【完結】魔法道具の預かり銀行

六畳のえる

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第3章 いらない道具

1話 不満がいっぱい⁉

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「おはよ」
「ん、おはよ、アッキ」

 朝、ジュラーネさんから借りている家の二階から、アッキが降りてきた。私も二階で寝てるけど、部屋が別々だから向こうを起こすことなく三十分前に起きて、髪の手入れをしてからジュラーネさんに借りた子ども用の本を読んでる。並行世界でも魔法もののファンタジー小説は人気らしい。特に「魔法を使えるのは魔女だけ」ということから、男子が魔法を使えるストーリーが流行ってると言ってた。

 もうこの世界に来て三週間。この家での暮らしにも慣れた、んだけど……。

「なあ、リンコ。髪とかした後、ちょっと掃除しろって。床すっごい髪散らかってるぞ」

 ほーら始まった。最近のアッキはいっつもこんな感じ。小さなことで、いちいち突っかかってくる。それを聞いてると、私もつい、ムカッときちゃう。

「はいはい、分かったわよ」

 なんか最近、こうやって些細ささいなことでぶつかってる気がする。別にケンカにはならないんだけど、お互いイライラした状態が続いてるからあんまり良くないよね……。

 でも、私も抑えられなくなって、つい言い返しちゃう。

「じゃあ私も言わせてもらうけど、料理食べた後の袋のゴミ、ずっとシンクに置いておくとやめてもらっていい? なんかきたないし」
「え? そんなこと? いちいち細かいんだよな」

 あ、今のはダメ。ずっとガマンしてたけど、一気に頭に来ちゃったかも!

「ちょっと待って、なんでアッキは髪のこと言ってくるのに私は文句言っちゃダメなわけ?」
「はあ? 言っちゃダメとは言ってないだろ? 細かいなって感想言っただけで」
「言うなって言ってるようなもんじゃん。じゃあアッキだって細かいわよ! 髪の毛くらいで文句言いすぎ。見つけたなら自分で拾えばいいじゃん」
「じゃあ料理のゴミもリンコが捨てればいいだろ!」

 多分、今日に始まったことじゃない。毎日、少しずつ積もっていった、相手の気になること。まるでコップに少しずつ水滴が落ちるみたいにたまっていったものが、このやりとりをきっかけに遂に溢れた。そんな感じがした。

 アッキのことが嫌いなわけじゃない。ケンカだって、したいわけじゃない。でも、今は「ちょっと落ち着こう」なんて冷静になることもできない!

「大体、アッキは起きるのも遅いの! お店あるんだから、もっと早く起きて準備してよ!」
「別に俺が何時に起きようと勝手だろ! 間に合ってるから問題ないし!」
「いっつも間に合うか不安なの! 朝から余計な心配かけないで!」
「じゃあ俺も言わせてもらうけど、朝も夜も長い時間、洗面所使いすぎなんだよ!」

 こんな感じで、カンテラに向かって出発する三分前まで、私たちはずっとケンカしてた。


 ***


「なんだお前ら、ケンカでもしてんのか」

 お店に着いてからも、すぐにチャンプスにバレるぐらい、私とアッキの距離は不自然だった。私が道具の置かれた棚を掃除してるときはアッキは絶対にこっちに来ないし、私が少し離れたスキを見計らって、道具を取りに来て、逃げるようにジュラーネさんに渡しに行く。その態度が何かイヤで、私もついドタドタと乱暴な足音を立てちゃう。

 あー、もうっ、今の関係、なんかすっごくイヤだ!

「おい、ジュラーネ、なんとかならないのかよ」

 私たちに聞こえるような声で訊いたチャンプスに向かって、ジュラーネさんは「やれやれ」と笑う。

「慣れない生活を何週間もやってるからね、そりゃストレスもたまるさ。でも、お互いの問題だから、二人でなんとかするしかないさね」
「アッキ、その羽ペン、乱暴に扱わないで!」
「扱ってない!」

 相変わらずヒートアップしてる私たちを元に戻したのは、カランカランというベルの音だった。

「ごめんください」
「いらっしゃい。おや、その青い髪はラグニだね?」

「えっ、私のこと知ってるんですか?」
「北のテンデス地方で、若いのにすごいって有名な魔女じゃないか。アタシにもちゃんと噂は届いてるさ」
「そうですか。ジュラーネに知ってもらえてるなら光栄です」

 ラグニさんと呼ばれた彼女は、服こそ黒い魔女服を着てるものの、髪の一部を青く染めている。水彩画のような色合いで結構目立つ青だから、遠くから見てもラグニさんを見つけられそう。顔立ちを見るとかなり若そうで、元の世界なら二十代前半くらいの印象。それにしても、ラグニさんみたいな若い魔女にさえ尊敬されてるジュラーネさんってすごいなあ。

「ねえ、ラグニさんってどんな魔法が使えるんですか?」

 アッキが尋ねると、ラグニさんは「あら、並行世界のお客さんね」と目を丸くする。名前を言いながら二人で挨拶すると、「リコちゃん、アキラくん、よろしくね」とほほえんだ後、少し悩んでから胸元に下げている金色の笛を持った。

「最後に、使ってみようかな」

 そして口にくわえると、びゅうっと音を鳴らす。しばらくすると、店の外から犬がやってきた。しかも何匹も。わーっ、なんか犬と触れ合えるカフェみたい!

「犬を呼ぶ魔法ですか? かわいいですね!」

 足に近づいてきた茶色い子犬を撫でながらラグニさんに話しかけると、彼女はゆっくり首をふった。

「念じながら笛を吹けば、鳴らし方で色んな動物を呼ぶことができるの。それに、呼ぶだけじゃないわ」
「ワンワンッ!」

 ラグニさんの周りに集まってきた犬たちに、彼女は順番に視線を向けた。

「そっか、君と君はお腹が空いてるんだ。今日はご飯はまだなの? そっか、飼い主さん、出かけちゃったんだ。それで、君は手をケガしてるの? 大丈夫? そっか、もう治りかけなんだね、良かった」

 彼女と犬と会話を聞いて、ジュラーネさんは「ふうん」と感心したような声をあげながら犬のためのご飯を用意しはじめた。

「すごい、動物と話せてる! アッキ、すごくない? うわあ、私、一番憧れる魔法かも!」
「リンコ、犬好きだもんな」

 さっきまで険悪だったことも忘れて、私はアッキの腕をつかんでぶんぶんと振った。

 家では飼ってないけど、おばあちゃんの家でゴールデンレトリバーを飼ってて、行くたびにいっつも遊んでる。何考えてるんだろう、どんな気持ちなんだろうって思いながら過ごしてたから、気持ちが分かって喋れるなんて羨ましい!

「動物と話せるなんてのはかなりの上級魔法だからね。その年で会得してるなんて大したもんだよ。アタシはラグニくらいの頃はちっとも使えなかったね」
「いえいえ、自分が動物好きなんで、一生懸命に練習した結果です」

 二人の会話を聞きながら、私とアッキで犬たちに細かく切ったお肉をあげる。いいなあ、私もこの子たちと話してみたいなあ。

「でも、そんなお前さんがなんでここに来たんだい? 動物と話せれば、いくらでも仕事はあるだろう?」


 あ……そうだ。この店に来たってことは、何か道具を預けに来たってこと……?


「はい。これを、預けに来ました。ふんぎりがついたら、手放そうと思います」

 そう言って彼女は、動物を呼ぶ笛をジュラーネさんに渡した。
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