3 / 65
第2話
しおりを挟む食事を待っている間、部屋の中を散策する。
「大きい部屋だなぁ‥‥私の部屋の何倍もある。あ、お風呂もトイレもついてるんだ~あ、こっちは‥‥あぁ~クローゼット‥‥ドレス多いなぁ。さすがお金持ち。本もいっぱいある。‥‥これ、一つだけ古い‥‥なんだろ?」
それは、分厚い本の形をした箱だった。中にはノートが何冊か入っている。
「‥‥日記?」
その日記には、日頃のストレスや、愚痴、悪口などがびっしりと書かれていた。
その中でも、学校に入ってからが物凄く言葉汚く書いている。知らないハズの文字なのに、すらすらと読める。不思議だ。
ある日から、気弱な言葉ばかりになった。
夢の事が書かれている。
『○月×日 今日もあの夢を見た。誰なの?あの女は。私のフィンセントに馴れ馴れしく‥‥でも、フィンセント様もあの女を好きらしい。それに、みんなが私の事を冷たい目で見ている。辛い‥‥私は言われた通りの令嬢になっただけなのに。何がいけないの?下の者が上の者を敬うのは当たり前のことでしょう?このままだと、本当に私は‥‥
殺されるの?』
その文字を見た瞬間‥‥
ブワワっとリリアーナの記憶が頭の中に入ってきた。
ずっと見続けていた”自分が殺される夢”みんなが幸せそうに笑っている。
嘆く人が一人もいない。お父さんや、お母さんまで見て見ぬ振りをしている。
その中でも‥‥
リリアーナと似た、紺色の髪の男の人が憎しみに満ちた目で”私”を睨みつけている。
その隣にはピンクゴールドの髪をフワリと靡かせた少女。
泣いているのか、ハンカチで顔を抑えている。その少女を優しく、でも力強く抱きしめている
”フィンセント様”
・
・
・
オモイダシタ‥‥
おもいだした‥‥
思い出した‥‥!!
此処は、”私”が寝る前にやってた18禁ゲーム!!!
『月夜の狼さん~ドキドキ!Hな女の子でゴメンなさい~』
うん。あれだ。あれの世界観そっくりだ。
この前、パケ買いしたやつ。こっちに来る前にやっと全てのエンド迎えたやつ。
超がつくほど、どエロかったけど、内容は思いっきり在り来たりなやつ。
それの、嫌われ者の婚約者、リリアーナなんだ、私。
え、てことは何?私、殺されるの?いや、ていうか、死んだの?私。
でも、普通に昨日、寝ただけだよね?異世界転生?異世界転移?え、どっち??
どっちにしても、あたし、このままだと殺される!?
昨日、やっと全エピソード終わっただけのゲームに!?
ってか、色々とおかしくない?
なんで人の心が聞こえるの?
なんで、リリアーナは自分の運命を知っているの?
リリアーナって、冷たくて意地悪で、執事さんにあんなに愛されてるわけないじゃん!
それに、こんなに可愛くなんかなかったよ!?
化粧バリバリでいっつも真っ赤なリップつけてケバケバの女だったよね?
あ、もしかして化粧してないから?スッピンだから可愛いとか!?
確かに、このゲームのキャラ達みんながみんなパケ買いした程作画良かったけど!!!
絵が綺麗で、エロくて、すごくみんな好みだったけど!!!って、あのヘンリーさん!!!
リリアーナの専属執事のヘンリーさん!
ドM変態のヘンリーさん!!
散々リリアーナに虐められて、屈辱的なことされたのにリリアーナの事が盲目的に大好きな、ドM変態のヘンリーさん!確か、リリアーナと一緒に断罪されて一緒に死刑台に送られるはず‥‥‥しかも、その死刑台の上でも『やっとリリアーナ様と一緒になれるのですね』
ってうっとりした表情のまま首を‥‥‥‥
あぁーーー‥‥まじかぁ‥‥。確かに、かっこよかったわ。
さっきはどっかで見た顔だなぁ~くらいしか思わなかったけど、思い出したら確かに、ヘンリーさんだわ。
頭を抱えてクローゼットに備え付けられている椅子に座っていると慌てたようにヘンリーさん(ドM変態)が駆けつけてくれた。
「お嬢様!やはり、頭が痛いのですか?ご気分が‥‥」
『なんということだ‥‥!10分も部屋を空けてしまったばかりにまたお嬢様の異変に気付けなかったなど‥‥!』
「あ、いえ、大丈夫ですので、そんな気にしないで下さい‥‥」
「‥‥っ」
『お嬢様に気を使わせてしまった‥‥あぁ‥‥俺は本当に駄目な執事だ‥‥』
「ちょ、そんなことないですから!」
「え‥‥?」
「あ‥‥いえ、ほ、ほら!なにか持ってきてくれたんですよね?わぁ、美味しそうな匂いがするなぁ~ハハハ」
『なんだ?俺、今何も言ってなかったよな‥‥?』
(や、やばい、疑われてるーーっ!!心の声が聞こえるとか、絶対言えないし‥‥!)
