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第三話 紅霧の恐怖
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「あああああっ!」
悲鳴。男性の悲鳴が近くの小道から発せられ、暗い森に響き渡った。しかし、その声に応じて駆け寄る者はなく、先程まで静謐であった昏い森には、それ以上騒ぎ立てる者はいなかった。
そのまま、特筆すべき何事も生じず、昏い森の周辺を再び静寂が支配する。
「…(誰か…助け………)」
悲鳴を上げて草原へと倒れ込み、何とかしようと藻掻く男性。その大気に晒されている皮膚には、深い皺が刻まれていた。
皺枯れた男性は、倒れながらも大声を出して助けを呼ぼうとする。
だが、もう男性の気管は言うことを聞かなかった。声がまったく出せないのだ。
「(誰か…誰か………何だ?赤い???)」
そんな倒れ込んだ男性の上を、赤黒く変色した霧が覆っていた。
見る者が見れば一瞬でそれと判断できる吸血鬼の霧であった。
その所業は強欲極まりなく、音もなく男性から大量の体液を吸い出していた。たった一瞬の出来事。
この吸血霧が大量の血液を吸い出した、そのために、霧は無色透明から紅へと変化していた。
!? (誰か!誰か!)
その異変に気付き、男性は自分がどういった状況に置かれているかを理解し、迫りくる死の恐怖に悲鳴を上げた。いや。上げて助けを呼ぼうと試みた。
しかし、試してはみたものの、やはり気管は言うことを聞かず、頼りとした叫び声は出てこない。
(そんな…嫌だ…何で俺は…もう…意識が………………)
男性には、もはや助けを呼ぶ手段はなく、ただ永遠へと至る眠気のみが男性の意識を刈り取ろうとしていた。
死を迎える男性には、それを退けることは不可能だった。
こんな重度の脱水状態となってしまって、もう長くは持ちはすまい。
脳にも血液が普段通り十分に廻らないため、思考力も落ちていこう。
そのために男性は二本足で立っていることも儘ならず、地面へと倒れ込んだのだから。
もはや碌に動くことも許されず、眠るように死に至ることだろう。
吸血霧の正体、虚暦(とみてこよみ)は、姿が変化していてもこうして思考することが可能だった。ネタ晴らしすると、自動人形である薄雲の人工知能も、すでに私の一部となっていたからだ。
(まず一匹。それにしても、悪党の血液は美味って聞いたけれど、他と大して違わないわねぇ)
そんな結構どうでもよいことを呑気に考える私は、余裕をもって犯罪者集団の見張り役を一人狩った。狩りの次は食事の時間だ。
(さて、いただきます)
すると、一時、紅へと変わっていた霧が、また無色透明へと戻っていく。私が吸い取った血液を分解吸収し、自分の魔力へと変換したからだ。
(それなりにおいしゅうございました)
食事を終えた霧の私は、早速、薄雲の内部へと戻っていく。
ガサッ。
その後、私と一体化した自動人形は、下草をかき分けて進み、倒れ込んだ男性へと近付いていった。手持ちのスマホを奪い取り、アジトへの定期報告をするためである。
そのやり方はすでに確認済み。
薄雲には暗視機能がある。少々距離が離れていても、ピントを合わせて拡大し、手元の動きを読み取れば、何をどうしていたかは十分に確認できた。
