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第2章この度、学生になりました。
5*自転車は最高なのです。
しおりを挟むガサガサ‥‥
誰かが此方に近づいて来ています。え、どうしましょう、逃げるべき?でも、後ろは池ですし‥‥行けるのは、音のする方しかありません。うーん。
ガサガサ‥‥
「だ、誰?」
恐る恐る、声をかけました。すると、あちらもそろっと恐る恐る姿を現しました。
「‥‥ディナン。」
「‥‥」
思わず、呼び捨てにしてしまいました。
気不味さがこの場に流れます。‥‥子供の頃は無邪気に話しかけれてたのになぁ。
「ディナン‥‥殿下、久しぶりですね。こんな所に誰か来るとは思わなかったんで、ビックリしました。」
ぎこちなく、話しかけます。ディナンは、少し戸惑ったように目を伏せました。
それでも、こんな2人きりで話せることなんてもうないかもしれません。聞きたいことは聞いておかないと。
「‥‥なんで、」
ポツリと、言葉が漏れました。
「なんで、手紙とか‥‥連絡とか取ってくれなくなったんですか?私、ずっと待ってたのに‥‥」
責めるような言葉になってしまいました。子供の頃にくれた、ブレスレットを握ります。
「な、にを言っている?」
「え?」
聞き返されて、私も伏せていた目をディナンの方に向けます。すると、信じられないと言うような、怒ったような悲しいような複雑な表情でディナンは私を睨んでいました。
「手紙を送るなと、迷惑だと言ったのはチャコじゃないか。手紙も、送り返して来て‥‥」
「え?」
え、何の事?なにそれ?そんな事言った覚えも、書いた覚えもないです。
それに、送り返されたって‥‥手紙を送り返したことなんか一度もありません。
グルグルと頭の中で考えます。
「‥‥まぁ、子供の頃のことをいつまでも引きずっても仕方ないしな。もう、何とも思っていないから‥‥」
え、待ってください。なんで、私が許されてる感じなんですか?私のが、連絡無視され続けていたんですけど?なんでそんな風に、呆れた様に言われるんですか?身に覚えがありませんけど!?
「ちょ、ちょっと待って!‥‥ください!」
思わず、ディナンの言葉を遮ってしまいました。
「なんだ。」
ムッとしたように、眉を寄せて少し睨みつけて来ました。
うぅ。でも、ここで引いてはダメです。誤解のままなんだかめんどくさくなりそうです。
「私、手紙を送り返したことも無いし、迷惑なんて言ったことないです!」
「‥‥何?」
「私は、ディナンが手紙くれなくっても定期的に送ってたし、王都に帰って来た時は、ずっと連絡取ってた。会いたくて、何度も連絡してた。でも、無視したのはディナンじゃない!パッタリと手紙も、電話も取ってくれなくなったのはそっちでしょ?なのに、なんで私が悪いみたいになってるの?それは違くない?」
思っていた不満が口々に出てしまいました。
ディナンは、驚いたように目を丸くしています。
「‥‥」
しばらく黙った後、私の言葉を理解したのか、何か考える様に顎に手を当てました。
「じゃあ、チャコは‥‥ずっと私からの手紙を待っていたと?」
「うん。」
強く頷きます。だって、本当に待っていましたし。忙しいんだろうなとはわかっていましたが、一年に一度くらい‥‥私は、毎年ディナンの誕生日には手紙を送っていました。
「こっちに帰って来た時には、連絡くれていたと?」
「うん。」
去年と一昨年は帰ってきてないので結晶石での連絡は取っていませんでしたが、帰ってきたら必ず、一度は連絡してました。でも、いつの間にか繋がらなくなっていたんです。
「じゃあ、なんで‥‥教室で最初に会った時も、今も殿下呼びなんだ。よそよそしくしていたじゃないか。」
「だって‥‥そ、れは、私達ずっと会ってないし‥‥連絡をずっと無視され続けているのに、友達の様に振舞っていいのかわからなかったし‥‥。やっぱり少し気不味かったし‥‥。」
「‥‥そうか。私もだ。」
真顔で返されてしまいました。
「‥‥‥‥ぷ。くふふふ」
「‥‥‥‥くっ。くくく」
なんだか間抜けすぎて、笑いがこみ上げて来ます。
「チャコ。」
「ん?なに?」
呼ばれてディナンを見上げると、とても穏やかな顔で笑ってました。
「おかえり。」
ポンポンと、頭を優しく撫でられました。
やっと誤解が解けて、子どもの頃のように優しい声色なったのがなんだかホワホワと暖かい気持ちになりました。
「ふふ。ただいま。」
それから、私とディナンは2人で話し込んでしまいました。ディナンの近状や、私の近状などを話したり、思い出話をしていたらいつの間にか、レイ兄様たちが帰る時間になってしまって、急いでジンに連絡を入れました。ジンは校門前でずっと待っていた様で、すごく怒られたのは言うまでもありません。ふぃ~
