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第2章この度、学生になりました。
20*【ディナン目線】その4
しおりを挟む【ディナン目線】
「お、俺はなにも‥‥で、では!!」
男は私が誰だかわかったのかこれでもかと言うほどの早さで消えて行った。
・・・ち、逃してしまったか。
「でぃ、ディナン‥‥」
「‥‥結構痛いな。チャコの蹴りは。はは。」
もろに頭に蹴りが入って本当に結構いたい。
チャコは華奢な‥‥ぽきっと折れてしまいそうなほど細いっていうのに何処からあんな力が出てくるのか。たんこぶができたかもしれないな。…格好悪い。
「ちょ、ディナン、大丈夫!?あ、あっちに座れるところあったから行こう、本当ごめんね、ごめんね、」
「あ、あぁ。」
◇◆◇◆◇◆
「ご、ごめん。ディナン?大丈夫だった??」
チャコが渡してくれた濡れたハンカチを痛い所に当てると熱を持っていたのかとても気持ちよく感じた。とても申し訳なさそうに謝るチャコを見て思わず笑みが洩れてしまう。
「‥‥いや、出過ぎた真似をしたようだ。」
そうだよな。チャコだもんな。『きゃー助けてー』なんて言うわけがない。何かしらで自分で対応しようとしてしまうのを忘れていた。
「いやいや。本当に助かったよ。しつこくて困ってたから‥‥ありがとう。」
「そっか。力になれたならよかった。」
本当に、もしもチャコに何かあったかもしれないと思うだけで肝が冷える。
「ディナン、でも忙しそうだったのにこっちに来てよかったの?」
「忙しそう?」
そうだったか?忙しかったのはチャコの方ではないか?
「‥‥色んな令嬢に囲まれてたでしょ?」
少し言いづらそうに俯きながらチャコが言った。見てたのか。いや、見えるか。隠すこともないが少しヤキモチでも妬いてくれないだろうか。
「あぁ。いつも通りだよ。でも、私は基本は踊ったりしないから。」
あ、やばい。この言い方だと誰とも踊らないって言っているのと同じだ‥‥
チャコを誘いづらくなってしまう‥‥
「なんで?」
「‥‥なんでも。」
「ふーーん。そっか」
言えるわけないだろう。『チャコを初めてのダンスパートナーにしたかったから』なんていう幼稚な理由を本人の目の前でなんて!!言えるわけないだろう!!??ど、どうにか話を空なさいと‥‥!
「‥‥チャコは、こんな所で何してたんだ?」
「ん?みんな忙しそうだったからちょっと噴水が気になって来て見たの。とっても綺麗でびっくりしちゃった。」
「確かに。夜の噴水とかって幻想的だよな。」
「ねっ!水の音落ち着くし、好き!」
真っ直ぐにニコッと笑いかけられて頬が熱くなるのを感じた。
いつもよりも大人っぽいのに笑顔だけはいつも通り少しだけ幼い、屈託のない笑みがこれ程までに愛おしく感じるなんて‥‥。重症だな、私は。
暫く噴水を二人で眺めて穏やかな時間を過ごす。
これは、今とても良い雰囲気なのでは?
今日は、結構リリとの噂がよく耳に入って来た。これをチャコはどう思っているのだろうか。いずれ、断るにしても、少しはヤキモチでも‥‥いや、無いな。チャコは、嫉妬などするタイプだと思えない。でも、どう思っているのか聞きたいな‥‥。その答えによっては完全に脈ナシとわかってしまうが‥‥‥‥
「なぁ、チャコ。」
前で組んでいた手に少し力が入る。汗ばんで来たのがわかった。静まれ、落ち着け、平常心、平常心だ私。
「ん~~?」
「チャコは、私とリリの事どう思う?」
よし、いった!言ったぞ!!
「え‥‥?」
「だから、リリと私が婚約したら‥‥」
聞き返されて心臓が止まるかと思った。もう一度言うのは恥ずかしかったが言うしかあるまい。頑張れ、自分!
「わたしは‥‥」
ドキドキ
「うん。」
ドキドキドキドキドキドキ
「‥‥わからない。」
「え?」
ナンテ?
「だから、わからない。でも、二人が幸せになるなら‥‥私は応援する。二人だったら、素敵な家庭を築けると思うし、今はリリが他に好きな人がいて、多少ギクシャクしても家族になれば愛が芽生えると思うし、二人にとって唯一無二の夫婦になれると思う。でも、今日、変なの。二人のこととてもお似合いだって思ってるのに‥‥みぞおちの辺りがモヤモヤしたり‥‥」
ワカラナイ?オウエンスル?モヤモ‥‥ヤ!!??
モヤモヤするのか、チャコ!私が、リリとお似合いだけどモヤモヤするって言ったか!?
え、そ、それはどう言う‥‥もっと詳しく、もっと具体的に‥‥‥‥アレ?
チャコの言葉が続かないのが気になって顔を覗くと何だか青くなっていっているような‥‥?
