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第九十三話 真姫、待たせてゴメンね

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「真姫、やっと約束が果たせたよ」
「麟瞳さん、ありがとう。愛する私のために二億三千万円も貢いでくれて。皆も本当にありがとう」
「いや、愛してないし、現金も貢いでないからね」

 岡山ダンジョンを完全攻略した日から四ヶ月もたっていた。

 あの日、ダンジョンの外に転移した後、真姫はすぐに救急車で病院に運ばれて行った。

「私は美姫を守ることが出来て満足しているわ。《千紫万紅》に入れてもらったのも、美姫のガード役で入ったんだから、美姫が無事で良かったわ。本当に良かった。それに片手が使えないのは不自由だけど、利き手が無事だから卒論を仕上げることも大丈夫そうだし、ちゃんと卒業できるように頑張るわ。皐月もちゃんと卒業できるように頑張るのよ」

 病室で真姫と最初にした会話だ。気丈に振る舞っていたがショックは隠しきれていなかった。

「僕の【豪運】スキルで、すぐに特級ポーションを持ってくるよ。ちょっとだけ待っててね。必ず届けるから、約束するよ」

 それから僕は、月金は詩音と皐月と一緒に三人で、火木は詩音と二人で、水土日はソロで岡山ダンジョンに入り続けた。なかなか出ない特級ポーションにいらついていた時期もあった。

「美姫と麟瞳さんはちゃんと運転免許証を取ってください。私が重荷になるなんて嫌です。私のせいでこんなになるなら特級ポーションはもう要りません」

 毎日岡山ダンジョンに入り続ける僕と、責任を感じてふさぎ込んでいる美姫に、真姫は本気で怒りながら話をしてくれた。

 十一月に美姫と同時に運転免許証を取得した。早速岡山県北部の既に紅葉している有名スポットに向けて、《千紫万紅》のパーティメンバーと一緒にドライブに出かけた。

「麟瞳さんと美姫の運転はダンジョンの中より危険ね。命がいくつあっても足りそうにないわ」

 真姫は相変わらず冗談が得意なようである。詩音と皐月は何故真姫の隣で深く頷いているんだ。よく分からないな。

 土日はよくドライブに出かけた。岡山県の中の紅葉で有名な場所にはほとんど行ったと思う。もう葉が落ちていた場所も沢山あったけどね。

 十二月になり、随分と寒さが身に染みるようになっても特級ポーションは出てこなかったが、平日四日のパーティメンバーとの探索には美姫も参加するようになった。

 クリスマスイヴは僕の家に皆が集まり、母さんの魔物肉料理でお腹をパンパンに膨らませた。《千紫万紅》だけでなく《桜花の誓い》も全員集まったので家の中もパンパンになっていたよ。クリスマスイヴではお互いにプレゼントを持ち寄り、くじ引きをして何が貰えるか決めるようにした。僕は五番のくじを引いた。さあ中には何が入っているのかな?大きな袋を開けると中から枕が出てきた。添えられたカードには〈メリークリスマス ほんの少し寝ているときの呼吸が楽になる枕です。良い夢が見られますように〉と書かれていた。安眠グッズが四点セットになった。

 一月一日には真姫と美姫と綾芽の三人と一緒に児島の鷲羽山に初日の出を見に行った。予想以上の人の多さにビックリしつつも、真っ赤に染まった山陰から出てくる太陽は神々しく輝き、一瞬で薄暗い夜を払い、明るい一年の最初の朝を迎えた。僕は無意識に太陽を拝んでいた。もちろん願い事は一つだけだ。

 初日の出を見た帰りには有名な神社に初詣に行った。こちらも人が多く駐車場に入るのに大分時間がかかった。今後はこういったイベントでは、公共機関を使って移動した方が良いことを身に染みて分かった一日になった。勿論しっかりと願い事をしておいた。神様よろしくお願いします。

 一月も同じように岡山ダンジョンにパーティメンバーと一緒に通った。有用なマジックアイテムは多数出てくるが、肝心の特級ポーションは出てこなかった。

 そして二月三日の節分の日になった。もう何度岡山ダンジョンの最終階層をクリアしただろうか。因みに、あの時に壁を超えて存在した通路はなくなっていた。

 ボス部屋には三体のオーガがいる。一体は美姫が魔法の弓矢で止めを刺した。一体は皐月と詩音のコンビが相手をする。オーガが振り下ろす棍棒を盾で受け止める瞬間に【カウンター】スキルを発動させオーガの体勢を大きく崩す。そこに詩音が炎の槍でオーガの心臓を一突きし討伐した。最後の一体は僕の相手だ。棍棒の攻撃をいなし、脚を斬る。三メートルの巨体が倒れ込むところで首を落とす。全てが一瞬で終わった。

 討伐後のドロップアイテムを回収して、今回は美姫が銀色の宝箱を開けた。

「リーダー!いつもと違うポーションが入っています!」

 皆で駆け寄りポーションを確認した。確信は持てないが一度目にしたあのポーションと似ている気がする。慌ててダンジョンの外に転移して、探索者センターに急ぎ、常盤さんに買取り手続きをしてもらった。鑑定の結果を待ち遠しく感じていた。

「ポーションですが、皆様が待ちに待った特級ポーションでした。おめでとうございます」

 僕達の事情を知っている常盤さんから鑑定結果が知らされた時に、美姫が泣き崩れてしまった。それだけ責任を感じていたのだろう。

 鬼は豆ではなく武具で払ったが、福がやって来てくれた。やっと約束を果たすことが出来て肩の荷が下りたよ。

 真姫、待たせてゴメンね。

 

 
 
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