先程の男性の行動通り、異常なしの書き込みをすれば良い。それで私の狩りは知られずに、少しだけ時間稼ぎができるだろう。
(これで…良し)
私は薄雲の指先で、スマホに異常なしを示す无の文字を書き込むと、森の奥にある廃墟ビルへと無造作に向かって行く。
自宅で待つレムネリアには出来るだけ早く戻ると告げてある。
そのため、多少強引になろうとも、私は速攻で蛇頭の連中と、彼等の新リーダーとなった道士を始末しなければならない。
私は薄雲の機能を使用し、廃墟ビルのある方向を睨み付ける。
(それにしても、こんな表情も再現可能なんて、なんて便利な自動人形なんでしょう)
私は、キリリッと眉根を釣り上げた薄雲の内部からそんなことを考え、呑気に森の奥へと自動人形を進ませた。
(ようよう。ようよう)
薄雲のセンサーで周辺スキャニングをした結果では、周囲に警備のための監視装置の類はなかった。面倒がなくてよい。
もっとも、もし仮に周辺警戒用に映像機器や動態反応センサー、音響センサーの類があったとしても、私にとって別に問題はなかった。薄雲のジャミング機能と、吸血鬼の魔力で無力化は可能なのだ。
(さて。問題は………)
問題なのは、道士が巫術や仙術で監視術を用意していた場合だ。だが、私はそれはそれと諦めていた。
警戒は必要だが、警戒のやり過ぎで動かないことの方が問題だ。無駄に時間だけが経過してしまう。
チーム(仲間)がいて、人数で勝負できるというならば話は別だが、生憎と私はソロなのだ。時間の無駄使いは厳禁だった。
(分身はできるけど、それは切り札の一つなの。雑魚相手で使う気はないわ)
そもそも、今夜中にブローカーに始末を付けると約束、契約した急ぎの案件だ。
道士以外の雑魚に長々と時間をかける気はさらさらないし、仲間を集めて対抗しようとも思わない。
そのために、私は見つかるならそれはそれで良し!の精神で一歩を踏み出し、加速していった。
「さあ、本番よ」
自動人形の発声機能を使用してそう言った私は、一人(?)戦場の奥深くへと向かう。果たすべきことは敵の全0.無駄に時間をかけている訳にもいかない。
(帰ったら、レムネリアのヘタクソな朝食で舌鼓を打つ練習でもしようかしら…できたらいいな)
しかし、実家で待つ伴侶を思うことは別だ。上述のような呑気なことを考えつつ、私は薄雲を加速させる。
悲鳴。男性の悲鳴が近くの小道から発せられ、暗い森に響き渡った。しかし、その声に応じて駆け寄る者はなく、先程まで静謐であった昏い森には、それ以上騒ぎ立てる者はいなかった。
そのまま、特筆すべき何事も生じず、昏い森の周辺を再び静寂が支配する。
「…(誰か…助け………)」
悲鳴を上げて草原へと倒れ込み、何とかしようと藻掻く男性。その大気に晒されている皮膚には、深い皺が刻まれていた。
皺枯れた男性は、倒れながらも大声を出して助けを呼ぼうとする。
だが、もう男性の気管は言うことを聞かなかった。声がまったく出せないのだ。
「(誰か…誰か………何だ?赤い???)」
そんな倒れ込んだ男性の上を、赤黒く変色した霧が覆っていた。
見る者が見れば一瞬でそれと判断できる吸血鬼の霧であった。
その所業は強欲極まりなく、音もなく男性から大量の体液を吸い出していた。たった一瞬の出来事。
この吸血霧が大量の血液を吸い出した、そのために、霧は無色透明から紅へと変化していた。
!? (誰か!誰か!)
