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8、いたずら
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以降、エミリアとルイスはしょっちゅうというほどではないものの、ほどほどに顔を合わせて王宮の中を歩いた。
昼の休憩時間に中庭で一緒に休んだり、散歩をしたり、立ち話をしたり。多忙なはずのルイスだが、時間を作って会いにきてくれているようだ。
密会、というほどではない。もちろん王太子の婚約者という立場で異性と二人で会って話をするというのは周囲から見れば眉をひそめられることなのだろうが。
婚約破棄の日に向けて、エミリアはルイスと親しげにしているところを見せつけなければならない。
きっと、もっとしなだれかかるようにした方がいいのだろう。けれど、とてもではないがそんなことはできそうになかった。
何せ、ウォーレン以外の異性と関わる機会などほとんどなかったエミリアである。庭のちょっとした階段を下りる時に、ルイスがエスコートしようと手を差し伸べてくるが、その手をとるのもとても緊張してしまうのだ。これ以上過剰に触れ合うだなんて、とんでもなかった。
自分が王宮の者にどのように思われているかということを考えると気が重くなるが、ルイスとの交流は想像以上に楽しかった。ルイスは気さくで、博識で、思いやりがある。
同じ男性でも、ウォーレンとは人間性が雲泥の差だった。
ウォーレンはというと、踊り場での一件以来、エミリアには近づこうとしなかった。以前なら時々呼び出されて延々と嫌みを浴びせられたものだが、それもなくなった。
たまに廊下で行き合うことはある。エミリアは隅に避けて礼をするのだが、ウォーレンは一瞥を投げて言葉はかけず、手で追い払うような仕草をして通り過ぎるだけだ。
(あの男に喋りかけられないだけで、ずいぶんと気が楽だわ……)
耳障りな声を聞かないだけで、その日の気分が違う。
そしてウォーレンは以前と変わってきたことがあった。
どうも、人前で失態を見せることが多くなったらしい。
「ねえ、見ました? 王太子殿下……」
「あんなところでつまずくなんて。運動不足であられるのではないかしら」
「しっ。誰かに聞かれたら大変ですわよ」
王宮に訪れた貴族令嬢達が、声をひそめてそんな話をしていたのをエミリアは耳にした。
まるでウォーレンを小馬鹿にするような口調だったのが意外だ。エミリアは閉じこもってばかりいたし、塞ぎがちで他人の声に耳を傾けようとしてこなかったのだ。
それからも時折、ウォーレンの話を聞いた。
大事な会議で書類を盛大に読み間違い、皆を仰天させたとか。これは本人が書類の文面が間違っていると激怒していたそうだが、他の高官が調べると特におかしいところはなかったらしい。
階段を踏み外して転がりかけるとか、滑って転ぶとか、そんな不運な出来事も多いという。
何かおかしいとウォーレンは不機嫌になっているようだ。一つ一つは些細なことだが、それが重なると彼の体面にはいささか傷がつく。
要するに、笑い物になっているのだ。
この前は、大きな葉っぱを頭に乗せたまま気づかず王宮の中を闊歩していて、恥をかいたらしい。
親切にも指摘した侍従を叱責し、ウォーレンは葉っぱを握りつぶしてこう吠えたそうだ。
「さては、何者かが魔術で悪戯をしているな!」
これに関しては皆も肩をすくめるだけだ。
「そうだとしても、殿下なら防ぐことができるのではないかね」
とひそひそ話し合っている。
王家の者は魔力を持って生まれ、当然ある程度の魔術を扱える。
彼がミレーネを呪えたのも魔力を持っていたからだ。
悪戯にも対処できないとしたら、殿下はあまり魔術がお得意ではないのではないか、との噂が立った。
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