居たたまれなくなった私は、さっさとクローゼットから出て食事が置いてあるテーブルへ向かった。私の後ろをついてきたヘンリーさんはまだ謎に思っているのか、黙っていた。
テーブルには、サンドウィッチやサラダ、スクランブルエッグなどが並べられていた。
「おじょ‥‥いえ、ヒロミ様、ごゆっくりお食べ下さい。」
「あ、ありがとうございます。」
なんだか、キャラクターのデフォルト名を変えてゲームをしているようでなんだか落ち着かない。
(でも、リリアーナって呼ばれてすぐに振り向ける気がしないな‥‥でも、この顔に裕美って。似合わなすぎるでしょ。)
「あの‥‥ヘンリーさん、」
「ヘンリーとお呼び下さい。」
「あ、いえ、えっと‥‥私も、リリアーナでお願いします‥‥」
「宜しいのですか?」
「はい‥‥暫くすれば、慣れると思うので。返事がなかったら肩を叩いてくれればいいので。」
「‥‥でも、」
「いつか夢が覚めた時に、私は裕美に戻ればいいです。」
へへッと頬をかきながら言うと、ヘンリーさんは少し驚いたように目を見張ったかと思ったら一瞬で表情が戻った。
「畏まりました。では、お嬢様とお呼びいたします。」
『なんだあの顔は!!!困ったように眉を垂らしつつ頬掻きながら笑うとか!!あーーーーやっべぇーーーマジ可愛すぎた。今の顔、一生目に焼き付いた。』
案の定、リリアーナの顔が大好きなヘンリーさんは内心はしゃぎつつ紅茶を新しく入れてくれた。
確かに、豪華声優陣の声で、自分の名前を呼ばれないのは少しだけ勿体無い気もするが元に戻った時にリリアーナがびっくりしないようにしないと。
多分、私は転生したんでは無い、ような気がする。
私の記憶と、リリアーナの記憶が今はゴッチャゴチャで私の性格が今は全面に出ちゃってるけど‥‥。それに、リリアーナとしての記憶も曖昧でこの世界の常識とかはゲーム知識くらいしか知らないし、15歳って事はまだゲームが始まるのに2年近くはある。ゲームが始まった頃のリリアーナはこんなに細っそりしてなかったし、こんなにナチュラルな美人さんでもなかった。色々と違いすぎているが、まだ断罪されて処刑台に送られるのはまだ時間がある。それまでに、王子を好きなリリアーナには悪いけど、王子とは婚約破棄してもらって、平穏無事な学園生活を送ろうと思う。
確か、攻略対象は4人だったはず。
先ずは、王太子のフィンセント様。
容姿端麗で、誰にでも優しいのにリリアーナの事は大嫌いで、月に一度のお茶会は国王陛下の命令だから、仕方なく来てくれるけど会話という会話をしてもくれなくて、多分、王子は生理的にリリアーナが嫌いだったんじゃ無いかな‥‥。特に何をしたってわけじゃ無いのにあんなに嫌ってたんだから。まぁ、あたしが知らない過去もあるだろうから、なんとも言えないけど。
それから、私のお兄さんのアーノルド。
特に仲がいいわけでも無いけど、悪いわけでも無い。結構リリアーナ自体はお兄ちゃん大好きで鬱陶しがられてても結構構いに行ってたような‥‥。だから、主人公がお兄ちゃんの事取っちゃうってなって、意地悪して最後は取り返しも効かなくなって自滅の事故死だったっけ。たしか、生徒会で同じで王子とも仲が良かったはず。王子の側近候補だったわよね。
あと~‥‥幼馴染のアラン。たしか、騎士見習いでお父さんが現騎士団長だっけ。同じ侯爵家で、跡取り息子だから、次期侯爵だったはず。リリアーナとは、同じ年で犬猿の仲なのよね。王子ともお兄ちゃんとも友達で、よくリリアーナの邪魔をしてたわ。だからなのか、アランにいい人ができた時に徹底的に邪魔しようとして、主人公を虐めてアランにも有る事無い事言って、結局、自滅して国外追放‥‥のあと、自殺ってエンドロールが流れてたなぁ。
主人公のバッドエンドも結構な事になってたけど、リリアーナも結局、長生きはできないんだよなぁ。
って、あれ?国外追放?自殺??
