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第九話 戦闘の終了。IKUMIと幼女たちは合流する。
しおりを挟む(ロイド?………何が?)
「おっ、おいっ! ガキども! 何か見たか!」
ガード傭兵ロイドへと「早く仕事をしろ」と文句を言うため、後ろを振り返ったリ・コリン。しかし、その時見えたものは、頭部を損傷し息絶えていたロイドであった。
リ・コリンは、キョロキョロと辺りを見回し、奴隷車の幼女たちに気付き、何を見たと問い詰める。
もちろん、そんなことが解る奴隷幼女たちではない。幼女たちは前方の戦闘に恐れを抱き、ただ震えていただけなのだ。
そこに理不尽な要求を加えても、答えられるはずもない。
ただ、リ・コリンの声に怯え、身を竦める以外、何もできない。
「ちっ、役立たずがっ!」
リ・コリンは、奴隷幼女たちから話を聞くのを諦め、再びキョロキョロと辺りを見渡す。生き残るために、どんな事態が生じているのか、その情報を何とか引き出そうと行動する。
しかし、もう遅かった。
リ・コリンは、この時すでに逃れられぬ事態へと陥っていた。認識できぬ恐るべき存在が、すぐ側まで近付いていたのである。
具体的には、リ・コリンの真下である。
シャッ! シュッ! ザクッ!
「…あ?」
(ああっ…ちきしょう…何で…こんな…ちくしょう…)
「あ…あう…」
ガクッガクッ…ドサリッ!
次の瞬間、両脚、そして腹部へと灼熱感を感じて、リ・コリンは倒れ伏した。
まったくノーガードだった真下からの攻撃に、両脚の腱、続いて腹部を抉られていた。これでは立って歩くことも、その場から動くことも不可能だ。
ただ、何故か止めの一撃はこなかった。
「…助け…だ…れか…」
ハッハッハッ…ハッ、ハッ、ハッ………
受けた腹の傷のために力が入らず、か細く、緩やかになっていくリ・コリンの呼吸。声を必死に上げ、助けを求める。
しかし、前方で必死に戦う二人のガードに、事態に気付く余裕はない。奴隷の檻に入れされている奴隷幼女たちには、もちろん助けなど不可能だ。
(死ぬ…こんな所で…誰か助けてくれ………)
「…」
(俺が………俺が何をしたって言うんだ………せめて檻の鍵を開ければ………無理か………あいつらを閉じ込めていたのは俺………ああ………だから俺は………死ぬ…のか………)
…ハッ…ハッ…ハッ…ハッ…ハッ……ハッ………ハッ………
もう声は出せないし、思考もできない。ただ徐々に弱っていく呼吸音だけが辺りに響く。流れ出した大量の血液で大地に血の池が生じ、血に濡れた手足を動かすことも困難だ。
ただ、徐々に残りの血液を垂れ流していくだけだ。
リ・コリンは、このまま何もできないままに、時間経過と共に命を散らすだけなのである。
リ・コリンの人としての人生は、ここに来て実質上の「はい、詰んだな」状態になっていた。
こんな「お前はそこで、そのまま乾いていけ」染みた特殊攻撃を仕掛けたのは、もちろん、地行の術で接近したIKUMIである。
IKUMIは幼女たちに被害が及ばぬように、まず連装クロスボウを持つロイドを木の葉苦無で狙撃し無力化。続いて幼女たちの側にいたリ・コリンを排除したのである。
なお、IKUMIが一瞬でリ・コリンを殺害しなかった理由は、幼女たちを彼が苛めていたからだ。
自分の目の前で幼女虐待を見せられたIKUMIは、かなりイラっとした。明確な殺意をリ・コリンに持ったのである。
(良いものを見せて貰った。お礼の贈り物をする。自分の馬鹿さ加減に気付いて、苦しんで死ね)
その見物料として、自分がゆっくりと死んでいく様を、リ・コリンにじっくり体験させ、後悔して死ぬようにしてやったのだ。
(…)
………ハッ…ハッ…ハッ……………
「…」
リ・コリンは、徐々に何も考えられない生ける屍と化していった。程なく本物の死体になるだろう。
一方、奴隷商の隊列前方で戦っていたガード傭兵二人と、緑の巨人の戦いも変化が訪れようとしていた。
忍んで近付いたIKUMIが、ロイドとリ・コリンを始末することに成功した今、緑の巨人ことSANSAIは、その姿を維持しながら戦う必要はもうありはしない。
囮の役目から、自らを解き放てるのだ。
動きの緩慢な緑の巨人の擬態を解き、本来の吸血植物として行動する瞬間を決めることは、もうSANSAIの自由である。
ピュィイッ!
