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第四章 戦争争議

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発言権のない俺は黙って話を聞くしかない。
仮面をつけているため、表情が相手に読み取れないのは幸いだ。
未来で歴史を学んできた俺の顔色は誰にも見せたくはない。

レイフを値踏みする、ミデオ国の代表はゴードが口火を切った。

「スピア国の代表者殿よ。そちらの国では軍備はどのように準備している」
「貴族を出自とする騎士と一般人の志願による兵があり……」
「待て待て、それでは、国を渡り歩く傭兵を雇ってはいないのか」

真面目なレイフは素直に答えるが、ここはそういう雰囲気ではない。
レイフが考えていることと、話は真逆に進むだろう。

「いないだろう。スピア国は今まで、我らのように力をたくわえてはいない。平和を良しとし、のほほんとされていたのだ。なにせ、あの公爵が仕切っている国だ。腑抜けのあつまりさ」
「それも、これも、あの鉱山があるからだろう。武器の製造をサライ国に委ねてな」

ヤネス国代表のエイサ、サイラ国代表のデニスが続く。

「それは違う。鉱物の輸出先として取引しているだけだ」

レイフが反論するが、残りの三人は冷めた目を向ける。

「なにを言う、その鉱物がどんな目的て買われているのか知らないわけがないだろう」
「鉱物資源に頼り、それなりに肥えた国土を持っているから、見て見ぬふりか。ああ、嫌だね」
「それは違う。あの土壌は長年、改良して……」
「そんなことはどうでもいい!」

からかうエイサとデニス、焦って言い訳をしようとしたレイフ。三者をゴードが一喝する。
場はしんと静まり返った。

「今まで他国には不可侵な時代が続いていただけだ。その楔も解かれた、鉱山をどうするかは今、話し合うことだろう」
「それなら、その鉱山はサライがもらおう。これからのことを考えると武器製造量を増やした方が良いだろう」
「武器の使いまわしを考えても、火蓋はそこで切っておいた方が良いんじゃないのか、品行方正なスピア国が鉱山を持っていても、宝の持ち腐れだろう」
「手始めは、そことして、次はどうする。火種はいくつあってもいい」
「森の国境線もあるな」
「海域の侵犯問題もある」
「子どもの誘拐もあるぞ。その一群が国境を越えている地域があったな」
「あの寂れた農村地帯だろ、口減らしに子どもを売っているだけじゃないのか」
「それでも、言いがかりにはなる。なんなら、それに乗じて身代金目的でもなんでもいいから貴族の子どもを攫うか」

三人は地図上にバツ印をつけていく。
火種はどこにでもあり、小さな理由でも細かくあぶりだしていく。

まるで、面白いゲームの条件を並べ立てているかのようだ。

俺の横にいるレイフだけは、どことなくイライラしている。
国を統合する話し合いの場だと思っていたのは俺たちだけだろう。
公爵が内々に通じている者が代表に選ばれなかったことを問題視していたわけだ。

俺は彼の袖を引いた。
こちらを向いたレイフに、顔を横に振ってみせた。

でも、と、レイフの口が動く。

俺はもう一度、首を横に振った。

ここで並べ立てられているのは、歴史上記されている戦火の理由とおなじことばかりだ。
彼らの画策は誰にもとめられることなく遂行される。

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