◇◆◇◆◇◆
『あーそんなことがあったんだ。』
「うん。ディナンとは仲直りしたから、明日からは普通に過ごせると思うよ。ゴメンね、気を使わせて‥‥」
『俺は別になにもしてないよ‥‥ディナンの話あまり聞いてなくて何があったとか詳しく知らなかったし‥‥。ディナンからはチャコからの手紙が届かないって事くらいしか聞いてなかったからふーんくらいにしか思わなかったんだ。そんなに悩んでたんならもっとガツガツ言ってくれたら良かったのに。むしろ、チャコも言ってくれたら良かったのに。』
「うーん。ディナンも、言い辛かったんじゃないかな?私も、なんか言い辛くって…それに、確認するのも怖かったと言うか…ってか!それにしても、いったい誰が、こんな事したんだろうね?本当、ひどい。」
『チャコを悲しませるとか酷いじゃ済まないね。本当、どう償わせようか?と言うより、犯人見つけなきゃな。』
「‥‥理由も不明だし、メリットもない事に、何でそんな労力避けるのかね?まぁ、もう大丈夫だと思うよ。何年も前のことだし‥‥」
『そうかなぁ?チャコに何かあってからじゃ遅いからね?』
「わかってるよ。ありがとうね。」
『うん‥‥。あ、そういえば、チャコ、知ってる?』
「ん?何?」
『なんか、王宮で噂になってるんだけど、リリとディナンが婚約するかもって話があるんだって。』
「そーなの!?」
『うん。まぁ、リリは公爵家の1人娘だし、年も一緒だしありえない話ではないよね。』
「それもそうね。リリはあんなに可愛いし‥‥うふふ。大好きな2人が結婚したら嬉しいわね。」
『‥‥‥‥本当に?』
「ん?本当だよ?」
『ふーん‥‥そっか。じゃあ、俺はもう寝るかな。チャコもそろそろ寝なよ?』
「うん。また明日ね。おやすみ。」
『おやすみ。チャコ』
「ん。」
プチン
結晶石に魔力を込めるのをやめると、会話が切れました。
そうなんですね。そんな話が出てるんですね。うーん、そしたら、ディナンでは妄想するのはやめたほうがいいですかね?ジョーxディナンが一番の推しカプだったんだけども‥‥。
「まぁ、明日リリに聞いてみよう。」
私は、ベッドの脇の電気を消して眠りにつきました。
◇◆◇◆◇◆
「‥‥お嬢、本気ですか?」
ジンは目の前の自転車を見てすごく嫌そうな顔をしています。
「本気に決まってるでしょう?あ、別に送り迎えとかこれなら必要ないから家のことやってても良いよ?」
「‥‥いいえ。私も行きます。送り届けないと不安で仕方ないので。」
「もー心配性なんだから。なら、つべこべ言わずに付いて来て!」
「‥‥はい。」
私とジンはなるべく目立たないように、ちょっと早めの時間に家を出ました。
うんうん。朝の空気が気持ち良いです。なんだか、健康になりそうですね。
駐輪場はないので、仕方ないからルームでカバンの中に入れます。本当に、便利な魔法です。盗まれる心配も、イタズラされる心配もありません。持ち歩き出来るのに重くないなんて最高ですね。
「お嬢、昨日みたいに遅くなってはダメですよ?ちゃんと、まっすぐ帰って来てくださいね。」
ジンに念入りに注意されました。本当に、心配性なんだから。
「はいはい。わかりましたよ‥‥」
「‥‥遅れるようなら、連絡入れてくださいね。本当に心配しますから。」
「はい、わかりました。」
「もう‥‥。お嬢、行ってらっしゃいませ。」
ジンは、自転車を降りて綺麗に礼をしました。
この6年で本当に、見違えるように侍従らしくなりましたね。ふふ。
「行って来ます。」
ジンと校門前で別れて、教室を目指します。うん。やっぱり一番乗りです。
誰もいない教室、窓際の席、うん。青春っぽい!また、こんな風に学校に通う事になるなんて思いませんでした。この学園は、思っていたよりも普通の学園のようで、体育祭はないけど文化祭はあるようです。生徒と、父兄のみ参加可能で、みんな貴族なので割と華やかな場になるようなので楽しみですね。
ガララ‥‥
本を読んでいると、リリが教室に入って来ました。
「チャコ、おはよう。早いのね。」
「おはよう。リリも、早いじゃない。」
「うん。なんだか早く目が覚めちゃって。」
「私は、渋滞にハマるのが嫌で早く来たの。」
「確かにね。歩いたほうが早い時あるよね。」
他愛もない話をしていると、次々とクラスメイトが教室に入って来ました。
「時に、リリさん。」
「はい、なんでしょう?」
某有名な指揮官の格好をします。もちろん、誰も彼を知らないからつっこんでくれる人は居ません。寂しいですが、仕方ありません。
「昨日、ジョーから聞いたんだけど‥‥」
「うん。」
「ディナンと、婚約するかもって‥‥本当?」
朝っぱらから言っちゃいました!だって、聞きたかったんですもん。
これから、幼馴染属性でネタにできないのはキツイんですもの!!