という事は!アランエンドでは自ら死ぬことを選ばなければ生きられるって事?いや、国外追放エンドっていくつかあったような。でも、なんで自殺したのかはわからないけど‥‥。でも!よく考えたら私、婚約破棄して、後は周りと普通に過ごしてれば・・いや、こーゆーのって、ゲーム補正とか言ってダメな方ダメな方に修正されてくのよね‥‥そしたらどうしたらいいかな?
このまま引きこもりになる?
それとも、逃げる?
一層の事、学校を転校しちゃうとか?
いやいや、そんなの無理よね。婚約者の王子がいるのに違う学校とか‥‥親が許すわけないなぁ。
うん、とりあえず、いまの私にできるのは、大人しくする事と、周りに頼りすぎないのと、この世界を知る事よね。そうすれば、これ以上は嫌われないはず。
ご飯を食べ終わって、考え事をしていると、ヘンリーさんが心配そうに覗き込んで来た。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「あ、はい!ちょっと、考え事をしてただけです‥‥。」
「そうですか‥‥もう、昼もすぎましたし、少し外へ出てみてはいかがでしょうか?外の空気に触れるだけで気持ちも少しは晴れるかと。」
『ずっと部屋に閉じこもっていては、お体にも悪いのでは‥‥』
(ヘンリーさん、本当にリリアーナの事が好きなんだなぁ。‥‥変態にさえならなければ、いい人だわ。)
ヘンリーさんの優しさが伝わって思わずふふっと笑ってしまう。
「そうですね、少しだけ。外に出ても良いですか?」
「畏まりました。では、用意させますので少々お待ちください。」
「はい。」
『あぁーーーお嬢様の笑顔ヤベェ!!いつもの2億倍可愛い!いつもの見下すような笑い方も好きだけど、この優しげな、儚げな笑い方はもっと好きだわぁ~~!!!』
内心、ルンルンのヘンリーさんが侍女を呼んで、外に行く準備をしてくれた。
侍女のカーラに「ありがとうございます」と伝えると、驚きで思考も止まって溢れんばかりに目を見開いていて少しだけ、リリアーナが立場を利用してどれだけみんなに当たっていたのかを思い知らされた気がした。
「いままで、辛く当たってしまって御免なさい。」
会う人、会う人に1人ずつ声をかけて、良くない感情の人に頭を下げた。
みんな本当に驚いていて、なんと発して良いのかわからないという感じだったが。疑いつつも謝罪は受け入れてくれた感じがした。まぁ、受け入れないって選択肢もないし、様子見って感じでしょうけど。
その中で、1人だけ、ずっと目を合わせないし、『私は止めた。私は悪くない。』と自分に言い聞かせている侍女がいた。
「ちょっと、そこのあなた。一緒に来てくれますか?」
私が呼びかけると、物凄く怯えたように肩が跳ね上がって、恐る恐る私を見たと思ったら涙目になっていく。
(‥‥この人、私の事情を知ってる?)
漠然と‥‥でも、なんだか確信をもってそう思う。
人払いをして、その侍女とヘンリーさんと3人にしてもらって庭の東屋で腰を下ろす。
「あの、「も、申し訳ございません!!!」
私の話を遮って、侍女は急に頭を下げて謝罪して来た。
「え‥‥と、何が?ですか?」
戸惑いつつ、質問で返す。
「私は‥‥っ!と、止めたんです、やめたほうがいいと‥‥どう、なるかわからないから‥‥でも、お嬢様は‥‥‥‥それでも、やると‥‥‥‥惨めに死ぬよりかは‥‥殺されるよりかは、良いとおっしゃられて‥‥それで‥‥‥‥この世界を壊す‥‥と、そう、仰られて‥‥‥‥」
怯えているが、思考も言っていることも同じようで、嘘ではないみたいだ。
「‥‥‥‥つまり、”私”がここに来たのは、リリアーナが自ら望んだ事、ということですか?」
「は、はい‥‥‥‥。血の、儀式を‥‥昨夜‥‥行って‥‥」
「血の儀式‥‥!?」
反応したのは、ヘンリーさんだった。
「この世界を壊してくれる者を呼ぶ、と‥‥」
魔王的な?え、つまり??
「私が、その、世界を壊す者ってこと?」
「‥‥‥‥はい。」
(えぇぇぇぇぇぇ!!!???)
びっくりしすぎて声がでなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,272
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる