売春婦

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ある売春婦の話

その一

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 売春婦って言うと、「買い物依存症やホストに入れあげてお金に困った女性が手っ取り早く稼ぐため」とか、「性的好奇心が強くて誰でもいいから相手にしたい」とかいうのが世間的なイメージだと思うんですよ。でも、私は世間的には認められていないけど、社会から必要とされているからこそ存在する立派な職業だと思っているんですよね。「人類史上最古の職業」なんて言われるくらいですから。だからこそ誇りを持ってこの仕事を続けているんです。

 私の場合、売春の仕事を毎日のようにやっているわけではないんです。推薦状月の仕事依頼書を戴いて、スケジュールと内容、費用が合えばその時初めて客先に伺うわけです。

 お客は「誰でも」というわけではないんです。初めての方は、私が信頼できる人か、既に私のお客になってくれている人からの推薦状や紹介状を持っている人に限らせてもらっています。リスクが高い仕事ですから、相手を信用できることが絶対なんです。

 日程は相手の希望を一応伺いますが、指定された日に確実に伺えるというわけではないです。私はまだ「上がって」いませんので、当日が生理の日になったり、妊娠の可能性があるようではまずいわけです。ピルを飲んで「安全日」にするのにはある程度の日にちを必要としますから。コンドームを使ってもらうにしても「万が一」ということがありますから。

 私の家族ですか?夫と、息子、娘二人です。子供たちはもちろん夫の子です。売春で妊娠するなんてそんなことはしていません。売春はあくまで仕事ですから、私生活とは完全に分けているんです。もちろん、近所の人はもちろん、家族も私が売春婦であることなんて知りませんよ。明かせませんけど絶対にばれないよう、アリバイ工作は完璧にやっています。

 夫と付き合っているとき、「私は売春婦です」と言おうかと思ったこともあります。でも、日本という国は売春婦を始めとした性産業に従事する女性への偏見というものが強いですからね。高校の非常勤講師がアダルトビデオに出演していたことがばれて退職に追い込まれたこともあります。ましてや売春婦だと知られたら、まともに生活することなど不可能になるでしょうね。アダルトビデオ出演経験者が女性全体の1/400とも1/200人に一人とも言われる日本ですよ。それなのに自分の職業を堂々と名乗ることができない社会というのは何か間違っているとしか思えないのです。

 売春婦という職業は、世の中に必要不可欠だと思っているんです。だからこそ太古の昔から今に至るまで続いているわけです。日本人というのは直接的な表現を嫌がるのか、「飯盛り女」「夜鷹」「遊女」「からゆきさん」「従軍慰安婦」といった具合に「売春婦」という言葉を使いたがりませんけど、どう呼んだところで売春婦であることに変わりはありません。

 夫との関係?レスではありませんし、特に不満は無いです。仕事とは別ですから。

 料金ですか?それなりに頂いています。はっきり言って安くは無いですよ。「こんなおばさんがこの値段?」と思う人も多いでしょうね。でも、そういう人は風俗にでも行って若くて安い女性を相手にすればいいんです。私は売春のプロとしてのプライドがありますから、自分を安売りするようなことは絶対にしません。

 私に仕事を依頼してくる方には、思春期の男の子の親御さんなんかも多いですね。「息子が高まる性欲に戸惑っているから、初めての相手をしてやって欲しい」というわけです。いわゆる「筆おろし」ってやつですね。「プライベート・レッスン」の世界です。もちろんその場合でも推薦状や紹介状を持っている方に限らせていただいています。中学生、高校生のことが多いですが、中には小学生もいます。

 そういうお宅に伺ってその子の部屋で二人きりになっても、いきなり体を許すわけではありません。性教育から始め、相手の女性の意思を尊重することを理解させます。全ての段階をきちんと理解するまでは私に指一本触れさせません。そうでないと判断した場合はその日はそのまま帰ることもあります。もちろんそういう可能性があることはご両親にも承知していただいたうえで契約しています。

 このようなことを理解したと判断したら、最後はきちんとコンドームを装着できるか確認します。やり方を教えたら後は自分で練習してもらいます。これをクリアしなければ私の体に触れることができないわけですから、必死になって練習しますよ。私の目の前でパンツを脱いでやる子は少なく、大抵は後ろを向いてこそこそとやっていますね。私が確認するときはこちらを向かせますし、きちんと装着しているかどうか私が手に取って確認しますから結果としては同じことなんですが、やはり私の前でパンツを脱ぐこと自体が恥ずかしいようです。

