ストライダーIKUMI~奴隷を助けたら求婚された。だが気にしない。

ゆっこ!

文字の大きさ
24 / 45

 第二十四話 入植初日、精霊術の奔流。

しおりを挟む
   

 (よし! このタイミングだ)

 「…はぁああああっ!!!」

 ストライダーが気合を込めた叫び声を上げる。集めた力を大地へと一気に注ぎ込み、その姿形を変化させようというのだ。
 この世界に満ちる、水と地の精霊力を自分たちへと一旦引き込み、イメージ通りに諸々の力を組み合わせることは終了した。
 後はその力を大地へと注ぎ込み、ここ一帯の地形を劇的に変化させるのだ。

 「水と大地の精霊たちよ! その大いなる慈悲を示し、か弱き者達を守護する御力を、この地へと顕したまえ!」

 フォォォォォ………ォォォォォォンンン!!!

 IKUMIはそう高らかに精霊たちへと呼び掛け、四人の身体を依代にして集め、増幅した力を、大地へと手を翳して注ぎ込んだ。


 ………シン………


 …ゴゴゴッ…ゴゴッ……ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッ………

 …ザワザワッ………ザザッ……ザザザザザッ………ザザザザザザザザザザッ………

 …チチチチッ……バサッ!、バサッバサッ!………バタタタタタタッ!

 ピチチチッ!…ギャアッ!ギャアッ!………チュンッ!チュンッ!

 一瞬の静寂の後、地響きが最初は小さく、次第に大きくなって響き渡り、その鳴動と同時に大地が隆起していく。その動きの余波を受け、周辺の木々が揺れた。驚いた大小の鳥が羽搏いて飛び出し、小動物がより遠くへと逃げ出していった。


 ゴォオオオオオッ…ドドドッ…ドドドドドドドドッ………ドォオオオオオオオン!


 その合間にも隆起していく土塁は、村を中心にして拡がる畑の外周部を、まるっと囲む形で完成していった。

 その素早さは、地球の拠点作成ゲームのあの異常な早さをも凌駕し、まさしく神速と言うべき速度で、この国境沿いにある廃村周辺を、立派な一大勢力の拠点へと変化させていった。

 ………ゴゴゴッ…ガタッ、ガタッ、ガタッ………

 「なっ、何ですの一体!? みなさん無事ですか!」

 「こっ、怖いです!」

 「…モモは大丈夫です。外のみんなは大丈夫かしら?」

 「…地鳴りが収まったら、外に出て身に行きましょう」

 「解った。それまでは下手に外に出ると危ないものね」

 「コーラルは良い子ですので、その提案に従うです」

 ………ゴゴゴッ…ガタッ、ガタッ、ガタッ………

 一方、屋内で掃除中だったマリティアたちは、この事態は堪ったものではなかった。外に土塁を作るというストライダーの話は聞いていた。
 だが、ここまでの荒業だとは想像だにしていなかった。
 土塁出現時の地鳴りは、屋内に居たマリティアたちにとっては原因不明の地鳴りである。また、揺れる家屋が彼女たちの恐怖心を増幅したのだった。

 ………ドゥオオオオオッ………

 「ウモォー!」

 「ブモォー!」

 「ゥモー!」

 「モォォー!」

 「…視界…塞がっていく」

 「うん…こんなの、始めてみるよ…」

 「…これって、これが本当の精霊の御業なの?」

 「…凄すぎる!」

 飼育場でも、先程まで飼料を反芻しておとなしくしていた装甲牛が騒ぎ出していた。
 その姿を眺めながら、施設の手入れをしていたスズ、ケイト、リチアの三人も手を止めて、ポカーンと大口を開けていた。
 土塁が廃村を中心にした畑の外周部を囲って行き、遠方への視界を覆い隠していくのである。彼女たちには、そうして棒立ちとなり、この事態を受け入れるしか手段が存在しなかった。