「チャコ?」
私の声にハッとしたように此方を向いたかと思ったら青かった顔色が見る見る真っ赤になっていった。‥‥この反応はどう言うことだ?
「え、あ、私!少し冷えて来たから中に入るね!!」
急に立ち上がって早口でまくし立てられた。なんだ?なんか、いつもと様子が‥‥
「じゃあ、私も‥‥」
一人ではまた危ないと思って一緒に行こうと立ち上がったら手で肩を掴まれて再度ベンチに座らされてしまった。
「ダメ!!」
「え?」
「あ‥‥ごめん、お、お手洗い行ってくる!!!」
チャコはそのままあまり早いとは言えない速度で必死に歩きながら戻っていってしまった。
帰るときに見たあの真っ赤なチャコは‥‥もしかして、嫌だって思ってくれた?それで、戸惑った?いやいや、やめろ!ここでそんな都合の良い事を考えてもし違っていたら‥‥でも、泣きそうな程瞳を潤ませて‥‥
「あぁぁ、めちゃくちゃ可愛すぎるではないかっ!!!」
顔を手で覆って叫んだ。
ふぅ・・・誰にも聞かれていないと良いんだが。
「って!一人で戻すとかありえないだろう、私は!」
我に返ってチャコが行った道を急いで追いかけるとチャコはジョーと合流した所だった。
・・・またジョーに連れてかれてしまう。嫌だ。ここは、ちょっとわがままになるぞっ!!
「ジョー。」
「ん?ディナンもあっちにいたのか?」
「‥‥ちょっとね。」
「何かあったのか?」
「内緒。ちょっと、チャコ借りるよ。」
「は?おいっ!」
ジョーのことは無視してチャコに近づくと潤んだ瞳を真っ直ぐに見た。
「チャコ。私とも、踊ってくれますか?」
なるべく余裕のあるように笑みを作る。周りの人たちが騒ついたのがわかったがいまはチャコしか見えない。そんな中チャコは、何を言われたのかわかっていないと言うような顔で此方を見て来た。
「ん?ダメか?」
断られたら私はもう立ち直れないかもしれないが‥‥。
「いや、ダメというか‥‥さっき踊らないって‥‥」
「あぁ。私は自分から踊りたいって思った人としか踊らないんだ。チャコとは、踊りたい。初めての社交の記念にもね。」
やっぱりね。そうだよな。多分言われたのが自分でもそう思うよ。チャコは間違っていない。あんな言い方しなければよかった‥‥。だから少しでも気持ちが伝わるように恥ずかしいが素直に気持ちを伝えると‥‥
「喜んで。」
はにかんだように笑って本当に嬉しいと言ってくれているような笑顔が帰って来た。
「ん”ん!」
やばい、今の顔、私にしか見えてないよな?今のは誰にも見せたく無い。
なんて可愛さしているんだ‥‥‥‥これは一種の凶器になるのではなかろうか‥‥
チャコと踊っている間、距離が近くて心臓の音が聞こえてしまったらどうしようとか色々考えていたがチャコが全然此方を見てくれない‥‥と思ったらチラチラと恥ずかしそうに見られている。一体どうしたんだ?今日のチャコは‥‥
「ん?」
「な、なんでもない!」
目があったタイミングでどうした?と言う意味で聞いたが‥‥また真っ赤になって俯いてしまった。これはもしかして、チャコもドキドキしているってことなのだろうか。‥‥確かめたい。
「チャコ。」
グイッとチャコを抱きかかえるように身を寄せてまだ言っていなかった素直な感想を伝えた。・・・こんなこと、目を見てなんて恥ずかしくて言えないからな。私にはこれが精一杯だ。
「っ!!!!」
バッとチャコが私の事を見て来た。耳まで真っ赤になって何か言いたそうにしていて小動物のようでとても愛らしい。こんなに可愛いところが見れるならもっと早く言えばよかった。
「ふは。チャコ、真っ赤。」
ちょうど音楽が止まった。
チャコも耳を押さえたまま止まってしまった。
「チャコ、悪かった。なんか怒った?」
やっぱり、近くて嫌だったか?可愛くてちょっと調子に乗りすぎてしまったか‥‥?
「‥‥」
「反応が可愛くてつい‥‥チャコ?」
チャコの反応がなくて、こんな事は初めてで戸惑ってしまう。
「ううん。なんでもないよ。」
あ、いま自分の感情殺した。絶対、なんかあるのに隠した。
そんなに嫌だったか‥‥?
「‥‥チャコ?」
「もーディナン、本当揶揄いすぎだからね?‥‥ディナンも、今日はいつもの数十倍かっこいいよ!!あ、ごめん、本当にお手洗い行ってくるね。」
「あ、あぁ。」
チャコにあんなに言ってもらいたかった『かっこいい』なのに全然嬉しく無い。
チャコを怒らせた?なんで?何にそんなに怒ったんだ?
ダンスするのが嫌だったか?近づきすぎたか?
恥ずかしくて茶化してしまったことか?‥‥どうしよう。
あ、俺の初恋終わったかも‥‥‥‥。
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