 すべての段階をクリアしたと判断したら、その時初めて「実地体験」ということになります。その子にとっては達成感が半端でないはずです。でも本来はそういうもののはずですよ。金さえ出せばすぐにでも性欲を満たすことができると考えるほうがおかしいのですから。

 私の体に触れることを許しても、最初は明らかに緊張していますね。何より、見ず知らずの女性の前で裸になることに勇気がいるわけです。これって誰でもそうですよ。私の前で何のためらいもなくすぐ裸になることができる子というのは今まで出会ったことが無いです。
 
 私の服を脱がす時にも緊張していることが多いですね。でも、ここまで来たら脱がさないほうが女性に対して失礼なわけです。ここでやめられたら女性のプライドはズタズタになってしまいますから。あまりにもためらうようなら容赦なく叱りつけます。

 後は基本その子に任せますが、アダルトビデオに出てくるような特殊なことは女性は嫌がることが多いので、相手に強制したり無理やりやったりはしないように教えます。あれは映像の世界の演出だということを知らず、ごく普通に行われていることだと信じ込んでいる子は案外多いんです。

 売春であっても、セックスは女性が主体であるべきですね。リスクを負うのはほぼ女性の方ですから。男性に、金さえ払えば何をやってもいいと思わせたらダメなんです。花魁は自分が納得するまでは指一本触れさせなかったというじゃないですか。

 女性の依頼者もたまにいますね。レズビアンいうわけでは必ずしもなく、多いのは「今度彼氏と初めてのセックスをすることになりそうなんだけど、怖くて仕方がない」なんていうやつです。今までほとんど目にすることなど無かった男性器を自分の大切な部分に挿し込まれることになるわけですから、そういう気持ちになっても不思議ではありません。

 これを見てください。本物そっくりでしょう?私が特注して作らせたものです。プロの売春婦を自任する私だからこういうことでもやるんです。結構製作費はかかりましたが、プロである以上、それくらいのことをするのは当然のことです。
 
 女性の依頼者にはこれで擬似経験してもらうわけです。「こんなものなのか」ってわかってもらうと、安心しますよ。「彼氏と初めてやるとき緊張しないで受け入れることができます」って感謝されることがほとんどです。

 長年のお客ももちろんいます。「あなたとやらないと新年を迎えた気がしない」なんて言われます。「筆おろし」の相手をした子なんかは大人になってすっかり顔立ちが変わっていていることも多いですが、挿入されるとすぐ記憶が甦りますね。頭では忘れていても体が覚えているんです。親御さんに、「今年も挨拶に行って来なさい」と言われて予約を申請してくる子が多いみたいです。就職したばかりでまだそれほど収入があるとは思えないのに、ご利用いただくお客様もいます。「大人になったわね」と言うと「覚えてくれてたんですね」と喜ばれます。「今度結婚することになりましたので、今回が最後です」なんて言われると寂しい気がしますね。

 私自身の初体験ですか?実は私の初体験は売春だったんです。つまり売春でロストバージンしたんです。この時はっきりと売春は私の正業だと自覚しましたね。この時のお客にはいろいろと教えてもらいましたよ。今でも忘れることはありません。

 その後いろいろな職業にも就きましたが、あくまで私の正業は売春婦だと自覚しています。形の上での本業より、売春婦としての収入の方が遥かに多いですし。もちろんそんなこと大っぴらにはできませんけどね。表沙汰にはできない収入です。確定申告で「売春による収入」なんて書くことはできませんから。

 ただ、お勧めはしませんね。日本では大っぴらに認められていない「裏家業」ですから。どうしてもやりたいという女性は、他人がどう言おうがやるでしょう。私みたいにね。政治もきちんと認めればいいんですよ。所得税も納めさせれば税収だって増えるでしょう。裏家業のままでは税金なんて納めるはずはないですから。

 正直なところ、この仕事をいつまで続けることができるのか、それは私にも分からないです。でも、よほどのことが無い限り、私の体に需要がある間は、一人でも私とセックスしたいと思う人がいる間は続けていきたいと思うんですよね。もちろん最後まで自分の安売りは絶対にしないつもりです。安売りしなければ客がつかないようになったら、その時は潮時でしょう。
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