 ………ドォオオオオオオンッ!!!………

 カランッ、カラランッ。

 「…本当に、土の壁が出来ちゃったね、カナちゃん」

 「…そうだね、スノちゃん」

 野外のかまど付近で夕食の調理中だった二人の幼女スノとカナ。
 彼女ら二人は、震動によって屋台から木の食器が落下する中、土塁が完全に廃村と畑の外周部を囲い尽くす光景を目の当たりにしていた。
 かまど付近から見渡せる場所が調度、土塁が最後に閉じられる場所だったのである。

 「…」

 「…」

 「…とにかく、地面に落ちちゃった木のお皿と食器を洗っちゃおう」

 「…うん。もう一度、水を汲んでくるね」

 「それじゃ、お皿とかは私が拾っておくね」

 「お願いするわ。じゃあ、行ってくる」

 「うん」

 しばらく無言で土塁の壁を眺めていた二人であったが、何かできる訳でもないスノとカナである。
 二人は、今必要とされている本来の役割に戻っていった。スノが地鳴りによって屋台から落ちた木製の食器を拾い、カナが水汲みへと向かうのだった。


 ☆ ☆ ☆


 (凄い…これが精霊術なのね…)

 (…頑張って修業すれば、僕たちもいずれはこんな凄い術が使えるかもしれないのかな?…)

 そして、IKUMI、アマナと共に水と地の精霊術を行使したリューコ、ノアと言えば、精霊術で互いに力を合わせたことで、言葉がなくても力の奔流の中、精神のみで意思の疎通が取れる状態となっていた。
 純粋な子供の精神のままの二人は、その状況を自然に受け止め、理解し合えるようになっていた。

 (うん。きっと使えるようになるよ)

 (あれ? その意識はアマナ?)

 (ええ。そうよリューコちゃん、ノアちゃん)

 (なるほど。僕たちは今、精神で繋がっているから、互いの意思を流暢に伝え合えるんだね)

 そんな時、繋がる二人の前にもう一つの意思が現れた。それは、ノアが感じた通りアマナの意思だった。

 (ストライダーさま…IKUMIさんの精霊術を通じて、リューコちゃん、ノアちゃんと意識を触れ合ったことで、色々と心の枷が外れたみたい。だからこそ、こうして二人と意思の疎通が図れるの)

 (そうなのね。じゃあ、これからお話できなかった分、いっぱいお話出来るんだね!)

 (ええ。そうよリューコちゃん)

 (良かった。僕もアマナには色々と術法のことを聞きたかったんだ。これならそれも大丈夫だね!)

 (そうね。私に答えられることなら、何でも質問してね、リューコちゃん、ノアちゃん)

 (うん! 頼りにするよアマナちゃん!)

 (僕もね! アマナちゃん!)

 (ええ! 歓迎するわノアちゃん!)

 (ふふふふ!)

 (あはははは!)

 (ふふふふ!)

 そうして力の奔流の中、三人の意思は歓びに包まえ、その力場には純粋な歓喜の声が響き渡った。

 !?

 !?

 !?

 だが次の瞬間、三人の幼女の意識は、なぜかモノクローム―――白黒の世界へと飛翔していた。

 (あれ?)

 (ここは………そうか!)

 (ストライダーさまの意識?)

 ストライダーIKUMIを認識したリューコ、ノア、アマナ。その認識により、白側の空間にIKUMIの姿が浮かび上がる。

 (あれは、IKIMIさんに、TURUGIさんだ。他にも居るよ?)

 (そうだねリューコちゃん、他にも八人居る)

 (もしかして、あちらの黒側の誰かと戦っている?)

 そう感じたアマナの意識に倣い、リューコ、ノアも、意識を黒い側へと向ける。

 (何なのあれ。すごく嫌な感じ!)

 (解らない! だけど、決して近付いたらいけないと感じる!)

 (もしかして、ストライダーさまたちが、あれが白い世界側に来ないように―――守ってくれているの?)

