背景を備えている」

「そうだ。兄貴は立派だ。俺にとって、兄貴は本当に……」

「この男の本質は、貴族のあり様を毛嫌いしながら、誰よりも貴族的であろうとする矛盾にある。さらには、心のよりどころであった弟が前線に出てしまったことで、ただでさえ脆く、土台のない完璧を演じてきた男は崩れたのだ」

「兄貴が崩れる……」
 
 デュレクにとって信じがたいことだった。
 しかし、兄の過去を知った今は、反論することなく受け入れるしかなかった。
 
「近衛騎士団長は霧の首謀者だ。しかし、その行為の背後には私の意向が隠れている。私の命を狙わせたのは、私自身なのだ」

 もうなにがでてきても驚くことはないと、セシルは深く嘆息する。

「このままでは私は王に飼い殺される。王にとって私を飼殺すのは訳ないことだ。私は、何も知らずに、死にたくはなかった。

 魔眼を持たず生まれたことで生かされた私は、ここにきて魔眼を欲した。
 白銀の魔眼は、先を見る。先を見て、無に帰す。私はすべてを見通し、すべての力を伏す力を欲したのだ」
「恐れながら、殿下。霧が殿下を狙ったことと、魔眼の開眼に関連があるということなのですか」

「その通りだ、セシル。
 魔眼を持つ子どもは、貴族内で生まれなくなり久しい。
 それはこの国が平和になったこと。子どもを前線に送ることを望まない貴族が増えたことなどが要因としてあがる。血なまぐさいこと、危険なことを退け、安寧の時の中で、魔眼は消えて行ったのだ。

 ここにいる魔眼を持つ者は四人いる。生まれながらに魔眼を持たず、あるきっかけをもって魔眼を得るに至った。
 
 子どもは、誘拐され、父を失い、自らの命が危険に晒された時。
 デュレクは、前線にて命を危険に晒した時。
 
 セシルもそのような経験をもって魔眼が開眼していると、その昔、騎士団長に語っているね」

 片手を肩にかけて、セシルはぎゅっと掴んだ。あまり思い出したくはなかった。

「……はい。私は誘拐された時に開眼しました」
「そして、私は、霧に当てられて開眼した。 
 デュレク、セシル、青い目の子ども……、三人の身の上に起こったことを繋ぎ合わせれば、命の危険を感じた時に開眼している。命の危険に晒されると開眼するのではないかと着眼したのは、近衛騎士団長だ。

 ある時、私が、もし魔眼があれば、と戯言を零した。
 それを耳にした騎士団長が、方法がないわけではないと切り出し、計画は練られたのだよ。

 私が開眼するには、私の命を脅かされる必要があったというわけだ。しかも安全に、最終的に私の命が救われる状況のなかでな」

「殿下は、自ら危険をお選びになったというのですか」

「虎穴に入らずば虎児を得ずだよ、セシル。
 私が王に呼び出される日取り。
 セシルが御所に残り、警備に当たる日取り。
 そのような日程を操作するには、近衛騎士団長はうってつけだろう。こと私の命を狙うことであれば、その時は、王でさえ協力者になり得たのだよ」

 セシルは絶句する。
 苦虫をかみつぶしたような顔でデュレクは呟く。
 
「今回の件は、王からの依頼で動いたと装ったうえで、純血を良しとする思想に毒された貴族に擬態した兄貴が、殿下の望みをかなえるべく動いた事案ということなのか」

 無表情の殿下はセシルとデュレクを見つめ答えた。

「そうだ。そして、その流れの中に、弟を呼び寄せ、弟に殺されることを望んだ男がいたというだけのことだ」
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