その異変に気付き、男性は自分がどういった状況に置かれているかを理解し、迫りくる死の恐怖に悲鳴を上げた。いや。上げて助けを呼ぼうと試みた。
しかし、試してはみたものの、やはり気管は言うことを聞かず、頼りとした叫び声は出てこない。
(そんな…嫌だ…何で俺は…もう…意識が………………)
男性には、もはや助けを呼ぶ手段はなく、ただ永遠へと至る眠気のみが男性の意識を刈り取ろうとしていた。
死を迎える男性には、それを退けることは不可能だった。
こんな重度の脱水状態となってしまって、もう長くは持ちはすまい。
脳にも血液が普段通り十分に廻らないため、思考力も落ちていこう。
そのために男性は二本足で立っていることも儘ならず、地面へと倒れ込んだのだから。
もはや碌に動くことも許されず、眠るように死に至ることだろう。
吸血霧の正体、虚暦(とみてこよみ)は、姿が変化していてもこうして思考することが可能だった。ネタ晴らしすると、自動人形である薄雲の人工知能も、すでに私の一部となっていたからだ。
(まず一匹。それにしても、悪党の血液は美味って聞いたけれど、他と大して違わないわねぇ)
そんな結構どうでもよいことを呑気に考える私は、余裕をもって犯罪者集団の見張り役を一人狩った。狩りの次は食事の時間だ。
(さて、いただきます)
すると、一時、紅へと変わっていた霧が、また無色透明へと戻っていく。私が吸い取った血液を分解吸収し、自分の魔力へと変換したからだ。
(それなりにおいしゅうございました)
食事を終えた霧の私は、早速、薄雲の内部へと戻っていく。
ガサッ。
その後、私と一体化した自動人形は、下草をかき分けて進み、倒れ込んだ男性へと近付いていった。手持ちのスマホを奪い取り、アジトへの定期報告をするためである。
そのやり方はすでに確認済み。
薄雲には暗視機能がある。少々距離が離れていても、ピントを合わせて拡大し、手元の動きを読み取れば、何をどうしていたかは十分に確認できた。
先程の男性の行動通り、異常なしの書き込みをすれば良い。それで私の狩りは知られずに、少しだけ時間稼ぎができるだろう。
(これで…良し)
私は薄雲の指先で、スマホに異常なしを示す无の文字を書き込むと、森の奥にある廃墟ビルへと無造作に向かって行く。
自宅で待つレムネリアには出来るだけ早く戻ると告げてある。
そのため、多少強引になろうとも、私は速攻で蛇頭の連中と、彼等の新リーダーとなった道士を始末しなければならない。
私は薄雲の機能を使用し、廃墟ビルのある方向を睨み付ける。
(それにしても、こんな表情も再現可能なんて、なんて便利な自動人形なんでしょう)
私は、キリリッと眉根を釣り上げた薄雲の内部からそんなことを考え、呑気に森の奥へと自動人形を進ませた。
(ようよう。ようよう)
薄雲のセンサーで周辺スキャニングをした結果では、周囲に警備のための監視装置の類はなかった。面倒がなくてよい。
もっとも、もし仮に周辺警戒用に映像機器や動態反応センサー、音響センサーの類があったとしても、私にとって別に問題はなかった。薄雲のジャミング機能と、吸血鬼の魔力で無力化は可能なのだ。
(さて。問題は………)
問題なのは、道士が巫術や仙術で監視術を用意していた場合だ。だが、私はそれはそれと諦めていた。
警戒は必要だが、警戒のやり過ぎで動かないことの方が問題だ。無駄に時間だけが経過してしまう。
チーム(仲間)がいて、人数で勝負できるというならば話は別だが、生憎と私はソロなのだ。時間の無駄使いは厳禁だった。
(分身はできるけど、それは切り札の一つなの。雑魚相手で使う気はないわ)
そもそも、今夜中にブローカーに始末を付けると約束、契約した急ぎの案件だ。
道士以外の雑魚に長々と時間をかける気はさらさらないし、仲間を集めて対抗しようとも思わない。
そのために、私は見つかるならそれはそれで良し!の精神で一歩を踏み出し、加速していった。
「さあ、本番よ」
自動人形の発声機能を使用してそう言った私は、一人(?)戦場の奥深くへと向かう。果たすべきことは敵の全0.無駄に時間をかけている訳にもいかない。
(帰ったら、レムネリアのヘタクソな朝食で舌鼓を打つ練習でもしようかしら…できたらいいな)
しかし、実家で待つ伴侶を思うことは別だ。上述のような呑気なことを考えつつ、私は薄雲を加速させる。
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