奴隷車の側で、早速、IKUMIが口笛を吹いた。
「…なに!?」
「!」
それは大気を震わせて、SANSAIと対峙していたガード二人の身体をビクリッと、一瞬竦ませた。また、SANSAIへとの、攻勢に出ろとの合図ともなる。
その訪れたチャンスを、SANSAINは逃さない。
巨人型の擬態を解いたSANSAIは、ガードの一人ドリンへと、蔓と触手による絡みつき攻撃へと出た。
巨人の手足を構成していた蔦が解かれ、ドリンの胴体と手足へと向かって行く。そして、見事に巻き付き、吸血用の触手が蛭のように服の内部へと入り込み、素肌へと張り付いた。
「オオオオッ!?!?!?」
早速、肌の細胞を傷付けて、血管から血液を吸い出し始める。
ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
「なっ!? クソッ! 放せ!」
「ドリン! こいつ離れろ! このっ! このっ!」
ガッ! ザシュッ!
もう一人のガード傭兵タミルが、必至になってSANSAIの本体側の太い蔓へと切り掛かり、引き剥がそうと努める。
しかし、SANSAIは一向に離れようとしない。
ザシュッ! ザシュッ! ザクッ! ザクッ!
ドクッ! ドクッ! ドクッ!
「は…早く…たの…」
「やってる! クソッ! クソッ!」
ザクッ! ザクッ! ザクッ!
タミルの薙刀は、僅かながら斬撃でダメージは与えていたが、IKUMIからの精霊力と、全滅した装甲狼たちの血液を啜り、巨大化を果たしていたSANSAIは動じない。けして獲物として捕らえたドリンを開放しようとはしなかった。
ドクッ! ドクッ! ドクッ!
「…う…あ…」
ツル…カランッ。
「クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!」
ザシュッ! ザシュッ! ザクッ! ザクッ!
血液を大量に奪われたことにより、ドリンは脱水症状と思考力低下に追い込まれていく。何とか掴んでいた槍も取り落とし、余命幾ばくもない状態へと追い込まれていた。
ピュィイッ!
「ヒッ!?」
再びIKUMIが口笛を吹く。その音に恐怖し、初めて後ろを振り向くタミル。
タミルは、木の葉苦無を構えるIKUMIを見て、死にかけのドリンを見、SANSAIを見て、もう一度IKUMIを見た。
「ヒイイイッ」
カランッ、コロッ!
タミルは薙刀を投げ捨て一目散に逃げだした。商隊の奴隷車が並ぶ通路から外れる方向へと駆け出したのだ。
「嫌だ! 死にたくねぇっ! 俺は抜ける!」
(こんな割に合わないことは、もう御免だ! 田舎に帰るんだ! もう奴隷商の護衛なんて絶対にやらん!)
はあっ! はあっ! はあっ! はあっ! はあっ! はあっ! はあっ!
全力疾走によって、激しい息遣いとなるタミルは、そんなことを考えながら遠ざかっていく。
(そうだ! 農民になろう! 戦乱で人手不足にっ!)
はあっ! はあっ! はあっ! はあっ! はあっ! はっ…
そこで、タミルの思考と激しい息遣いは永遠に停止した。
シュンッ! ドドドドドッ!!!!!