 (…私も、そう感じるよ!)

 (うん、僕も!)

 三人が意思をそちらに向けると、確かに白い世界側に入り込もうとする暗黒の力を、IKUMIが仲間たちと共に防いでいるようであった。

 (あれは…あの暗黒は一体!)

 (!? 駄目だリューコちゃん! あれは、触れてはいけない力だよ!)

 (いけないわリューコ! あの暗黒の想念はこの世界にあってはいけない力だわ!)

 IKUMIたちと反発する力。その正体を探ろうとするリューコの意識。一方、ノアとアマナの意識は、直感的にあの暗黒を「今の自分たちでは触れてはいけない存在」だと認識し、必至にリューコの意思を引き留めた。

 (あれ?)

 (あれれ?)

 (これは?)

 だが、そのようにして三人の幼女の意思が別々に別たれた瞬間、異変が起こった。
 精霊の力の奔流の中で絡まり合った彼女たちの意識は、その力場から解き放たれ、本来の肉体へと帰っていったのだった。


 ☆ ☆ ☆


 「…えっと?」

 「…あれ?」

 「…戻った?」

 「どうやら、三人とも、精霊の力を十分に感じたようだな。とりあえず今日の訓練は、これでお終いだ」

 力の奔流の力場から意識を帰還させたリューコ、ノア、アマナ。そんな三人に、ストライダーIKUMIが術法の訓練終了を告げる。
 はじめての感覚を終え、瞑想を終えた幼女三人は脱力状態にあった。

 しかし、以前より大幅に変わっている光景に、やはり驚く。

 「!? わあ、土の壁が本当に周りを覆ってる!」

 「これ、本当に僕たちがやったんだよね?」

 「そうよノア。ほとんどはストライダーさまの力だけどね」

 土塁に囲まれた周辺一帯を見て、リューコとノアが、改めて驚きの声を上げた。そうなるとは知っていたが、やりり実際に完成した実物を見てみれば、凄いなぁと思う。
 まあ、目を開けたらいつの間にか、のどかだった寒村周辺で、大規模土木工事が終了していれば、誰だって驚くのも当然だった。
 そんな二人に、アマナは事実のみを告げた。

 (? あれ、何か他にも変わったような…何だろう???)

 !?

 「そうだ! アマナちゃん、ちゃんと話せるようになってるよ!」

 !?

 「そういえば! よかったねアマナちゃん!」

 「…えと? そう言えば、なんで私???」

 ガバッ!

 「きゃっ!」

 「良かったー!」

 そういえばと、アマナがいつの間にか言語障害を克服していたことに気付き、リューコが喜びを爆発させた。そして、リューコはアマナに抱き着いて、歓びの気持ちを表すのだった。

 そんな光景を、ストライダーIKUMIは黙って見守った。もう一人の幼女、ノアと一緒に。

 ただ、ストライダーはそんな合間にも近未来のことを考えていた。

 (さて、土塁の整備、リューコたちへの精霊術の教導、アマナの精霊術師としてのリミッター解除。この三つは一段落させた。だがまだまだ。それだけだ)

 マリティアたちへの精霊術の教導。忘れられた鉱山から送られた荷物の受け取り。新たにやってくる女忍者たちと連れられてくる幼女たち。SANSAIの根分け。その他、諸々のこと。

 ストライダーIKUMIがやらなければならない仕事は膨大であった。   

 
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

【完結】婚約者なんて眼中にありません

らんか
恋愛
 あー、気が抜ける。  婚約者とのお茶会なのにときめかない……  私は若いお子様には興味ないんだってば。  やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?    大人の哀愁が滲み出ているわぁ。  それに強くて守ってもらえそう。  男はやっぱり包容力よね!  私も守ってもらいたいわぁ!    これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語…… 短めのお話です。 サクッと、読み終えてしまえます。

わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。 離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。 王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。 アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。 断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。 毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。 ※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。 ※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...