「あ~、それね。まぁ、ありえない話じゃないみたいだけどね。お父様は、それ狙ってるみたいだし。でも、私は殿下と只の友達だしねぇ。私にその気は無い。あっちも、そうだしねぇ。‥‥けど、そうも言ってられないのが貴族だよね。うん。」
あれ?なんだか、リリが少しシュンとした様な?
「‥‥リリ、好きな人がいるの?」
リリの反応を見ると、そんな気がしてしまいました。リリは、私の言葉が意外だったのか驚いた様に、いつも大きい目をもっと大きくしています。
「‥‥え?そんな風に見えた??」
「うん。なんだか、切なげだった。」
「えぇ~?切なげって‥‥ふふ。」
茶化す様に、話を逸らそうとしているのがわかります。やっぱり、好きな人がいるんだ‥‥。誰でしょうか?私の知ってる人??
「本当、チャコには敵わないなぁ。ふふ」
「え、何それ?」
「んーん。なんでも無い。って、チャコ、あれ見て!!」
リリが急に外を指さしました。
リリにつられて外を見ると、ディナンとジョーが一緒に登校してきていました。
ディナンとジョーは何か楽しそうに話していて、何時もよりも表情が出ている気がします。
女子たちがチラチラと熱視線を送っていますが、2人は話に夢中で気づいていません。
「な~にをそんなに楽しそうに話してるのかねぇ?」
リリが、ご馳走様ですという様に手を合わせています。うん、気持ちはわかります。
そのまま肩組んでくれないかな。いや、腕でもいい。寧ろ、手繋ぎ‥‥
「女の子の視線も気付かないほど楽しい話なのかねぇ?」
私とリリが2人を見てニヤニヤします。
「‥‥ジョーとディナンってさ、公認カプでもいいんじゃない?」
「確かに。‥‥幼馴染って、強いよね。」
「うん、強い。誰よりも分かってる感あるしいいよね。それにジョーは、ディナンの側近候補でしょ?2人きりの時はタメ口で、公の場では敬語を使い分けるの良いよね。ってか、敬語ってなんかクルよね。」
「あー分かる!チャコ、それすごい分かる!敬語って良いよね!!」
「一見穏やかそうなのに、冷たくも、優しくもなるのって強いよね。敬語で怒られたい。」
「でも、本当に敬語で怒られると結構怖いよ?アルノーとか、本当怖い時あるもん。やめて欲しいわ。」
「うーん。アルノーさんは、普段が敬語だから、焦った時とかに、『つい』出ちゃったっていう様なタメ口にキュンとくるよね。あー‥‥無い物ねだりかも。」
「ん~想像付かない‥‥そもそも、アルノーが焦ってるところが想像付かない。」
「ふふ。確かに。なんでもソツなくこなしてそうだもんね。」
「スキがないのよ。あいつは。」
「でもさ、アルノーさんの照れ顔とか、焦り顔って絶対ヤバイよね。ときめく自信しかない。」
「‥‥‥‥~~っ!!」
リリが、悶え始めました。あれれ??これは、本気照れ??あれ??
もしかしてーーー‥‥
「アルノーさんが好きな人?」
ありゃ、口に出てた。
「えっ!!??」
ガタッと大きい音を立ててリリが立ち上がり、椅子が倒れました。
周りにいた人達も、驚いたようでこちらを注目しています。
「あ‥‥ごめんなさいね。なんでもないわ。ふふ」
リリが平静を装って倒した椅子を戻して座ります。
なんでも無いのを確認した周りの人たちは、あっという間に興味を失ったようにまた別の事をやりだします。
リリはそれを確認して座り直した途端、ズイッと顔を近づけて来ました。
「‥‥チャコ。」
「え、ごめん。」
「あ、たし‥‥そんなに顔に出てた?」
「‥‥うん。一段と可愛かった。」
「なにそれ‥‥ふふ。ココは人が多いから‥‥お昼か、放課後、時間作れる?」
「もちろんいいよ!恋バナ大好き!!」
「ふふ」
リリが、嬉しそうにでも、少しだけ寂しそうに笑いました。
・・・やっぱり、公爵家ですもんね。色々あるんですかね。うん。好きなだけ話を聞こう。
「チャコ、おはよう。」
ジョーが教室に入って来て、私の隣に座ります。
授業のことや、お昼の事など他愛もない話をしながら授業が始まるのを待ちます。
ディナンも来て、四人で話しているとあっという間に時間が過ぎました。
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