ドサッ。
IKUMIの放った木の葉苦無の残りが、的確にタミルの後頭部を襲ったのだ。内錬気法と外錬気法によって力を注ぎ込まれた苦無の切先は、頭を保護していた兜ごと頭蓋を貫いて、タミルの脳に致命的な損傷を与えていた。
闘いは終わった。
苦無で致命傷を負ったタミルに続き、残ったドリンもSANSAIによって失血死したのである。
彼等、ドリンとタミルを含む北方連合の奴隷商一味は、ホーリーズ・クランと通じるスパイ組織であった。いわゆる奴隷貿易の特権を得るために、国と民草を売った売国奴だ。
雇われたガードといえど、おいそれと逃がすストライダーIKUMIではない。
こうして、タミルたちより早く装甲猪に殺されたアルカというガード傭兵を含め、リ・コリン一味はトーリンの地で全滅した。
商品である奴隷幼女たちと、その輸送手段である牛引きの奴隷車を残して。
「このバックパックは貰っておくか」
連装クロスボウを奴隷車に置き、槍、薙刀を拾ったストライダーが、無音でタミルの死体に近付いてバックパックを剥ぎ取る。ここまで口笛以外には、大した雑音もたてないストライダーである。
ガササッ…ザワザワザワザワザワ…ザワザワザワザワザワ…ザワザワザワザワザワ…ザワザワザワザワザワ…
続いて、倒れ込んだタミルの死体へと、ドリンを捕まえたままのSANSAIがやってきた。
シュル…シュルル……シュルルルル………
ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
死体に取り付いて、そのまま血液を啜り始める。
ストライダーIKUMIは、そんなSANSAIを残して奴隷車の許まで戻ってくる。
(さて…ん?)
すると、二台の奴隷車に別れて押し込められていた幼女たちが、路上に転がる死体が見える場所へと、それぞれに集まっていた。
ゴミでも見るように、リ・コリンだった肉の血袋を眺めていたのである。
(因果だな…)
かつて、奴隷幼女たちをゴミを見るように扱ったリ・コリンが、奴隷にされた幼女たちにゴミのように見詰められていた。その様子を知り、ストライダーIKUMIは愚か者の自業自得と思うのであった。
◇ ◇ ◇
「ねえ、こっちでよろしいの? リューコ? アマナ?」
「うん、こっちで戦いの気配を感じたの!」
「わ……た…も」
森の中を走るマリティアの質問に、同じように走るリューコ、アマナが同意する。貴族育ちのマリティアには解らなかったが、感の鋭いリューコと、精霊の想いが何となく感じられるアマナは、逸早く異変に気付いたのだ。
だから、マリティア含む三人娘は走っていた。
ストライダーと合流するためにだ。
「信じますの。早くIKUMIさんの許に行きましょう!」
IKUMIが戦っていると言われては、マリティアも同意せざるをえない。リューコ、アマナと一緒に野営地を離れることにしたのである。
マリティアとしては、簡易ベッドに寝ていろとの指示を破るのは心苦しかったが、とにかくIKUMIのことが心配となり、一緒にここまで走ってきたのであった。
「あっ! もう少しで森を抜けるよ」
「! 何かありますの!」
「! ど…い…しゃ…」
「隠れて! 繁みから覗くよ!」
もう少しで森林地帯が途切れる辺りで、山の交易路に停止する奴隷車を発見した三人娘は、隠れて様子を見ることにして―――
「お前たちも来たか」
―――あっさりと、気配を殺して待っていたIKUMIに見付かった。
IKUMIは、三人娘が森の端に到達する前に、その接近に気付いて待ち構えていたのだ。
「調度良い。奴隷車にいる娘達とコミュニケーションを取ってくれ。安心しろ。奴隷商人共はもう倒した」
合流したら、勝手に野営地から出てきたことを怒られると思っていた三人娘は、少し嬉しそうなIKUMIの態度にギョッと驚いた。
森の精霊たちの声を聞けるIKUMIは、三人娘が自分を心配して、ここまで来たことを理解していたのである。
そんなIKUMIの態度に安心感を覚え、自然とほっとした表情となる三人なのであった。
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