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6、一緒に頑張って
しおりを挟む「でも、どうしてでしょう」
「今の段階では断言はできませんが、やはりウォーレン相手を除いては一時的なものだったのかもしれませんね。もう少し調べてみなければわからない。毎日触らせていただければ、はっきりしたことが判明するかもしれませんが」
「毎日ですか?!」
目を見開いたエミリアに、ルイスもぎょっとする。そして困ったような笑いを浮かべた。
「申し訳ありません。そうしないと力の流れや反応がわからないので……我慢していただくしかないのですが」
「あっ、ち、違うのです。嫌だとかそういうことではなく、お、驚いただけで……」
下心があるのではと疑っている、などと思われたらどうしようとエミリアは青くなった。これほど親切にしてもらっている人に、そんな疑いを抱くはずがない。
「あの、一時的なものだとしたら、他の男性と接触しても平気なのでしょうか」
「そうでしょうね。触って確かめるしかないですけど……」
ルイスは先ほどから支えるように触れたままのエミリアの手を見つめる。
「あまり他の男を触るのはおすすめしたくないですね。私一人にしていただきたいかな」
そうか、みだりに異性に触れるのはいくらなんでもよろしくない。確認はできないが、こうしてルイスに触れていられるのだからきっと大丈夫なのだろう。
「そうしますわ。私、触れるのはあなただけにしておきますね」
エミリアがにっこりすると、ルイスは一瞬黙りこんでふと目をそらした。が、すぐにこちらを向く。
「……このことが、ウォーレンを余計に怒らせたのでしょうね」
「このこと、とは?」
「触れられないことですよ。さぞ腹を立てたのでしょう。自分の意のままに出来ないと癇癪を起こすような幼稚な男ですからね」
こうして我々が触れ合っているところを見たら、ウォーレンはどんな反応をするだろう、とルイスはどこか嬉しそうに言う。
「ちょっと見せつけてやりましょうか」
「あの方、私などどうでもいいと思っているようですから、あなたに手をとられているのを見ても気づかないと思いますけど……」
そもそも狙っていたのはミレーネで、呪いをかけてしまったから残ったエミリアを嫌がらせとして婚約者に指名したのだ。
エミリアは妹のように愛らしくはないし、つまらない女だ。ウォーレンもいたぶる玩具以上の関心はないだろう。
「エミリア様。とにかく、我々は殿下の言いつけを守らなければならないのですよ。要するに、浮気をするんです。しっかりと命令を聞いているところを、彼に見てもらわなければならないでしょう?」
そういうものだろうか、と思いながら、エミリアは曖昧に頷いた。
確かに、既成事実を作って説得力を持たせなければ、大々的な婚約破棄の発表の効果は薄れるだろう。
「では、ハルステラ様。ふつつかものですが、どうか浮気相手としてよろしくお願いいたします」
会釈をすると、ルイスが吹き出した。
「こちらこそ、私はあなたに相応しい相手ではないかもしれませんが、よろしくお願いします」
自然に手を握られ、ルイスは少し身をかがめてエミリアの顔をのぞきこんできた。
「我々は親しい間柄、という設定ですから。エミリア様。私のことは名前でお呼びください」
目をしばたたかせたエミリアは、ちょっと顔を赤らめてから口を開いた。
「ル、ル、ル、ルイス……様」
男性を親しげに、個人名で呼ぶだなんて滅多にないことである。幼なじみのような存在もいなかったし、二人姉妹で兄も弟もいなかった。
「エミリア様」
「は、はい。ルイス様。なんでしょう」
「私が守りますから、どうか安心してください」
優しい声が耳朶に触れる。
そんな言葉をかけてくれる人が目の前に現れるだなんて、信じられなかった。ずっと一人で何もかもを諦めて、頑張らなければならないと思っていたから。
頼もしいなと思いながら、魔術師長のルイス・ハルステラを見上げる。
彼が柔く、壊れ物のようにエミリアの手を握ってきた。
そしてその碧空を映したような瞳を見て、エミリアは考えた。
この人も同じだったのではないだろうか。自分よりもずっと力を持ってはいるだろうけれど、大切な友人の身を案じながら、秘密を抱えてつらい思いをしていたのではないだろうか。
涙を流すことも忘れて。一人で戦おうと決意をして。
「ルイス様も、安心してください。私がいますから。話を聞くくらいのことしか出来ませんが、口はとても堅いので、吐き出したいことがあれば仰ってくださいね」
するとルイスはぽかんとしていた。
何かおかしなことを言ってしまっただろうか。いや、言ったか。魔術師長という立場の人に、こんな無力な娘が、自分がいるから安心してくれとは何様だろう。
口元を押さえて笑い始めるルイスに、エミリアはわたわたとし始めた。
「申し訳ありません。私、何を口走っているのかしら……!」
「いいえ、いいえ。ありがとうございます、エミリア様。格好をつけたつもりでしたが、やっぱり見透かされるものだなぁ」
肩を震わせてルイスが笑うと、光の粒子が散って、二人の周りのあちこちで薔薇が元気良く咲き乱れていく。一気に芳香が強くなった。
「実は私は今まで勉強漬けで、女性とお付き合いした経験がなく、こうして手をとらせていただくのも始めてなのですよ」
「まあ、ルイス様。私と同じなのですね」
「王子の婚約者の浮気相手なんて、なかなか難易度が高いですよね」
「一緒に頑張って浮気をしましょう。きっと上手くできますよ」
励ますようにエミリアが言うと、何がつぼにハマったのか、ルイスはいよいよ腹を抱えて笑い出した。周囲の植物もますます繁茂する。
よくわからないけれど、ルイスは思った以上に明るい人みたいだと思うエミリアだった。
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